忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

あなたにここにいて欲しい 読書感想

タイトル 「あなたにここにいて欲しい」(文庫版)
著者 新井素子
文庫 339ページ
出版社 角川春樹事務所
発売日 2012年10月11日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「あなたにここにいて欲しい」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

以前勤めていた会社の先輩から、映画『羊たちの沈黙』をオススメされたから観てみたのね。
バッファロービルのモノマネをしちゃうくらい気に入った作品だったけど、話の展開的にそれほど語り継がれるほどのものなのか?と疑問に思った。
そのことを先輩に伝えると「あの時代にあんな作品を作ったから凄いんだ」と説明されたのね。
なるほど確かに言われてみればそうかもって納得したよ。

そんな感じで、今回の小説はSF枠?から選んだコチラ。
たしかTwitterで誰かが紹介していたから目に留まったんだと思う。
なかなかにポップでナウなヤングの印象が漂う表紙が気に入ったけど、中身の方はどうなんだろか。
読みやすい文章だといいな~ってなこと期待して、いざ初めての新井素子ワールドへ飛び込まん(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

デザイナーの二本木真美と大学生院生の加賀祥子、二人は同級生で幼い頃から一緒に過ごしてきた。
ある日、恒例となっているフラれた祥子の自棄酒に付き合う真美。
居酒屋で飲んでいると、店に美男美女の二人組がやって来て女性の方を見た祥子は突然悲鳴を上げてしまい、思わず酒やコップの中身を女性にかけてしまう。
慌てて謝罪する真美と祥子、女性は気にした様子はなかったが祥子に対して「一度カウンセリングを受けに来て」と言った。
女性の名は藤原綾子、個人経営のカウンセラーだった。
数日後、真美と祥子は二人で綾子の部屋を訪ねるのだが・・・。

軽い女になってやる、ある秘密、乙女の姿を借りたユニコーン、黒一色の心象風景、勝利を手にした者、疾走する才能がありません、そっくりじゃないのお、PKの訓練、残りの半分がやってくる、決して傷つかない人、猿ごときのせいで、救ってあげる、共振、拒否の叫び、子供なんだから、ナルシズムの変形、僕の復讐、奇跡、お手紙・・・。

綾子の部屋を訪ねた時から様子のおかしくなる祥子、嫌な予感と胸騒ぎが続く真美。
そして巻き起こる失踪と捜索の旅。
これまでも、これからも、ずっと一緒にいることが当たり前だと思っていた真美と祥子。
二人が別れることなんてありえない、しかしその時はあまりにも唐突に訪れてしまう・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///いきなり態度が変わる美女///
綾子に居酒屋での一軒をお詫びする為、真美と祥子は彼女の経営するカウンセリングルームを訪れた。
そこで祥子の様子がおかしくなり、真美は綾子を疑うが逆に追い詰められていく。
60Pより。
―――「大嫌いなの。あなた達のような人間。私達は親友だって顔をして、親友のことなら何でも判るって顔をして——————それでいて、本当に知っているのは、その親友の表面の顔だけなのよ。―――
なになになに?なんで急にこんな空気になっちゃうの!?
祥子はなんかヘンになっちゃうし、真美は動揺しまくりだし、綾子は自信満々だし、これがカウンセラーの力なのかそれとも別の要因が・・・?
兎にも角にも、攻め人格に急変する美女って、イイですねぇ(*´Д`)

///ガチの暴力系ヒロインズ///
色々なことがひと段落ついて、宇野と二人でお酒を飲む真美。
そこで宇野はあることを真美に打ち明けた。それを聞いた彼女は思わず・・・。
300Pより。
―――まず、宇野さんの始末。(当たり前のことではあるが)お医者様が言う訳。これは、転んだり何だりしてできた傷ではない、どう見ても、乱闘か何かの末の打撲傷だって。―――
152Pでも真美自身が語っていたけれど、予想を上回る容赦ない仕打ちに開いた口が塞がらない(笑)
最近見なくなった暴力系ヒロインの再来・・・いやそれを飛び越してアウトレイジ系ヒロインだよ。

///あとがきが面白いと得した気分///
平成二十四年の九月に作者が書いたあとがき。
本編の『あなたにここにいて欲しい』についてあんまり語られていないけれど、だからこそ気楽に楽しめるオマケな内容がイイ。
336Pより。
―――あと。読み返してとっても強く思ったこと。
これ書いた時の私は若かった。このキャラクター造形って・・・・・どんだけ自分の内臓に自信があったんだよ、当時の私!―――
確かに祥子の飲みっぷりは度を越しているし、真美も影響されて塩だけでって(笑)
取材旅行についての悩みだったり、居酒屋に対する売上貢献の話だったり、楽しいあとがきがお菓子のオマケみたいで嬉しいです(*´▽`*)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///時代が違うと常識も違う?///
手渡された名刺の住所を頼りに綾子に会いに行くと、そこは高級マンションの中にあるカウンセリングルームだった。
受付の人に予約の有無を聞かれて驚く真美。
52Pより。
―――ぶっとんだ。予約制のカウンセラーな訳?―――
カウンセリングって普通は予約制が当たり前だと思うけど、昔は違ったのかな?
最近ではWEBを通じて何分幾らってカウンセリングもあるようで、そーゆーのは予約なしで順番が来るまで待機しておくみたいだけど、これもコロナ禍が生み出したシステムなのかねぇ。

///冬のアウトドアを舐めるな///
雪の降る夜に秋吉台へ足を踏み入れる真美と宇野。
もちろん暗がりで足場も悪く、さらにその地面には所々に地下の洞窟まで落下する縦穴が存在している。
171Pより。
―――「さあて・・・・・よく見えないな・・・・・。こんなことならペンライトでも持ってくればよかった」
宇野さん、何だかんだ言いながらも、ライターつける。あ、ジッポだ。―――
真冬の秋吉台に行くってんだからせめてそれなりの物は用意していくのが当たり前だと思うけど、道中でコンビニとか無かったのかな?まだそんなに普及していなかったのかもねぇ。
経験上、ジッポとかのオイルライターってずっと火をつけたまま持っていると、どんどん熱くなってくるけど大丈夫だったのかな(^^;)

///真冬に蝶が舞う?///
洞窟の中、夜明けの光が差し込むその場所にひらひらともんしろちょうが舞う。
261Pより。
―――その白い雪の上を、舞っている、白い蝶。穴がそんなに大きくないもので、光がちょうど帯状になっている。帯のような、リボンのような光の中を、横切る蝶。―――
真冬に蝶が舞っている・・・?
ちと調べてみたら蝶の種類によって卵の状態で、蛹の状態で、蝶の状態で冬を越すものがあるらしい。
漫画『ヨルムンガンド』でも幻の蝶を求めて雪山に行くって話もあったから、ありえないことではないってことか。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
二本木真美の視点から終始語られていく作りなんだけど、彼女自身の言葉で語られている文章が中々に独特なモノになっている。だから初めのうちはちょっと読み辛いのが正直な感想。
でも慣れちゃえば全然スルスルとイケルから、柔軟な感性で受け入れるのがヨロシ。

あらすじを読んだ時点では、イチャイチャしてる女性二人が恋や人生に悩んでナーバスになるだけの話なのかなぁ~って思っていた。でも序盤から突飛な言葉や展開の連続で、読書前の印象がぜーんぶ吹き飛んでしまったのが嬉しい驚きだったよ。

///話のオチはどうだった?///
予想では寂しい別れで終わるんだろなぁ~と思っていたけど、これまた予想を裏切られて爽やかな結末。
このろくでもない素晴らしい世界で生きていく為に覚えていないといけないこと、それは単純で当たり前なことなんだけど難しいんだよねぇ。
(真美達は福に転じたようだけど、おじさんの人生はずっと禍が続いていて福に転じる予感もナシ・・・・・ってこうやって不幸しか見てないからアカンのよね!福の前兆だっつーの!)

しかし裏表紙の文章には「感涙の青春長編小説」って紹介されてたけど、ちょっと感涙ってほどの衝撃でなかったのは読者がおじさんだったから?
女性だったら、付け加えて若い読者だったら、共振するくらい感じるモノがあったのかも知れないね。

///まとめとして///
漫画の『アキラ』が1982年に連載を開始して映画は1988年に作られたみたいだけど、1984年に『あなたにここにいて欲しい』が出版されたってのが驚きだよ。
まったく古さを感じさせない、むしろ斬新ってくらいポップで瑞々しい文章だとおじさんは思った。
おじさんが1980年代のことをほとんど知らないからってだけかもしれないけど(^^;)

あーやの行く末が、遥か未来の人類存亡にかかわっている・・・・・そんな壮大なことを連想したのはおじさんだけ?
ニュータイプが登場する機動戦士的な言葉になっちゃうけど、自分や他人の気持ちを誤解なくさらけ出して受け入ることが出来るようになれば、全人類に新世界が訪れると信じて満読感7点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

本編前のページに記載されている洋楽。
「Wish You Were Here」は、1975年に発表されたピンク・フロイドのアルバム。
そのアルバムの中に「Wish You Were Here」という曲が収録されている。

25Pより。
―――「ええとね、中原中也の詩碑があるの。あと、その辺に中原中也の生家もあったと思う。んと・・・・・小郡の近くだって・・・・・」―――
中原 中也(1907年 - 1937年)は、日本の詩人・歌人・翻訳家。
代々開業医である名家の長男として生まれ、跡取りとして医者になることを期待され、小学校時代は学業成績もよく神童とも呼ばれたが、8歳の時に弟が風邪により病死したことで文学に目覚めたとのこと。
なんか知っている気がする・・・『ホルモー六景』で語られてたのかな?

134Pより。
―――そこは、国道九号線ぞいに、ほんのちょっと歩けばゆける処にあった。中原中也の詩碑の他に、種田山頭火の句碑がある。―――
種田 山頭火(本名:種田 正一 1882年- 1940年)は日本の自由律俳句の俳人で、山口県佐波郡(現在の防府市)の生まれ。各地を放浪しながら1万2000余りの句を詠んだらしい。

136Pより。
―――「じゃ・・・・・やっぱり、余程ひどい字なんですよ、これ。・・・・・あ、でも、碑になっているくらいだから、そんなことないのかな、でも、この字は」
「・・・・・小林秀雄の手だそうです」―――
小林 秀雄(1902年 - 1983年)は日本の文芸評論家、編集者、作家、美術・古美術収集鑑定家。
近代日本の文芸評論の確立者であり、晩年は保守文化人の代表者だったようで。
ちなみに中原中也小林秀雄の関係は、長谷川泰子を巡る三角関係を中心にした愛憎劇で知られているらしいけど、ドラマチックに絡まっておりますなぁ。

166Pより。
―――秋芳洞。日本最大の洞窟。故に、山口県の、観光資源。だもんで、あそこには、常時割と沢山の人とか、団体さんがいるのだ。―――
秋吉台国定公園の地下100m、その南麓に開口する日本屈指の大鍾乳洞。
洞内の観光コースは約1km、温度は四季を通じて17℃で一定し、夏涼しく冬は温かく、快適に観光できるとのこと。
洞窟は怖い。身動きできず閉じ込められるかも知れないし、映画『ディセント』も怖い。

167Pより。
―――「あ、そういえば、秋吉台のカルスト地形の処で、昔、こんな話を聞きましたよ。―――
石灰岩地域に発達する特殊な侵食(溶解侵食=溶食)地形の総称。
この名称はスロベニア北西部カルスト地方に多く分布することに由来するらしい。
なんともこの世ならざる風景って感じだね。

292Pより。
―――「津和野の方のお酒だそうです。清酒華泉。なかなかいけるって話を聞いたもんで、綾子さんの荷物をとりにいった時、買っといたんです」―――
華泉酒造は創業は江戸中期1730年(享保15年)。
津和野において、米問屋を商っていた当酒蔵の初代俵屋長七が酒造業を始めた。現当主で10代目で現在11代目が杜氏として酒造りに励んでいるらしい。
よーし、ちょっくら一本注文しちゃおうかな。つまみはもちろん塩のみで(笑)

305Pより。
―――「わんぱくでもいい、たくましく育って欲しい」
「もう一度病院おくりにしてやろうか」―――
1970年代の丸大食品CMで、上記のナレーションが有名になり当時の流行語にもなった。
火に炙られて脂の滴り落ちる厚切りハムステーキが喰いたくなってきた。
もちろん合わせる酒は清酒華泉で。

322Pより。
―――禍福は糾える縄の如し。
この諺を—————こんなに身近に感じたことは、今までなかった。―――
災禍と幸福とは糾った(縒り合わせた)縄のように表裏一体であり、一時のそれに一喜一憂しても仕方がないということ。
全てのことは考えるだけ無駄という結論に至ったおじさん・・・。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
152Pより。
―――宇野さん、腹をおさえて、うずくまる。
「なめないでね。あたし、祥子と対等に喧嘩できるんだから」
あ。この台詞、祥子がいかに強いかを知らない人には、全然効果がないかしら。―――


表紙のイラストがなんとも気に入ったので調べてみたら「KEIKO OGAWA」というイラストレーターが描いたらしい。
1982年に熊本県で生まれ、現在は東京都在住なのかな。
今回は表紙の雰囲気に触発されて似せて描いてみようと思ったのだが、う~むむ・・・なんだか中途半端な色使いになっちった(;´Д`)
ちなみに髪の短い方が真美だと思って描いたんだけど、合っているのだろうか。

 

 

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