忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

金魚姫 読書感想

タイトル 「金魚姫」(文庫版)
著者 荻原 浩
文庫 464ページ
出版社 KADOKAWA
発売日 2018年6月15日

 


<<この作者の作品で既に読んだもの>>


・「噂」


<< ここ最近の思うこと >>

一人暮らしをしていた二十代の頃、三日目で電気工事会社を辞めた。その日の夜、一人明かりを消した部屋で冷蔵庫の前に体育座りしていたおじさんにメールが来たんだ。
「これから崖の上のポニョを観に行こう」
気分どん底のぞこな状態だったけど、映画を観終わった頃にはマトモな精神状態に戻っていたのよね。
内容が良かったのか、リサがグッときたからなのか、誘ってくれた人たちのおかげなのか、とにかく顔を上げて前を向こうって気持ちになれたのを覚えている。

そんなセピア色の思い出を思い出しつつ、今回の小説ですたい。
前回『噂』を読んでみてかなりイイ感じだとフィーリングしたので、違う作品も読んでみよう&恋愛系で面白そうだから読んでみようってことで、選ばれた一冊。
ラノベ業界ではありがちな設定?と意外な分厚さに圧倒されつつ、最初のページを開く時が来た。
2022年8月。湿気と熱気がムンムンなこの季節だからこそこの作品を読むに相応しい!
ではでは、金魚の美女と冴えない青年が織りなす一夏のボーイミーツガールの世界へ、いざ飛び込むぜよ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

彼女にフラれたばかりの江沢潤は仏具販売のブラック会社に勤めており、その精神は限界を迎えようとしていた。休日に近所の祭りへ行った潤は、ふと思い立って金魚すくいをやってみる。
一匹だけ捕れた綺麗な金魚を持ち帰り、自分以外の生き物との共同生活を思案しながら眠りについた。
その日の夜、ふと目が覚めた潤は部屋が所々濡れていることに気づき、そして窓ガラスに映るびしょ濡れの見知らぬ女を見つけた。
美しくも恐ろしい謎の女は近づいてきて何事か囁き、そこで潤は気を失ってしまった。
朝になり、昨夜のことが夢だったと自らに言い聞かせながら潤は急いで会社へと向かう。
金魚は昨日と同じように、急ごしらえの容器に収まっていた。

死にたい、琉金だ、どこにもない、リュウ、新たな異常事態、お前はどちらだ、モーマンタイ、企業Uターン、いちばん憎い者、それが因果だ、一尺五寸四方の四角い空、菊池のこと、しっかり生きるために、金魚の病気、オキチモズク、感謝してる、中国の婚礼と衣装、記憶そのものなのだ、そんなぁ、憎しむのは止せ、私の無念、悪鬼、楊河、楽しそうだった・・・。

異国の美女と金魚と憔悴した青年の共同生活がスタートし、落ち着く間もなく超常的な現象が潤の周りで発生してしまう。
しかしそれは不安でもあり好機でもあった。
目的を失った男と目的を忘れた女が日々を過ごしていく中で、絆は繋がり因果は巡り交わっていく。
笑って泣けて、ちょっと怖いけど切ない真夏の奇妙な物語が始まる。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///やっぱりヒロインを語らねば///
この作品において一番楽しみだったのが金魚から美女になるというヒロインだ。
長い小説だから随所にその魅力が散りばめられているんだけど、その中からおじさんの感性にピンときた部分を紹介しまつ。

144Pより。
―――リュウが両袖を腹びれのように開いて僕のかたわらにうずくまる。
「男は泣くな。女の涙の値打ちが下がる」
「ほっといてくれ」―――
元カノが他の男といるところを偶然見かけてしまい、耐久力ほぼゼロの潤の精神はノックアウトされてしまう。そんな落ち込む男にかける言葉が「涙の値打ち」って、カッコよすぎでしょリュウさん(*´ω`*)
そのあとに語られる「女と燕の子」の話もズンっと胸に響きましたわ。
恋愛感情も友情も何もない間柄で、ただの共同生活相手ってだけなんだけど、失恋に落ち込む男を励ます美女ってシチュエーションに弱いおじさんなのです。

続いてコチラ。
171Pより。
―――「うおおおーっ」喉をかきむしり、口からだらりと舌を出した。
リュウが声をあげた。「ぴいぃーっ」
初めて聞く声だった。魚ではなく鳥になったみたいな叫びだ。
「うぉぅうおあおぅ」
「ぴーぴぴぴぃーっ」―――
リュウをからかってやろうと思い、料理に毒が入っていたかのように振る舞う潤。
それを見て驚いた彼女が、まさか「ぴいぃー」って悲鳴を出すんて・・・これはアリ寄りのアリですな。
普段つっけんどんで掴みどころないリュウがみせるギャップが男心をくすぐりますわ。
(まぁ毒殺を味わったことがある者にとっては、笑えないジョークだよね)

///人の弱みに付け込むのは当たり前///
リュウと暮らし始めて様々なことを経験してきた潤は、人生においての優先順位的なモノを知り、その為ならば勤めている会社など知ったことか!と考えられるようになっていた。
190Pより。
―――「自分がみんなと同じかどうかが不安」その心がブラックな会社につけこまれるのだ。無職や転落が怖くて、ヤバイとわかっているのに入社してしまうのだ。ほんの少し前まで僕もまったく同じ思考回路で生きていたから、それがよくわかる。―――
ブラックに付け込まれる理由に納得だわ。
社会人になったばかりの若者なら猶更みんなと同じように歩いて行かなきゃって思っちゃうもんね。
ネットで有名なモチベーションをアップさせるポスターが貼ってある会社なんてすぐに辞めたほうが良い。従業員の立場になって考えればあんなの逆効果だって小学生でもわかることなのにさ(-_-;)
おっと、つい関係ないことで熱くなってしまいました。

///読めない展開に驚くばかり///
恋愛メインのまったりした内容だと思っていたけど、まさかこんなことが起こるなんて。
その中でも個人的に「ほあぁ~そうきたかぁ~」って衝撃を受けた部分をほんのりと紹介。

リュウと二人で訪れた金魚の展示会場にて、謎の男に声をかけられた潤。
ただの金魚マニアかと思って適当にあしらおうとするが、男は予想外のことを口にした。
214Pより。
―――独り言なのか呼び止めようとしたのか、僕の背中を男の言葉が追いかけてきた。
「あれは良い金魚だ」―――
いやまさかコレびっくりだわよ。
この世界は一体どうなってんだ?この男の目的は何なんだ?意味深な言葉だけを残してそのまま消えたっきりで終わるなんてことは・・・ないだろうね(^^;)
なんにせよ、こーゆーミステリーな要素がしっかり組み込まれているからグイグイ読み進めちゃうのよ。

続いてコチラ。
ブコメ特有の今カノ?と元カノと主人公っていう鉢合わせ場面。
ちょうどその時、携帯に届いたメールを見て潤は衝撃を受けた。
268Pより。
―――自分を落ち着かせるために、冷めたコーヒーをひと口飲んだ。泥水を飲んでいるようだった。―――
まさかまさかの展開!
この女、よくノコノコとやって来れたもんだなコンチクショウ(# ゚Д゚)
って独身男性特有(おじさんだけ?)のヒステリー気味な興奮で読んでいたんだけど、ガツンとやられちゃいましたわ。こんなん読まされたら、思わず目汁が出てきちゃうんよ。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///気になる描写の真相は///
イタリアンレストランにてリュウと食事をとる潤。
しかしリュウの活動限界は唐突にやってきて、金魚に戻ってしまった彼女を慎重に運んで部屋に帰って来たのだった。
141Pより。
―――Tシャツとサルエルパンツは、最初に出した時のままベッドの上に広げられていた。ただしたっぷり濡れて。―――
いや待てリュウの着ていた衣服類はどこにいっていたのよ?って思っていたら、なんか知らん間にびちゃびちゃで置いてある展開にどーなってんだ、説明なしか?って思っていたけど219Pでその辺のカラクリがちゃんと書かれていたわ。
小さな疑問に対してこじ付けでもいいから説明されているとおじさんは納得いたします。

///ほんとに人間って奴は///
ランチュウを見たいと言うリュウを連れて金魚の品評会&鑑賞会会場にやって来た潤。
様々な姿をした金魚を目の当たりにして、潤は過去に亜結と喧嘩した時のことを思い出す。
209Pより。
―――違うよ、亜結。動物が哀れなだけだ。そのことに人間が無頓着なのにいつも驚いているだけだ。―――
ほんとにねぇ。なんで体調不良でもない寒がりでもない犬種に、服を着せたりアクセサリーを付けたりすんのかね?ぜったい邪魔だって思ってるだろうに。
それに金儲けの為だけに品種改造を重ねて、歪な姿に変えられた動物たち・・・悲しい気持ちになるわ。
愚かな生き物だよねぇ、人間て。(まあ一番愚かなのはおじさんなんですけどぉ)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
基本は潤の視点から語られる作りなんだけど、いくつかの短い過去回想(おそらくリュウの)が挟み込まれており、時代によって登場人物の視点が変わるから飽きずに読めちゃう。
ページ数も文字数も多い小説だからね、こーゆー作りは有難いんよ。

そんでもって過去の回想がどれもこれも血生臭い恐ろしい系の話だから、潤パートの穏やかな雰囲気からスパッと切り替わるギャップが読んでいて楽しいわ。
潤パートも恋愛だけじゃない不穏な要素が組み込まれてて普通に面白んだけどね。

///話のオチはどうだった?///
潤とリュウの物語は綺麗に最後まで描かれているのでご安心を。
だけど作中で起こった様々な現象に対して、明確な説明や回答は用意されぬまま終わったのが心残りかな。なので未読でいつか読もうと思っている人はそこんとこ注意されたし。

そしてこーゆー終わり方にしのかぁ~。良いねぇ~おじさんは好きだよ(*´ω`*)
最初から最後まで金魚の彼女に振り回されて、泡沫のような一夏が終わっていった。
夏の夕暮れみたいな二人の結末がじんわり心地良く、切なくも美しい恋愛劇に心の濁りが澄んでいくのを感じましたわわわ。

///まとめとして///
ブコメマンガのような設定だけど侮るなかれ。
甘過ぎず、程よくビターが効いた恋愛と、死んでも死にきれない憎しみが絶妙に混ざり合う不思議なお話。そしてやっぱり読むなら若いうちがおススメなのは間違いなし。
未読の若人達よ、一夏の思い出に金魚の美女と過ごす日々を追加してみるのはいかが?
おじさんも二十代の頃に読んでおきたかったなぁ。

小説を読むようになってから作中の言葉や事柄などを、現実世界でもタイミングよく耳にしたり目にしたりすることが増えた気がする。
―――すべては繋がっている―――
頂天眼男の長坂常次郎が言っていた言葉を思い出しながら、このまま読書を続けていった先に何かあるんじゃないか・・・?なんて妄想したりして楽しんでるおじさん。
まぁまぁんなこたぁ置いといて、海鮮パスタやスティックタイプのえびせんを食べつつ、新麦を飲みたくなるような満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『金魚姫』はNHK-FM青春アドベンチャー」にて2017年7月に窪塚俊介主演でラジオドラマ化されていて、さらにNHK BSプレミアムにて2020年3月に映画監督の青山真治演出、志尊淳主演でテレビドラマ化もされたようで。めっちゃメディア化されてるやん。
それに青春アドベンチャーとは懐かしい。
バイオレンスジャックを毎回ワクワクしながら聞いてたなぁ。

97Pより。
―――華道の名取だったの。お供えの花にもうるさくて。―――
「名取」とはその名が多くの人に知られること。評判が高いこと。有名であること。名高いこと。

119Pより。
―――睡魔はなめらかな指を持ち、柔らかな肢体に白いトーガをまとわせた小悪魔だ。―――
トガもしくはトーガとは、古代ローマで下着であるトゥニカの上に着用された一枚布の上着の名称。

152Pより。
―――「臨済宗ですね」
「若いのに、すごいな。俺は葬式の時、坊さんがどこから来たのかも知らんかった」―――
臨済宗とは中国禅宗五家の一つで、唐の時代の臨済義玄を開祖とする。
日本には鎌倉時代初期に栄西により伝えられ、曹洞宗や浄土宗、浄土真宗時宗法華宗とともに鎌倉新仏教の一つに数えられているらしい。

162Pより。
―――野蛮な倭人めが。商いを検める在番奉行でなければ、その羽を浸した酒を飲ませればたちまち悶死すると聞く、鴆の毒を盛ってやるところだ。―――
鴆毒は鴆と呼ばれる空想上の鳥の羽の毒。
猛毒であったとされ、後世にはそのような猛毒あるいは毒物の総称として用いられ、害毒の比喩表現としても使われてとか。

198Pより。
―――太夫なら出養生にも行けるだろうが、帰される家もないお吉は、行灯部屋に死ぬまで捨て置かれるか、川に投げ込まれるのが落ちだ。―――
太夫(たゆう)とは遊女、芸妓の位階で最高位であるということ。
ちなみに出養生とは自宅でなく、養生にもっと都合のよい所に移って療養することみたい。

200Pより。
―――交わる時にはいつも秘所の中へ御簾紙を入れさせる。―――
行為の前に御簾紙という紙を口で噛んで小さく丸め、膣の奥に入れる。
これで精液を吸収するのが目的なんだけど、効果があるとは思えないよね。

263Pより。
―――寝室でASIAN KUNG-FU GENERATIONが『ループ&ループ』のイントロを奏ではじめたのだ。―――
「ループ&ループ」は2004年5月19日に発売されたASIAN KUNG-FU GENERATIONの4枚目のシングル。アジカンの曲は「君の街まで」が一番好き。

277Pより。
―――鰻は獰猛で悪食の魚だろうだ。「体が弱ってじっと浮かんでおると、屍肉と思って噛りついてきおる。口惜しや。いまだにここに歯形が残っている」そう言って自分のお尻を指さしていた。―――
調べてみると確かに何でも食べてしまうようで、蟹やザリガニやタニシにダンゴムシまでなんでもござれな悪食っぷりみたい。
そういえば「うなぎ鬼」なんてマンガもあったなぁ。

312Pより。
―――亜結がこの歌を口ずさんでいた頃にはもう、飛行機事故で亡くなっていたことを、僕はライナーノーツで知った。―――
ライナーノーツもしくはライナーノートは、音楽レコードや音楽CDのジャケットに付属している冊子等に書かれる解説文のこと。通常はアーティスト本人ではなく音楽ライターやレコーディング関係者などによって執筆されるようで。

314Pより。
―――「元祖のジョンさんには、ふざけるなって言われそうだけど、やっぱり日本語バージョンのほうが好き」
歌詞がまったく違うらしい。―――
原曲では故郷に帰ろうっていう内容で、ジブリ作品で流れたのは故郷に帰りたいけど挫けずに頑張ろうって内容、だったかな?
この小説を読み終わる前日、地元のラジオでパーソナリティが「カントリーロード」の歌詞について語っていたのを偶然にも聞いていたから驚きよ。
これはまさしく因果ってやつなのだろうか?

338P~339Pより。
―――子供の頃に入っていた少年野球チームの監督が古い考えの持ち主で、選手に水泳を禁じていたからだ。―――
ネットで調べてみると、昔は禁止していたけど今はトレーニングとして取り入れていたりもしているらしい。野球では使わない筋肉が付くから、筋肉に寒暖差を与えるのが良くないから、などの理由があるみたい。その辺の真偽はお医者さんも何とも言えないみたいね。

359Pより。
―――「休日にすまんが、卓袱料理が食べたいと社長がおっしゃっていてな。店をおさえといてくれないか。長崎でいちばんいい店を頼む。君なら知っとるばい」―――
卓袱料理とは中国料理や西欧料理が日本化した宴会料理の一種で、長崎市を発祥の地とし大皿に盛られたコース料理を円卓を囲んで味わう形式とのこと。
和食、中華、洋食の要素が混ざり合った料理みたいで、思わず食欲をそそられるばい。

426Pより。
―――長崎では、お盆の時、墓場で花火を上げるのだ。―――
長崎では墓参りで花火をするのは当たり前!しんみりしてるより楽しくやるばいって考え方が素晴らしいと思いますたい!
ちなみに8月15日には「精霊流し」という行事もあるようで、町中でみんなが爆竹や花火をドンパンドンパン盛大に楽しむ内容とのこと。
う~む、ちょっと体験してみたいかも。

433Pより。
―――狐狸精か、と怯えるより先に、垂れ落ちた髪の隙間から覗く女の美しさに息をのんだ。―――
狐狸精とは、伝説の中のキツネのお化け。または男を誘惑するあだっぽい女、悪女ってことらしい。
おじさんの中ではやっぱまちカドのまぞく的なアレっしょ。リコ君、慎みたまえ。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
419Pの車から下りられずムギ―ッと暴れるリュウのところもほんわかして良かったけど、やはり最初にピンときた場面にした。この絵はふと思い立って背景をイメージ的な妄想的な感じにしてみたり。
だって夏だし、夏っぽいのを描きたい衝動に駆られたの。
八月の暑さに駆られてしまったのよぉ(;´Д`)


130Pより。
―――何もかもに驚き、珍しがると、自分が普通の人間ではないことを認めてしまうことになる、そう思っているみたいに。テレビコマーシャルの現代の女のしぐさも、じつは必死で覚えているのかもしれない。

僕の27センチのバスケットシューズはやっぱり大きすぎたようで、リュウが歩くたびに空気を踏む音がする。
かぽ。かぽ。かぽ。―――

 

ループ&ループ

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