忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

隻眼の少女 読書感想

タイトル 「隻眼の少女」(文庫版)
著者 麻耶雄嵩
文庫 506ページ
出版社 文藝春秋
発売日 2013年3月8日

 




<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「隻眼の少女」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

いきなりだけど、やっぱり山本英夫のマンガは面白い。
殺し屋1」に続いて「新・のぞき屋」というマンガもkindleで買ってしまった。
その主人公である「けん」という青年は左目が義眼で、口癖が「俺は眼を見ただけで全部わかっちまうんだ」ってやつなんだけど、これがまたカッコイイのよ。
欲望に忠実でスケベでダサいのにカッコイイ、こーゆー主人公は好きだなぁ。

まぁまぁそんなことは置いといて。
今回はTwitterでちらほらと見かけて気になっていたこの作品。
この作者の小説はまだ一冊も読んだことないけど、「メルカトル鮎」って名前だけは何故か知っていた。
以前に読んだ『美濃牛』がけっこう良かったから、似たような設定(なのかな?)のコチラにも期待しちゃう。隻眼の美少女探偵・・・読む前からドキがムネムネしてくるぞい。
ではでは、初めての麻耶雄嵩ワールドにいざ飛び込まん(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

大学生の種田静馬は密かな目的のため、栖苅村にある琴乃湯へ泊りに来ていた。
ある日、いつも通っている龍ノ淵と呼ばれる場所で静馬は水干姿の御陵みかげと出会う。
彼女は母親と同じ名探偵になるために、父親と供に各地を渡り歩いているらしい。
二人の出会いから二日後の朝。
龍ノ淵で無残な死体が発見され、それは殺人事件だと断定された。

琴折家、龍ノ首、探偵よ、殺人事件、首を置きなおした事実、スガル様、助手見習いよ、風見の塔、大難、楽しそうだった、リゾート開発、探偵も形なしだな、邪魔だけはしないで、ⅹ、名探偵の敗北、いなくならないで、選択肢を与えたのに、日高三郎、デジャヴ、もっと性質が悪いかもしれません、漆黒と翡翠、屈辱の日々、慈愛に満ちた表情、とんだ百面相だ・・・。

容疑者として疑われ始めた静馬を救ったのはみかげだった。
見事な推理を披露して被害者遺族に雇われたみかげは、助手見習いとしての静馬を連れて犯人を捜す。
初めて依頼された殺人事件を解決するため奮起するみかげだったが、犯人はまたしても殺人を実行した。
次期スガル候補を殺す理由はなんなのか?
御陵みかげは名探偵としてデビュー戦を解決できるのか?
二百年に一度の大難とは一体なんなのか!?
スガル様の言い伝えが残る寒村で連続殺人犯と名探偵の戦いが始まった。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///これぞ美少女探偵の演出///
ショックから立ち直ったみかは遺体発見現場となった古社へと向かう。
そこで新たな発見をして、理解していない静馬にいつもの罵倒をするのだが・・・。
287Pより。
―――「静馬!」と、みかげは鼻と鼻が当たるくらいに顔を近づけると、「私をサポートしてくれるって云ったわね。なのに頭の巡りが悪すぎない?そんな脳味噌でよくお父様の代わりとか云えたものね」
今日はなんだか罵倒が心地良い。―――
最初の頃は扇をビシッと静馬の鼻先に突き出していたのに、今では顔をこんなに近づけて。さらにこのあと勢い余ったみかげはもっと接近しそうになってぇ~(*´▽`*)
あらまあ、すっかり可愛くなっちゃって。読んでいておじさん思わずニヤケそうになっちゃうよ。
さあここからデレデレコンビが事件を解決して、その後もさらにイチャイチャと・・・・・ってゆーよーなオイシイ展開になるかどうかは、読んでみてのお楽しみ。

///今回の記憶に残る言葉///
琴折家の面々に事情聴取してまわるみかげと静馬。
風見の塔で婿候補の岩倉と出会い、彼にも事件当時のアリバイなどを尋ねる場面。
134Pより。
―――「訊かれても答えませんよ」岩倉は苦笑いしながら、「他人に話す気はないし、自分で思い出す気もありません。私のモットーは、過去の記憶が喜びを与えるときにのみ、過去について考えよ、ですから」
「オースティンですか。・・・・・ところで、あなたは事件の日の夜九時以降、何をされてましたか?」―――
おそらくこれはイギリスの小説家ジェーン・オースティンではないかと。
なるほどたしかにこれは名言だ。おじさんもそんなふうに記憶をコントロール出来たらどんなにいいか。
でも嫌な記憶や感情って勝手気ままに浮かんでくるから厄介だよね。

///特徴的な名前だからなぁ///
売り言葉に買い言葉で険悪なムードになってしまったみかげと菜繭。
静馬はなんとか場を鎮めようと和生をダシにして一番幼い花菜を言いくるめる。
389Pより。
―――「あんたたち何を慣れ合ってるのよ。ええと・・・・・」
「種田静馬です」
「ああ、駄馬さん。早くこの似非探偵を引き取ってもらえません?」―――
殺人事件が連続する物語の中で数少ない和み場面がありがたやありがたや。
それにしても駄馬さんて(笑)
つーかよく静馬の感じを当てることができたな、間違いなく聡明な女性だわ。
それにしても17歳の美しい若妻かぁ、和生めうらやましい奴め。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///み、見取り図・・・ありませんか///
主な舞台は琴折家の敷地内、あとは龍ノ淵か。琴折家ってのが村の守り神的存在のスガル様が住む場所でもあるから、敷地内には色々な建物がある。塀だとか広い庭だとか池や修行施設などなど。
地理が苦手なおじさんはもうお手上げです(>_<)
推理小説が苦手な人向けに琴折家の敷地内地図も欲しかった。
家系図や登場人物の紹介はしっかり載っていたのでとてもありがたやありがたやでした。

///もう少しなんとかならんかったのか///
18年後の琴折家にて、警察の警備も空しく新たな犯行がなされてしまう。
426Pより。
―――雨は一晩中降り続き、翌朝に止んだ。そして雨は前日に降り積もった雪のみならず、犯人の足跡をも洗い流してしまった。―――
素人考えで思ってしまったんだけど、ターゲットがほぼ分かっていて犯人も手強いってわかってるんだから、女性警官だとかを同室にしておけば良かったのになぁ・・・なんて浅はかに考えちゃいましたわ。
(まあ、なんにせよ無駄に終わったこと間違いなしなんだけどね)

///その方法が気になります///
みかげと静馬、そして警察の面々は真犯人の元へ行き全ての事件の真実を知る。
詳細を書くとネタバレになるからぼんやりと濁すけど、484Pの部分でさらっと気絶させたってあるが一体どうやったんだよ?
だって相手は・・・・・う~むむ、想像もつかないなぁ。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
全編通して主人公である種馬を中心とした三人称視点で語られる作り。
物語は「1985年・冬」が第一部で、「2003年・冬」というのが第二部。
この二段階に分かれたストーリーが憎い作りなのよ。過去をなぞるような展開に好奇心が刺激されまくりだった。

表紙のイラストや美少女探偵という言葉に期待してライトな内容だと思ったけど甘かった(´-ω-`)
関係者のアリバイをひとつずつ確認して色々な現場を見て回る。そうして小さな痕跡や不整合な部分から犯人を絞り込んでいく展開。
ガチ推理系が好みの読者向けっていう印象だったね。
オジサン的には『美濃牛』みたいな感じの方が好みかなぁ。

///話のオチはどうだった?///
上で書いた通り、推理中心の静かな流れがずっと続いてたから少し、ほんの少し退屈を感じたりしたけど、終盤の真犯人特定からは一気に爆発したわ。
特に465Pからはまさかの展開!そして容赦ない攻防の格闘戦!
もうネタ明かし部分から最後までは濁流に流されるが如く、いろんな感情に飲み込まれながら熱読しちゃったよ。さすが有名な賞をダブルで獲得した作品だね。

事件の結末としては、目的のために徹底した容赦のない狂気と、それに等しいくらいの愛情が混ざり合ったやるせない終わり方だよ。
でも静馬にとっては新たな希望と目的が生まれたし、おじさんの心もほっこり暖かな感情に包まれたから悪くない気分。下手なこと書くとネタバレになりそうだからやめとこう(;^ω^)

///まとめとして///
推理小説で読むのがめんどいところはいっつも流し読みしてしまうおじさん、でもこれでは『隻眼の少女』とか『十角館の殺人』などの美味しい部分を捨てているってことじゃん。
最高の一皿の半分以上を残している状態だ、こりゃイカン!!
苦手な部分でもじっくり噛み締めて味わっていたら、今回の『隻眼の少女』だってもっと楽しめただろうに、勿体ないことをしてしまった(;´Д`)
この教訓を生かさなければ!ワンアップしなければ!
次回から全てをキッチリ理解しながら読んじゃるけんね。

そんなこんなで。
読み終えて感じたのは怒りや嫌悪感よりも寂しさや虚しさや後悔、そして犯人に対してどうしてそれほどまでに・・・っていう憐れみ?みたいな感情かな。
非道な連続殺人犯なのに憎み切れずに未だにそんなこと考えちゃうのは、おじさんが女々しい性格なのだからだろう。
御陵みかげが今まで解決してきた事件も気になるし、これから遭遇する事件も気になるけれど、とりあえず同じ作者の作品を読んでリベンジするぞってな決意に目覚めた満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『隻眼の少女』はなんと第64回日本推理作家協会賞、第11回本格ミステリ大賞をダブル受賞なのです!

9Pより。
―――娘は彼らに蓬莱の琴を持ってきた者を婿とする難題を出した。だが誰も成し遂げられなかった。―――
蓬莱の琴
竹取物語にも「東の海に蓬萊という山あるなり」と記されているようで、求婚者の一人は「蓬莱の玉の枝」を持ってこいという課題がだされたみたい。
あと平安時代に僧侶の寛輔が「蓬萊山」とは富士山を指すと述べたという説も。
う~むむ、伝説の〇〇みたいな感じの架空宝物ってことなのかな。

15P~16Pより。
―――忍従の季節なのだろうが、そこまでして生き延びたいのかという気さえする。―――
「にんじゅう」
我慢して従うこと、という意味らしい。

26Pより。
―――「じゃあ、それで構わないよ。俺としては泣いて馬謖を斬る覚悟なんだがな」
「なにを大袈裟に。馬謖が何をして斬られたのかも知らないくせに」―――
泣いて馬謖を斬る」とは規律を保つためにたとえ愛する者であっても、違反者は厳しく処分することのたとえ、とのこと。

100Pより。
―――厚志も既に鬼籍に入っている。―――
「鬼籍」とは死者の名や死亡年月日などをしるす帳面、過去帳など。

―――この三人は十時前から十二時過ぎまで和生の部屋でマークⅢとかいうTVゲームで遊んでいた。―――
セガ・マークIIIは1985年10月20日セガ・エンタープライゼスより発売された家庭用ゲーム機。
任天堂ファミコンの爆発的な普及、サードパーティー制導入の遅れによるソフトラインナップの偏りにより、SEGAの劣勢を覆すには至らなかった。
琴折家ではSEGAハードを導入していたのか、なかなかに尖った感性を持っているね。

134Pより。
―――部屋に戻ってからは、一時くらいまでTVを見ていました。『象牙細工師の娘』というフランス映画はご存知ですか」―――
シャルル・カミーユ・サン=サーンス(1835年 - 1921年)は、フランスの作曲家、ピアニスト、オルガニストってことらしいけど、この人が劇音楽で「象牙細工師の娘」ってのを作ったみたいだね。
なんか疑作説もあるようだけど、真相はわからない。
あ、映画としては見つかりませんでしたわわわ。

168Pより。
―――「それにあのはしたない恰好、女なのに白と赤の水干なんて、まるで白拍子みたいじゃない」―――
水干は男子の平安装束の一つで、簡素な服飾であることからの命名とのこと。

鎌倉時代前期の軍記物語『平家物語』では、白拍子の起源について「鳥羽院の時代に島の千歳、和歌の前という2人が舞いだしたのが白拍子の起こりである」としているようで。
初めは水干を身につけ、立烏帽子をかぶり、白鞘巻をさして舞ったので男舞と呼んだらしい。
途中から烏帽子と刀を除けて、水干だけを用いるようになって白拍子と名付けられた、とのこと。

316Pより。
―――最初はスガルに対する同情かとも思ったが、今となっては理解できる。あれは慙靦だったのだ。―――
「ざんてん」
恥じて顔を赤らめること。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
この部分を読んだ時、ZIP・FMのとあるDJがモノマネしていたマスオさんを思い出してしまった。
ノックなしでいきなり戸を開けた者に対して言い放つ言葉。
「ノックぐらいしろよ!取り込み中なんだよぉ!!」(キャラの声真似しながら)
あれは流れる度にニヤニヤしちゃうくらい好きだったなぁ。仕事を始める朝の憂鬱な時間に一瞬でも心を和ませてくれたよ。今でもいろんなモノマネリクエストやってるのかな?


173Pより。
―――それから三十分ほどした頃だろうか、大きな音とともに扉が開き、みかげが部屋に現れた。そして畳に寝転んでいた静馬を見下ろし、「だらしないわね」と軽蔑の眼差しを向ける。―――