忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

オービタル・クラウド 下 読書感想

タイトル 「オービタル・クラウド 下」(文庫版)
著者 藤井太洋
文庫 334ページ
出版社 早川書房
発売日 2016年5月10日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「オービタル・クラウド 上」


<< ここ最近の思うこと >>

2022年8月のお盆。
熱、吐き気、寒気、喉の激痛も完全になくなった自宅療養八日目。
体調は回復してもまだ外に出かけるわけにはいきません。
10日間の自室待機はすることが少なくて、たまに部屋の換気をしてはエアコン効いた空間をゴロゴロ。
PCのBFVも一勝負で飽きるしストレスが溜まるし(でもまたすぐにやっちゃうし)映画・・・はなんだかあんまり見る気にならないなぁ・・・なんでだろうか?
そりゃもちろん決まってるでしょ、アレの続きを早く読みたいからだ。
というわけで、『オービタル・クラウド 上』の続きを読んじゃうよ。

物語がイイ感じに煮詰まってきた上巻から、下巻ではどれほど沸き立つ展開になるのか楽しみだ。
でもでも過度な期待は厳禁ってことも分かっているのよ。分かっているけど、期待せずにはいられない。
よーしそれでは、数万もの「雲」が漂う衛星軌道に向かっていざ大跳躍じゃい(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

CIAの手引きでシアトルのホテルを対策本部にした和海たちは、「雲」の詳細を解明しつつ一連の騒動を巻き起こした者達を見つける為、町中に罠を仕掛けて回る。
その間もロニー父娘が滞在する軌道ホテルとつかず離れずの距離を保つサフィール3。
チーム・シアトルはその正体を知っているのだが、アメリカ合衆国では未だにスペース・テザーの存在に確証が持てず、神の杖を破壊する「ホウセンカ」作戦が実施されようとしていた。

一方JAXAの黒崎と関口は、ジャムシェドと和海らの通信を確立するためにインターネットが遮断されたテヘラン工科大学へ向かうが、構内は集会を行う学生達と鎮圧用軍隊、さらにテロリストも集まる不穏な状況になっていた。

その顔だ、ウォードライビング、大跳躍、正式に発令だ、オービタル・クラウド、あなたの席はない、民間人殺傷の可能性、自由インターネットだ、低軌道虐殺、悪い予感、JPEGよ、Dファイ、雲、悪魔じみている、余命二週間、中国の、くだらないですね、残されたる者、ダンス、よろしくお願いします、本当に楽しかった、プレゼント、じゃあ一言だけ、グレート・リープ、白石のプラン・・・。

様々な思惑が渦巻く地球の遥か上空で「軌道上の雲」はいつまでも漂い続けていた。
イランの青年が生み出した発想と日本の技術者が実現した、夢と科学の結晶。
それがもたらす未来は、破壊と犠牲か、人類の大跳躍か。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///一触即発のピンチからまさかの///
テヘラン工科大学にてインターネットの自由化を求める演説をする直前に、武装した男達から演説内容の変更を強要されるアレフ
周辺には大勢の民衆と演説を監視する正規軍部隊が待ち構えてる状態。
今回の集会を利用されたと落胆するアレフの前に、妙な二人組が現れた。
79Pより。
―――アレフの背中に押し付けられた銃口が揺れ、男はアラビア語で続けた。
「ماهيزاマーヒザ(なんだ?)」
銃を空に向けた部隊と群衆の間に、二人の男が立っていた。―――
なんでこんなことになってしまうのか、宗教紛争は本当に悲しいことだわって言ってる場合じゃない!
もう絶体絶命的な状況じゃん、どーするのってドキドキしてたら・・・まさかの展開に(; ・`д・´)
序盤から緊張と緩和の山場が始まっておじさんは自身を叱責しました。
下巻はヤバイ、速いぞ。このスピードに乗り遅れるな!ってね。

///アニメ描写のようにはいきません///
軌道ホテル内にて行った宇宙実験を報告するジュディ。
無重力空間にて何の推力もない状態で空間に停止した場合、どうすれば移動できるのかを説明する。
130Pより。
―――今日は宇宙実験の日。ロニーに、部屋の中央に持ち上げてもらって支えの腕を、そっと放してもらう。一切の支えなしに浮かぶ。どうなると思う?
いくら宙を掻いても、前に進むことはない。宙を蹴っても、伸びをしても、おなかのあたりを中心にぐるぐるその場で回転するだけ。―――
はえ~、知らなかった。でも理屈で考えればそーなるよなぁ。
空中で犬かきしながら少しずつ進むってのがよくあるアニメ表現だけど、現実は違うんだね(笑)
無重力空間で停止してしまった場合は身近なモノを推進剤にする、ということを学びました。

///一分千ドルの講義料は伊達じゃない///
和海らはスペース・テザーを軌道上から排除する方法を検討するが、良い案がまったく思いつかない。
その時、恐らく最初で最後になるかもしれないロニー父娘からビデオ会議の要請が入った。
264Pより。
―――「理論上可能、っていうようなことを実現しようとすると、絶対に大きな壁にぶつかる。民間宇宙旅行なんてことをやった俺が一番よく知っている。一つ、助言させてくれ」―――
もーね、ここは読んでいて胸熱になってしまう場面だったわ。
他にも219Pの心変わりする場面とか、242Pの和海が帰って来てくださいと説得する場面とか、グッとくる箇所は色々あったけど、やっぱり一番心震えたのはここだね。
迷う若者を後押しする年配者のシチュエーションって、どうしてこんなにエモくさせるんだろうか。
(「エモい」の使い方が合っているかどうかは判らずに使っております)


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///彼女の行動力の源は?///
吹雪の中、白石を見つけた明利は単身で武器も持たずに近づいていく。
白石と一緒にいる者が銃器らしきものを構えて、レーザーサイトが自身の体の上を這うように移動しても進むのを辞めない。
190Pより。
―――「蝶羽おじさん!」
明利?屈めていた腰を伸ばそうとするが、チャンスに頭を押さえられた。
「レーザースコープが威嚇にならないわ。日本人ね、誰?」―――
明利はどうしてこんなにも必死に白石を追いかけたのか?
だってレーザーサイトで狙われてるのにまったく動じない程の覚悟って相当でしょ。
(まぁ平和な日本人だからソレがなんなのか知らなかっただけかもしれないけど)
具体的な明確な目的もなく、身の危険を冒してまでアクティブになるのが不思議だった。
キャラの性格かな?それともおじさんの理解力が足りないだけか(>_<)

///用法容量は正しくお使いください///
テヘラン工科大学から引き揚げた黒崎と傷を負った関口。
軽傷ではない出血をしながらも、なお動き続けようとする関口に対して黒崎は安静にしているように指示する。やがて関口は意識が朦朧とし始めた。
285Pより。
―――「眠っててもらうよ。目覚めたときはアメリカだ」
「黒崎さん・・・・・それ」
「ああ、借りたよ。これ、相当効くんだな」
「なんてことを・・・・・。黒崎さん。それじゃ、動け・・・・・なく」―――
よくわからないモノをそんな簡単に使用して大丈夫なのかなって思っちゃった。
実は本当にごく少量しか使っちゃいけないモノだったり、アレルギー反応があったりとか考えてしまう。
ままま、そんな細かいコト言うのは無粋でしょ。
それに自分も身をもって体験してる訳だし、危険なモノじゃないって分かっていたんだと思う(^^;)

///省略された部分がわたし気になります///
新会社のプロジェクト披露レセプションにて、関係者たちを前にスピーチをするロニー。
側にいるのはマタニティドレスに身を包んだジュディ。
和海はステージ脇から似合わないタキシード姿のロニーを眺めている。
317Pより。
―――ジュディとも交際を始め、メンバーからは〝ロニーの三本目の腕〟と呼ばれるまでに動き回っている。―――
ジュディ、ワレいつの間に孕んどったんやΣ(・□・;)
そして相手はお前だったのか!
一体どうしてそうなったんだよ、その馴れ初め部分をしっかり読んでみたかったわ。
う~ん気になるぅ~(*´Д`)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
上巻と同じように次々と視点と場面が変わる作り。だけど下巻を読むころにはキャラクターも立ち位置もバッチリ理解しているから、スルスルと読めて上巻よりもストレスなく読み進めちゃった。

既に書いたけど、下巻はもう最初からクライマックスと言っていいくらいヤマ場モリモリの展開よ。
上巻の物足りなさを経てきた読者にだけ、この旨いもんだらけ定食が味わえる。
未読の読書家はこの興奮の為にチャレンジしてみることをオススメするわさ(゚∀゚)

ちなみに今回は「用語解説」は付いてなかった。まぁ、上巻についていた分だけでほぼ解説しきっているからね。その代わりに大森望の解説が載っていたよ。

///話のオチはどうだった?///
今回のオチというか、何万ものテザーを処理する結果については予想が当たってた。
きっとこんなふうに処理出来たらドラマチックな描写になるだろうな~って予測していたのよ。
とはいえ想像できたのは結果だけで、どうやってそれを実現するのっていう重要な部分は全く予測もつかなったけどね。
和海は凄いセンスを持っているなぁ~。

上巻を読んだ時点では、あれれコレって思ってた以上にお堅い物語?なんて不安になったけど、下巻を読んだ今なら判る。
『オービタル・クラウド』は面白さパンパンに詰まったエンターテイメント小説だったよ。
地球規模で繰り広げられるテロ事件、それに相応しいくらい壮大なエンディングと希望あるれる未来へ向かうエピローグ!
こりゃ色んな賞を取るのも納得ってやつだわ。
最終的に消息不明になってしまったあの人にも、皆と同じ喜びを感じて欲しかったなぁ。

///まとめとして///
小説だからこそ最高に楽しめる作品ってのがあると思う。『オービタル・クラウド』がまさしくソレなんじゃないかな。
あんまり映像映えする派手な内容じゃあない。
その代わり、文章から想像するキャラクター達の熱意がおじさんの胸を熱くさせてくれるんよ。
実写作品を一方的に悪くいうつもりはないけど、『オービタル・クラウド』の作中に漂う雰囲気を映像で作るのは難しいんじゃないかな~って思う。
その雰囲気ってのがなんなのか?
解説で大森望が「仕事小説」って語っていて、あぁ~なるほどなって感じたよ。
ってことは「プロジェクトX」みたいな感じで作ればイイ感じの実写化ができるのか?
うぅ~ん、どうだろねぇ(笑)

技術や知識や研究をボーダーレス化すればどれだけ人類は豊かになれるんだろう。
でもそんなことしたら世界が混乱する?だからこそみんなで未知の宇宙へ繰り出すのさ!
総人類70億人?が共通の目的を持てば、少しずつ未来に希望が生まれてくるはず。
荒唐無稽で楽観主義な願望だけど、素晴らしいSF小説を読んだ時くらいこんなふうに考えたってイイじゃないの~(´▽`)
夜空を眺めながらスタバ1号店のカフェラテを飲みたくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『オービタル・クラウド』は第35回日本SF大賞と第47回星雲賞日本長編部門を受賞しております!

28Pより。
―――「ついでに、カフェラテを買っておいてくれないかな。せっかくシアトルに来たんだ」
振り返ると、見覚えのある白い人魚のマークが目に飛び込んできた。茶色と白のスターバックスは初めてだ。ここが本店だろうか。―――
シアトルに本社のある世界企業スターバックスの1号店は、シアトルの観光地パイク・プレース・マーケットにある。
1971年の創業当時に使われていたロゴを掲げた小さな店舗は、座る場所はなくドリンクやお土産を買うだけの所で、夏は特に観光客の長い行列ができているみたい。


86Pより。
―――分子調理法の勝利ね。一度作っておいた料理を冷凍して運んでいるわけじゃなくて、電子レンジを通すことで完成した料理になるよう調整されているのよ。―――
分子ガストロノミーは1992年にイタリアで誕生した。
ハンガリーの物理学者、ニコラス・クルティら数名の科学者と料理人が集まり、これまで経験や伝統に習って継承されていた料理を、科学的に分析するために研究会を創設したことがきっかけ。
分子ガストロノミーは調理の探究手法であることから、科学を理解する料理人の料理や調理方法を指す用語と間違われることも多く、日本語では分子料理法と誤訳されることも少なくない・・・とのこと。
エスプーマとか液体窒素とか遠心分離機とか、まさしく未来の調理って感じだなぁ。

87Pより。
―――私たちが食べているフィレ・オ・フィッシュの原材料が、ビクトリア湖で環境を汚染しながら養殖されていることを嫌でも思い出すわ。―――
フィレオフィッシュの原料となっているのはナイルパーチと呼ばれるスズキの仲間で、食料増産のためにアフリカ大陸中央部にある、ビクトリア湖に移入された。
しかしナイルパーチは食欲の旺盛なお魚で、ビクトリア湖の生態系を破壊し200種もの魚類が絶滅してしまったとのこと。
ナイルパーチだけが絶滅の原因ではないようだけど、草食性の在来種が少なくなるにつれて藻が繁殖して湖が酸欠状態になってしまいさらに多種の絶滅が増えたりもしているようで。
マク●ナルドやコ●ダ珈琲の揚げ魚バーガーはおじさんも大好きです。骨がないのが素晴らしいです。
でも、その手軽さと美味しさは他国の自然や生物の犠牲から成り立っている訳で・・・。
それでも俺は食べきれなかったハンバーガーをごみ箱に捨てる日常を守りたいんだ!
なんてことを言ってのける覚悟はありませんの(>_<)

159Pより。
―――ブルースは足首のホルスターからワルサーPPSを抜き出し、スライド上部の給弾インジケーターを確認してベルトの後ろに差し込んだ。―――
ワルサーPPSはドイツの銃器メーカーであるカール・ワルサー社が2007年のIWAに発表した最新型のサブコンパクト自動拳銃。
使用弾丸は9ミリもしくは40口径となっているけど、それでは紙鉄砲扱いになってしまうのかぁ。
さすがアメリカのCIAマターってことか。(ところでマターってどんな意味・・・あ、なーるほどね)

169Pより。
―――首を捻じって後方を確認すると、腹を進行方向に向けたまま飛ぶF22がチラリと見えた。あの女、実戦で、この高度で〝コブラ〟をやりやがった。―――
コブラは航空機のマニューバの1つであり、空戦機動の1つである。
進行方向に対して航空機の腹が正面になるよう機首を上げて、また通常の状態へ戻るってことみたい。
これによって急ブレーキをかけて敵の背後を取ったり、味方を守ってフレアを散布したり、とにかくアレよ。『トップガン・マーベリック』は最高だったってことさ(*´ω`*)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
シアトルの沿岸警備隊員の装備がわからない。ネットで検索しても分からない。
M4ライフルに付いているレーザーサイトやスコープもどんなのか分からない。
なので全部おじさんの想像で描いちゃいました。
作中で一番気になったのはチャンス専用のSIGだね。
恐らくグリップ力を高める為に樹脂パーツで覆われたレーザーサイト付の拳銃。
どんな形をしているんだろう。こーゆー凝った小物は男心をくすぐりますな。


203PPより。
―――「切り抜けてね、殺したくはないのよ」
チャンスはトリガーから人差し指を浮かせ、雪の中に膝をねじ込んで銃口を安定させた。
ナッシュに覆い被さるチャンスの背中に、叩き付けられた雪が積み上がっていく。―――