忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

灰色のダイエットコカコーラ 読書感想

タイトル 「灰色のダイエットコカコーラ」(文庫版)
著者 佐藤友哉
文庫 320ページ
出版社 星海社
発売日 2013年11月8日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「灰色のダイエットコカコーラ」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

暴力と恐怖の体現者たる覇王と聞いて思い出したのは『ザ・ワールド・イズ・マイン』というマンガ。
はるか昔に友人が持ってきたものを読んだけど、なんかもう凄い純粋なパワーと狂気を感じたわ。
というか途中までしか読んでいなかったから、続きをどこかで読まないとイカンな。

佐藤友哉の小説はフリッカー式、エナメル、クリスマステロルと読んだことがある。
でもどんな話だったのかまったく覚えていないのが不思議(笑)
面白かったのかどうかさえ覚えていない、これってつまり・・・あ、テロルの最後がほんとうにやっちまったエンドだったということは覚えている。

そんなこんなで今回はコチラの小説。
あらずじを読んでみたところ、これは『ザ・ワールド・イズ・マイン』みたいなド級エンタメストーリーなのか?早くも胸が高鳴るぞよ。
ではでは、押見修造のイラストが印象的なゼロ年代金字塔的青春小説の世界へ飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

北海道の町に住む19歳の「僕」は実家暮らしのフリーター生活を送り、毎日を惰性で過ごしている。
「僕」の祖父は生涯で何十人もの人間を殺し、暴力と恐怖で町の支配者として君臨していた(真偽のほどは不明)が、最後は肺がんにかかり「僕」が6歳の頃に死んでしまった。
生前の祖父に直系と呼ばれていた「僕」は覇王に憧れていて、将来は祖父と同じ頂点の人間になると信じていたが、19歳の現実は何もない肉のカタマリでしかなかった。

これまでの人生を振り返りながらどうしてこうなったのかと後悔ばかりする日々。
しかし「僕」は覚悟を決めて、まだ自身に輝きが残っているのかを証明する賭けにでた。

町に悪意はない、覇王、計画書、分類魔、放火、浮かれ女、なんて答えた、誘拐、ムラオカ組、証明のときだ、ハサミちゃん、本当のことなんてないわ、新しい種類の停滞、ミチオ、地雷、そうした種類の拷問、責任を全うしよう、肉のカタマリ、何も感じない・・・。

まだなにも始まっていなかっただけ。そう確信した「僕」は今までの無駄な人生を取り返すため、追い抜いていくために世界に対して真剣勝負を挑む。
残弾三発のリボルバー拳銃と覇王の孫という血統、あとは自分を信じる熱意。それだけを持って戦いへと向かう「僕」の未来に待ち受けるのは、支配者としての君臨かそれとも肉のカタマリか・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///覇王の活躍を刮目せよ///
祖父の会社の社員であるハネダの息子が誘拐されて、身代金を用意したのだが犯人からの要求は予想外のものだった。
怯えるハネダを引き連れて、叔父と「僕」とシナノとハネダの四人は地元のヤクザ事務所へ向かう。
125Pより。
―――「おーい!こん中で一番偉いやつ出てこいや!ちょっくら用があんだけどよお」祖父が玄関ドアに、何度も何度も杖を打ち付ける。それを見たハネダ氏は絶望的な声を上げた。―――
序盤までのダラダラと間延びしたようなお話を吹き飛ばしてくれるような暴力&ショッキング展開がグッド!ハネダ息子誘拐事件の話が一番楽しかったなぁ。
視力もない老人なのにこれ程の覇気と強さ・・・「僕」の物語よりも叔父の人生の方が気になってしまうのは当然。完全に主人公食われちゃってるじゃん(笑)

///ユカちゃんというキャラクター///
ハサミちゃんに連れられて病院へやってきた「僕」は、ベッドに横たわる衰弱した少女を紹介された。
192Pより。
―――「十歳でガンにかかって死ぬなんて事実を直視すれば、気が狂ってしまう・・・・・。だから私はそれを避けるために、死の恐怖を感じなくする方法を考えたの。そしてそれに成功した。今の私は恐怖をまったく感じていないわ。だから薄汚い同情はしないで。」―――
いやいや十歳の少女が考え付くようなことではないでしょってなツッコミは置いといて(^^;)
確かにユカちゃんの到達した悟りは正しい、というか事実だと思う。でもだからって苦しみや恐怖や希望をすべて断ち切れるわけじゃないよね。
考え方ひとつで悩みや不安から解放されるんなら、おじさん今すぐにでもユカちゃん教に入信するわ。

もうひとつユカちゃんのスゴイところ。
ある日、ユカちゃんが病院からいなくなってしまい「僕」とハサミちゃんは捜索することにした。
町の中心部へ向かってみると、いつも静かな町が騒がしいことに気づく。
202Pより。
―――ああ、町が壊れて行く。人が死んで行く。ぼくの目の前できわめて無抵抗で。
素晴らしい!―――
なんだよこの唐突で無茶苦茶な展開は(笑)
十歳で衰弱しきった少女がこんなことできるのかよ!つーか警察はなにやってんだ!
その後も御咎めなしで平和に暮らしてるし、全国ニュースレベルの事件だろ。
でもこーゆー展開は嫌いじゃないよ(;´∀`)

///なんでそんな方法を///
新たな同志ミチオとの出会いに浮かれる「僕」だったが、ある日またしても突然に車をぶつけられてしまう。衝突してきたワゴン車は以前と同じものだった。
266Pより。
―――「うるさいぞヤクザ。お前は追突しか芸がないのか?」
僕が組長を殺害するために窓に腕を突っ込むと、またしてもつかまれた。そのまま引っぱられて関節技を決められる。―――
もう完全にこち亀のページが浮かんできたわ(笑)
んでもって両さんが上記の文句を言っている感じね。
文句を無視してずっと地雷の話を続ける組長も好きなキャラクターよ。
にしてもこの町は無法地帯なのかギャグマンガの世界なのか、とにかく何でもありだな。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///佐藤友哉節のクセが強いんじゃ~///
各所で何度も語られる覇王の叔父の説明分、同じく何度も語られる価値のないモノを例える文章、これがもうお腹一杯ですってくらい出現してくるのよね。
細かい部分で毎回違った内容にはなっているけど、それでもあぁまた始まったわって思っちゃった。
クドクドウジウジした心理は嫌ってくらい伝わってきたから、作者の思惑どおりなんだろうけど読んでいてウンザリした瞬間もあった(´-ω-`)

///どこを気に入って結婚したの?///
ヤクザ事務所から無事に帰宅できたハネダ夫は、精神的消耗が激しくソファで横になっていた。
そんな夫を弱い情けないと蔑むハネダ妻。
145Pより。
―――「努力はしたけれど結果が出せない、そんなのは駄目と一緒でしょう。だから貶してもいいの。お父さんを馬鹿にしてもいいのよ」―――
何かにつけて夫を貶す気の強そうな奥さん、気になったのはアナタなんでその夫と結婚したのよ?
付き合っている時の夫は男らしく頼れる性格だったのかな、それとも奥さんの性格が後々に変わっていったのか。この夫婦の恋愛劇を知りたくなってしまったわ。

///こうなることを知っていたのか///
ミチオとの共同活動に対してお叱りを受けた「僕」は、あの時からずっと持っていた拳銃を手にヤクザ事務所へと単身突撃していく。
274Pより。
―――僕はリボルバー銃をつきつけた。
「おいおい、それだけじゃ人は死なないよ。ちゃんと引き金を引いて、弾丸を撃ちこむんだ」―――
組長はこの銃がどんな状態なのか事前に知っていたかのように落ち着いてるよね。
おそらくこうなっているだろう、なんて予測だけで安心できる状況じゃないだろうに。
ってことはやっぱり事前に調べていたのか、はたまた工作しておいたのか?つーかいつから銃はこの状態だったのか?う~む気になる謎だわな。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
最初から最後まで主人公である「僕」の視点から語られている。
「灰色のダイエットコカコーラ」、「赤色のモスコミュール」、「黒色のポカリスエット」、「虹色のダイエットコカコーラレモン」の四編からなる構成。
3話までが主に過去の話で、4話からずっと現在の話になっていた。
なんで全部飲み物のタイトルにしたのかは、読んでみても分からなかったよ(´・ω・)

読み始めてしばらくしてから、コレはやっちまったかもっていう後悔が膨らんできた。
この小説は現実としてあり得ない世界・社会で構築された何でもアリ系の青春モノか(´゚д゚`)
無茶苦茶な事が頻発する北海道の寂れた町だけど、全部なにごともなく過ぎていく・・・。
まぁ、青春ファンタジー小説に対して細かいことを気にしてもしょうがない。
潔く諦めて世界観を受け入れた方が楽しく読めること間違いなし。

///話のオチはどうだった?///
青春小説にありがちなほんのりした終盤になると思いきや、意外にも最後の展開は熱いモノを感じた。それに話の終着点も綺麗に落ち着いたと思うから結果的に楽しめたわ。
↑こーゆう感想になってしまうのは年を取ったせいなのか?
若者なら、または若い頃のおじさんなら「なんだこんなツマラン終わり方!」って憤るのかな(笑)

オチとしては予想外の結末って訳じゃなかったね。
青春暴走ストーリーとしては普通な終わり方だと思う。
じゃあ何を楽しめばいいのよって?
そりゃアンタ、佐藤友哉が生み出す癖の強いキャラクター達と先の読めない物語でしょ。
オチは普通って書いたけど、そこに至るまでの展開はほんとうに予想外の連続だったし面白かったし。

///まとめとして///
いやいや、中年にはなかなか胃にもたれるくらい中二病爆発なお話だったわ(;´∀`)
調子に乗った若者をみるとコテンパンに叩きのめされちまえって思っちゃうのはおじさんだけ?
そんでもって、生意気だった奴が躓きながらも成長してまともな大人になったことを実感すると、妙にじんわりきちゃうってなもんでしょ。
この小説の「僕」だって捻じ曲がって腐った奴だったけど、最後は立派な人間になったようでほっこり嬉しい気分。

自分自身を見極めて受け入れることって難しいし辛いよねぇ。そーゆー経験をみんなはいくつくらいの時に経たのかな?おじさんは・・・・・まぁいいや(笑)
根拠のない自信を自身に言い聞かせて、全力疾走しているつもりでいたあの頃を思い出しながら読む、「僕」の青春迷走物語。
ほろ苦く懐かしい満読感を頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

48Pより。
―――「木村安兵衛にそこまで怒ってる人を、はじめて見ましたよ」ミナミくんが楽しそうに云った。―――
木村安兵衛(1817年 - 1889年)は日本の実業家、木村屋總本店の創業者。
饅頭にあんが入っていたことからヒントを経て、小豆餡をパン生地でくるみ、外は西洋で中は和風、発酵に酒種酵母を使用した「あんパン(酒種あんぱん)」を開発。
隅田川花見で明治天皇向島の旧水戸藩下屋敷訪問の際に木村屋のあんパンが献上されて、天皇夫妻、特に皇后から気に入られ、宮中御用達となったとのこと。
ええい、誰か!木村屋のあんパンをここへ(゚Д゚)ノ

75Pより。
―――それが唯一者にもなれず、ミナミ君の意思も継がず、何もできなかった僕の末路だった。頭の中で、アイルランド移民の子孫の歌が再生される。―――
モリッシーの「Satan Rejected My Soul」っていう曲みたいだね。
けっこう明るい曲調だったのが意外。

98Pより。
――― 一番最近のページを開くと、『かつて愛した少女(十歳で死んだ)の曖昧な出現』と美しい文章があったが、それは僕の独創ではなく入沢康夫の詩の一節から抜き取ったものだった。―――
入沢康夫(1931年 - 2018年)は日本の詩人、フランス文学者、日本芸術院会員。
島根県松江市出身で詩集・詩論集を多く発表し、実作のみならず理論面でも多大な影響を与えたとか。
↑の文章はどの詩に書かれていたんだろうね?

143Pより。
―――「おい直系」祖父は随喜に満たされて惚けている僕を呼んだ。―――
「ずいき」
他人が善いことをするのをみて、これに従い、喜ぶこと。

163Pより。
―――さらにここは北海道。ここは終わった場所だ。堕胎率全国一位の、性行為くらいしかやることがない最低の場所だ。可能性なんて存在しない。―――
ネットで調べてみたけどよくわからなかった。
北海道が上位の方にある気はするけど、もっと上の地域はいくつもあったし。
年代によって変わってくるのだろうかね。

199Pより。
―――「どんなに近づいてもたどり着けないものの象徴として、虹はいつも使われるわ」
ドラマツルギーと現実を一緒にするな」―――
ドラマツルギー
戯曲の創作や構成についての技法、作劇法、戯曲作法。
または演劇に関する理論・法則・批評などの総称ってことらしい。

282Pより。
―――普通の人生を生きて、自称インテリジェンス、自称インテレクチュアルになって満足するつもりなどなかった。―――
「インテレクチュアル」
知性のあるさま。 聰明であるさま。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
159Pより。
―――「普通の何が悪い!普通で何が悪い!私はこの普通の人生を楽しくすごしてるんだ!それを貶めるから、見下すから、嗤うから、軽蔑するから、こんなことになったんだ!」
「そんな文句を云うために命を張る肉のカタマリか。しょうもねえな」
祖父は刀をにぎる手に力をこめた。―――


この感想を書いている時にどうしても気になって『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』のkindle版を買ってしまった。やっぱり面白いね、覇王とはまさしくモンちゃんのことを言うんだと思う。
圧倒的な暴力で暴れまわるモンちゃんとヒグマドンの活躍を、じっくり味わいながらゆっくり楽しませて頂きます。