タイトル 「そして、バトンは渡された」(文庫版)
著者 瀬尾まいこ
文庫 425ページ
出版社 文藝春秋
発売日 2020年9月2日
<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・今回の「そして、バトンは渡された」だけ
<< ここ最近の思うこと >>
餃子といえば思い出すのは、何年も前に友人らと開催した手作り餃子パーティーだ。
野菜をみじん切りするところから始めて、一つ一つ餡を包んでホットプレートでドカドカと焼き上げる。
酒も飲みつつ食べ始めたけど、生産し過ぎて翌日の朝食も餃子になってしまったのが良い思い出。その時もポテトサラダを変わり餡として包んだ者がいたけど、すぐに飽きて残り物処理の押し付け合いに(笑)
教訓として、餃子の餡にポテトサラダは合わない!このことを忘れないでください。
てなわけで今回はコチラの小説。
22年12月24日、数年ぶりにドカッと雪が積もった日に読み始めたこの物語。
書店やらCMやらでよく見かけるタイトルだったけど、なぜか読む前から涙を誘う予感が止まらなかったからすぐに購入しておいたのね。とはいえ期待しすぎるのは厳禁ヨ。
ではでは、92.8%が泣いた!令和最大のベストセラー!などなど眩い謳い文句に小さく期待しつつ、幾人もの親と過ごしてきた少女の人生に飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ
<< かるーい話のながれ >>
高校生二年生の森宮優子は困っていた。
担任の向井先生は進路面談の席で優子に悩みや困りごとは無いか尋ねているのだが、彼女自身には全く心当たりがなかったから。向井先生は優子の特殊な人生と家庭を心配してくれているのだ。
幼い頃に母親を亡くした優子は父親と二人で暮らしていたのだが、彼女が小学二年生の時に梨花という女性が現れて父親と結婚した。自由奔放で魅力的な女性の梨花は優子の二人目の母親となり、家族三人で幸せな生活が続くと思われたのだが。
サンドイッチにしよう、十分同情に値する、最強の食べ物だ、球技大会実行委員、すごくラッキーなんだよね、ブラジル、たくましくあること、二十万円、傲慢なところ、ピアノ、やっぱりダメだわ、親選手権、どっちでもいいよ、父親だししかたないか、明日が二つ、反対だから、結婚は勢いだから、親めぐりの旅、なんとかしたいとき、お父さんだけです、被害届、バトンを渡す時だ。
血の繋がらない他人たちがまるでバトンのように優子を受け継いでいく。
その奇妙な人生の中で逞しく真っ直ぐに成長していく優子は常に優しさに包まれていた。様々な経験を経て短大を卒業し社会人となった優子の人生は、ほどなく次の者へ受け渡される時が迫っていた・・・。
<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>
///打ち寄せる涙のさざ波///
感動の物語として宣伝されているこの小説。
序盤からちょいちょい涙を誘う場面があったけれど、こぼれ落ちそうになるのを何とか耐えれた。
だけど308Pから描かれている高校卒業イベントはヤバかったよ。
マジで人前じゃなかったらポロリと落ちてたわ。
316Pより。
―――森宮さんと暮らし始めて、三年。その年月が長いのか短いのかよくわからない。親子という関係が築けたのかは不明だし、この先何年暮らそうとも森宮さんをお父さんとは呼べそうにはない。ただ、私の家はここしかない。―――
ただでさえウルッとくるシチュエーションの卒業式。
生徒一人一人に向けた担任の手紙も良かったけど、優子自身の変化にやられた。
今まで人生に振り回されてきた優子は、環境に抗うことなく受け入れて生きてきた。
そんな彼女が自分の意志でこうありたいと望んだ瞬間に感動のビックウェーブが到来したね。
誰が何と言おうと、この二人は完全に完璧な親子であり家族でしょ(`・ω・´)
///この物語に深くかかわる言葉///
安いアパートで梨花と二人暮らしをしている小学生の優子。
そこの大家は一人暮らしの老人で、優子に対して野菜やお菓子をくれたり話し相手になったりと良くしてくれていた。ある日、大家は来年になったら施設に入ると打ち明けてきた。
152Pより。
―――「本当だよ。老人ホームにはお年寄りのお世話をするプロがいっぱいいるんだから。それに、親子だといらいらすることも、他人となら上手にやっていけたりするんだよね」
「そうなのかな」
親子より他人とのほうがいいことがあるなんて。私には、ピンとこなかった。―――
大家の言葉に納得した。
家族だから素直に言えない、他人だから気兼ねなく言える。
他人同士の優子と親たち、他人同士の老人と介護士。
じゃあ何事も他人同士の方がいいじゃんってことじゃなくて、そーゆー部分もあるってことなんだよね。
その辺を踏まえて読んでみると、より一層わかり味が増すんじゃないかと。
///こんなん言われたらワシでもオチてまうわ///
優子と婚約者は最後まで結婚に反対している森宮を説得しようとする。
森宮以外の元親たちは二人の結婚に賛成しており、一人で反対し続ける森宮もついに諦めて祝福はできないが反対はしない、というスタンスになるのだが・・・。
403Pより。
―――「水戸さんや泉ヶ原さんに梨花さん。他の人にどれだけ祝福してもらっても、お父さんに賛成してもらわないとどうしようもないです」
「だから、風来坊にお父さんと呼ばれる筋合いはないと言ってるだろう」―――
婚約者の人物像を知る限りたしかにコイツは風来坊と言われてもしょうがない奴だ(笑)
娘の父親なら結婚に難色を示すのは当然だと思う。
だけど、そーゆー理屈を全部吹き飛ばしちゃうくらいの何かが優子を射抜いた訳で、この後に続く言葉がおじさんの心も射抜いたわけで。キッチリ決めてくれるじゃないか(*´ω`*)
<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>
///こ、これが最近の若者なのか///
高校での球技大会実行委員を決めるホームルームにて、差出人不明で「一緒にやろう」と書かれたメモが回ってきた優子。
戸惑っている間に立候補者の挙手が始まって、一人の男子生徒が手を挙げた。
53Pより。
―――「じゃあ、俺やります」
と浜坂君が手を挙げた。
さっきの手紙って浜坂君だったのかと私が顔を向けるのと同時に、
「森宮さんと一緒に」
と浜坂君が付け加えた。―――
最近の学生はこんなやり方でアピールしてくるもんなのか!?それとも浜坂が異常なだけなのか(笑)
それと優子の友達である萌絵に対しても同じような疑問を持った。まさか縁のある友人に「告白」を全部お任せしてしまうとはねぇ・・・時代の流れは速すぎるし予測できないわ(^^;)
それからもう一つ。
クラスのムードメーカーでアクティブな性格の浜坂についてアレ?ってなったことがあった。
優子がクラス内でトラブっている時になんにもアクションを起こさなかったのが気になったし。
心配はしてたけど、関わりにくくなっちゃったのかな?
それとも優子自身の固有スキルで全然気にしていないってふうに見えていたのか?
///言ってあげなよ優子さんや///
気を使い過ぎて伝えたほうが良いことも口に出せない優子。
そのせいでトラブルになることも・・・。
話の展開上、仕方なくこうしているだけなのかも知れないけれど、ムズムズするやり取りに「ソレをすぐにスパッと説明すれば済むことじゃ~ん!」て一人ツッコミをしてしまうおじさん(;´Д`)
優子の友達の萌絵がある男子生徒を好きになってしまい、気持ちを伝えてきて欲しいと頼ってきた。
なぜなら意中の男子生徒は優子と少し縁のある人物だったから。
しかしそのことが優子にとっては悩むべき部分でもあり、萌絵の気持ちを伝えることはできなかった。
94Pより。
―――「なんで?」
「なんでって、なんていうか、その・・・・・」
「私が好きだって伝えるだけじゃん。うまく言えないって、何が?どうして?」―――
惚れた女に他の子を紹介される男の気持ちってやつをちゃんと説明してあげればいいのに。
優子にとって萌絵は大切な友人だから変に気を使って説明しにくくなっちゃったのかなぁ?
続いてコチラ。
高校最後の合唱祭に向けてピアノ担当となった優子は課題曲の練習に精を出す。
二名ずつ行われる学校での伴奏練習で、優子は早瀬という男子生徒とペアになる事が多かった。
227Pより。
―――それはきっと、早瀬君のピアノがうますぎるからだ。他の伴奏者は私と違って、本格的にピアノをやっている人がほとんどだ。並べて弾かされたんじゃ、たまらないんだと思う。
「考えすぎだよ。嫌われてなんかないって」―――
ここんところもそうだね、考えたことをそのまま伝えてあげればいいだけなのでは?って思った。
別に失礼なことでも相手を傷つけることでもないんだし。
アレかなぁ~?この時点でもう早瀬は優子にとって何でも気にせず言える相手ではなくなっていたってことかなぁ~(*´ω`*)
<< 読み終えてどうだった? >>
///全体の印象とか///
年頃の女の子の心情に理解できない部分もあったけど、わかりやすい文章やスパッと切れ味の良い優子の性格が幸いしてか退屈せず読めた。
食べ応え、じゃなくて読み応えパンパンだと思ったら425ページもあるお話だったのね。
読む前に実写映画の予告を観ていたから、主人公の親がコロコロ変わることには何か特殊な特別な理由がるに違いない!それが分かった時もう涙が止まらない感動が!!?って想像していた。
だけどそんな突飛な設定などなく、物語は至極まっとうな常識の範囲内で進んでいったことがちょいと予想外でもあり、残念でもあり、それなのによくこんなにも心震わすお話に出来たなと驚きでもあった。
///話のオチはどうだった?///
あっと驚くネタがある訳でもなく、予測もつかない展開になるわけでもない。
常にあったのは幸せになってほしいと言う願いだったね。
作中の登場人物達、そしておじさん自身も願い続けた結末は訪れたのか?
その辺は是非とも読んでみて確かめてみるがヨロシ(゚Д゚)ノ
ちなみにおじさんは小説を閉じた時、言葉で表現するのが難しいくらいの暖かい気持ちになりましたわ。
なんにも特別な展開はないと書いておきながら、この小説の作りには一本取られたって脱帽したのよ。
本当に終盤に差し掛かってから、あぁアレはコレだったのねと気付いた時、おじさんの目から悲しくないのにシャドウぽろぽろ涙が一粒零れてしまいました。
この溢れてくる感情を人は感動と呼ぶのだろうか(ノД`)・゜・。
もう一度、ページをパララララっと桐山君ばりに捲り戻してしっかり読み直したくなる仕掛けだわ。
///まとめとして///
食べ物=食欲を満たすものと考えるのが普通だと思う。けどこの小説はその先を見越して料理=幸福ということを理解させてくれた。美味しい料理と供に語られる暖かい幸せなエピソードがおじさんの荒んだ心の器を満たしていくのを感じたよ。その代償として食欲が増すけど腹は満たされないから、この本を読む時は美味しい物を用意しておくのがよろしいかと。
何か知らんけど最近はネットでレミオロメンの3月9日をよく聞いているおじさん。
『そして、バトンは渡された』を読み終えた今、はっきり断言したい。
超個人的な感想として『そして、バトンは渡された』にベストマッチな曲は3月9日に決定っしょ!!
でも映画の方を観てみたらやっぱり主題歌の方がイイねって思っちゃうかも(笑)
そんなわけで、また気の置けない友人らとギョウザ・パーリィーをやりたくなるような満読感、頂きました。(もうポテトサラダは禁止のルール追加で)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。
<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>
『そして、バドンは渡された』は2019年に本屋大賞を受賞。
TBS『王様のブランチ』ブランチBOOK大賞2018や紀伊國屋書店・キノベス!2019などでも大賞を受賞しているようで。
『そして、バドンは渡された』は2021年10月29日に実写映画化もしている。
原作とは内容が少し変わっているようで、より泣かせる物語になっているのかな?
その変更が吉と出るのか凶と出るのか・・・。
さっきはレミオロメンの3月9日がぴったりって書いたけど、映画の主題歌をちゃんと聞いてみたらコッチも合うじゃないの。SHE'Sの「Chained」ね、さすがインスパイアされた楽曲だわ。
182Pより。
―――私がいる二組が歌うのは「ひとつの朝」。去年の三年生も歌っていたから耳にしたことがある。緩やかに始まってだんだん力強くなっていく合唱らしい壮大な曲だ。―――
「ひとつの朝」は片岡輝作詞・平吉毅州作曲の合唱曲。
片岡はこの組曲を「いま、若さのまっただなかにいるあなたへ、若さを若さのまま存分に生ききってほしいという願いを込めて捧げるオマージュ(賛歌)です」と述べているようで。
題名だけで聞いたことあるかもって思ったけど、YouTubeで聴いてみたら知らない曲だったはは。
188Pより。
―――五組の合唱曲は「大地讃頌」。―――
「大地讃頌」は1962年に大木惇夫の作詞、佐藤眞の作曲により書かれた「混声合唱とオーケストラのためのカンタータ『土の歌』」の終曲。
本来は前述のように『土の歌』を構成する楽章の一つなんだけど、この曲のみ単独で歌われる機会も多く、現在では中学校の合唱コンクールや卒業式などでも歌われている。
おじさんのいた中学も合唱に力を入れていた学校で、大地讃頌も散々歌わされたなぁ。
個人的な感想だけど、音楽や合唱の先生ってわりかしユーモアがある人が多かった気がする。
フレッチャー先生のような恐ろしい人に出会わなくて良かった。
213Pより。
―――ロッシーニ。音楽の授業で有名なオペラの作曲をした人物だということは習った。―――
ジョアキーノ・アントーニオ・ロッシーニ(1792年 - 1868年)はイタリアの作曲家。
美食家としても知られる。
彼は若い頃から料理が(食べることも作ることも)大好きで、オペラ界からの引退後、サロンの主催や作曲の傍ら、料理の創作にも熱意を傾けた。フランス料理によくある「○○のロッシーニ風」は、彼の名前から取られた料理の名前で、料理の名前を付けたピアノ曲も作っている。
ちなみに料理のロッシーニ風とは、フォアグラとトリュフを組み合わせた料理ってことらしい。
う~ん贅沢な一品ですねぇ。
249Pより。
―――森宮さんは前奏の間、「いったい何?」「え?うそだろう。なんで知ってるの?」と言っていたものの、メロディが始まると、ぼそぼそと歌詞をたどるように歌い始めた。―――
この曲は元来、1992年に天理教の4代真柱である中山善司の結婚を祝して作られた楽曲で、彼女はほどなくしてこのパワー・バラードをレコーディングし、通算20作目となるスタジオ録音作『EAST ASIA』を締めくくるナンバーとして同年の10月に公式に発表したとのこと。
この小説のこの場面で、この選曲は禁じ手でしょう(; ・`д・´)
作中のいろんなことを思い出すだけで瞳が潤んできちゃうじゃんよ。
言わずもがなって名曲!みなさんもきっと聞いたことがある筈だ。
281Pより。
―――「ギター弾きながら歌うのって気持ちよさそうだもんね」
「だよな。ジェイソン・ムラーズとか弾いてみたいし」―――
ジェイソン・ムラーズは、アメリカ合衆国・ヴァージニア州メカニックスビル出身の男性ミュージシャン・シンガーソングライター。
有名な曲「I'm Yours」は世界各国でNO.1を獲得し全米だけでセールス100万枚を突破した。
また同曲は第51回グラミー賞で最優秀楽曲賞と最優秀男性ポップ・ボーカル賞にノミネートされた。
「I'm Yours」は何度も聞いたことあるね、この人が歌っていたのかぁ。
329Pより。
―――「この豚汁って甘いですね。どんな味噌使ってるんですか?」
「九州の味噌だから少し甘いんだよ。それに玉ねぎとさつまいもが入ってるからね」―――
九州地域では米が取れにくく代わりに麦の生産が盛んだったため、麦を麹にした麦味噌がつくられるようになったと言われているようで。
あとは鹿児島の方で、もともと漁師だった「横山栄蔵」って人が100年前に甘い味噌や醤油を造りだしたって話もあった。
麦みそは甘口なのかぁ。そういや会社の後輩君も出身地は鹿児島で、愛知の濃い味付けに驚いていたなぁ。鹿児島の料理はもっと甘口のものが多いんですって言ってたのを思い出した。
356Pより。
―――「アンドレ・ギャニオンのめぐり逢いという曲です。耳に心地いいから、よくお店で使われてるみたいです」―――
「めぐり逢い」はカナダの作曲家アンドレ・ギャニオン が1983年に発表したピアノ曲。
アンドレさんは世界的にブームになったヒーリング音楽、イージーリスニングの分野において名を馳せまた親日家としても知られているみたいね。
あ~この曲か、たしかにどこかで聞いたことあるぞ。どこで聞いたのか全く思い出せないけど(^^;)
411Pより。
―――流れてきた曲はどこか懐かしい響きがする。
「何の曲だっけ?」
私が聞くと、
「だから、これが麦の唄だよ」
と森宮さんはお茶を入れ直しながら答えた。―――
「麦の唄」は2014年10月29日に発売された中島みゆき44作目のシングル。
NHK連続テレビ小説『マッサン』の主題歌として製作された楽曲として有名だね。
もっとずーっと昔に作られた歌かと思っていたけど、リリースされたのが2014年だったから驚き。
それとドラマ「マッサン」が2014年にスタートしたドラマだったことにも驚き。
つい最近だったと思っていたのに・・・時の流れは速すぎるねぇ。
<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>
今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
330Pより。
―――「すごいよ。森宮さん、音楽もやって料理も作って、まさにロッシーニだ」
早瀬君はそう言うと、私の手を取って握手をした。
そのとたん、私の中に高校生のころの思いがあふれだした。―――
あまぁ~い!!感情が激しく乱れることの少ない優子が思わず照れてしまうほどの動揺だと!?
このギャップがたまらんとよ、読んでいておじさんもキュンしちゃいましたわ。
(なんか男の方がかなりデカくなってしまったけど・・・ままま、しゃーない)
つーかこの『そして、バトンは渡された』って題名が良いのよね。
個人的には『崩れるのを抱きしめて』に続く優秀題名賞をあげたいくらいだ。