忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

クライマーズ・ハイ 読書感想

タイトル 「クライマーズ・ハイ」(文庫版)
著者 横山秀夫
文庫 471ページ
出版社 文藝春秋
発売日 2006年6月10日

 

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・今回の「クライマーズ・ハイ」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

高所恐怖症のおじさんはもちろん飛行機が苦手です。
今までに数回飛行機に乗ったことがあるけど、離陸して地面がどんどん離れていくあの瞬間が大の苦手。
今回の作品は映画化もされていて、いつか読もう読もうと思っていたけれど手が出なかったコチラ。

ネットの情報で123号便の事故現場が壮絶に語られていたりしてるけど、この小説でもそんな恐ろしい描写があるのだろうか。
新聞なんて全く読まないおじさんだけど、中日新聞の「中日春秋」だけは目に付いたら読んじゃうくらい好き・・・・・ままそんなことは置いといて、初めての横山秀夫作品だ。
分厚いページに気後れしてしまうけど、読者魂を燃やしていざ飛び込まん(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

群馬県の地方紙・北関東新聞社の遊軍記者である悠木和雅は、販売部の安西耿一郎とともに谷川岳衝立岩登攀へ向かう約束をしていた。
しかし約束の日の前日、夜七時を回った頃に日航ジャンボ機が長野・群馬県堺に墜落との情報が入る。
編集局長の柏谷は管理職を拒み続ける悠木に日航機墜落事故の全権デスクを任せると宣言した。
何もかも唐突過ぎる状態で、当時世界最大の航空機事故をどう扱えばよいのか悩む悠木。

すべてはあの日に始まった、下りるために登るんさ、ジャンボが消えた、暑く長い「日航の夏」、間に合えばな、オープン広告、もらい事故、都落ち、可愛くないのかよ、当たり前のこと、本当の現場、犬奉公、果敢に挑んだ日、ロハ、その一瞬一瞬に、土産、記者病、命の重さ、新聞紙、抗議電話、下りたわけじゃないですよ、上で話す・・・。

立山登山前日に謎の行動をとっていた安西は、悠木に謎の言葉を残したまま止まってしまう。
残された悠木は日航機墜落事故から十年以上経った現在、安西の息子と二人で衝立山へのアタックに挑もうとしていた。
事故当時の熱く激しい夏を思い出しながら・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///記者同士のマウントはこうして取るのじゃ///
「大久保」や「連赤」以上の世界最大の航空機事故がすぐそばで起こり、嵐のようなオフィスの中心にいながら悠木は大事件の現場に立ち会えない者達の心境を察していた。
49Pより。
―――十三年もの間、事件の遺産で飯を食ってきた。「大久保」の昔話で美味い酒を飲み、「連赤」の手柄話で後輩記者を黙らせ、何事かを成しえた人間であるかのように不遜に振る舞ってきた。
まぐれでオリンピックの金メダルを取ってしまったようなものだった。―――
記者にとっての金メダルってところに納得した。
大事故・事件の現場に取材に行ったってだけなのに、その後もずっと偉そうにされるなんてたまったもんじゃないわなぁ。
そしてマスコミや記者が周りの迷惑も考えずに現場へ殺到することにも納得だよ。
金メダルは誰だって欲しいもんね。

///仕事に対して熱くなる瞬間///
全権デスクとしての熱意を打ち砕かれて消沈する悠木。
その時オフィスに耳慣れない訛りで話す母子がやって来て新聞を頂きたいと訴える。
社員に煩わしく追い返された母子だったが、悠木は気付いてしまう。
188Pより。
―――熱風が胸を吹き抜けた。悠木はデスクの上の新聞を鷲掴みにした。今日。昨日。一昨日。十三日の分まで搔き集めて社の封筒にねじ込んだ。さっき仕分けした原稿の仮見出しが目を刺した。≪遺体の帰郷≫―――。
猛然と走り、階段を下った。下りきったところで母子に追いついた。―――
もうほんとに、喫茶店で読んでて涙ちょちょぎれそうになったわ。
そしてただの読者なだけのおじさんでも、思わず熱い何かが込み上げてきた。
打ちひしがれた者がもう一度、力強く立ち上がる瞬間って感動するよね。

///いい年した大人達が全力でこんなこと///
事故原因の特ダネのウラをとる。その為には時間が必要で、記事を載せた新聞を発送するには運搬トラックの出発を遅らせなければならなかった。
そこで悠木はある方法を実行しようとする。
309Pより。
―――「それと、藤岡・多野コースのトラックを引き止めておく必要があるぞ」
「昔の手を使います」
「あれか?」
「そうです」
「時代が違うぞ」
「他に方法が思いつきません」―――
後にわかるけど、なんとまあ子供騙しみたいな手を使って(笑)
でも101Pで言っていたよね。
―――だが、事件記者が小利口な大人になってしまったら、もう事件記者とは言えない。―――
情熱というのか我儘というのか、これぞ昭和の男たちって感じかな。
いい年した大人たちが全力で何かを作り上げていく姿って、眩しいよね。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///当時の記者たちは命知らず?///
墜落現場から直で悠木のところに戻った佐山と神沢。
二人の尋常ではない姿に気圧された悠木は、自販機コーナーに連れ出し現場の感想を尋ねてみた。
98Pより。
―――自衛隊の後ろについて長野側から山に入ったが、実際には尾根が三つも違っていたこと。急峻な瓦礫の谷を滑落同然に何度も下りたこと。水も食料も持ち合わせがなく、フィルムケースで泥水を飲んだこと。背丈より高い熊笹の密生地を進み、崖を這い上がってようやく現場に辿り着いたこと。―――
何の装備も持たずにスーツ姿で夜の山に入っていったのか。
自衛隊に付いていったとは言え、登山慣れしている訳でもない人間がなんて無謀なことを。
人命や二次災害よりもスクープの方が大切!ってことか、時代だわねぇ(;´Д`)
思い浮かぶのは雲仙普賢岳噴火の悲劇か。

///濃いキャラ多いのは北関だけ?///
必死の思いで書き上げた部下の記事を一面トップにしようとする悠木だが、上司と社長はその記事に書かれている一部分を快く思ってはいないようで・・・。
144Pより。
―――二人のやり取りを、白河は薄笑いの顔で見つめていた。真奈美に肩を揉ませている。色惚け。編集局長まで勤め上げた男が、身体の自由が利かなくなったとはいえ、こうまで錆びついてしまうものなのか。―――
マスコミ関係はこんなにも私利私欲が幅を利かせているの?
昭和の時代ならいざ知らず、令和の現在ではこんな好き勝手やる人はいないよね・・・・・表からは見えないだけ?
なんにせよ、この激しくぶつかり合う展開と映画版のキャストは半沢ドラマみたいだね。

///サラリーマンなら当然・・・///
自身の取り返しのつかない後悔から、ある人物に頼まれた投稿文を新聞に載せようとする悠木。
しかしその投稿文は日航事故で悲しむ遺族たちに対して侮辱ともとれる内容だった。
418Pより。
―――「北関を潰す気か!遺族の神経逆撫でして何が面白い!」悠木は追村の胸ぐらを掴み返した。思い切り締め上げて言った。
「遺族が騒ぐ?肉親を失った人間が、あの娘の気持ちをわからないはずがないだろうが!」―――
現実的に考えるなら、新聞会社だってビジネスとして利益を出さないとやってけないわけだから、あまりにも無茶なことはしちゃいけないんじゃないのかなぁ~と。
でも一人の人間として判断するならば、悠木の決断は正しい!そして小説として熱い展開は正義!


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
1985年に起きた日航空機事故の全権デスクを任された悠木と、十七年後の衝立岩に挑もうとする悠木、ふたつの視点が入れ替わりながら現代と過去が語られる作り。
過去が7で現在が3ってくらいの割合だったと思う。
過去編は言わずもがなで熱読しちゃうけど、現代編は微妙では?って危惧したが要らぬ心配だったわ。
立山を安西燐太郎と登りながら、同僚だった安西耿一郎についての疑問が少しずつ明かされていく展開でこちらも存分に楽しめたよ。

それと全編を通して、夢中で読み続けちゃう文章が凄いと感じた。
やっぱり12年間記者生活を続けてきた作者だからこそ作れる文章なのかな?
いつまでも読んでいられそうな気分で、まさしくクライマーズ・ハイに状態でグイグイ行けた。

///話のオチはどうだった?///
こーゆー社会派?というか記者がメインの作品をまったく読んだことがなかったから、話の終わり方もまったく予測できなかったよ。
最後まで読み終えて、驚愕のオチとかどんでん返しとかそんなのはまったくなかったけど、予測もつかない展開と作りこまれた登場人物達の熱意で、最初から最後まで没頭して楽しめましたわ。

それにいつもの持論だけど、良い小説はオチとかそんなの関係なしで読んでいる現時点が常にピーク地点って感じだから、この「クライマーズ・ハイ」にオチの感想なんて必要ないっしょ。
でもでも最後まで読み終えた読者には、爽やかで優しい気分を味わえること間違いなしって終わり方!

///まとめとして///
伝える仕事に就いて充分に醸された経験と実力から生み出される文章と、大惨事の航空機事故をメインにした中年男性記者の情熱と葛藤、読み終わってこんなに贅沢な小説はなかなかないぞと思った。
主人公と年齢が近いことも理由の一つかもしれないけど・・・いやそれ以上にこの作品に注がれたエネルギーが凄いんだと思う。
間違いなく読んで損はしない一冊ですわ。(グロ描写に僅かな期待をしていた自分が恥ずかしいです)

長い本書を読み終えて、熱が残る頭でぼーっとしてたら思いついた。今の気分は登山で山頂に到着した時のものと似ているかも?
悩み躓きながらもただ上だけを目指し続けた男の人生、その勢いに読者も思わず引っ張られちゃうぜってことで満読感9点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

クライマーズ・ハイ』は週刊文春ミステリーベストテン2003年第1位をとって、2004年本屋大賞第2位も受賞した。
それに同作は2005年12月にNHKでテレビドラマ化、2008年に映画化され全国公開されたようで。
読んでみて実写映画を見てみたいと思った邦画は珍しいね。
演じているキャストが魅力的過ぎるってのもあるかも。

36Pより。
―――藤波官房長官自民党内の会の席上で正式に表明したのだという。ただ参拝方法と玉串料の取り扱いについては未定で、今後はそれが焦点になる。―――
玉串料とは、神事の際に神前に供える金銭のこと。
玉串料の「玉串」は、榊の枝に紙垂や木綿をつけたもので、神道に基づいて結婚式や葬儀などの神事を行う際に「神に供える物」として捧げられていたみたい。
首相や閣僚が支払う玉串料は「私費」に当たるようで、公には公開されていないから一般人が「本当の金額」を知ることは不可能となっているとのこと。

155Pより。
―――厄介なのはその靖国公式参拝だ。「郷土宰相」の英断とも蛮行ともつかぬ行動を紙面的にどう扱うか、地元紙として頭の痛いところだった。―――
宰相(さいしょう)は現代においても内閣総理大臣の通称として使われることもある。
中曽根康弘元首相の出身地は群馬県高崎市ってことだから、自分たちの故郷から誕生した内閣総理大臣ってことで「郷土宰相」って言っているのかと。

―――「取りあえず今日は肩に寄せろ。『材木屋のやっちゃん』が、歴代首相として戦後初の公式参拝をやる。ウチとすりゃあ、これをトップにしないわけにいかんだろう」―――
中曽根元首相は高崎市末広町で六人きょうだいの次男として生まれた。
高崎市の材木商の家に生まれ、「やっちゃん」という呼び名で親しまれたみたいだね。

178Pより。
―――明日の朝刊が出る前に、こんあふうな記事が載りますよ、と茶坊主するのだ。―――
武家に仕えて茶事をつかさどった者で、頭を剃っていたので坊主という。
または、時の権力者にへつらい、その威を借りて威張る者が多かったところから権力者にへつらう者をののしっていう語とのこと。

243Pより。
―――「そう、遠藤はエベレストのサミッターになったんです。気温は常に氷点下、酸素は地上の三分の一という世界です。頂上を踏んだ時、彼が何をしたと思います?」―――
サミッター(summiteer)とは、サミットへの登頂者のこと。サミット(summit)とは山の頂上を意味しており、通常は最高峰の頂上を指すことが多い。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
216Pより。
―――悠木は息荒く言った。
「これだけは覚えとけ。お前を調子づかせるために五百二十人死んだんじゃないんだ」
血走った両眼が悠木の両眼を見つめていた。―――


今まではSDサイズでずっと描いていたけど、一般的にはHDサイズで描くらしい。
てかSDサイズて携帯端末画面のサイズなのか・・・HDサイズだと確かに拡大して書き込む時の滲み具合が綺麗になった気がするかな?
それ以前におじさんの実力では見た目ぜんぜん変化なしって感じだけど悲しいことに(;´Д`)