忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

サージウスの死神 読書感想

タイトル 「サージウスの死神」(文庫版)
著者 佐藤究
文庫 224ページ
出版社 講談社
発売日 2020年4月15日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「QJKJQ」
・「Ank


<< ここ最近の思うこと >>

むかし友人らと旅行へ行った時に、通販で購入した玩具のルーレットセットをプレイして遊んだのね。
海外製のずさんな作り具合が目立つモノで、ベッティング・レイアウトが書かれたシートは端のほうがギザギザに切れてるし、ルーレット自体はプラスチック製で回りが悪すぎる。
挙句、凹凸の作りが雑でボールが入りやすい箇所があったらしく、そのクセをいち早く見抜いた友人が勝利を掻っ攫っていった。
そんなチープでふざけたルーレットなんだけど、遊んでいる時はみんな熱中してたね。
金銭は賭けなかったけど、カジノとかで本物をプレイしたら果たして自制できるかどうか・・・。

そんな訳で今回の小説。
待っていました佐藤究!もう言わずもがなハズレなしの大本命!
鬱陶しい雨曇り続きの鬱憤をバチっと吹き飛ばしてくれるような物語を期待してるよ。
ページ数が少ないのが気がかりだけど、佐藤究の作品なら間違いはない。きっと大丈夫だ。
ではでは、アイボリー・ボールになった気分で回り続けるルーレットの世界に飛び込んじゃおうぜ(゚Д゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

デザイナーの華田がいつものように街を歩いていると、目の前に人が落ちてきた。
飛び降り自殺で即死したその男は、地面に激突する直前に華田と視線を合わせていおり、そのことが気がかりで何らかの衝動にかられた華田は、同僚の先崎の案内で地下カジノへ行ってみることとなった。
そこで華田は人生初のルーレットを体験し、ギャンブルに嵌ってしまう。

いつも通りの日常、最後に目にした人間、カジノに行こうよ、無限循環装置、VIP、ヤクシ、罪悪感が問題だ、お前正気か?、トップとボトム、でかい勝負、主観価値、サージウス、穴の開いた頭蓋骨、必要なのは狂気だ、ロシアン・ルーレット、おもしろい儀式、致死量ぎりぎり、純粋賭博者処刑装置、ツツミ君、計画通りじゃないか・・・。

自分でも不思議なくらいギャンブル、主にルーレットを気に入った華田だが、負けは続き貯金は見る見る減っていく。しかしカジノへ通うのを辞めるつもりはなかった。
ある日、預金全額を賭けた勝負にでた時、華田の頭の中で数字が浮かんできて直感で残りのチップすべてを、青白い焔が形作る数字にベッドした。

強烈な体験を経て、仕事を辞めギャンブル中心で食べて行くと決めた華田は、違法カジノを渡り歩き一般生活からかけ離れた日常に流れて行く。そして爬虫類を扱う奇妙なカジノへ辿り着いたのだが、そこはさらなる深みへ落ちて行く入り口だった・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///華田の考えるギャンブル感///
初めて訪れたカジノにて、ルーレットをプレイしてみる華田。
回転する文字盤にボールが落ちていくギャンブルは、すんなりと彼の中に溶け込んでいく。
25Pより。
―――ギャンブルはまるで分割された自殺行為だ。自殺のシュミレーション。そこには破滅へ向かっていく魅力がある。―――
ギャンブルなんてやればやるほど負けるって決まっているのに、それでも辞められない人ばかり。
一体どれだけ負けを重ねるのか?まさしく「分割された自殺行為」って言葉に共感したわ。
破滅に向かう魅力はなんとなくわかる気がする。
おじさんも、もうどーでもいいや~破滅だろうとなんだろうとなるようなっちまえ~って悩むのを放棄する瞬間が、最近よくある(;´Д`)

///ビジネスとギャンブル///
散々負けてコケにされたギャンブル店に再びやって来た華田。
調子を取り戻しルーレットで大勝を連発するが、あまりにも勝ちすぎたため別室へ連れ出されてしまう。
88Pより。
―――あんなに頭がいいのにどうして世間の仕組みがわからないのかな?それに釣りもやったことがないんだろうな。くわえた針を外さない魚がいたら誰だってばらして外す。それは釣りだからしかたないんだ。そんなこともわからないのが不思議だったよ。―――
カジノ側は金を儲ける為にビジネスをやっていて、客側はギャンブルをやるために金を払う。
ビジネスは金を稼ぐことが最優先事項な訳で、カジノは必ず客が損をするシステムになっているんだから、このことを忘れちゃいけないよね。
会社の後輩の子も、むかし行ったちょい悪カジノで二千円が四万円になったからすぐに帰る旨を伝えたところ、店員はもう少し遊んだらどうかと言ってきたが断固として帰ると宣言したようで。
そしたら店員は一言もしゃべらず四万円を捨てるように投げてきたらしい。(事実か虚偽かはわからぬ話です)
いやぁ~、賭場ってコワイね(/ω\)

///雰囲気を醸し出すキャラクター///
紹介された宝石商の店に行き、華田は自分に相応しい逸品を探す。
そして中国人の店主からオススメされたいわくつきの宝石を見つめ、その石にまつわる話を聞く。
121Pより。
―――「変わった人間を見たことがありますか」と男は突然にそう言った。俺は眉をひそめて男の顔を見つめた。
「心に深い印象を残す人間です。強烈な印象と言ってもいいですよ」と男は言った。―――
この中国人の店員さん、いいキャラ味出してますね~。
個人で経営してる宝石商で、客の要望に応えて変わった石も提供してくれるし好奇心をそそる逸話も付けてくれるなんてサイコーじゃない。
おじさんも金がたっぷりあったなら、いつかこーゆーお店でじっくり宝石を選びたい。行ってみたい。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///バニーガールとはなんぞや///
会社を辞めて朝からカジノへ入り浸る華田を心配して声をかけてきた先崎。
彼の心配をよそに、華田はバニーガールが接客をするカジノ空間の異様さを考える。
37Pより。
―――バニーガールがアイスコーヒーを持ってきた。朝の六時だ。十九くらいの女が網タイツを穿いて、ウサギの耳を頭に載っけてアイスコーヒーを運んでくる。人間の欲望は妙な世界を造りだすものだ。―――
今更ながらに気になってしまったんだけど、なんでカジノにはバニーガールがいるんだろうか?
ネットでちらほら調べてみたところ、↓こんな記事を見つけた。
煌びやかで現実離れした空間、食べ放題飲み放題のサービス、欲望をくすぐるバニーガールがいる理由とは・・・・・客の冷静な判断力を奪うため(゚Д゚)ノ
店としてはお金をどんどん使ってもらわないとイカンからね、異空間演出でやれることは何でもやるのがカジノ・スタイルなんじゃないかと思いました。

///大切なのはインパクトでルールは二の次?///
稼ぎ過ぎた華田が別室に連れて行かれ出会ったのは、ハセガワと呼ばれるスキンヘッドの男だった。華田とハセガワは各々が考えるギャンブルについての考察を語り合い、一段落ついたところでハセガワがゲームをしようと言い出した。
100Pより。
―――「これはブラッドステインというゲームで、相手は別にピラニアでなくたっていいんだ。トカゲとか飢えたネズミなどでもちょっとしたスリルが味わえるし、これをやると目が覚める。徹夜で遊んだ朝なんかに僕はよくこれをやった。目が覚めるからね」―――
とても面白そうなゲーム(見ている分には)なんだけど、勝敗のルールが説明されず結末もわからぬままだったのが残念だよ。つーか指の骨を折るゲームにしてもそうだけど、ただの根性試しになっているのでは?なんてツッコミは野暮ってもんよ。

///あぁ~コレ系の演出が多い系かぁ///
華田はヤクシに誘われて、「ガス」というゲームをやることになった。
会場はマンションの一室で、カーテンで囲われた殺風景な部屋の天井からは黒いホースが伸びていた。
170Pより。
―――天井からタイヤの空気が漏れるみたいな音がした。俺は天井に貼りついているゴムホースを見ていた。甘い匂いが部屋のなかに広がってきた。嫌な予感がしたが、でもたぶんいけるだろう。―――
ここから始まる華田のトリップした視点から語られる文章が読んでいて参ったわ。
「ペットショップ」みたいなカジノへ初めて行った時もそうだったけど、妄想と現実の描写が入り乱れて物語が進む箇所がいくつもあるから、今の出来事は現実なのか?何か意味があるのか?てな具合に悩み過ぎて疲れてしまった。
そーゆーのが好きな読者もいるんだろうけど、おじさんはちょと若干苦手な部類かも知れない(^^;)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
最初から最後まで華田視点の一人称で語られる作りだね。
あらすじを読んだ時点では、異能を持った主人公が闇ギャンブルの世界で恐ろしい事態に遭遇し、生き残るために奮闘する的なミステリー・ホラーを期待していたけど、予想外の方向へ物語は進んでいったわわわ(;´Д`)

相変わらずの冷たくも力強いエネルギーを秘めた言葉が全編に渡って散りばめられているけれど、すでに読んだ『QJKJQ』や『Ank』と比べると、若干まだ粗さの残る文章って気がするかなぁ。
とんでもなく上から目線で語ってしまいゴメンナサイです(>_<)

///話のオチはどうだった?///
あぁ~、こーゆー系の終わり方ね。醸し出す文学臭に気づけなかったおじさんが悪いのね。
作中の様々な事に対する理由や説明はほぼ無く、あれやこれが結局何だったのかわからぬまま消化不良のモヤモヤ頭よ。
まるで狐につままれたような気分で感想を書いてます(笑)(脳内でリコ君!と叫ぶ店長の声が聞こえる)

とにかくね、おじさんが考えるに今回のオチとしてはバッドエンドではないんじゃないかと思うよ。
特にコレといった理由はないけど、いちおう華田が考えた当初の計画は達成できたんだし。
だがしかし・・・上にも書いたように既読2作品みたいなパワーを期待しまくっていたおじさんにとっては、バッドエンドとまでは言わないけどハッピーではなかったのよと言いたい気分です(´;ω;`)

///まとめとして///
あっしもそれなりに面白い小説を見つけるセンスを磨いて生きたつもりだ。
その経験を生かして佐藤究の小説は外れナシと予想して期待した結果が・・・。
考えてみれば、小説ってのはギャンブルに似ているんじゃないかと。
読んでみないと分からない、読むためには金では手に入らない「時間」を賭けるしかない。
時間とは読者の人生、人生とは命でしょうが!!
まさしく「読書」とは未来を賭けたギャンブルだよ、その勝敗は読んでみるまで分からない。
プライベートでも一切賭け事をしないおじさんだけども、読書におけるこのギャンブルを辞めることはまだまだ出来ないだろうて。

とか↑で書いておきながら今回の読書は、なんとも残念無念としか・・・。
いやいやしかし待たれよ。
ファンであるならば、どうしたって元祖の味を求めるのは当然じゃないか!
その結果がたとえお口に合わずとも、元祖を経験したのだという記憶が残れば大満足よ。
そんな無理矢理な満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『サージウスの死神』は第四十七回群像新人賞優秀作なのです!

5Pより。
―――DTPデザインの会社に入ってから五年間、三日以上のまとまった休みをとったことがない。―――
DTP」とは、「Desktop Publishing」の略であり、パソコン上で印刷物のデータを制作すること。
五年間勤めて三日以上の連休経験なしって、弩ブラック企業じゃないですか。
デザイン業界のサラリーマンも大変だなぁ。

51Pより。
―――「ムカデは交尾しないって知ってるか?」ヤクシはそう言ってタバコを吸った。―――
調べてみると本当に交尾しないで、オスが出した精子の袋をメスが体内に取り込むって方法で受精しているらしい。なんでそんな方法になったのか気になるわ。
まさか本当にヤクシが言っていたように・・・・・んなこたぁない(笑)
ちなみにムカデは毘沙門天の使いと言われていたりもしているようで。

74Pより。
―――突然「トイ・ソルジャーズ」のメロディが浮かんできた。たしか八〇年代にちょっと流行っただけの曲。―――
Martika - Toy Soldiers
1988年にアルバム『誘惑のマルティカ』のリリースにより正式に歌手デビューし、翌年には全米シングルチャートで「トイ・ソルジャー」が1位を記録したとのこと。
歌詞も全くわからない子供のころからな~んか好きだった曲だよ。
メロディがヒロイックで映画の曲みたいに感じたせいかも知れない。

81Pより。
―――机のなかに昔買ったウェンガーのポケット・ナイフがあった。俺はその小さなナイフを取り出して左手のつめを削った。―――
ウェンガーはかつてスイスに存在したナイフ製造会社で、ビクトリノックスと並ぶ「スイス・アーミーナイフ」の二大メーカーの1つだったようで。
しかし2013年にビクトリノックスへ統合され、ウェンガーブランドのナイフ関連商品は生産を終了しているとのこと。
やはりビクトリノックスには勝てなかったか。

112Pより。
―――でもそれは精子や性行動を研究している学者が書いた本で、精子には三つのタイプがいるという話が載っていた。―――
イギリスの生物学者のロビン・ベーカーって人がそれぞれの精子に3つの役割を名づけているらしい。
なかなかに好奇心のそそる説だけど、これって本当に本当のことなんだろうか?
う~ん、信憑性に不安が残るので他人に話すのは止めておこうかな(笑)

157Pより。
―――そういえば以前いた会社で熱心にジャン・ヌーヴェルについて話をしたことがあったな、と思った。―――
ジャン・ヌーヴェルはフランスの建築家。
ガラスによる建築を得意とし、『カルティエ現代美術財団』のようにガラス面の光の反射や透過により建物の存在が消えてしまうような「透明な建築」や、多様な種類のガラスを使い独特の存在感を生み出す建築を多く作っているらしい。
セガワってまるでジャン・ヌーヴェルをモデルにして作られたようなキャラだと思った。

167Pより。
―――「『スウェット・ロッジ』って知ってるか?」
「サウナみたいなやつだろ。ネイティブ・アメリカンがやる儀式だ」―――
スウェット・ロッジは、アメリカ・インディアンの儀式のための小屋、またはこの小屋で行う「治癒と浄化」の儀式。
薬草の香気を含んだ蒸気によって身を清め、汗をかくことで健康を回復させる「治癒」の意味と、「心と体の浄化を伴う文化的な集まりの場」の二つの意味を持っているみたいだけど、現代でサウナが流行っているのは何か精神の浄化的な理由があるのだろうか・・・。

171Pより。
―――数秒待っているとタイトルが浮かんできた。『ピアノの上のレーニンの六つの幻』。その通りだ。―――
「ピアノの上に出現したレーニンの6つの幻影」は1931年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。
当時のダリにとってレーニンは特別な存在であり、熱狂的崇拝対象だったようで、サクランボを食べ過ぎて幻覚を見た時の光景がこれってことらしい。
何でも食べ過ぎはよくないねぇ(笑)

183Pより。
―――金と銀の自然合金のエレクトロンという金属があって、リディア王国ではエレクトロン貨が使われていたんです。―――
エレクトロン貨は紀元前670年頃にアナトリア半島のリュディアで発明された世界最古の鋳造貨幣。
ちなみに日本の江戸時代の金貨、小判、一分判、二分判、二朱判および一朱判はすべて金銀合金のエレクトロン貨幣であったとのこと。
エレクトロンって名前が親しみやすくて良いね、なぜかは判らないけど。(ひょっとして、エレクチオ・・・)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
104Pより。
―――「おカネの使い道ね―――」と黒ずくめの女が興味なさそうに言った。「宝石でも買ったらいいんじゃない?」―――


ポストカードを売っている人って、その仕事一本で食っていけてるのかな?
まぁフツーに考えたら他にバイトとかしてるんだと思うけど。
そしてポストカードを買っている人っているのだろうか?
使い道を調べてみると「手紙」・「インテリア」・「コレクション」といったところか・・・う~ん、おじさんには縁のないとは言い切れないけど、うぅ~ん(^^;)
ままま、こーゆーモノに対して大切なことは、自分自身が気に入る主観価値があるかどうかだからね。

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