忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

怪談熱 読書感想

タイトル 「怪談熱」(文庫版)
著者 福澤徹三
文庫 272ページ
出版社 KADOKAWA
発売日 2010年12月25日



<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・「すじぼり」


<< ここ最近の思うこと >>

最近ほんとジメジメするんよぉ。
はぁ~あっつい、あっつい、あっついわぁ~!ジメジメベトベト限界です(# ゚Д゚)
こんな季節にはアレ系の小説を読むっきゃないでしょ。
以前に『すじぼり』を読んでみて、ヨシじゃあ次は同作家のホラー系を読んでみたいって思った。
残穢』に登場するくらい怪談系が有名な作者らしいので、今回はとっつきやすそうなコチラの短編をチョイス!
季節は2021年の6月下旬、何気に初めての怪談短編小説で本格的な夏を迎える準備をするぜよ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

「怪談熱」
怪談小説作家である「私」は執筆中に謎の体調不良に襲われることがある。
医者に聞いてもわからないこの熱のことを「怪談熱」と名付けていた。
その日も怪談熱に苦しめられていたが、私が主賓である呑み会に参加するために家を出ることに。
呑み会と言ってもただの飲食ではなく、参加者達が知っている怪談話を私に聞かせるという集まり。
今宵も繁華街のはずれにある鰻屋の二階にて、怪談話が語られるのだが・・・。
(霊の存在は植物を見ればなんとな~く分かる!・・・かもね。それにしても飲み食いしながら怪談話とは最高じゃねえか)

「ブラックアウト」
テナントの少ない雑居ビルの一室にて小さなバーを経営している男。
ソープ嬢の家で同棲させてもらいバーの金まで出資してもらっているのだが、男は客できたキャバクラ嬢と浮気をしているだらしない人間だった。
さらに男はソープ嬢の同級生である千尋という女性とも関係を持ってしまっていた。
しかし千尋は思い込みが激しいのか一途なのか、どれほど雑に扱われても男から離れようとしない。
出禁になったにも拘わらずやってきた千尋に最後の一杯をお願いされて、仕方なく男はハイボールを出してやるのだが・・・。
(酒が飲みたくなるお話。できれば狭いバーで飲みたいね。それにしても羨ましい・・・じゃなくて、けしからん奴だ)

「花冷えの儀式」
中途採用で思いもしなかった大企業に入社できた間宮は、仕事終わりに山奥の花見会場へとやってきた。
社長が個人的に建てた神社は、広い境内にたくさんの桜が咲き誇っている。
しかし新入社員の間宮と他二名にあてがわれた場所は桜もほとんど咲いておらず、料理もパッとしないモノであった。
次第に体調の悪くなる同僚、先輩社員達の冷たい態度、いつまでも終わらない宴会、この花見は何かおかしいと間宮達は感じ始めた・・・。
(漆黒のブラック企業とはこのこと。怪談・・・なのか分からんけれど面白かったよ)

「ドラキュラの家」
近所にあるお化け屋敷通称「ドラキュラの家」に遊びに行った私は、友人たちの悪戯によって敷地の中に入らざるを得ないことになってしまった。
そこで私はレイジという少年と出会った。
ドラキュラの家で出張の多い父親と二人暮らしというレイジは、夏休みに入った私の良き話し相手になってくれた。
ある時、親戚の家に行くのが嫌だと打ち明けた私にレイジは旅行だと思えば良いと告げる。
そして二人はいつか本当の旅行へ行こうと約束するのだが・・・。
(和製『スタンド・バイ・ミー』かと思いきや、そんな優しいお話な訳がない!読む人はきっとコンビーフの味を思い浮かべるに違いない)

「夏の蟲」
仕事の帰りで寺尾は駅を目指し山道を一人歩き続けていた。
地元住人に聞いた話ではすぐに着く距離だと言われたのだが、一向に山道から抜け出せない。
不意に辿り着いた神社で一休みしていると、勤務中の警官に声をかけられた。
道に迷ったことを説明すると駅まで案内してくれるという。
警官のおかげであっさり駅までたどり着けた寺尾。
疲れただろうから交番で麦茶でも飲んでいきませんか?という警官の誘いを受けてしまうのだが、事態は思わぬ方向へ進んでいく・・・。
(小さい刃物でも持ち歩くのはいろんな意味で危険だとわかりましたわ。そして人の印象っていうのは当てにならないもんだねぇ・・・あと一発目って空砲じゃないのかな?)

「再会」
エステ帰りの美和子は同級生の芳江に声を掛けられる。
昔のことを思い出したくない美和子にとって、芳江はあまり会いたくない人物だった。
食事を済ませた後、芳江は「竜也が出所した」と言った。
それ以来、美和子は竜也が自分の前に現れたらという不安に苛まれるようになる。
さらにあり得ないような出来事が身の回りで起こるようになり、美和子は今の自分の人生を守り抜くため、竜也を探し出して直接対面しようとするのだが・・・。
(金もあるから探偵でも雇えばいいのにって思っちゃうけど、過去を他人に知られるほうがアカンか)

猿島
S島に海外旅行でやってきた両親と息子の三人一家。
その島では環境問題と健康のために喫煙も飲酒も制限されていて、猿が神として扱われている。
しかしそれ以外は他の観光地と同じで、リゾートホテルに豪華な食事やエステなど一家は存分に旅行を満喫する。
翌日はタクシーで街を観光したのだが、帰りのタクシーが見つからず一家は広い公園で一休みすることに。
その公園は人と猿が集まる共有スペースだった。
屋台で買い物をして写真を撮りながらくつろいでいたが、一匹の猿に息子の眼鏡が奪われてしまい・・・。
(なんなんだこの理不尽しかないお話は・・・・・そしてヤシの実ジュースは不味い。味がしないのよ)

「最後の礼拝」
美智雄は自宅の和室にて庭を眺めながら自身の人生を思い返していた。
大学を出て由貴と結婚してから、亡くなった父親の印刷会社を引き継いで大胆にもIT事業に乗り出した。
ちょうど時代の流れに乗ってIT業界が普及するにつれて、美智雄の会社も数十億の年商をあげるほどに成長した。
行きつけのクラブで彩也子と出会ったのは、そんな人生順風満帆の時期だった。
女で男の運は変わる。
彩也子と関係を持ってしまった瞬間から美智雄の人生は変化していった・・・。
M・ナイト・シャマランの映画を思い出しちゃうよね、いやぁ~コレも楽しめたわ)

「憑霊」
ホラー小説&実話怪談作家でもある私は担当編集者、カメラマン、霊能力者の四人で山中にある病院の廃墟に向かっていた。
かつて死者二名を出した廃病院の怪談話に興味を持った編集者が、今回の現地取材を企画したのだった。
病院内を取材撮影して、十年ほど前に焼身自殺があった部屋に着いた時、霊能力者があの部屋は撮影しないほうがよいと告げる。
仕事意識の強いカメラマンと霊能力者で意見がぶつかってしまったので、取材は一時中止してファミレスにて休憩をすることにした。
取材を再開した二度目の廃病院にて、霊能力者が私と編集者にだけあることを伝えてきた。
手遅れでした、あのひとはもう憑かれている・・・。
(これぞ怪談話だよね!盛り上がる展開にゾクゾクワクワクするし、ラストに相応しい面白さよ)


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///言われてみれば確かにその通りかも///
「ブラックアウト」から。
知り合いの氷屋配達員と主人公の男が水商売配達系のあるある世間話をする場面。
41Pより。
―――「幽霊がでるっていうのは、ふつう夜でしょう。でも呑み屋では昼と夜が逆転してるから、ほんとうに怖いのは昼間なんです」―――
これはわかるなぁ。おじさんも昔は地下にある居酒屋でバイトしていたから、誰もいない開店前に店内に入るのが怖かったもん、中は真っ暗だし(>_<)
それに昼夜逆転しているから逆に昼がヤバいってのも納得。
う~ん、なんだか懐かしい気持ちになってきたぞい。

///オカルトと進化の考察が面白い///
「憑霊」から。
休憩としてやってきたファミレスにて、霊的な存在を認めるか認めないかの議論になった場面。
255Pより。
―――「植物には眼はおろか脳もないのに、どうして山火事を頻繁に利用したり、化膿した傷口に似たりできるのか。不思議だと思いませんか」
―――中略―――
「あくまで素人考えですけど、われわれ人間は個で考えますが、植物や昆虫は種で考えるんじゃないかと思うんです。つまり意識は躰の外にあって、個体から吸いあげた情報を管理しているとか―――」―――
霊的な存在とはなんなのか?それすなわち意識の集合体から生み出されるモノ。
集合的無意識・・・ユング・・・わからん、わからんのに何故かワクワクしてくるこの好奇心。
霊と科学と哲学、相反するものが絡まってくると面白くなるよね。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///作り方が気になるビックリ石鹸///
「再会」から。
美和子がシャワーを浴びていて、石鹸でスポンジを泡立てている場面。
167Pより。
―――ふたつに割れた石鹸からでてきたのは、剃刀だった。―――
石鹸に剃刀ってどうやって入れたんだろ?
中に剃刀を入れ込んで、加工面を綺麗に直して、剥がした包装紙にまた戻してって中々に職人技術じゃない?
それにターゲット以外が使う可能性だってあるだろうに、まあそん時はそん時か。

///ちょっと無理矢理な島の設定///
猿島」から。
猿が神様として扱われていたり、殺したら大変なことになったり、全島禁煙&飲酒制限もあったりと、作中のようなトラブルならいくらでも起こってそうなのに、ネットだとか事前情報には無かったのかな?
奥さんが海外旅行の経験が豊富ってんならそーゆートラブルも知っていそうな気がするけど。
まあ人間は観たい知りたい情報しか探さないから、あーゆートラブルも絶対に無いとは言えないか。
(おじさんは飛行機も海外トラブルもコワいから国内旅行で十分ですたい)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
全部の話に共通して言えることだけど、起承転結の「結」を期待したらダメ!絶対ダメ!!
オチがないのかよ!?っていう意味ではなくて、オチが分かったらバッサリそこで終了っていう作りだから、エピローグ的なモノがほとんど無いのよね。
怖い、不安だ、一体なんだったの、を楽しむのがこの短編集の神髄かと(超個人的感想です)

話のラインナップとしては心霊系から妖怪系(?)、人間の恐怖系だとか様々な話が詰まっていた。
これまた個人的な感想だけど、霊や怪奇現象が主体っていうより人間の欲に関わる恐怖がメインかと。

///話のオチはどうだった?///
オチを期待するなもとい、エピローグを期待するなと書いたけど、どの話も読み始めから読み終えるまで熱中して読んじゃう。まさしく好奇心をくすぐられる怪談ばかり。
面白いというか、儚いような憐れむような読了感にさせられるね。

怪談小説にとって大切なことは、どれだけ読者がドキドキできたかってことだと思う。
その点においては十分に満足できる一冊だったわ。
一番ゾクリと悪寒が走ったのは「怪談熱」の最後に語られた写真に関する短い話だった。
だけど総合的に判断したところ、おじさんは「憑霊」が一番お気に入りだわさ(*‘ω‘ *)

///まとめとして///
平山夢明とはまた違う魅力が漂う短編集だね。
エンタメ好きなおじさんはもうちょっと弾けた展開がほしいなぁって最初は思っていたけど、読み終えた今はこーゆーのも良いんだよって気持ちに。
男女関係の愛と憎しみは表裏一体というか、「怪談熱」から醸されるしっとりした、しっぽりした味わい深い恐怖をもう少し深く味わってみたいと思った。
(とか言いつつ『Iターン』が気になっているおじさん)

福澤氏の実話系怪談小説が気になるけど、何十話と入っている短編集の感想を書くのが大変そうだなって思って及び腰なっちゃっている。
でもいつか絶対読んでみたいってくらい濃い恐怖短編集だったってことで満読感8点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

6Pより。
―――私はこの実話怪談を作中に盛りこむという試みをときおり用いている。また、先だっては取材した怪談ばかりを集めた本も上梓した。―――
「じょうし」
文字などを版木に刻むこと、書物を出版することって意味らしい。

43Pより。
―――氷は通常、貫単位で注文する。うちの店の場合、団体の予約でも入っていない限り、多くても二貫しかでない。―――
尺貫法の重さの単位で、1貫はメートル法では3.75キログラム。
ブロック状の氷を仕入れるメリットって何かあるのかなと考えてみたけど、砕き方次第で色々な用途に使用できることが大きいみたいね。   

158Pより。
―――もっとも覚醒剤は痕跡を恐れて、注射器は使わなかった。加熱吸引、俗にいう「あぶり」か、性器や肛門に結晶を挿入するというやりかただった。―――
覚醒剤を少量の水に溶かして性器や肛門に塗り込むってネットには書いてあったけど、結晶を挿入するってのはどうなんだろ・・・・・なんだか痛そうな気がする(; ・`д・´)
舌の裏に注射したり、頭皮に注射したり、覚醒剤の為ならなんでもやっちゃうのがマジ怖いわ。

199Pより。
―――土を踏み固めたような広場の周囲には緑とベンチがあって、現地人らしいひとびとが木陰で涼んでいる。広場のまんなかには、たくさんの猿がうろついている。
「大分の高崎山みたいだな」―――
 昭和27年当時に大分市長上田保氏が猿による農村被害を防ぐ為に群れを一か所に集めて観光資源にしようと計画した。
リンゴとホラ貝で手なずけようとしたけど上手くいかず、和尚さんのアイデアでサツマイモでやってみたところ猿たちも懐きはじめて崎山自然動物園としてスタートしていったみたい。

227P~228Pより。
―――年老いた義父は電話口で、娘のいうとおりにしてやってくれといった。糟糠の妻を捨てるのは忍びなかったが、彩也子との縁を切れない以上、ただもどれというわけにもいかなかった。―――
「そうこうのつま」
貧しいときから一緒に苦労を重ねてきた妻って意味らしい。
「糟糠」とは酒かすと米ぬかのことで、貧しい食事の形容とのこと。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
女性が下を覗き込む時に垂れ下がる髪、これを下から見上げた図を描きたかったけど、なんとも物足りない感じに。
ネットで参考画像を探そうにも、なかなかドンピシャなのが見つかりませんたい。
まあ、参考画像があったとしても上手く描けたか怪しいもんだけどね(^^;)

235Pより。
―――彩也子はつかつかと浴槽のそばに歩いてきて、彼の顔を覗きこんだ。
「だから、どうしたのよ」
「腰が動かん。早く湯を止めろ」
そう怒鳴ったとき、彩也子の顔にいつか見たうすら嗤いが浮かんだ。―――