忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

風景を見る犬 読書感想

タイトル 「風景を見る犬」(文庫版)
著者 樋口有介
文庫 425ページ
出版社 中央公論新社
発売日 2016年9月21日

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「風の日にララバイ」
・「遠い国からきた少年」
・「少女の時間」


<< ここ最近の思うこと >>

以前に読んだ「少女の時間」で登場したヘンな美女の枝沢柑奈。
奇抜で魅力的な彼女のことをもっと知りたいと思ってこの小説を購入しちゃった。
(奇妙な姉御キャラなこの感じ・・・どこかで・・・フリクリのハルコさんだ!)
物語の舞台は夏真っ盛りの沖縄!
いつか宝くじで億万長者になったら、沖縄に移住してのんびり過ごすのが願望の一つなおじさん。
もちろんスナック「さつき」の周辺もムフフと鼻息荒く散策したいなぁ( ̄▽ ̄)


<< かるーい話のながれ >>

沖縄栄町の売春宿「さつき」に母親と二人で暮らしている高校生の香太郎が主人公。
彼は夏休みの間、知り合いのゲストハウスでアルバイトすることになっていた。
ある日、香太郎の家の近所に住む女性が強盗殺人に遭って殺されてしまう。
被害者であるあつ子は身元も不明で出所のわからない資金もあったらしい。
単純な事件だと思われたが、遺体発見時のゴタゴタで捜査は進展せず手詰まりのままだった。

そんな中、夏休みに突入した香太郎は幼馴染の彩南(医者の娘で美少女)とギクシャクした関係で冷戦状態だったり、突然同居することになった柑奈(美女)にからかわれたり、バイト先の店長の奥さんが出ていってしまったりで慌ただしい毎日を満喫中だった。

しかし、今度は香太郎のバイト仲間が近所の川で溺死体となって発見されてしまう・・・。

アメ女、ただの野良犬、枝沢かんな、扼殺、ヘンな夏、溺死体、村田朋美、正しい女子高生、面倒な奴がまた一人、「やっぱり」、迷宮入り、父子関係はなし、王様の一族、北環太平洋古代文明伝播仮説、taboo、殺し屋、レプター錠、ここは日本ではなくて沖縄です、純情な情熱家、産み捨てた子供に対する礼儀、血統書のついた犬、漫湖に連れていってやる・・・。

例年にはない暑い晴天の続く夏休みが、香太郎の日常を少しずつ変化させていく。
二つの事件に繋がりはあるのか?
香太郎と彩南の微妙な関係は進展するのか?
「さつき」の常連客である反町との間に、遺伝的繋がりはあるのだろうか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///枝沢柑奈・・・謎めいた彼女の魅力に迫る///
とにかくへんな美女の枝沢柑橘、しかし彼女は意外にも料理の手際もセンスも良く、それに博識な学者っていう想像できない面も魅力の一つなのだ。
64Pより。
―――柑奈が鼻の先をぼくの脇の下に押し付ける。
「くっさーい、男の臭いって、だいっ嫌い」 「へんな女」
「どこが?」 「ぜんぶ」
「わたし、自分のことが大好きよ」―――
↑とか言っておきながらこのあと何度も香太郎の匂いを繰り返し嗅ぐ柑奈は臭いフェチ?
つーか男子高校生が美人に「くさい」とか言われたらめっちゃショック受けますぜ。
(香太郎はちょいと特殊な環境下で育ったから気にならないのかも)

145Pより。
―――湯が沸いたとき、階段に音がして、ほっそりとした白い脚がおりてくる。そういえば居候がいたんだっけなと、やっと思い出す。今日の柑奈は黒いTシャツをかぶっただけで腰から下は丸出し、髪も嵐のなかを歩いてきたライオンのようで、目もほとんど閉じたまま。―――
美人でもさすがに寝起きで腑抜けな状態では・・・・・いやでも美人ならアリか(笑)
そして腰から下は丸出しって、下着くらいは履いてるよね?
まさか、ままま丸出し!?

249Pより。
―――「柑奈さん、二階へ行って、寝たら?」「一緒に寝る?」
「どうして」「わたしね、もう二カ月ぐらい、セックスしていないの」
「えーと、そう」「香太郎だったらしてもいいわ。なにしろ今日、お誕生日だし」―――
沖縄の少年よ、何を悩む必要があるのだ?
おじさんは羨ましすぎてどうにかなってしまいそうだぞ!
ほ~んとコウちゃんって、いつもいつも、愚図ぐず考えてばかり( `ー´)ノ

///今回の染みる名言///
「さつき」の常連客であり刑事の反町が言った言葉。
135Pより。
―――「人間はその宿命のなかでしか生きられない。人生のすべてが我慢だとは言わないが、場合によっては我慢でしか解決できない問題もある」―――
よそ者が沖縄の警察社会で生きていく為には、上司の娘と結婚しなくてはならない時もあるという説明を香太郎にしている場面。
世知辛い言葉に聞こえるけど、解決が出来るのならまだ希望があるかなぁ。

405Pより。
―――香太郎くん、いくらなんでもそれは、ロマンチックすぎるだろう。
そうですね。でも田舎の高校生がロマンチックになれなかったら、それは、社会が悪い。―――
ヒラヤーチャーを焼きながら、事件の悲しい真相を想像する香太郎の言葉。
沖縄の高校生が忙しかったりロマンチックになれなかったりしたら、それはもう社会が悪い!
どうしようもならないことなんて、全部なにかのせいにしちゃえばいいのさぁ~。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///沖縄の野菜ってそうだったの?///
77Pより。
―――「沖縄のジャガ芋はまずいものね。それ、スーパーを三軒まわって、北海道のダンシャクを探してきたの」
「沖縄ではナスもトマトもキュウリも、みんなまずい。中也の温度差が少ないから仕方ないんだ」―――
沖縄の野菜が不味い?
ゴーヤくらいしか思いつかない沖縄野菜についてネットで調べてみたけど、よくわからなかった。

186Pより。
―――野菜や果物の旨味を増すのはその温度差らしい。そう思って沖縄産のキュウリやナスを食べてみると、確かに風味がない。それはトマトでも大根でも同じことで、みんな水っぽいジャガ芋のような味がする。―――
温度差かぁ、なるほど。
でも沖縄の気候に馴染んだ野菜はきっと美味しいんだろうね。
ゴーヤとかヘチマとか青パパイヤだとか。

///日本とアメリカと中国が渦巻く沖縄///
80Pより。
―――警察が沖縄市や宜野湾の売春街を壊滅させた理由も表向きは風紀の健全化、しかし実際の狙いはスパイの一掃だったという。基地近くの売春街には米軍の関係者が多く出入りするし、そこに日本人の売春婦をよそおった中国の女スパイが潜入していたという。ぼくなんかに本当のことは分からないが、沖縄が対中国軍の最前線であることは、だれでも知っている。―――
↑あり得ないとも思えない内容でちょっと怖いね。
沖縄は風俗関係が有名だけど、それは米軍基地があるから盛んになっていったのかな?
それとも太平洋戦争以前からなのか・・・・・うーむ、わからない。
230Pに語られていた米軍のカウンタートラップなる話もなかなかにリアリティがあって気になるね。
(真偽のほどは置いといて)

///知られざる一部の沖縄県民達///
119Pから120Pより。
―――だけどね、それでは怠け者で見栄っ張りという側面は説明できないでしょう。生活保護で暮らしているような人たちが、みんなスーパーやコンビニやパチンコ屋にタクシーを乗りつける。わたしはそこに、気候や人種の移動も関係していると思うの。―――
闇金ウシジマくんでも沖縄の人々について語られていたけど、実際はどうなんだろ?
おじさんのイメージではのんびりした人々って感じだけど、でも全員が怠け者だったら社会が成り立たなくなるだろうし、一部のインパクトある人々を代替的に言っているだけって感じも、する?
(そのへんのこと、もっと詳しく教えて柑奈先生!)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
とても高校生とは思えないくらい大人びた視点で物事を視る呉屋香太郎。
彼の一人称で語られる物語がおじさんを真夏の沖縄へと放り込んでくれる。
売春地域を舞台にした眩しくて暑いヘンな夏が全編でしっかり描かれているから、夏休み初日の高校生気分を味わいたい大人は読むべし読むべし!

///話のオチはどうだった?///
―――「夜になったらビールを飲みにいらっしゃい」―――
―――「それじゃ今度の日曜日、北谷へ行かない?」―――
善人ではないかも知れないけど、悪人とも思えない被害者達の言葉が胸に残る。
今回の事件もやるせない結末だった。
そのかわり物語の〆は爽やかで口直しにぴったりだね。
風景を見るだけだった犬はヘンな夏の経験を経て、ぐずぐず考えることをやめて、自分もその風景の中へ飛び込むことにした・・・・・って感じかなぁ・・・・・う~ん、どうでしょう(笑)

///まとめとして///
旨い酒と旨い飯、そして見ているだけで心が和んでしまう女子がいればそれだけで人生は充分。
ほろ苦さと甘酸っぱさが絶妙に合わさった、新しい夏の始まりにピッタリなお話だね。
枝沢柑奈という振回し系姉御キャラもたっぷり堪能できたってことで満読感89点のなんくるないさぁ!
さぁ~て、次はなにを読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

137Pより。
―――もっとも沖縄は何年ものあいだぶっちぎりで全国の最低学力を邁進しているから、「東京の大学を受験する予定だった」ような人なら、楽勝だったか。―――
「まいしん」
まっしぐらに突き進むこと。

160Pより。
―――朋美が港川原人でも発見したような目つきで息をとめ、窓枠に腰かけているぼくの顔を見あげて、ずれたメガネを中指の先で押しあげる。―――
「みなとがわげんじん」
約20000~22000年前に日本の沖縄県に存在していたとされている人類。
1967年から1970年頃に沖縄県島尻郡具志頭村港の海岸に近い石切場で骨が発見されたらしい。

175Pより。
―――アズミさんの旦那っていうのがまた、琉球ガラスをベトナムでつくらせて・・・」―――
琉球ガラスは沖縄県沖縄本島を中心に生産される、吹きガラスなどのホットワーク作業のガラス工芸品で、「沖縄ガラス」「琉球硝子」と表記されることもある。
昔の「琉球ガラス」は太平洋戦争後の資源難のため、沖縄にあるアメリカ軍基地で捨てられたコーラやビール、ペリエなどの空き瓶を溶かして再利用したことから始まる品だったらしい。
最近は、食洗機対応のものが増え人気が出てきているみたい。
(おじさんが琉球グラスをネット注文したら、届いたのはベトナム製のグラスだったでござる)

192Pより。
―――この「うるま」は沖縄限定の安タバコで、値段も一般品の半分ほど。沖縄にはあと二、三種類、限定品の安タバコがある。―――
「ウルマ」は方言で「ウル」(砂)「マ」(島)となり、砂礫島の意とのこと。
たばこ税の分類上は旧3級品にあたり、癖の強いたばこではあるが沖縄県内では中高年層を中心に根強い支持を受けている。
(もう販売中止になっているっぽい?)

284Pより。
―――「理屈を言わんと、親の言うことは聞くさあ。学資保険とかも入っておるし、そっちは心配いらんのだから」―――
「がくしほけん」
高校卒業の18歳を目安に満期時期が設定されており、それ以前に保険金支払者が支払い不能となった場合には、その後の支払いが免除されて満期金額を受け取れる「貯蓄」と「保障」を兼ね備えた保険商品として人気を集めている。
90年代後半から超低金利時代に入り、支払総額より満期金額が少なくなる「元本割れ」が起きるケースが増えたようで。

329Pより。
―――「忘れていたわ。コウちゃん、わたしね、ずっと気になっていたことがあるんだけど」
「なに」
「沖縄の納豆には、なぜ辛子がついていないのかしら」―――
ネットで調べてみると本当みたいだね。
九州・沖縄の納豆には「だしタレ」という甘いタレが付いているようで。
香太郎曰く、―――「ぴりっと風味が出たら、頭がぴりっとしてしまう。沖縄は暑いからさ、頭なんかぴりっとさせないでぼんやりしていたほうが、生きるのに楽なんだ」―――
なんてことを語っていたね(笑)

359Pより。
―――家を担保にして八百万ほど金を調達したあと、退社直後に出奔。―――
「しゅっぽん」
逃げ出してあとをくらますこと。

395Pより。
―――心理学用語に『誤謬の訂正』というのがありますが、以降の工作はまさに、その誤謬の訂正だった―――
「ごびゅうのていせい」
マチガイをするとそれを訂正する意味で、無意識のうちに類似のマチガイをやって合理化しようとするものらしい。
(間違いは五秒で訂正しなさいという意味ではないのです)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回は↓コチラの場面を描いてみた。
95Pより。
―――柑奈が少し前へまわってきて、上からぼくの顔をのぞき、それからまたうしろへまわって、ぽんと肩をたたいてくる。
「ほら、沖縄の少年、もうこんな時間よ。アミーゴでなにか食べましょう」
午後の二時がなぜ「こんな時間」なのかは知らないが、たしかに日差しは最高潮。沖縄の暑さに慣れているぼくでも目まいを感じる。―――

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警察の捜索作業を眺めながら、表面に出さないけど実はショックを受けている香太郎。
そんな彼に対して、気にしてない風を装って気を使ってくる柑奈。
さすが、デキる美人は違うぜ(*´▽`*)