忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

美濃牛 読書感想

タイトル 「美濃牛」(文庫版)
著者 殊能将之
文庫 770ページ
出版社 講談社
発売日 2003年4月1日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・「ハサミ男」(ブログ開始前に読んだ)


<< ここ最近の思うこと >>

もう数十年くらい前に友人らと板取川のキャンプ場へ行ったのよ。
その時に友人の一人がレスラーマスクを持ってきて、道中色々な場面で覆面顔を晒していた。
もちろんそんな覆面を見てしまった人々は「何だアイツは?」とギョッとする。
その反応が面白くてみんなで笑っていたけれど・・・・・若かったなぁ、今じゃ問題になりそうだなぁ。
あの時、驚かせてしまいご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

そんな思い出に浸りつつ、今回は岐阜県の板取川周辺にある洞戸村暮枝という集落(架空の土地)が舞台。
殊能将之の『ハサミ男』を読んだのはもう10年以上前だけど、面白かったことだけは覚えている。
だからこの小説に対しても期待して問題ないと思うんだけど、この分厚さには気後れしてしまう。
しかし迷っていても仕方ない。
虎穴に入らざれば虎子を得ず!奇跡の泉を目指して、鬼の隠れ潜む洞窟にいざ飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

岐阜の暮枝という集落に病を治す奇跡の泉があるらしいので取材してきて欲しい。
出版社の依頼を受けてフリーライターの天瀬はカメラマンの町田と、案内人の石動と供に暮枝へ行く。
しかし泉があると言われている洞窟は、暮枝の大地主である羅堂一族の一人、牛舎を管理する羅堂真一によって封鎖されており立ち入りすることは出来ない状態だった。
仕方なく集落を一通り取材しただけに終わった天瀬たちが東京へ帰ろうとした日の朝。
泉のある洞窟の側の木に、死体がぶら下がっていた。

あまりにも強烈な体験、あんな嘘くさい話、洞戸暮枝、仙人のすみか、ゼネコンの手先、牛は美しい、牛は醜い、青い封筒、美濃牛、凶悪な事件です、不思議な子だ、いつ発病するかわからない、わらべ唄、夜のニュースを見ろ、鋤屋和人、自動拳銃、泉はありましたよ、癌治療の大革新、不自然な誘い、夜に耐えられるか?、道順、目撃者、バブル経済崩壊、死刑にはならないよ、人間にとって大事なこと、あなたが選んだことよ・・・。

病を癒す奇跡の泉は本当に存在するのか?
凶悪な殺人事件は一体誰が、何の目的で行ったのか?
羅堂牧舎の牛たちは飛騨牛として認められる日が来るのか!?
鬼の隠れる洞窟、その迷宮を抜けた先には何が待ち受けているのか。
欲望と希望と不穏がいっぱいに詰め込まれた集落で巻き起こる数日間の大騒動。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///岐阜県民だけど知らなかった///
成り行き上、仕方なく羅堂真一の牛舎を取材に来た天瀬たち。
飛騨牛のことを何も知らない取材人に対して、その起源を熱く語る真一。
89Pより。
―――「あのな、黒毛和牛ちゅうのは、純血種の子牛を買うてきて、肥育するんや。ええか、純血種やぞ。牧舎で勝手に交配なんかできるかい。大事な安福号の血を守らんといかんのや」―――
岐阜県民だけど全く知らなかった飛騨牛と安福号。
牛は純血種を買ってきて育ててるのかぁ。なら純血種同士で交配させちゃえばなんて思ったけど、それでは遺伝子的な問題が起こるからダメってことみたいね。そりゃそうか。
2008年までに安福号は4頭のクローンが作られたみたい。
人間の食に対する欲望というか探求心は凄いねぇ・・・・・三大欲求に関わるビジネスは儲かる!

///気になる赤毛のあの娘///
羅堂真一の末娘である羅堂窓音。
何を考えているのかわからない、不思議な魅力を持った女子高生。
↓コチラは窓音の親族の通夜にて、天瀬は何故か気になる窓音の表情を盗み見てみると・・・。
339Pより。
―――窓音が顔を上げて、天瀬を見た。気づかれるほど、じろじろながめていたのだろうか。天瀬の目には、窓音がかすかにほほえんでいるように見えた。
あなた、あたしのこと、そんなに気になるの?―――
なんやこの展開は、読んでいてなぜかおじさんまでドキドキしてきちゃったやん。
ミステリアスな美少女から見つめられたら、大抵の男性は溶けはじめちゃうわよ(*´ω`*)

そんな彼女が動揺して思わず表情を崩す場面もあったりする。
↓コチラは唐突に行方をくらませた天瀬を探しに来た場面。
679Pより。
―――窓音はびっくりした顔で立ち止まり、天瀬を見つめた。すぐに顔をくしゃくしゃに歪めると、少しおこったような口調で、
「それはこっちの台詞よ!天瀬さん、だいじょうぶ?怪我してない・・・・・」―――
殺人事件が起こっても家族が亡くなっても全然へーきで普段通りだった窓音が、天瀬に対してはこんなに感情露わにして。
もうダメだ、おじさんの心はすっかり窓音ちゃんに溶かされきってしまいましたわわわ。

///当たり前のことに気づかされる///
二の橋で一人たたずむ窓音を見つけて話しかけにいく天瀬。
彼女と話しているうちに、何故これほどまでに惹かれるのか、天瀬はその魅力に気付いた。
481Pより。
―――ここではないどこかを求め、自分ではない誰かになりたがる者は、つねに裏切られる。どこに行ってもそれは「ここ」でしかないし、自分以外の人間にはなれないからだ。―――
辛い現実から目を背けて心安らぐ妄想・空想に逃げ込むのはしょうがないじゃない。
おじさんもその気持ちはよくわかるけど、けっきょく現実で生きていくしかないのよね。
自分のことを理解して受け入れて、それからどうするか考えるしかないっしょ。
(マンガ『ベルセルク』16巻でもガッツがジルに似たようなこと言ってたね)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///分厚い理由の一つがコレ///
作中の各所で音楽やら俳句やらの熱意ががっつり語られている。そーゆー細かさが物語やキャラクターを引き立たせる調味料の一つになっているんだけど、退屈しないと言ったら噓になる。
音楽でもまったく知らない曲だと何も共感できないし、俳句もまったく興味ない人には何が良いのかわからない。
もちろん『美濃牛』では知らない人でもわかりやすいように、調べやすいように語られているんだけど、なかなかなんともねぇ。
(あと連続殺人事件がメインのミステリー小説だけど、推理や捜査の描写はあんまりないのでご注意を)

///〇ジ〇ジ・パニックにゾゾゾ///
あることがきっかけで、恐ろしい場所で一人彷徨う羽目になってしまった天瀬。
そこにはあの生き物が大量に生息していた。
667Pより。
―――血が飛び、ねばついた波が立つ。波はくるくる回り出す。
天瀬にはすぐに波立つものが何かわかった。―――
この場面、想像しただけで思わず顔をしかめてしまうような光景だ。
洞窟ってアレが繁殖しやすいのかな?
そんでもってこの後の展開でさらに大量に・・・神聖なお顔を這う描写も・・・やめときゃいいのに何故か気になって画像検索してしまうおじさん、悪寒が背中を走りました(笑)

///これは誰が語っているの?///
暮枝で殺人事件が起こり、検死を終えた遺体が集落に送り届けられる場面。
運び込まれる遺体を眺める住人達の心境を次々に語ってゆく。
323~324Pより。
―――おや?羅堂家の一族に、ひとり見えない顔がある。彼女はどこにいるのだろう?窓音、おまえはどこにいる?―――
窓音に対してお熱を上げているかのような言葉で終わる語りの部分。
一体これが誰だったのかは最後まで分からず物語は終わる。
作中で窓音を気にしているのは天瀬と・・・・・読者のおじさん・・・・まさかのワシ目線!?


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
主に主人公である天瀬メインの三人称視点で語られるけど、話が進むほど様々な登場人物にスポット移動して物語が進んでいく。
とにかく文字数が多くて長い!そんでもって色んな事について語られている全編なんだけど、わかりやすいし読みやすいのよ。これが平易に書く天才ってことなんじゃないかと思った。

あと舞台が岐阜という地元県ってこともあって親しみやすかったわ。
架空の集落で展開する神秘の泉と殺人事件、その土地に語り継がれる伝承と地主一族の美少女!
もうおじさんの好奇心はそそられまくりで、エロ本を前にした学生時代のトキメキを思い出しちゃうくらいイイ設定だわさ(*´▽`*)

///話のオチはどうだった?///
殺人事件の真相としては、今回もしてやられちゃったよ。
鋤屋和人が最後までまったくわからなかったし、行われた行為も恐ろしく非道なものだったし、本の分厚さに相応しいクオリティだったと感じましたわ。
思わず人を殺したくなる気持ちがあるって方が人間らしいのか、そんな感情まったく感じたことも思ったこともありませんっていう方が人間らしいのか・・・羅堂一族の血は計り知れないねぇ。

でもってもう一つのオチ。
天瀬啓介と羅堂窓音の恋の行方なんだけど、これまた一筋縄では語れないなぁ。
読んでいる最中はずっと天瀬が羨ましかったけど、読み終わってからはう~んって悩んじゃう。
天瀬よ、迷ったときは石動の言葉を思い出すんだ。
君の最後の判断は正しい選択だと思うぞい。(やっぱり窓音の可愛さには敵わんて)

///まとめとして///
全部読み終わってふと感じたのは、祭りの後のような寂しさだった。
恐ろしい殺人事件が起こった暮枝のお話なのになんでそう感じたのか?
それはやっぱり登場人物達のおかげなんじゃないかな。個性的でどこか憎めないキャラクターが集結していて、最後には散っていくってのが切なくも爽やかな終わり方で気に入ってる。
(特に保龍英利が予想外にいい奴でおじさんはお気に入りのキャラだよ)

752ページに渡って存分に、たっぷりと、これでもかってくらいに暮枝集落を満喫させて頂きました。
期待する展開をきっちり描いてくれて、ずーっと飽きずに読み続けられる文章、素晴らしいわぁ(*´▽`*)
美濃牛・・・とても美味しゅうございました。
次作の『黒い仏』も絶対読むっきゃないでしょってなわけで満読感8点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

47Pより。
―――「コール・ポーター研究会です。先輩が会長で、ぼくが副会長でした」その名前には、天瀬も聞き覚えがあった。昔のアメリカのミュージカル作曲家だ。確か、<ナイト・アンド・デイ>の作者だったような気がする。―――
コール・ポーター(1891年 - 1964年)は、アメリカ合衆国の作曲家・作詞家。
機知に富んだ都会的な詞で知られ、ミュージカルや映画音楽の分野で多くのスタンダード・ナンバーを残した。ミュージカル『キス・ミー・ケイト』は特に人気が高く、日本でも宝塚歌劇団でしばしば上演されるらしい。

48Pより。
―――遊びを楽しめる人間に育ってほしい、そんな願いを込めて、戯作とつけた。戯作者って言葉があることを知らないくらい、堅物だったんです」―――
「げさくしゃ」(けさくしゃ)とは戯作を業とする人、 小説家。 主に、江戸後期の通俗小説家をいうみたい。

52Pより。
―――そんな板取川にかかる大きなアーチ橋と、たもとに立った「円空記念館」という目立つ看板を通りすぎ、しばらく走ると、石動が車のスピードを落とした。―――
江戸時代前期の修験僧である円空は洞戸の地で入定の決意を固め、最後の作品といわれる歓喜天を彫ったといわれている。
円空記念館には最高傑作といわれる一木作り三像をはじめ、30体近くの円空仏が展示してあるそうな。

69より。
―――正岡子規も同じ思いだったに違いない。脊髄カリエスで寝たきりになった子規が、ついのすみかに定めた根岸の家の庭は、この羅洞庵の庭ほどの広さもなかったはずだ。―――
結核菌が脊椎へ感染した病気を脊椎カリエスという。 なんらかの結核性の病気 (肺結核、腎結核など)にかかった後発病するもので、わが国では20歳代が好発年齢とのこと。
上記の病気は昭和40年代にずいぶん多くみられたらしい。

205Pより。
―――都築はひょろっとした長身で、でっぷり太った渡辺とは、いいコンビだった。デブとヤセ、二人組の古典的な完成系、岐阜県警のローレルとハーディである。―――
ローレル&ハーディはかつてサイレントからトーキーの時代にかけて活躍したアメリカのお笑いコンビ。
チビで気弱なスタン・ローレルと、デブで怒りんぼのオリヴァー・ハーディによるこのチームは、日本でも「極楽コンビ」の名称で親しまれたようで。

292Pより。
―――「知り定まらぬ」のほうがいいかな、と陣一朗は思った。いや、「腰の据わらぬ」にする手もある。どちらにしても、この句は季語のない雑詠である。―――
「ざつえい」
詩歌や俳句などで、題をきめずにいろいろの事物をよむこと、またはその作品。

384Pより。
―――そこで、はなからつき合う気のない町田を残し、たったひとりで泥縄式の吟行とあいなった。―――
「泥縄式」とは普段からの準備を怠り、いざ事に直面して初めて、慌てて対処に取り組み始めるさまを形容する言い回し。
急場しのぎの俳句制作ってことかな。

458Pより。
―――仏様もありがたいよ。鬼の棲みかを知るため、高光公が虚空蔵菩薩に祈ると、大きな鰻が道を教えてくれたそうや。だから、いまでも粥川では鰻を食べない」―――
粥川あるいは粥川谷は岐阜県郡上市美並町を流れる長良川支流で、木曽川水系の一級河川
この流域ではうなぎを食べてはいけないという風習があり、また全川が一年中禁漁となっている。
上流域は樹齢が百年を超える森があり、粥川の森として森林公園と遊歩道が整備されている。
中流域には藤原高光が鬼を退治した際に用いた矢を納めたと伝わる矢納ヶ渕がある。
鰻を基本食べないおじさんにとっては、なかなか悪くない地域という印象を持ってしまう。

503Pより。
―――「わしは黛まどかの句、好きやけどなあ。ええ句あるで」

 死んだふりして浮いてみるプールかな まどか ―――
黛まどか(まゆずみ まどか)は日本の俳人で、父は俳人の黛執。
現代俳句を代表する女流俳人の一人として活躍中であり、おしゃれ吟行会など数多くのイベントの選者を務めている。
会員制句会「百夜句会」の主宰でもあり、ポルノグラフィティ新藤晴一長谷川京子はこの句会がきっかけとなって結婚に至ったとか。
ほえ~俳句がきっかけで結婚とは、ロマンティックですなぁ。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
392Pより。
―――唇をきつく結んで、宙をにらみつけると、「誰が黒に染めるか。あたし、この髪、気に入ってるんよ」
そう言って、窓音はほほえみかけてきた。
あなたはどう?この髪、好き?―――


これならいつでもどこでもどんな姿勢でもお絵描きできるってことで購入したiPadApple Pencil
使い始めて一年以上経過したけど、結局描く時はいつも机を使用している。
充電を気にするのも面倒になってきたし、これならペンタブでも良かった?なんて思う今日この頃。
でもペンタブ置いておくスペースなんて机上にはないし、いやでもしかし・・・う~む悩ましい。


作中で語られた曲も貼っておきますです。

 

It's De-Lovely

It's De-Lovely

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