忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

黒い仏 読書感想

タイトル 「黒い仏」(文庫版)
著者 殊能将之
文庫 317ページ
出版社 講談社
発売日 2004年1月1日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

ブログ始める前に「ハサミ男」も読んだ

・「美濃牛」


<< ここ最近の思うこと >>

既に書いたことかもしれないけど、スポーツ観戦をまったく嗜まないおじさん。
気まぐれに応援していたチームが負けた時はストレスが溜まるし、勝ったとしても喜ぶというより無事勝てたという安心感しか得られない。(今のところ)
勝敗がわからないから良い、その過程にある興奮が堪らない、勝った時の高揚感・・・これってギャンブルそのものなんじゃないかと考えてみたり。
ギャンブルもスポーツ観戦もしないおじさんにとっては理解不能な世界だなぁ~ってちょい待ち!
読書も同じじゃね?読んでみるまで面白いかわからないし、カネでは買えない時間を賭けているし。
そう考えるならば、読書本ギャンブルにおいておじさんは基本安牌よ。独自の感性で勝率は高いし、なによりトータルでは勝っている、はずだと思う。

そんなわけで、2022年の10月とは思えないほど夏日になった16日に読み始めた今回の一冊。
感想を書いている10月末になると、気温はがらりと変わって真冬のように寒い寒い。
まるでこの小説の始まりみたいな季節で妙な偶然を感じるような。
前回の『美濃牛』が気に入ったので続編を購入してみたけど、今度はどんな不思議と謎が名探偵を待ち受けているのか早くも期待に胸がドキドキしてくる。
ではでは、秘宝と坊さんと身元不明死体が絡んだ日本シリーズに沸き立つ福岡にいざ向かわん(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

亀恩洞の事件で名を上げた石動戯作の下に一件の依頼が入った。
ベンチャー企業の社長から受けた依頼は、九世紀に唐から日本へ持ち込まれた秘宝を探し出して欲しいという内容で、福岡にある安蘭寺のどこかに隠されているらしいとのこと。
魅力的な報酬額に釣られて依頼を引き受けた石動は、助手のアントニオと供に福岡へ向かう。
一方、同じ頃に福岡のアパートにて一人の遺体が発見された。
生活感もなく指紋も一切見つからない部屋で絞殺されていた遺体は、身元を証明するものが何もなく警察は手がかりのないまま捜査を開始するのだが・・・。

謎めいた経典、人影らしきもの、宝探し、被害者の顔、真の姿、黒い仏像、幸せになれたのよ、くろみさま、化けもん寺、山法師、地獄に住む虫、朱天下捕猛虎、イエロー・サイン、正義の定義、祝杯、ふざけた野郎だ、時間が停まった、本物の名探偵、母親の顔、荒唐無稽な話・・・。

石動の助手であるアントニオは、依頼主の社長に会った時から何かを感じ取っており、今回の依頼は石動だけで安蘭寺へ向かわせるのは危ういと判断し、珍しく仕事に同行することにした。
アントニオが感じ取ったモノ、それは名探偵や警察ではどうにもならない類の危険だった・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///名探偵の助手アントニオの魅力に迫る///
前作『美濃牛』にて、最後に登場した助手のアントニオ。
今回は彼の知られざる過去や人間性がしっかりと語られていた。
まずはコチラ。HWRテクノロジー社長の大生部に依頼内容を聞きに行った石動とアントニオ。「アントニオ」という名前と日本人的な見た目に戸惑う大生部は、その名前の由来について説明を受ける。
27Pより。
―――「本名は徐・彬と申します。へんてこりんな日本語読みすると、<ジョ・ビン>です。だから、大将はアタシのことをアントニオって呼ぶんですよ」―――
アントニオという名前から南米とか欧米系を予測していたのに、まさかの中国人だったとは(笑)
しかもその名前の由来も石動らしくて納得。
いつも飄々としていて掴みどころのない性格で、石動に負けないくらい音楽の知識も深く、それに何かしら察する能力も?
初っ端から好奇心が高まるキャラクターだね。

続いてコチラ。
安蘭寺の書庫にて秘宝の在り処を調べている石動に食事を届けに来た瑠美子。
石動の持つ書を覗き込む彼女と、美女の接近にどぎまぎする名探偵。
そこへアントニオが助け舟?を出した。
110Pより。
―――石動が困り顔でにじり下がったとき、アントニオが突然、口をはさんだ。
「おなかの子供はいま何カ月なんですか」―――
絶妙のタイミングで予想外の言葉を放つアントニオ、どうして分かったのか謎だけスラっと石動を助ける様がカッコイイ。
警戒心を抱くような瑠美子の反応も気になるし、何か訳知りな雰囲気のアントニオも気になるし~!
面白さがグングン高まってしまうわい。
何も知らない純粋な石動が愛らしく感じるよ(笑)

///映像が目に浮かぶような文章///
絞殺された身元不明遺体事件の捜査で、初期段階から壁にぶつかってしまっている福岡県警。
中村警部補は冷めかけたコーヒーを飲み窓の外に目をやる。
そこには巨大な日蓮上人が鎮座していた。
62Pより。
―――いまは、遠く爆音を響かせながら、福岡空港発の航空機が、日蓮上人の頭上、よく晴れた青空を斜めに横切っている。なんともはや、シュールレアリスティックな光景だった。―――
行き詰っている捜査に悩むベテラン刑事が、ふと窓の外を見ると巨大な大仏がコチラをどっしりと見据えていて、その頭上を航空機が爆音で過ぎ去っていく・・・完全にパトレイバーの刑事パート部分じゃないすかね?(ほんとに福岡警察署の窓から大仏様が見えるのか気になるけど確認の仕様がないので残念)
読んでいて思わずアニメーションが脳内に流れてくる。こーゆー味の染みた描写は大好きなのよ。
好きな文章繋がりで186Pの「リーズナブル」を使った皮肉表現にもニヤリとさせられる。
殊能将之のセンス、お気に入りだなぁ~(*´Д`)

///あれれ、物語がバグってるかも///
石動らと同じ宿に宿泊客として来た僧の夢求。
夕食を食べながら各々の目的を打ち明け、お互いに安蘭寺にまつわる品物を探しているのだと判明した。
そしてページは次へ移り・・・。
157Pより。
―――わたくしの役目は、本を閉じるにも、劇場から去るにも、もはや遅すぎると、皆様にお伝えすることです。―――
訳の分からないことが突然起こると人間誰でもぽかんとしてしまう。この部分を読み始めたおじさんも例外ではない。何がおこったの?何が始まるの?ってドキドキと不安と少しの恐怖が胸中に沸き立つのを感じつつ、落ち着いてゆっくり読み進めたわ。
この演出はほんと素晴らしいよ・・・・・からの~・・・なんだこれは!?
その先に待ち受けていたのは更なる混沌だった。
名探偵のミステリー小説なんでしょ、急にジャンル変わってませんかΣ(・□・;)
ヤバイよこの小説、もうおじさんは手遅れになり『黒い仏』の虜になり果てましたわわわ。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///題名にもなっている仏像の謎///
住職の星慧に案内されて安蘭寺の本堂へやって来た石動とアントニオ。
須弥壇に並ぶ四体の仏像の一つ、中央の本尊は激しく損傷しており顔面は意図的に削り取られていた。
85Pより。
―――「おそらく、会昌の廃仏のときに、不敬の輩がやったのでしょう。仏難のおり、御仏のお顔が削り落されることは、よくあったんですよ。西城の摩崖仏にも、顔のないものがたくさんあります。なんともはや、畏れ多いことだ」―――
どうして仏像の顔が削り取られていたのか?
間違いなく物語の中心になるであろうキーアイテムなのだから、そんなことになった経緯とか理由があると個人的には思っていたんだけど、語られなかったってことは特に意味はないってことなのかな。
または星慧にもどうして削り取られたのかわからなかったということか。
う~ん気になるぅ(´Д`)

///その時、何がおこなわれていたのか///
ネタバレになるので詳しくは言えないけど、ある人物が時間つぶしの為にイエロー・サインへ出向き、楽しい時間を過ごしながら一夜を明かし帰路へとついた。
284Pより。
―――ハンカチを受けとり、頬についた血糊をぬぐった。若者は赤く染まったハンカチを捧げ持ったあと、ポケットにしまった。―――
ただの風俗店へ行ってなぜ血糊が付くのか?
この人物は一体どんなプレイをしてきたというのか、想像するにガクブルしてきそう。
まあ本編にはまったくと言っていいほど関係ない疑問なんだけど、こんな危険を匂わせる雰囲気を出されたら気になっちゃうじゃん。
(ひょっとして作中のどこかで語られていたりする?おじさんが忘れているだけかも?)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
石動&アントニオの宝探し組と、殺人事件を追う刑事二人組を中心とした三人称視点で語られる作りで、その合間に他の登場人物達の三人称視点が散りばめられている。
まあ前作の『美濃牛』と基本同じだわね。

相変わらずするりと入ってくる文章が読んでいてい心地良く、思わずトロンと転寝しそうな気分になってしまうのはおじさんだけかな(;^ω^)
(つまんないとか退屈って訳じゃないんだよ!自分が文章の中に溶けていくような感じ・・・いや眠気じゃなくてね)
前作同様に音楽やスポーツや漢文やら、様々な小話がみっちり詰まっている内容。
こーゆー遊び心あるお話は個人的に好みだから受け入れちゃうけど、余計な話は省いて欲しいってタイプの読者にはオススメし難いかなぁ。

///話のオチはどうだった?///
身元不明死体の殺人事件については犯人もトリックも結末もきっちり説明されているからご安心を。
その説明に納得できるかどうかは人それぞれかと。
主人公である石動に関しても、『美濃牛』の時より名探偵として活躍していたと思う。
あんな推理を披露しちゃうんだから「一種の天才」と評されるのも納得かな(笑)

そんでもって、殺人事件よりももっとトンデモナイ事柄についてのオチは語られておらず。
むしろオチというか、終わりの始まりが静かに幕を開けて終劇ってやつだね。
なんなのこの『黒い仏』ってお話は!?普通にミステリー読みたくて購入した人はおそらく憤慨するんじゃないか心配だよ(; ・`д・´)
ちなみにおじさんはこーゆー系は大好きだから無問題よ。
一流のアカデミー賞受賞監督が作ったB級オカルト映画って感じでワクワクするし。

///まとめとして///
前回読んだ『ただ、それだけでよかったんです』の感想で、電撃ラノベでこんな話だったとは予想外って書いたけど、今回は名探偵が主人公のガチガチミステリー作品だと思ったら、こんな内容で大予想外。
これだから、こーゆーことがあるから、小説は読んでみないとわからないよねぇ(*´ω`*)
物語が面白いかどうか、合う合わないかは各々読者の運しだい。まさしくこれギャンブルじゃね?
もちろん今回もおじさんは「勝ち」ですわ。だって数百円と数時間でこんなにドキワク楽しめたし。

いやいや~これはもう完全に嵌ってしまいましたな石動戯作シリーズ。
もうすぐにでも続編の発注を入れておかないと。
好きになった作家には長生きしてもらいたいんだけど、そういう人に限って・・・なんでかなぁ~。
樋口有介先生に殊能将之先生、ほんと人生さよならばっかりだわ(ノД`)・゜・。
『美濃牛』の寄せ鍋に続き、今回は水炊き鍋をルビービールで堪能したくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

ページ数のつかない最初に書かれている言葉。
―――ジェイムズ・ブリッシュに捧げる―――
ジェイムズ・ベンジャミン・ブリッシュはアメリカのSF作家で、ウィリアム・アセリング・ジュニア の名でSF評論家としても活動したらしい。
オリジナル作品では「宇宙都市」シリーズが代表作で、『悪魔の星』が1959年のヒューゴー賞を受賞しているとのこと。
殊能将之はこの作家がお気に入りだったのかな?

―――寒椿黒き仏に手向けばや―――
明治28年正岡子規が作った一句・・・なのかな?
弘仁6年10月15日未明に、巡錫中の弘法大師が四国にある常福寺を訪れた際、流行していた熱病を杖と共に土に封じ込めた。その後、そこから椿の芽が出たという伝説が残っているらしい。
1859年に火災が起こった時も、焼けた株から芽が出て今では立派な椿になっているとか。
殊能将之は何を思ってこの句を引用したんだろうか気になるね。

10Pより。
―――円珍は、円載が国清寺の広修座主から得た解答に不満を持っていた。―――
「広修座主」がなんなのかネットで調べたけどわからなかった。
国清寺の一番偉い人ってことなんかな?

16Pより。
―――半開きのドアから顔を出したのは、腰の曲がりかけた老人で、コールテンのズボンに古びた茶色の上着を着て、まだ左手にヴァイオリンを持っていた。―――
コーデュロイとコールテンは何が違うのか?
日本独自の加工をしているモノがコール天ってことみたいだね。

30Pより。
―――石動の脳裏に、小栗上野介埋蔵金を探して、赤城山をショベルカーで掘り返していたコピーライターの顔が浮かんだ。―――
1990年にTBSのテレビ番組『ギミア・ぶれいく』で、糸井重里を中心とした徳川埋蔵金発掘プロジェクトチームを結成、約2年半にわたって計10回の発掘作業が行われた。
自称霊能力者や大型重機などを使用してガンガン掘りまくったけど、結局見つからずチームもかいさんしたとのこと。
むかし何度もTVでみたことあるなぁ~、平成のテレビ番組って雰囲気だったなぁ~。

49Pより。
―――円載が狷介だったせいか、円珍が生意気だったせいかは、わかりませんけどね。―――
「けんかい」とは自分の意志をまげず、人と和合しないこと。

79Pより。
―――だが、星慧はすぐに察したらしく、呵々大笑しながら、―――
「かかたいしょう」とはからからと大声をあげて笑うこと。

93Pより。
―――「いったいいくらくらいするんだろう。黒瑪瑙の上に金で模様が象嵌してあってね、たぶん純金でしょう。チェーンもゴールドでした」―――
石英の顕微鏡的な結晶が集合して、塊状になっているものを「玉髄」といい、オニキス(黒瑪瑙)は、黒色の玉髄とのこと。
ブラックオニキスまたはオニックスとも呼ばれており、昔から邪念や悪い気を払う魔除けの石として用いられてきたようで。あと感情が乱れやすい人が身につけると気持ちの昂ぶりを抑制し、理性的になれるといわれているみたい。
おじさんも身につけておこうかなぁ。

108Pより。
―――「嘘じゃありませんよ。李賀は世界最初のデカダン象徴派詩人なんです。ヴェルレーヌボードレールより千年以上早く生まれています」―――
デカダン派とは19世紀のヨーロッパ文学、とくにフランス文学の中の文学運動。
デカダンス」という呼び名は敵対する批評家らがつけたものだったけど、後にはそれに属する作家が19世紀後期の象徴主義あるいは耽美主義運動に関係し、初期ロマン主義のナイーヴな自然観の上で巧妙さを楽しんだ多くの世紀末作家に対して、この名を使ったとのこと。
う~む、さっぱりわからん。アニメ『デカダンス』くらいしか浮かんでこない。

181Pより。
―――世間一般では、親不孝通りという通称のほうが、圧倒的に有名だろう。―――
親不孝通りとは、福岡市中央区天神北西部を南北に走る市道の通称である。
治安悪化から名称を「親富孝通り」に変更するも治安回復ならず、月日は流れて治安が良くなるも若者は減少し、昔から愛着のある「親不孝通り」にまた名称を変更したと。
呼び方を変えただけで問題がなくなれば苦労しないわな。

215Pより。
―――「なるほど。赤ビールだから、ルビービールですか」
「ええ。銘柄はベルギーのローデンバッハです」―――
ベルギーの西フランダース地方で造られる伝統のレッド・ビールの代表格で、レッド・ビール独特の軽やかでフルーティーな酸味と深いコクのある味わいってことらしい。
『彼岸の奴隷』に出てきた「アンカー・スチーム」に続き、また一つ飲んでみたビールが追加されてしまった。早く通販で発注しないとって思うんだけど、いつも先延ばしになってしまう今日この頃。

253Pより。
―――「浦上伸介先生に頼みたいよ。おまえ、『週刊広場』編集部の電話番号を知らないか」―――
『事件記者 浦上伸介』は2001年から2008年までテレビ東京BSジャパン共同制作で放送されたテレビドラマシリーズで全6回の番組。主演は高嶋政伸
「週刊広場」編集部と繋がりのあるフリー・ルポライターが、推理ではなく地道な取材で事件を解明していく内容みたいね。

270Pより。
―――いまこの瞬間も、天台座主殿は転法輪筒を前にして、降魔調伏を祈祷していると?」―――
被蓋を持つ筒状の容れ物は、国家存亡の際などに怨敵降伏のために行われる密教修法の折に壇上に安置される仏具で、筒内に相手の姿や名を記した紙を入れておくと、その相手が・・・。
まさしく特級呪物の呪い筒じゃないですかΣ(・□・;)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
171Pより。
―――「さあ、捕まえたっと。もう逃がさないわよ。うふふ」
上鳥瑠美子は名探偵石動戯作の背中に馬乗りになって、色っぽく笑った。
「アントニオ、た、助けてくれ!」―――


全く関係ないことだけど、会社のJapanese Hip-Hop好きな後輩に初心者向けCDを貸してもらった。
年を取ると趣味嗜好がどんどん偏ってきちゃうから、それを少しでも遅らせる為に未知のジャンルにちょっとだけ手を出すようにしているおじさんなのです(^^;)
今回の絵を描いている時にさっそく聞き流してみたけど、思ったよりも受け入れやすかった。
一押しされた「最近の若いやつは」って曲が前評判どおり一番良かったのん。
またいくつかオススメしてもらおうかなぁ。

Blue Moon

Blue Moon

最近の若いやつは

最近の若いやつは

  • J‐REXXX
  • レゲエ
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes