忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

巴里マカロンの謎 読書感想

タイトル 「巴里マカロンの謎」(文庫版)
著者 米澤穂信
文庫 686ページ
出版社 東京創元社
発売日 2020年1月30日

 


<<この作者の作品で既に読んだもの>>

古典部シリーズ」
「小市民シリーズ」
さよなら妖精
(上記の作品はこのブログを始める前に読了)

「いまさら翼と言われても」
「王とサーカス」


<< ここ最近の思うこと >>

久しぶりに小市民シリーズの新刊が出ていたので速攻で購入・・・したのは良いんだけど読み始めるのがこんなに遅くなっちゃった。
もう前回がどんな終わり方したのか覚えてないから、最後の方だけ少し読み返そうかな。
(あぁ~なるほど、元鞘だったかそういや)

今回は今までのように「〇〇事件」ではなく「〇〇の謎」となっているようで、これは短編集だから事件ではないってことなのかな?
前回の『怪談熱』に続き、短編集を2連続かぁ・・・いやこれは連作短編集になるのか。
ではでは、特殊な癖を隠し切れない二人が小市民を目指して事件とスイーツに翻弄される米澤ワールドに、いざ飛び込むだぎゃ~(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

「巴里マカロンの謎」
小山内さんに誘われて放課後に名古屋まで出てきた小鳩君。
新装開店した「パティスリー・コギ・アネックス・ルリコ」にて、マカロン&ティーセットを食べることが小山内さんの目的だった。
しかしマカロンは全4種類で、一人前セットの選べる種類は三つのみ。
そこで小鳩君を連れてきたのだった。
店内で注文を済まし、小山内さんはトイレへ行き、運ばれてくるマカロン&ティーセット。
鳴り響いた大時計の時報に気を取られる小鳩君、そして謎は現れた。
トイレから戻ってきた小山内さんはマカロンの皿を見て言う。
―――「四つあるの」―――
そして二人は、一体どのマカロンが増えたのか?という所から推理を始めるのだが・・・。
(店長の田坂瑠璃子の情報を教えようとグイグイ押してくる小山内さんと、何度も躱そうとする小鳩君のやりとりが笑える)

「紐育チーズケーキの謎」
他校の学園祭に誘われた小鳩君、誘ってきた相手はもちろん小山内さん。
彼女を慕う友人がそこで喫茶店を開くようで、紐育チーズケーキが売りのようだ。
文化祭にて、ケーキを堪能してから別行動をとっていた二人だが、外を眺めていた小鳩君は小山内さんが走ってきた男子生徒とぶつかる場面を目撃してすぐに現場に向かう。
しかしその場に小山内さんはおらず、一緒にいた友人が伝えてきた。
―――「先輩は・・・・・連れて行かれました」―――
え、また?と反応してしまう小鳩君だったが、切り替えてすぐに推理を開始する。
果たして無事に小山内さんを救出することができるのか!?
(意外にも身体能力の高い小山内さん。やはり復讐愛好者には力技も必要ということか)

「伯林あげぱんの謎」
アンケート結果をもって新聞部を訪れた小鳩君。
そこで友人の堂島健吾から知恵を貸してほしいと頼まれる。
近所にできたドイツパンの店を特集することになり、誰がその記事を書くのかを賭けて四個のあげぱんを部員四名が口にした。
四個の内一つにだけマスタードが入っている仕様で、それを食べた者が記事を書く決まりだった。
しかし誰もマスタードを引き当てた者はおらず、普段からのわだかまりもあって新聞部員達は冷戦状態になりかけているらしい。色々と世話になっている健吾からの頼みならばと、推理を始める小鳩君。
果たして真相は解明できるのか・・・。
(珍しくオチが読めた!って思ったけど、そんな単純なもんではなかったわ。食べた瞬間を是非見てみたかった)

「花府シュークリームの謎」
甘味開きということで、新年早々お汁粉を食べに来た小山内さんとお連れの小鳩君。
その時、小山内さんを慕う後輩ちゃんから連絡が入ってきた。
どうやら行ってもいないパーティーでの未成年飲酒をした罰として、自宅謹慎になったらしい。
とりあえず後輩ちゃんの話を聞くために家にやってきた二人。
誰が自分を貶めたのか知りたがる後輩ちゃんに対して、小山内さんは告げる。
―――「隠されたことを知ろうとすれば、たいてい代償を払うことになる。こんなことをしてまで知りたい訳じゃなかったと思うことがあるかもしれない。それでも?何が何でも?」―――
そして小山内さんと小鳩君は、真実を解明する為の行動を開始した・・・。
芥川龍之介芋粥か・・・なるほどそーゆーお話なのね。スイーツなら色んな種類があるから問題なし?って訳でもないか)


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///アクティブに行動した小鳩君だったが///
「紐育チーズケーキの謎」にて、学園祭校門で待ち合わせをしていた小鳩君は物陰に隠れているであろう小山内さんを驚かすつもりで、いきなり声をかけてみたのだが・・・。
78Pより。
―――「またせたね、小山内さん!」一気にゲートの後ろを覗き見る。
知らない女の子の、怯えた顔がそこにあった。
「え、誰、ですか」―――
やっぱりそいういう展開になっちゃうのね(笑)
ベタベタなネタだけどおじさんは読んでいて笑顔になっちゃいそうなくらい楽しめた。
そのあと登場する小山内さんの舌鋒とか、彼女の真意を見抜いている小山内君とか、二人の仲良し具合にニヤニヤですだよ(*´ω`*)

///当たり前のことだけど、忘れがちになっちゃうね///
同じく「紐育チーズケーキの謎」にて、好きなモノの楽しみ方を小鳩君に説明する小山内さん。
89Pより。
―――「パティスリーはパティスリーにふさわしく、ホームメイドはホームメイドなりに、駄菓子は駄菓子として素敵ならそれでいいのよ。いつだって最高のものを求めるのは求道者っぽくて格好よく見えるかもしれないけど、実際は何を食べても『あれに比べればね』なんて言っちゃうスノッブに過ぎない」―――
まったくもってその通りですよ。
ジャンクフードにも高級フレンチにも、それぞれの楽しみ方や美味しさがあるんだから。
アレ以外は認めない!なんて言っちゃう人間にはなりたくないわなぁ。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///やましいモノはすぐに処分が鉄則?///
またまた「紐育チーズケーキの謎」にて。
ネタばれになるから詳しく書けないけど、どうしてそんなモノをとっておいたのか気になった。
やましいモノはすぐに消そうとするのが当然の行動だと思うけど、誰も流出するなんて考えていなかったのか、それとも記録として保管しておく義務があったのか・・・。

///ほんとに大丈夫なのか気になる///
もう全部この話からじゃんってな訳で「紐育チーズケーキの謎」より。
またまたネタばれになっちゃうから詳しく書けないけど、本当にそんなことして大丈夫なのか実験してみたくなるネタだった。(アレを使ったってことは2000年くらいの時代設定?)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
4つとも小鳩君視点で語られる作りだった。(というかシリーズ全部そういう作りだったね)
作中は秋から冬の間の物語だから、雰囲気をアップさせたい読者は11月くらいに読むのがおススメかもしれない。(おじさんは夏真っ盛りの7月に読んじゃったわわわ)

小山内さんと小鳩君の関係だとか、大筋のストーリーが進展するような内容ではなかったかな。
今回は新キャラである後輩ちゃんとの絡みがメインだったね。
(今後も出演してくるのだろうか、まさかここから小鳩君ハーレムが・・・・・いや無いわなぁ)

///話のオチはどうだった?///
いやはや、連作短編に相応しく笑えるオチから悪意の潜むオチまで、4つの物語それぞれ違う味わいで作られていたからそれぞれ楽しませていただきました。

最終的にはみんなほっこり幸せになれたようで、読者のおじさんも荒んでいた心がほぐされて、小山内さんもあわわと変な声出しちゃうくらい至福な終わり方だったね。
最後の「パティスリー・コギ・アネックス・ルリコ」の店内の様子、アレを想像しただけでスイーツ欲求が爆発寸前。
これから読む読者は甘いお菓子とお茶を用意して読むのが吉!

///まとめとして///
相変わらずこの作者が描くキャラクターは良い味が滲み出てくるから読み飽きないのよねぇ。
今回はちょっと小鳩君の主張が少ない感じだったけど、次の長編モノでたっぷり活躍してくれることを期待しよう。(いや活躍しない小市民を目指しているんだから、とはいえ・・・う~んアンビバレンツ)

その代わり、小山内さんの活躍と魅力がたくさん詰め込まれた一冊だった。
スイーツ愛好家で、復讐愛好家で、頭の回転も速く運動神経も良いヒロイン・・・これじゃ推理力オンリーの主人公では影に消えてしまうこと必至(;^ω^)
いやそんなことはない!次回の長編で小鳩君はきっと物語を引っ掻き回してくれるに違いない!
そんな展開を期待して満読感8点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

18Pより。
―――「曲線でできてない生き物がいたら、びっくりすると思う。・・・・・でもたしかに、アールヌーボー的な感じっていう意味なのかも。―――
アール・ヌーヴォーとは19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に開花した国際的な美術運動で「新しい芸術」を意味するらしい。
花や植物などの有機的なモチーフや自由曲線の組み合わせによる従来の様式に囚われない装飾性や、鉄やガラスといった当時の新素材の利用などが特徴とのこと。

27Pより。
―――何事かと思って後ろを振り返ると、窓ガラスの外、道路を挟んだ向かいのビルの壁面で、大時計を飾る人形たちが動き出している。―――
名古屋にあるからくり大時計?もう無くなったみたいだけど、桜通口にテリヨンっていう大きなからくり時計があったらしい。
けど音楽とか動く時間とかが違うし、架空の時計なのかな?

57~58Pより。
―――とはいえ、ここまで来たのに投げ出すのも業腹だし、指輪の始末も付けなくてはならない。―――
「ごうはら」
すごく腹が立つこと。しゃくにさわること。

74Pより。
―――単にお相伴にあずかるというだけのことなら断るしかない。―――
「おしょうばん」
主人や客人に付き随うこと。 特に、もてなす側である自分も酒を呑むことで、迎え入れた客の酒の相手をすること。

114Pより。
―――吹奏楽部の演奏が始まった。体育館から聞こえてくる音楽は、ラヴェルボレロだ。―――
ランスの作曲家、モーリス・ラヴェルが1928年に作曲したバレエ曲。
2016年5月1日、本国フランスにおいて著作権が消滅。

134Pより。
―――中学生なのにぼくよりも頭一つ背が高く、肩幅が広く、ウエストに向かうにつれて絞られていく、見事な体型の偉丈夫だった。―――
「いじょうふ」
体が立派で、すぐれた男。

242Pより。
―――「それは、ねたむね」
「うらやんだのよ」
そんなに意味が違うかな・・・・・。―――
「羨む」も「妬む」も、他者の優れている様や恵まれていることに憧れの思いをもつことをいうようで、「羨む」より「妬む」の方が憎悪や悔しさが増して悪化した状態ってことみたい。

245Pより。
―――演技担ぎの甘味開きに正月らしくお餅を食べて、おいしかったのも事実だろうけれど、三昧境とはちょっとニュアンスが違うといったところだろう。―――
「さんまいきょう」
心を一つの対象に集中し、散乱せずに達した境地。 心を一つの処に定め動じないこと。 無我の境地っていう意味らしい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
ココは読んでいて、なんだか西尾維新の『化物語』みたいな雰囲気を思い出したよ。
小山内さんて、なんかもっとひっそりとした雰囲気を纏っていたような記憶があるんだけど、ひょっとして小鳩君との新たな関係が結ばれたことによって、少しはっちゃけるようになってきたのかな?
う~ん、まだまだ理解できないキュートなリトルモンスター小山内さん(*´ω`*)
(調べてみると『巴里マカロンの謎』は『春期限定いちごタルト事件』と『夏期限定トロピカルパフェ事件』の間に起こった話だったようだす。・・・・・こりゃ小市民シリーズの読み直しが必要かなぁ)


141Pより。
―――「それにはおぼやないわ!」
突然の声に振り返ると、開け放したままの入口に、妙に不敵な笑みを浮かべた女の子が腕組みをしてもたれかかっていた。僕たちは三者三様に声を上げる。
コンピュータ部員は、「誰ですか!」
古城さんは、「ゆきちゃん先輩!」
そしてぼくは、「それには及ばないわ、だね」―――