忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

彼岸の奴隷 読書感想

タイトル 「彼岸の奴隷」(文庫版)
著者 小川勝己
文庫 493ページ
出版社 角川書店
発売日 2004年5月1日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・今回の「彼岸の奴隷」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

少し前にkindle版『殺し屋1』をまとめ買いした。
ずっと昔に単行本で持っていたけど、穴が開くほど繰り返し読んだからってことで売却したのよね。
そのマンガに登場するドマゾの垣原というヤクザがとにかく強烈で魅力的なのよ。
ヤクザ組と殺し屋の戦いなのにSとMの本質を深く語っていたマンガだったなぁ。
ってな訳で、今回はまとめ買い小説の最後になるコチラ。

ネットの評判を見てチョイスしてみたけど、表紙から漂う暴力性バンバンな雰囲気にワクワクしつつ残しておいた一冊。
ページの中にはどんな恐ろしい世界が待ち受けているのか、いざ狂気のクライム・ノベルワールドに突入するぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

手と首を斬り落とされた女の死体が発見されて、捜査一課の蒲生信昭は所轄の刑事・和泉龍一とコンビを組み捜査を開始する。
遺体の身元が判明して、被害者の娘である大河内涼に聞き込みをするのだが、蒲生は和泉の様子がいつもと違うことに気づく。
一方、和泉は付き合いの長いヤクザの若頭である八木澤にある人物を探し出してほしいと依頼していた。

グロックG17、正真正銘の狂犬だ、ヴィデオテープ、こういうの好きかい、典型的な転落劇、いつから人間食ってるんだ?、シライシ、出産記録、人のオモチャ横取りすんじゃねーよ、なぜ発砲した、ライフルマーク、千五百円、人間の残骸、もうどこにもやるものか、ぼくと同類だよね、こっちの水は甘いぞ、ドウシタイノ、大きくならないね、これが事実だ、くそったれ・・・。

なぜ遺体は手と首が切り離されていたのか?
どこかズレている大河内涼の本心は一体?
一匹狼の和泉と、他人を気にしない蒲生。二人の過去には何が隠されているのか?
彼岸の欲望に囚われた者達が疾走するその先に待ち受けている結末とは・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///型破りでイっちゃってる八木澤の所業///
若くして花井組の若頭である八木澤。援助交際のシマを乗っ取って臓器密売により成り上がった才能ある青年だが、その精神は常識を逸脱していた。
112Pより。
―――八木澤がかつて所有していたマンションの一室。グラスを片手にずらりと並んだ紳士たち。彼らの視線の向こうには、両脚を大きく開いた格好で分娩台に横たえられ、泣きじゃくっている女がいた。―――
八木澤が所有する通称「生産工場」が壮絶だった。
生と死が繰り返されて、その作業自体もエンターテイメントな演出で金に換える。
もちろん人権や道徳なんてものは一切存在しない。
フィクションだと思いたいけれど、世界中のどこかしらでは似たようなことが今も行われている気が汁。
(コアなエロ漫画でも似たようなシチュエーションが、あるようなないような・・・)

///愛情の形は人それぞれ十人十色///
和泉のことを同類だと信じて仲良くしている八木澤。
おぞましいショーを見学しながら八木澤は自身の恋愛観を語る。
117Pより。
―――「人の肉云々じゃないんです。大切なものを食べてしまいたい、そう思うことのどこがおかしいんです?根拠は?」
「根拠はって・・・・・」
「昔どこかのガキが、どうして人を殺しちゃいけないの?なんて聞いたことがあったでしょう。同じですよ。どうして好きな相手を食べちゃいけないんです?」―――
思い出したのは最近読んだ『噂』とマンガの『殺し屋1』にでてくる言葉。
特に『殺し屋1』の垣原なんてほぼ同じことを言っていたし、実際に拳や足に噛り付いてたし(;'∀')
さらに読み進めていくと、どうしてそんな考え方になるのか八木澤の口から語られている。
その言葉を聞いておじさんも「あぁ、なるほど」ってちょっと納得しかけた。
実際に火葬した死者の骨を食べる習慣とかも昔はあったらしいし。

///痛みの拷問が駄目ならインパクト狙いで///
暴走する和泉は図屋の鬼頭の家に押しかけて、あることを聞き出すために暴力を振るう。
しかし覚醒剤とその他諸々の影響で鬼頭の反応は鈍くなっていき・・・。
332Pより。
―――鬼頭は何も言わず、床の上で悶絶し続けている。
「答えろっつってんだよ。わかってんのかよ、亀頭」
和泉はナイフを取り出すと、鬼頭の右手小指に刃を当てた。―――
トンデモナイことを・・・・・はわわわわ(´゚д゚`)
そういや『ダイナー』でもカウボーイが同じ目に合っていたか。
自身のあんな姿を見せられたら発狂しちまうっての。
(その後キトウがどうなったのかわからなかったけど、最後のほうで語られてたわ・・・合掌)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///この設定に何か意味はあるのだろうか///
和泉龍一が食事を終えて店主に勘定を求める場面。
18Pより。
―――「はい、申しわけありません、ええと・・・・・ビール大瓶二本、チャーシューメンに味噌ラーメン、ニンニクラーメン、チャーハン大盛りにギョウザが二皿、ゆで卵が四つ・・・・・と。四千と百七十円になります」―――
食い過ぎでしょうよ和泉さん(笑)
めちゃくちゃ食べるけれどスタイルの良い筋肉質な体型を維持しているようで、
『メルキオールの惨劇』に登場する「12」は糖分を異常摂取する理由らしきことが語られてたからまあ納得できたけど、和泉にも何かそーゆーモノがあるのだろうか?
(・・・・・・・アレを抑え込むために大量の食事を必要としていたとか?)

///うわ~コレは確かに嫌になるかも///
身元不明の死体遺棄事件が起きて蒲生と和泉がコンビを組むことになり、車での移動中に世間話をする。
61Pより。
―――しかし、官舎に住む警察官の配偶者に割り当てられる掃除当番、ゴミ当番、連絡係、草刈り当番、砂利まき当番、夜回り当番などの当番制にはじまって、周囲がすべて警察官の家族でプライヴァシーが皆無に近く、階級が上の人間の家族までもが階級が下の人間の家族を見下し、奉仕を要求するという環境に、淑子が音をあげてしまった。―――
実際に確認した訳じゃないけれど、ありそうな気がする(; ・`д・´)
さらにそのあと語られるありそうな階級格差話がなんともまぁ・・・警察官といえども人間だからねぇ。
いつも公共の治安と平和を守っていただき、ありがとうございます(`・ω・´)ゞ

///こいつらが作中一番の良心だね///
午後八時、的場えりかという女学生が人気のない雑木林を歩いていると、暗闇の中から謎の声と足音が近づいてきた。恐る恐る振り返った彼女が目にしたモノとは・・・。
211Pより。
―――恐る恐る振り返った。目を疑った。
「ホッホッホッ」「ホッホッホッ」「ホッホッホッ」
月光のなか、口々に意味不明の声をもらしながら、三人の大男がこちらに向かって走ってくる。―――
今までの話の流れからして、こんなん絶対に拉致して金に換える展開を考えちゃうやん。
おじさんだって暗がりからこんな奴等が現れたらビビッて動けなくなるわい。
ってかなんでシンクロしてんの?なんでハモってんの?これもう『範馬刃牙』に出てきたマウスだ(笑)
急に差しこまれるお茶目な演出が謎だったけど楽しかったよ(;^ω^)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
基本的には蒲生と和泉、二人の視点から語られて進んでいく。
その合間合間で、その他の登場人物視点から語られる部分もあるって作り。

全編にまんべんなく暗い爛れた情欲描写が散りばめられているので、これから読む人は気をしっかり持って適度にリフレッシュしつつ読むことをお勧めいたしますです。
(個人的に、この雰囲気は新堂冬樹の『溝鼠』と似ている気がするなぁ)

///話のオチはどうだった?///
後半からの暴走そして最後の大乱戦でもうお腹一杯満足していたのに、まさかあんなネタのデザートまであるとは、もうワクワク詰め込み過ぎの幕の内弁当よ。
そしてすべて終わった後に残る虚しさと欲望、正義の存在しない平成バイオレンス・ストーリーだったわ。この寂寥感と絶望感の混ざり合った余韻がたまらなく沁みるぜぇ(*´Д`)

しかしゴタゴタが全て綺麗に片付いたのに、所々確かなことが判明しない終わり方なのがモヤモヤする。
でもこの狂人だらけの世界は確かなことなど何もないって概念がしっくりくるから、このモヤモヤも含めて完成されるオチなんだろうなぁ(う~ん、何を言っているのかよくわからなくなってきたはぁ)

///まとめとして///
こんなにギラついた小説はとても懐かしい気がする。
80~90年代ってこういう血と暴力がねっとりコーティングされた邦画が当たり前だったよね?
(あくまで個人的な思い出だけど)
ブームは繰り返すっていうけど、エンタメ作品はどんどんいろんな規制が増えていくばかりな昨今。いつか小説にもくだらない規制が入ってしまうのか、それともバイオレンスのブームが返り咲くのか。

『彼岸の奴隷』を楽しめちゃった読者はもう既にアッチ側の奴隷、もしくは読書の奴隷になっているのかも?小説だからこそ表現できる欲望世界の妄想・・・この行為におじさんは体半分以上嵌って抜け出せなくなっちゃってる?いやでもまだもうちょっとだけ進んでも大丈夫、だよね(;^ω^)
こっちの水は甘いぞ~って誘いには気を付けて読書を楽しみましょうな満読感8点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

27Pより。
―――古いヴォーカルもののジャズが控えめな音量で流れていた。「クライ・ミー・ア・リヴァー」。有名なスタンダード・ナンバーだ。―――
Cry Me a Riverはアメリカ合衆国の作曲家であるアーサー・ハミルトンが、1953年に作詞・作曲したポピュラーソング。
自らを一度は裏切りながら復縁を乞う恋人に向かい「いまさらもう遅い、川のように泣くがいい」と冷ややかに突き放すという内容の、恨み節がかったブルーバラードの曲とのこと。

51Pより。
―――東京警視庁では、東京出身者についで鹿児島出身者が多く、同郷同士の結束も固い。―――
超体育会系の組織である警察、酒に強い地域、地元連帯感の強さ、などなど色々と理由はあるようで。
もともとは明治に警察制度が作られたとき、初代選卒3000人の内2000人が鹿児島出身者だったらしく、その影響が脈々と受け継がれて鹿児島県人閥を作り上げていたとかなんとか。

64Pより。
―――和泉がカーステレオを作動させた。枯れたギターの音。流れてきたのはバディ・ガイのブルースだった。意外な趣味をしてるんだなと蒲生はいささか驚いた。―――
バディ・ガイアメリカ合衆国ルイジアナ州レッツワース出身のブルースギタリスト、シンガー。
本名は、ジョージ・ガイ。
「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のギタリスト」において2003年は第30位、2011年の改訂版では第23位。2005年にロックの殿堂入りを果たしたようで。

73Pより。
―――被害者は、大河内聡子、六十歳。熱心なプロテスタントの信者で、法務大臣に委嘱される保護司としても活動していた。―――
プロテスタント宗教改革運動を始めとしてカトリック教会から分離し、主に福音主義を理念とするキリスト教諸教派を指すらしい。日本ではカトリック教会「旧教」に対し「新教」ともいう。
プロテスタント」は諸教派の総体であって、プロテスタント全体を統括するような教団連合組織は存在しないとのこと。
う~ん、よくわからないややこしい。

89Pより。
―――権威を振りかざし保身に汲々としているほかのキャリアとは違っていた。本来の警察官僚のあるべき姿を模索し、実行に移そうとしていた人だ。―――
「きゅうきゅう」とは一つの物事に一心に努めて、他を顧みないさま。
小さな事にあくせくするさま、 あくせくしてゆとりのないさま、とのこと。

95Pより。
―――澁澤龍彦の『犬狼都市』に出てくるんです。ドーベルマンじゃなくてコヨーテなんですがね。そいつの名前がファキイル。―――
宝石凝視のなかでの、誇り高き犬狼貴族との婚姻を幻想的に描いた表題作ほか、ヘリオガバルス帝の物語を小説化した「陽物神譚」、彷徨える幽霊船の苦悩を警抜な着想で捉えた「マドンナの真珠」の3篇を収録した、超硬度の明晰な文体で織りなす渋沢文学不朽の名作らしいけど、初めて名前を聞いたなぁ。

98Pより。
―――八木澤の言うビールとは、アンカー・スティームというカリフォルニアの地ビールのことだ。彼は、それしか口にしない。―――
アンカースチームはモルトの強い風味とフルーティーな香りと、強くも飲みやすい味わいが特徴のカリフォルニアコモンスタイルのビールてことみたい。
アンカー社独自のビールスタイルのスチームスタイルでトーストした麦の甘みとほのかなホップの香りが特徴的なアンカーの代表ブランド・・・・・今すぐ酒屋に探しに行くぜよ!
どこにも売ってねぇ(ノД`)・゜・。

109Pより。
―――よく見ると、「にんきょーど~♥」の下には、「♬ぱふぱふ」と小さく書き込んである。オノマトペのつもりらしい。―――
オノマトペ」とは自然界の音・声、物事の状態や動きなどを音(おん)で象徴的に表した語。
音象徴語。擬音語・擬声語・擬態語など。

316Pより。
―――「これって、人間の最後の呼吸法なんですよ」和泉は看護婦に顔を向けた。
「つまり、もう助からないと?」
看護婦が視線をはずした。言葉も濁した。―――
「下顎呼吸(かがくこきゅう)」
死の間際に置かれた患者は血圧が低下した後、胸郭を使った呼吸が下顎を使った呼吸に変わり、呼吸回数が極端に減少する。
例外もあるが、下顎呼吸が始まると多くが1~2時間で亡くなることが多いらしい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
大河内涼という女・・・なんだかつかみどころのない人物だったけど、読み終わった今ではやけに可愛く思えてしまうのが不思議。
可愛い(エロい)といえば智沙も捨てがたいけど、三段警棒でしばかれるのが怖いからね(笑)


430Pより。
―――「これは涼の!」拳銃を両手で握り締め、涼が怒鳴った。
「あなたがくれるって言ったんだよ」
ぶつぶつと涼が続ける。「だから涼のなんだよ。これは涼の。涼のもの。だれにも渡さないんだから」―――

 

 

 

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