忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

オービタル・クラウド 上 読書感想

タイトル 「オービタル・クラウド 上」(文庫版)
著者 藤井太洋
文庫 332ページ
出版社 早川書房
発売日 2016年5月10日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「オービタル・クラウド 上」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

ぐわあぁ~~~_( _´ω`)_ペショ
まさかの夏休み延長戦!よりによって連休最終日に陽性が判明するとは(笑)
夜中に何度も吐いては悪寒に震える朝を迎え、丸一日安静にしていたら熱も引いて安心したけど、それからずっと喉が痛くてたまらんよ。
毎朝起きると唾も飲み込めないくらい痛いのが辛谷園。

そんなわけでいきなり10日間の軟禁状態。こんな時は読書するのが一番だよ。
ちょうど今回の作品は上下巻モノだし、どっぷり読みふけってやろうじゃないの。
それでは、夏の読書といったらSFってことで、超話題作の地球軌道上に向けていざローンチ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

2020年12月。
世界初の「ワイバーン軌道ホテル」の打ち上げを直前に控え、全人類は興奮と期待に満ちていた。
フリーのWEB製作者である木村和海もその一人だったが、自身の運営する「メテオ・ニュース」というブログに謎のデータが送られてきたことによって、軌道上に異変が起こっていることに気づく。
12月の初めにイランから打ち上げられた人工衛星の切り離したロケットボディ「サフィール3」が、いつまでも地球に落ちず、あろうことか上昇・加速しているのだった。
北米航空宇宙防衛軍、JAXA職員、テヘラン工科大学博士、アマチュア写真家、CIA職員など様々な人々がこの事態の解明に動き出す中、一連の騒動を裏で操る者達がシアトルに潜んでいた。

ささやかな宇宙への挑戦、なんかの間違いだろ、空飛ぶトマト缶、投資だ、神の杖、今までのチャンス、デブリ、CIA、ツィオルコフスキーの公式ね、テザー推進、劣化ウラン弾ローレンツ力、汚染、動くのが正義、シャドウウェア、テヘラン、I start a war、普通の父娘、宇宙においでよ!

ネット上で「サフィール3」について不穏な噂が飛び交う中、最悪の事態が起こる。
サフィール3」が世界的投資家ロニーとその娘が乗る軌道ホテルとの邂逅軌道に重なってしまう。

なぜ使用済みになった「サフィール3」が軌道上に留まり続けているのか?
この騒動を巻き起こした者達は一体何が目的なのか?
全世界の人々が見上げる遥か上空で、前代未聞のテロ行為が行われてしまうのか!?
シアトルにて結成された和海のチームは事態収拾に向けて動き出した。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///嘘を作るには現実が必要///
毎年恒例のサンタ追跡作戦を行うにあたって、ビデオ電話で対応する隊員にサンタ帽を被せることについて疑問を抱くNORAD軌道監視室長のクロード・リンツ大佐。
36Pより。
―――厳つい顔の軍人が「オレゴン・サイトの情報によると、サンタはバンクーバー上空をマッハ2で飛行中。以上」と答えるからこそ、子供もサンタを信じてくれる。浮かれた帽子を被った隊員たちが果たしてプロの軍人に見えるだろうか。―――
フィクションを演じるのであれば徹底しないと。例え相手が子供でも手を抜いたらすぐに飽きちゃうと思う。だからリンツ大佐の考え方にはおじさんも賛成ですはい。
子供は大人が思っている以上にいろんな所を見て考えているからね。なんてことを言ったらそれこそ中年の考え過ぎだって言われそうだけど(^^;)

///平和な日常が変わる瞬間///
サフィール3」の事象について知りえた情報をJAXAに伝える為、会社の会議室に黒崎と関口を招いた和海と明利。
互いの情報を交換し合い、事態の推測がなされていく中で、不意に会議室のドアがノックされて扉がゆっくりと開かれていく。
204Pより。
―――女性はドアを開けて会議室に入ってきた。肩をすくめた和海が立ち上がろうとしたとき、素早く動いた関口が和海の肩を押し、両腕を広げてドアの向こうから室内を隠すように立ちはだかった。―――
頭が良いだけじゃない。とっさに反応して行動に移せるのが出来る男の関口だ。
この後も彼の機転で状況を好転させていくんだけど、まるでエージェントのような仕事っぷりは主人公ようだ。そして日常生活の空間に忍び寄ってくる敵の気配が怖いわ。

///技術大国ニッポンはどこへ行った///
サフィール3」を使ってCIAや米軍を出し抜く為に策を指示する白石。
一方、補佐役のチャンスは敵がそんな簡単に騙されるのだろうか?と白石のプランを疑う。
225Pより。
―――「政治屋がエンジニアの言葉に耳を傾けられるようなら、俺はまだ日本でロケットマンを続けていたさ。科学、技術、論理―――。そんな冷たい言葉に生命を委ねられるほど、人は賢くないんだよ。―――
科学や技術や論理が冷たい言葉になっちゃうのかぁ。
結局のところ、根拠や実証がなくても耳障りのいい言葉を言う人に流されちゃうのが人間だもんね。
んでもってまったく知識や経験のない政治家が日本の技術や研究の決定権を持っちゃっているから、そりゃどんどん衰退していくんでしょ。
技術流出と人手不足が無視できなくなってきたわが国の現状がなんともリアルだなぁ。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///なんとなーくは判るんだけどね///
会社に来た和海はジャムシェドから受け取った図面を参考にテザー・システムの実験装置を作り、軌道上に浮かぶモノがどのような仕組みなのかを明利と渡辺に説明した。
176Pより。
―――ジャムシェドの考案した方式は、テザーの上を移動しつづける重りが重心を常に不安定に保っているのが大きな特徴だ。―――
和海が想像したスペース・クラフトがいまいちピンとこないのです。
テザーの上を移動しつづける重り?・・・・・水平に自転させる?・・・・・う~む、イマイチなんともかんとも雲をつかむような想像しかできない(;´∀`)
この辺がどーゆーモノなのかは、下巻で詳細に語られることを期待しよう。

///秘密衛星、極秘衛星は男子のロマン///
追跡を逃れて安全を確保できる場所に入った和海らとJAXA職員たち。
ふとしたことから、黒崎はかつて仕事仲間だった白石のことを思い出し、どうして彼がJAXAを辞めることになったのかを説明した。
220Pより。
―――軍事衛星だろうと何だろうと、軌道上にあるそれなりに大きな物体を秘密にし続けることはできない。そんな常識もない政治家や官僚が、年に数千億円もの予算を投じて情報収集衛星を運用していることに和海は驚いた。―――
はえ~、軌道上の物体って全部まるっと感知されていたんだ。
レーダーにも映らない、肉眼でも見えない極秘攻撃衛星が実は・・・なんてことはあり得ないのね。
出来そうな事で言うなら、実は攻撃能力を持った偽装衛星でしたってくらいか?
う~ぬ、おじさんもバカの一人だったのね(笑)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
2015年のテヘラン郊外でひっそりと行われるジャムシェド・ジャハンシャの実験描写から始まるんだけど、プロローグを読んだ時点でワクワクの予感がしてくる文章は名作の証拠でしょう。
そんなプロローグからスタートして、日本のフリーランスエンジニア、JAXA職員、北朝鮮工作員、投資家、NORADの軍人達、CIA職員と様々な登場人物達の視点から代わるがわる語られる作り。
だから人物達の名前や立場を理解するまで少し大変だったね。

あと全体的に色んな専門用語やアルファベットや数字がたっぷり書かれているから、はっきり言って分からない部分はすぐに諦めて流し読みしてしまった。
だけどご安心を。
そんなおじさんでも最後まで読めちゃうくらいストーリーがちゃんとしているし、できるだけわかりやすく記述されております。
さらに本編の最後にはありがたいオマケ的なモノも付いているので、気負いせず読んでみてね。

///話のオチはどうだった?///
オチはどうだと言われても、上巻ではまだ何も起きていない状態だからねぇ(^^;)
なにか良からぬことを考えている連中がいるっぽい。そいつらが軌道上に兵器っぽいモノを漂わせているっぽいってことが判って、さあ果たして何が起こるのかって内容だったからさ。

とはいえ、あえて無理矢理オチ感想を出すとしたら、希望と信念に満ち溢れたジュディの言葉で締めくくられた最後。
宇宙から人類全体の団結を願う彼女の想いは、下巻で起こる悲劇のスパイスになってしまうのか?
今後の展開に不安がよぎるけど、同じくらい楽しみでもある終わり方でしたわ。

///まとめとして///
心くすぐるガジェットは無い、圧倒的な未知の何かが登場するわけでもない、派手な演出や山場がある訳でも無い。なのに最後までしっかり読み込んでしまい、続きも気になってしまった読了後のおじさん。
コレがまさしくSF(少し不思議)小説、いや『オービタル・クラウド』の魅力なんだろうか?

おそらくなんだけど、熱中してしまうのは作中でリンツ大佐が語っていた通り、徹底的にリアルを追及して作られたフィクション小説だから・・・じゃないかなぁ~って思った。
上巻のカチカチに丁寧に組み立てられた土台を経て、下巻ではどんな作り話を味合わせてくれるのか?
読む前からお腹が鳴ってしまうほどの期待に満ちた満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を・・・言わずもがな!『オービタル・クラウド 下』だよね!


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

「オービタル・クラウド」は第35回日本SF大賞と第47回星雲賞日本長編部門を受賞しております!

本編終了後に作中で登場した用語の解説が付属している。これはありがたい。
こーゆーちょっとしたサービスが読者を増やすことに繋がると思っておりますたい。
(欲を言えば、事前に用語解説があるぞと分かるようにしてほしかったかも・・・・・すみません目次に書いてありました)

31Pより。
―――九〇年代末にインターネットを使った送金と決済サービスを作りあげ、だれでもショップを持てるようにしてくれた立志伝中の人物は、今、宇宙開発の最前線にいる。―――
「立志伝中の人」というのは、苦労と努力を重ねて志を遂げ、成功した人。という意味らしい。

87Pより。
―――「お前、韓国語もできるのか?」
朝鮮語はほんのちょっとですよ。中国語ほど上手じゃありません」―――
韓国も北朝鮮も使われている文字はハングル語で、どちらの言葉もほぼ同じものなので会話も問題なく成立する。
じゃ何が違うのかってーと、語頭法則が韓国語と朝鮮語の一番大きな違いってことみたい。
標準語と大阪弁みたいなものかな?違いうかな(笑)

122Pより。
―――オジーがふざけ半分につけた〝フライデー〟という呼び名も笑って受け流してくれた。―――
ロビンソン・クルーソー』に登場するフライデーという人物が元になっているのかと。
この無人島には時々近隣の島の住民が上陸しており、捕虜の処刑及び食人が行なわれていた。ロビンソンはその捕虜の一人を助け出し、フライデーと名づけて従僕にしたってあるけど、食人があったのか・・・思い出すのは映画『グリーン・インフェルノ

216Pより。
―――「伏羲でしょうね。中国の初代皇帝・・・・・というか、神様です。天秤はおかしいな。本来はコンパスと物差しを持つんですよ」―――
伏羲は古代中国神話に登場する神または伝説上の帝王。
兄妹または夫婦と目される女媧(じょか)と共に、蛇身人首の姿で描かれることがある。
思い出した!マンガ『封神演義』で見たことあったわ。昔は何度も読んでいたのに、あっという間に忘れちゃうもんだね。

268Pより。
―――「三人乗ってるんだった。忘れてたよ。カープール・レーンが使えるんじゃないか。二人以上乗ってるときは優先道路が使えるんだよ」―――
アメリカの高速道路には、カープールレーンという通常車線とは分けられた特別な車線があるようで、場所によっては、HOV LANE(High Occupancy Vehicle)となっている地域もあるとのこと。
車社会で渋滞必死のアメリカは相乗りだと優遇されるよって制度。
もし違反して捕まってしまった場合は、高額な罰金があるので要注意。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
『オービタル・クラウド 上』では人物の描写が少なく、ジュディに至ってはポニテにするくらいの髪型ということしか分からなかった。
なのでおじさんのイメージするアメリカンで描いてみたのよ。
金髪でナイスバディな碧眼ガール・・・・・う~ん、これはメトロイドのサムス!?


298Pより。
―――ジュディはゆっくりと人差し指をカメラに向ける。
『どこの誰がやっていることか知らないけれど、こんな下らないことはやめて名乗り出なさい。あのクズ鉄をさっさと軌道から降ろしなさい。ここで事故を起こせば、あなた方は人類全てを敵に回すのよ』―――