忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

デブを捨てに 読書感想

タイトル 「デブを捨てに」(文庫版)
著者 平山夢明
文庫 287ページ
出版社 文藝春秋
発売日 2019年7月10日

 




<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「独白するユニバーサル横メルカトル」
・「メルキオールの惨劇」
・「ダイナー」
・「ミサイルマン


<< ここ最近の思うこと >>

人見知りだけど可笑しな人を観察するのは好きなおじさん。
ジェラードンの動画コントやウシジマくんに登場する人々など、他人が四苦八苦している様は見ていて好奇心をそそられる・・・これじゃサイテーな人間じゃねえか(;´Д`)
でもそんな人たちにも生きてきた人生がある訳で、その辺を知ってしまうともう軽々しい気持ちでみることは出来なくなる訳で、何が言いたいのかって言うとぉ~フィクションって大切なことだよねってつくづく思う訳で。

そんなこんなで、平山夢明の短編集だぁ!
沢山のお話が詰まった一冊よりも、少ない話数の短編集が好みなおじさんにとって今回の全四話ってのは非常に有難い。
2022年の雨と曇り続きの天気が終わったら、一気に酷暑の八月が来た。
ヘロヘロになりつつある気分と体調にバチっと気合の入るストーリーをぶち込まないと。
ではでは、予想もつかない表題とその奥から漂ってくる残酷な匂いに誘われて、血も涙もなさそうでありそうな世界に飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

「いんちき小僧」
キャラメルを盗むことに失敗した俺は公園で店員に殴られた後、首を吊ろうとしているジュンイチローに出会った。
些細なことから取っ組み合いになり、お詫びとしてジュンイチローはラーメンを奢ると言う。
眠りから覚めると、そこにジュンイチローの姿はなく代わりに学帽の小僧がいた。
それから俺とジュンイチローと学帽小僧の奇妙な共同生活が始まる。
ある日、俺は二人の仕事を手伝うことになるのだが、それは怪しく危険な香りの内容だった・・・。

9Pの<気の交換>に思わず苦笑い。無駄にユーモアのある言い方が憎いね。
それと31Pの「虫下し」にも共感しちゃったよ。ほんと、そーゆー真似を思わずしちゃいそうになる瞬間ってたまにあるよね。(あれ、もしかしておじさんだけ?)

「マミーボコボコ」
カモやんは同僚のおっさんに頼まれて、三十五年前に見捨てた娘の元を尋ねる旅に同行することに。
東京から新幹線で一時間半ほどの田舎へ着くと、なぜかテレビ局の人間が迎えに来ていて、おっさんは娘との再会をカメラが回る中で決行させられる。
そのまま訳も分からずテレビスタッフに付いていき、カモやんも娘の自宅へと入っていく。
一面に散らかった室内には七男五女の子供が詰め込まれており、娘一家はテレビ局で十五弾も続く大家族番組の主役だった。そして取材に同行するカモやんとおっさんは、テレビ番組では見えない現場をいくつも目撃していく・・・。

97Pにて耐子が語る産む理由が衝撃的でもあり悲しくもあった。もちろんこの話は作り話で読者が熱中するように脚色されているんだろうけど、もうあの番組を楽しんでみることは出来ないだろうなぁ。
(つーか、あーゆーのを好んでじっくり見たこともないんだけどね)
でも安心してください未読の方々よ。
最後はバッチリ決めてくれる締め方だから。おじさんは思わず涙がちょちょぎれそうになっちゃった。

「顔が不自由で素敵な売女」
ひょんなことからマンキューの店で働くことになった俺は、呼び込みに騙された風俗店で頭部の禿げた嬢と知り合い、なんだかんだで飲み仲間となった。
ささやかながらも平和な毎日を送っていた三人の前に、初老の男が現れた。
その日からマンキューの様子がおかしくなり始め、三人の平穏は崩れていく。
軌道に乗り始めていた店は荒れ始めマンキュー自身も壊れていき、初老の男は毎日飲みにやってくる。
ある日、マンキューがやって来て飲みに行こうと誘われた。
そして俺は初老の男とマンキューの過去を知ってしまう・・・。

152Pのしんみりした場面が強く印象に残る。おじさんも落ち込んだ時に「でべそ」へ行きたくなる。
第四話を前にして気持ちを落ち着かせるためのような物語かと。
良く言えば一番まともな話、悪く言えば一番山のない話。
でもおじさんはこの三人のことをよく思い出すんだ。

「デブを捨てに」
借金を払えなかったジョーは過去に折られた腕と同じ部分を再度折られる代わりに、デブを捨てに行く仕事を任せられた。そのデブは金主であるゴーリーの妾の娘で、醜く何もできない存在が煩わしかったらしく、かといって黙って捨てることも出来ずにいたと言う。
二度目の骨折を免れたジョーは言われたとおりに仕事に取り掛かる。
しかし用意された車に乗っていたのは、彼の想像を軽く超えてしまうようなデブだった・・・。

184Pのデブに対する罵倒が酷いのに笑える。
「元祖クソ豚野郎ラーメン」の客に対する態度も酷いのにニヤニヤしちゃう。
それに250Pの「儂なら行くな」ってところもカッコイイ・・・。
これぞ表題作&最終話に相応しい、バルクぱんぱんに詰まった極上の物語だった!


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///有名なあの場面が蘇る///
テレビ取材の為に遠地で働いている子供を呼びつけた父親の太乃士だったが、彼らに差し出された報酬はあまりにも少なかった。
抗議する娘と息子に対して、独自の言い訳で煙に巻く太乃士だったが胸を突かれて謝罪を要求された時、それは起こった。
74P~75Pより。
―――すると太乃士さんはその場で膝をつくとふたりに向かって土下座をしたのです。それは高速的、一瞬の速さで、気がついた時には立ち上がっていましたが、確かに土下座をし、「はい。ごめんなさい。これでいいか!」と怒鳴り返したのです。―――
読んでいてその姿を想像し、思わず吹き出しそうになってしまった。
平山センセイはこんなギャグのセンスも御持ちなんですねと驚いたんだけど、後に会社の後輩にこの場面を話したところ、それはまさしくビッグダディが使っていた技だと説明された。
その日にネットで調べてみたところ、後輩の言う通りにダディがクイック土下座を(笑)
いや~、流石ですねぇ。

///気の置けない関係が伺える罵倒///
マンキューが営む居酒屋「でべそ」にて、俺とゝゝ美の三人はダラダラと飲むのが習慣となっていた。
いつもの夜に、仕事で客に蹴られ頭部に怪我をしたゝゝ美をマンキューが手当てをしようとする場面。
127Pより。
―――「あ、ちょっと痛いよ!」「すまんすまん」
「禿の癖に怪我しやがって、偉そうに怒るな!禿はケガねえんだぞ!」
「あんた、本当に性根が曲がってるね」―――
主人公である「俺」の台詞が酷い、全国の禿げている人たちに対してなんて酷いことを言うんだ。
読んでいて思わずニヤケてしまうような罵倒はいけないと思います。
この台詞はいつか友人の一人に対して言ってやろうと思いました(゚∀゚)
「でべそ」の名前の由来も凄く素敵だと思った。こーゆーことを書ける平山夢明のセンスに脱帽だよ。

///吐き気がするほどスカッとする///
車の修理費を稼ぐ為、ゴテゴテの餅最中を二百個食べたら十万円を貰えるという企画に参加したデブ。
餅とチーズ、餡とカスタードクリームとジャム、仕上げにチョコレートでガチガチにコーティングされた餅最中を次々と平らげていくが・・・。
227Pより。
―――次に顔を上げたデブが口を開けるのと茶饅頭の<かんにんどすえ~!>と叫ぶのが同時だった。―――
「かんにんどすえ~!」じゃねえよ!喫茶店で読んでいて思わずフヒって声出ちまったわ(笑)
もう想像するだけで込み上げてくるモノがある場面。
未読の皆様は絶対にモノを食べながら読まないことをオススメします。
(この食いっぷりで思い出すのはフェチズムの誌である「食べメイド」、はたまたウマ娘の「オグリキャップ」か)


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///自前で工夫すれば多少は・・・///
呼び込みに騙されてハズレ嬢に仕事をしてもらっている俺。
サービスの最中に嬢はやたらと頭部を搔きまくり、仕事に集中する為ソレを外した。
117Pより。
―――「このなか熱いでしょ。すぐ蒸れて痒くなっちゃうの」女そう云うと河童そっくりの頭を爪でがりがりと引っ搔いた。―――
隙間に目の粗いガーゼとか網状の物を挟んだら少しはマシになるんじゃないか?なんて思った。
密閉状態になってしまうのなら針とかで小さい穴をいくつも開けるとか。
でもそんな対処じゃ焼け石に水って感じなのかもね。

///読むだけで苦痛を感じる///
普段からジョーのことを憎たらしく思っているケムリは、今回もジョーの腕を折ることを楽しみにしていたのに運よく助かったことで怒りが収まらない様子。
その矛先は近くにいた猫の親子に向けられる。
174Pより。
―――「あれを捕まえてこい」ケムリはアパートのゴミ捨て場に顔を突っ込んでいる猫の母子を指さした。
「ガキの方で良い」―――
子猫があんな目に・・・この部分は本当に読んでいて辛い(>_<)
ケムリみたいなヤツならどんなに酷い目にあっても気にしないのに、マンキューのような良い奴がいびられ続けるなんて、どーなってんだこの世の中。
でも悪人を徹頭徹尾の悪人として作り上げることは大切なことだよ。
昔はみんな良い子ちゃんだったとか、そーゆーのじゃヌルいしツマランでしょ。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
1~3話までがどれも同じくらいの長さで、最後の4話である「デブを捨てに」が一番長かった。
書かれている文字が大きくて読みやすいけど、1ページに収まっている文字数が少ないから想像よりも早く読み終わっちゃうのが嬉しいような、寂しいような。

今回はホラーじゃなくて、目から鱗が落ちちゃう系のお話が揃っている感じかと。
SFやオカルトの要素はまったく組み込まれておらず、かわりに社会的弱者が全てにおいて主軸に置かれたストーリーだね。でもおっかない反社的な悪人たちはバッチリ登場するから安心を。

///話のオチはどうだった?///
全話とも「救い」のような展開が含まれているのが意外だった。てっきり怖いバッドエンドなお話ばかりだと思っていたのに。
でもでも全然物足りなくない。むしろコレはコレで新しい充実感で満たされるわ。
それにバッドエンドじゃないってだけで、グロもゲロもバイオレンスもたっぷりデコレーションされているから未読の方はお楽しみに(^-^)

んでもって、どの話も「大人のための絵本」って感じの結末だったなぁ。
おじさんは今まで、見たいものしか見ていなかったっていう事実を突きつけられた気分。
厳しい現実世界では考えたって仕方ないことばかりなのに、ふとした瞬間に思い返して悩んじゃうようなお話ばかり。
この小説を読んだ後、アナタには世界がどんなふうに見えてますか?
おじさんには・・・う~ん(´-ω-`)

///まとめとして///
年を取るにつれて、人生は結果が全てだと思うようになっていた。
ならば結果を出せなかった人間の人生は無意味で輝く瞬間など無かったのか?
この小説を読んだ今、そんなことはないと断言せざるを得ない。
どんな人間でも信念の選択をした瞬間、行動した瞬間、尊い思想によって輝く瞬間がきっとある。
世界が味方している側の人だとその瞬間がよく見えないけど、どん底の人生を生きる人々だからこそ一層強く美しい輝きが溢れるんじゃないかと思った。

はわわぁ~、久しぶりに時間が経つのも忘れるほど熱読しちゃったよ(*´ω`*)
4話どれも味が強すぎるから、耐性ない方は連続ぶっ続けで読まないよう気を付けてくださいまし。
平沢夢明の短編は、一話に付き一時間の休憩を挟むこと!
パンチ効きまくりで食べ終わったら後悔するのに、なぜかまたすぐ食べたくなってしまう。
まさしく元祖クソ豚野郎ラーメンみたいな満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

9Pより。
―――女はちょっと前に横綱を辞めた外国人に似ていた。そいつは横綱の癖に故郷で銀行も経営しているとかいう、まわしを締めた地上げ屋のような厭な奴だった。―――
相撲に興味のないおじさんでも覚えている第68代横綱の現在は、故郷のモンゴルにて実業家、モンゴル国投資銀行の経営者、タレント、コメンテーター、評論家、映画俳優、慈善家として多方面で活躍しているようで。
なんかいろいろあったようで、頂点に立ったスポーツマンは大変だねぇ。

23Pより。
―――「おいおい。そいつぁ、なんだ」ジュンイチローが枝に刺してきたものを風呂敷に投げ込む。
「犬の糞じゃないか」
「オッケー、オッケー。シャレオツ、シャレオツ」―――
シャレオツとは「お洒落」を逆さにして、いわゆる業界用語風にした語。
他にも「お洒落」、「似合っている」などの反対の意味で皮肉として使われたりもしているとか。

147Pより。
―――「原作は山本周五郎丹波哲郎が出てて、あれは良い映画だった」―――
「ひとごろし」は1976年10月16日に公開された監督:大洲齊、主演:松田優作の映画。
誰も怖くて申し出のない上意討ちを藩一番の臆病者が独創的な方法を駆使してやり遂げる、山本周五郎の同名小説を映画化した作品らしい。

172Pより。
―――車に近づくとシュロの木のような大きな頭がぐるりと動いた。―――
シュロの木は細長い葉が大きく広がる常緑樹。南国をイメージさせる細長い木だね。
つーかシュロの木のような頭ってどんなんだよ(笑)

184Pより。
―――夏は暑苦しくて殺したくなるし、冬は根雪みたいで自殺したくなる。―――
根雪とは、冬のあいだ積雪状態が続くことを指す用語で、気象庁では長期積雪と呼ぶみたい。
他にも降り積もった雪が春先まで消えずに地面を覆っている状態のことを言うらしい。

197Pより。
―――「終わったでげすが。ラジエーターホースが、いかれてるでげす。部品交換と技術料込みで一万円に負けるでげすが」―――
ラジエータホースはエンジン冷却液をエンジン本体からラジエータへ供給し、再びエンジンへ 戻す回路に適用されるゴムホースのこと。
この店員は「げす」が語尾なのか(笑)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
165Pより。
―――ケムリが狙いを定めるようにバールを一度、俺の腕にくっつけた。鉄の冷たさがそのまま恐怖に変わる。―――


竹匠紅萬堂での惨劇を選ぼうかと思ったけど、あの場面を書ききる実力がない&書いている途中で気持ち悪くなっちゃうかもって、ひよってしまいました。それにアソコは未読の読者たちに全力で味わってもらいたいからね( ^)o(^ )
っていうかしまったー!!ジョーが折られた腕は右腕だったのかよ、左腕で描いちゃった。
どん底のぞこだぁ~(涙)
だがおじさん思いついちゃったのにょ。デジタルデータなら画像を反転させれば・・・・・。
出来たぁ~。見事に右腕になりましたでげす。