忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

闇に香る嘘 読書感想

タイトル 「闇に香る嘘」(文庫版)
著者 下村敦史
文庫 448ページ
出版社 講談社
発売日 2016年8月11日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「闇に香る嘘」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

2022年の八月末。
今年も24時間TVの季節がやってきたね。若いうちは出演者へのギャラの方が高いチャリティー番組なんて辞めちまえって思っていたけど、最近ではそれでもやらないよりはマシかって考えるようになってきている。一切見ていないけど(^^;)
そんでもってこの感想を書いている時にBS日曜アニメ劇場では『おおかみこどもの雨と雪』がやっているじゃないか。これも初めて見た時は微妙だったけど、年月を経た今見てみると妙にしっとり胸に染み込んでくるのが不思議。

そんなトピックスから導き出される今回の小説はコチラ。
乱歩賞受賞作に名前が載っていて気になっていたけどハードカバーしか売っていなくて購入していなかった作品。だけどついに文庫版が出たから購入しちゃった。
あらすじやタイトルから想像するに少しお堅そうな物語かな?でもでもそこは乱歩賞作品。
おもしろさは間違いなく保証されているに違いない、違いないと信じている・・・・大丈夫だよね?
じゃあ行くか、光の消えた闇の世界。
初めての盲目主人公が奮闘する未体験ゾーンへ、いざ飛び込まん(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

悪天候の中で入港した大和田海運コンテナ船。
その積み荷に詰め込まれていたのは死屍累々の密航者達だった。
異常な状況で慌ただしくなる現場から、二名の密航者が運良く逃げだし夜の闇へ消えて行った・・・。

41歳の時に視力を失った元カメラマンの村上和久は、病院で検査の結果を待っていた。
娘である由香里に頼まれて腎臓の透析患者である孫の夏帆に移植をする為、適合出来るかどうかの検査を受けに来ていたのだった。
別れた妻や由香里に迷惑をかけてきた和久は、償いの為にも腎臓移植に賛成していたのだが、結果は落胆するものだった。自身の不甲斐なさに落ち込む和久が家に帰ると、岩手の実家で母親と暮らしている兄の竜彦から電話がかかって来て、久しぶりに帰って来いと誘われる。
その時、和久は思いついた。
兄である竜彦の腎臓なら、まだ望みはあるかもしれない。

全滅だ、生存者、無償の提供、六親等以内の血族なら、不可解な俳句、まるで別人のように、残留孤児の未来を取り戻す会、棄民、剝き出しの増悪、『今』を生きるしかない、ヒ素の小瓶、煙草の残り香、火傷の痕、忠告はしたぞ、東京入国管理局、墓、無言の恩人、卑怯な嘘、もうどうでもいいことだよ、告発、事件性なし、偽装認知、誘拐、墨の匂い、私に力を貸してくれ、動画、真実、心の目、二人目、頼みがあるんだ、本当の家族・・・。

由香里と供に岩手へやってきた和久はさっそく竜彦に腎臓の提供者になってほしいと説明するが、その願いは断られてしまう。結果に関わらず適合検査だけでも受けてくれれば謝礼もすると和久が食い下がってみるのだが、それでも竜彦はきっぱりと拒否した。
岩手で一緒に過ごす間に、和久はある疑心を抱くようになる。
老いた母と暮らしている竜彦は、本物の実兄なのだろうかと。
満州国からの引き上げ時に離れ離れになってしまい、四十年間も中国残留孤児として生きてきて、1983年の訪日調査で帰国してきた村上竜彦。だが実際は別人が成りすましていおり、だから適合検査も拒否するのではないのか?
疑念は強まるばかりで、和久はついに自分で真実を暴こうとするのだが・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///バカでも出来る育成方法///
「残留孤児の未来を取り戻す会」の会長である磯村鉄平に話を聞きに来た和久。
磯村は中国での悲惨な体験と残留孤児らに対して日本政府が行った非道を語る。
95Pより。
―――養父母は厳しかった。棍棒老子——————棍棒の下にこそ賢い子が生まれるという意味の言葉だ。それを信じ、骨が折れるほど私を殴った」―――。―――
嫌だねぇ~、こーゆー躾け方はどこの国でも同じようにあるもんなのか?
最近では体罰や虐待がすぐに周知されて即対応されるようになってきたから、情報化社会になってよかったことの一つだよ。
(もちろん見つかっていない事案も山のようにあるんだろうけどさ)
いつも寝起きが悪く時間にルーズな友人がいるんだけど、そいつを矯正するために「根性精神注入棒」を購入しようか皆で悩んでいたあの頃が懐かしい(笑)
今となっては遠い日の思い出・・・・・イカン、思わず気持ちが脱線してしまった(;´Д`)

///地獄の未来か絶望の死か///
夏帆が透析を終えるまでの間、暇つぶしとして和久は満州での出来事を語り始めた。
若い男が徴兵されて、ソ連兵が迫っていると噂が広がり、和久一家も逃避行へと旅立つのだが道のりは険しくソ連軍の攻撃機に見つかれば機銃掃射を浴びせられる。
それでも歩き続けてきた開拓団員たちだったが、終わりの時はやってきてしまう。
116Pより。
―――武器は団長が所持している拳銃と手榴弾だけだった。
「・・・・・大和魂を見せるときが来た」老いた団長が団員を見回した。―――
生き延びても地獄しかない状況で行われる集団自決の描写が強く印象に残った。
もしも自分だったらどうするのかっていつも考えちゃうけど、バブル期直前に生まれたおじさんだったら自決するなんて怖くてできないなぁ。でも時代と教育によって決断する内容は変わるんだろうけど。
思い浮かぶのは映画『ミスト』だね。もう少し、あと少し早ければ・・・。

///和久に訪れる数々の試練///
岩手の実家で葬式を終えた和久。
先に東京へ帰宅した由香里から連絡が入り、夏帆が小学校から戻ってきていないと告げられる。
その直後、正体不明の人物に襲撃されてしまう。
317Pより。
―――何者かに羽交い絞めにされたのだと分かった。
「な、何をする!」
右腕で肘内を食らわせようとした瞬間、巻きついた腕に反らされた喉元に冷たいものが押し当てられた。―――
吹雪の北海道でもそうだけど、和久にとっては常に死と隣り合わせな毎日が当たり前だもんね。
それなのに健常者でもあぶない事件に巻き込まれていくなんて、どーなるの?どーなっちゃうの!?って、おじさんもう続きが気になってしょうがなかったわ。
この物語でまさか荒事なんて起こらないでしょって舐めてかかっていました、嬉しい誤算てやつだよ。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///わかっちゃいるけど止められないのか///
残留孤児支援団体のボランティア女性から、同じ開拓団だった人物を紹介してもらった和久。
兄の話を聞く為に待ち合わせの約束を取り付けてもらった。
そしていつものように、就寝前に酒と薬を併用する。
149Pより。
―――焼酎で二錠の錠剤を飲み下し、ラジオをつけた。―――
つい最近の記憶の欠落も自覚している和久。
大切な目的がある現状で、しっかりしないといけないから酒&薬のカクテルは飲んじゃダメでしょうに。
それとも不安要素が増えたせいで、ストレスも増加してるから飲まずにはいられないってヤツなのか?
まぁ、気持ちはわかるよ。おじさんも残業したり少しでも嫌なことがあると、すぐに肴も無しで晩酌に逃避するし。

///早期治療に賭けていれば・・・///
結婚し、子供も生まれてマイホームも持った和久はカメラマンの仕事で全国へ飛び回る毎日を送っていた。目が霞むようになり、仕事に支障をきたすようになってきてから眼科を訪ねたのだが、診断結果は深刻なものだった。
175Pより。
―――説明を聞いて怖くなり、拒否した。月日をあけ、再び眼科を訪ねたときには手遅れだった。―――
いやなんで拒否なんだよ?
病気放置で失明が決定しているのなら、回復の可能性がある方を選ぶのが当たり前でしょうに。
この状況ならおじさんでも手術受けるわ。だってほぼノーリスクハイリターンの賭けじゃないの。
でも実際その立場になると・・・・・いやぁ~やっぱり手術するでしょ。
個人的には意識のない時にやっちゃってもらいたいから、局所麻酔だと恐怖感半端ないのは共感。

///行政サービスは活用しないと///
犯罪者が潜んでいる可能性が強い場所へ乗り込もうとする和久と由香里。
援軍の必要を感じて、和久は一度断られた入国警備官へ再度助けを求めるのだが。
353Pより。
―――「可能性はある」私は携帯を取り出した。「待っていろ。もう一度、入管に電話してみる」―――
明らかにヤバすぎる状況なんだし、多少ウソついてもいいから警察に通報しても良かったのでは?
まぁ、平常心で安全な立場の読者と切羽詰まった登場人物では冷静さが段違いだからね。
その場で適切な判断が出来ないのはムリもないか。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
ほぼすべてが和久の視点?主観から語られる作り。
盲目の年老いた主人公が語る世界って、大丈夫かなぁ退屈しないかなぁと不安だったけど、すぐに杞憂だったと思い知りましたわ。
見えないもどかしさがおじさんをドキドキハラハラさせて、時に悶々と焦らしつつ好奇心を煽ってくる。

『闇に香る』は初っ端から衝撃的な場面から始まる。
その予想外で壮絶な展開が一気におじさんの心を掴んできた。まさしく掴みはオッケーってヤツかと。
それに真昼間の街中を歩くだけで命懸けの和久が、どんどん危険な状況に陥っていくスリルな展開も面白い。お堅めで静かなミステリーだと予測している未読者の方々、是非とも強烈な先制パンチを味わってみてくだされ。

///話のオチはどうだった?///
今回も作中で一番のビックリネタはコレかもって想像して読んでいたら、なんと当たってしまった。
でも理屈も推理も一切なしで、物語の構成的に勘で思いついた答えだから、何の自慢にもなりゃしない。
こーゆー読み方はアカンなぁ。
知らないままネタ明かしを迎えたほうがもっと楽しめたのに、もっと衝撃を感じられたのに、勿体ないことをしてしまった。

乱歩賞作品だからと言って、最後の最後に度肝を抜かれる仕掛けがある訳じゃない。
『闇に香る噓』は穏やかな終わり方だったけどそれで良いと思う。
超重量級に仕上がった骨のあるストーリー(どんな感想だよ)と、家族というものの尊さを一時でも感じることができただけで十分なのよ。
おじさんの年齢でこれだけ楽しめたり共感できたりしたんだから、和久と同じくらいの歳でこの小説を読んでしまったらどうなるのか?
きっと滂沱の涙を流してしまうに違いない(ノД`)・゜・。

///まとめとして///
盲目の主人公と、文字だけの読書ってなんか似ているような気がする。
文章だけでいろんな場面を想像していく感じとか。架空の場面を想像する作業とか。
もしも、いつか視覚障害で本が読めなくなってしまったら?
おじさんの数少ない生きる理由がまた一つ減ってしまうじゃんよぉ。
今のうちに点字を軽くかじっておくか、もしくはアマゾンのオーディブルに手を出してみるか。
なんにせよ、テクノロジーの進化は真っ先に障害や病気で困っている人々を助ける為に発展してほしい。

読了してから少ない脳力をギリギリと振り絞って考えてみた。
自身の周りで当たり前にあることはすぐに見えなくなってしまう。
おじさんは沢山の当たり前に囲まれているから、色んなものが見えなくなっているんだろうなぁ。
改めて己の周りをよく見直して、大切なモノをずっと大切にしていこうっていう満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『闇に香る噓』は第60回江戸川乱歩賞受賞作品なのです!

『闇に香る噓』は応募時・受賞時のタイトルは『無縁の常闇に嘘は香る』だったらしい。
だけど「タイトルが意味不明」(石田衣良)、「作品のコンセプトを語り過ぎている」(桐野夏生)、「とにかくタイトルを何とかしてほしい」(今野敏)と総じて不評だったようで、改題に至ったっていう小ネタがあるらしい。
うーむ、タイトルって大切だよね~。

7Pより。
―――横揺れを半分以上減衰させるビルジキールも効果がない。―――
ビルジキールは、船体の動揺を少なくするために、船首から船尾まで船底湾曲部に沿って取り付ける板。
船底に付いている小ぶりな突起部分にそんな意味があったとは知らなかった。
ちなみに砕氷船はビルジキールを付けられないみたいで、氷に当たって壊れちゃうからってことらしい。

59Pより。
―――医師の話によると、片方の腎臓が摘出された場合、一時的に機能が低下するものの、時間が経過すれば残ったもう一方の腎臓が代償して八割程度まで回復するという。―――
一つだけになった提供者の腎臓は血流が増えてゆっくり肥大し、最終的には提供前の腎機能と同じくらいになるらしいけど、もちろん一つしかないから病気などになれば透析療法など必要になる。
腎臓が一個でも二個でも、常に健康的な生活を心がけないとアカンのよね。

66Pより。
―――『スンガリーにはソ連の軍艦が待ち構えちょるらしいぞ。子の泣き声は銅鑼も同然だ。口を封じる』―――
松花江満州語でスンガリー)は中国、黒竜江の支流で東北地区の中心部を流れる大河。

94Pより。
―――私たちは難民収容所に押し込められたが、そこではコーリャンの粥一杯が唯一の食事だった。―――
モロコシはイネ科の一年草のC4植物・穀物。外来語呼称にはコーリャンソルガム、ソルゴーがある。
コーリャンの粥か、お米の粥と見た目は同じっぽいけど、味は米よりあっさりしている感じかな?

110Pより。
―――母に聞いたところ、無患子の実を使った羽根は、文字どおり子の無病息災を願う願掛けに使われるという。―――
ムクロジムクロジムクロジ属の落葉高木。
ムクロジの種子の堅牢さは種子の中でもトップクラスの優れもので、水に浸すと泡立つ果皮は薬用や石鹸として役立ってきたらしい。
ムクロジの実を使ってやる羽子板遊び・・・おじさんの覚えている限りでは経験したことないなぁ。

184Pより。
―――私はアルバムを胸に抱き寄せると、滂沱の涙を流した。―――
「ぼうだ」
涙がとめどなく流れ落ちる様子、または雨が降りしきる様子。

190Pより。
―――点字は習得が難しく、読める視覚障碍者は一割程度らしいが、余生を少しでも快適に生きるために挑戦した。―――
視覚に障害のある人のうち60歳以上が全体の約三分の二を占めていて、高齢になって中途失明する人が増加している。なので点字が読める人の比率は年々下がっているのが実状である。
なるほど、確かに若いうちなら新しいことも覚えやすいけど、高齢になってから新しい言語点字を覚えるのは難しい&気力もないから、読めない視覚障碍者が増えるのは当然なのかぁ。

247Pより。
―――「感熱紙じゃあるまいし、写真は消えないぞ」―――
感熱紙(かんねつし)は、熱を感知することで色が変化する紙。
FAXやレシートで使われているのがそうらしい。
長期保存には向いていなくて印字後に湿気や油分、光などによって変色したり字が消えてしまったりするとのこと。

303Pより。
―――昭和九年三月には、農地を奪われた中国人農民が暴徒と化し、三千人が武装蜂起した。土龍山内事件だ。―――
土竜山事件は1934年3月、満州国三江省依蘭県土竜山にて発生した農民武装蜂起事件である。依蘭事件、または謝文東事件とも呼ばれる。
初期は総数6,700名の民衆軍が蜂起に参加したが、関東軍による包囲戦によって孤立化した民衆軍は800名ばかりに減ってしまう。その後、関東軍の襲撃を受けた民衆軍は大きな損害を受け、総司令の謝は依蘭県吉興河の深山密林地帯に逃げ込んだ。

377Pより。
―――満州には広大な畑が余っている、五族協和のため、日本人が頑張るんだ―――
五族協和とは、満洲国の民族政策の標語で「和(日)・韓・満・蒙・漢(支)」の五民族が協調して暮らせる国を目指すってことらしい。
清朝の後期から中華民国の初期にかけて使われた民族政策のスローガン「五族共和」に倣ったものだったようで。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
満州国ではトウモロコシを良く育てていたって書いてあったけど、書くのが難しそうだったから葉物野菜の畑にしてしまった。
果たして当時の満州国でキャベツや白菜は育てていたのだろうか?
そして書いていてふと思い出した。
この畑って、映画『がっこうくらし』でネット民を驚かせたあの剥き出し野菜畑に似てるんじゃね(;´Д`)


109Pより。
―――熱が引いていた私は、戸を開けて外を覗き見た。青白い月光の下、母は一人、羽子板で羽根を突いていた。地味な色合いのモンペ姿で、黒髪は纏めて手ぬぐいで覆っている。―――