忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

悪夢狩り 読書感想

タイトル 「悪夢狩り」(文庫版)
著者 大沢在昌
文庫 335ページ
出版社 角川書店
発売日 1997年11月21日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「悪夢狩り」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

前回読んだ『エコー・ザ・クラスタ』は、人間に合わせて環境を変えていった未来のお話。
作品変わって火星の厳しい環境下での任務遂行のため、肉体を変身させる能力を得たのが『テラフォーマーズ』だったと思う。
テラフォって今どうなっているんだろうか?って調べてみると、原作者の病気療養や体調不良のため休載が続いているようで。
長期連載作品にとって作者の健康管理は一番大切ですよ、漫画家さんたちはちゃんと毎年健康診断受けてるのかな?

ままま、それは置いといて今回の小説。
映画『新宿鮫』では肩掛け携帯電話が銃に変わる場面が印象的。(つーかその場面しか覚えていない)
現実的でお堅い作品しか書いてないと思ったら、こんなに好奇心をそそるトンデモSFも書いてたのねってことで選んだ一冊。
この小説はテラフォのように広げた風呂敷をたたみ切れない結末になってしまうのか!?
ではでは、大沢在昌の描くSFホラーな世界に飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

自衛隊空挺部隊員達に殲滅作戦の訓練を行っていたフリーランス軍事顧問の牧原。
突然やって来たヘリと自衛隊員が、牧原に緊急の重要任務が入ったと伝える。
荷物も持たずにヘリで移動させられ、到着したのは六本木の星条旗新聞社だった。
自衛隊と米軍の上層部、そして初老の博士が牧原を迎えて伝えられた緊急の任務とは、日米両国からの依頼でとある新薬を回収するという内容だった。

ベトナム戦争時代に立ち上がった兵士の肉体強化計画は戦後も研究が継続されており、遂に試作段階の新薬が完成したのだが、それを環境保護団体の過激派グループに奪われてしまった。
その内のいくつかが日本に持ち込まれたらしく、海外での軍事経験があるプロで目立たず活動しやすい日本人の牧原が回収人として選ばれたのだった。
すでに渋谷のディスコで新薬はドラッグとして売買されており、おそらく周辺にある学園高校の生徒が購入したという予測で、牧原はその高校に教師として赴任することになった。
教師業務をこなしながら対象者を探す牧原は、さっそく購入者らしき人物を見つけるが・・・。

精神的な苦痛、金属球、カク秘、ナイトメア90、日米双方の超極秘任務、植田会、夜間戦闘、強い血の匂い、渋谷総合病院、好奇心さ、戦術核の準備、意志や肉体が強固な人物、ムーンライト、存在を許せない、四十八時間、ウラがある、悪魔、愚かな生き物・・・。

人間を悪夢のような生物に変えてしまう新薬を探して、牧原は東京の街を駆けまわる。
自衛隊、米国、過激派工作員環境保護団体、そして何も知らない人々が入り乱れる大都会で悪夢たちはその姿を現し始めた。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///王道的なハードボイルド主人公///
今作の主人公である牧原という男。
いつくもの実戦経験を積んだ戦闘のプロであり、仕事に対してもプロフェッショナル。
となればてっきりクールで無口な影の薄い人物ってのを想像していたけど、実際は違っていた。

N1と遭遇して戦闘になり、なんとかウェイカーを撃ち込んだ牧原。
効果はちゃんと発揮されたのだが・・・。
113Pより。
―――合掌し、今は喉の位置に刺さっている『ウェイカー』のダーツをひき抜いた。ポケットにおさめる。死者に合掌するのは習慣だった。―――
牧原という男は他人に対して不必要な感情は持たないイメージだったけど、全然違っていたわ。
それに人間関係を気遣うし、ユーモアのセンスもある。(井上に剣持のデマを吹き込むところは笑った)
彼の不思議な人間性については、後々に説明されているので気になる方は読むがヨロシ。

続いてコチラ。
やむを得ない状況になりグレアムは新薬のナイトメア100を使用したのだが、そのことに対して牧原は怒りを感じていた。
317Pより。
―――「その薬は二度と使うな。もし相手がモルモットだろうと何だろうと、使ったことがわかったら、草の根を分けてでもあんたを探しだして、必ず殺してやる」
グレアムは蒼白になった。
「わかったな、ドクター」
牧原は指先で鋭く、グレアムの鳩尾を突いた。グレアムは呻いた。
「わ、わかった・・・・・」
「俺は必ず、約束を守る男だ」―――
味方だとしたらなんて心強い言葉、敵としてならなんて恐ろしい言葉。
それにしても痺れるセリフだわ、おじさんもここぞという場面で言ってやりたい。
(なぜか思い出した「お前は最後に殺すと約束したな」「あれは嘘だ」というセリフ)

///あたりまえの日常が壊れる瞬間///
ナイトメア服用者の疑いがある生徒を追って、地下にある喫茶店にやって来た牧原。
深夜という時間帯もあり、酔っ払い客などが店内を騒がしく闊歩している中で変異は始まった。
161Pより。
―――牧原は気づいた。菅野はずっと左手をトレーナーの内側に隠していたのだ。それが、抜け出てテーブルの下にあった。
男は両手であとずさった。
「何だそりゃあ!」叫んだ。―――
何でもない日常の空間、そこに出現する異変と悲鳴・・・こーゆー場面ってほんとワクワクしてくる。
この他にもナイトメアと対峙する場面は毎回おじさんをドキドキさせてくれましたわ。
メキメキと変態していく場面は是非とも映像で見てみたい欲求にかられるから、日本とハリウッドの合作で映画作ってくれないかなぁ・・・ムリだろなぁ(;´Д`)

///今回のなるほどな部分///
金曜日の仕事終わりに牧原は剣持との待ち合わせ場所へと向かう。
その道中、渋谷の街に溢れる若者達を見て思った。
204Pより。
―――そのようすは、東南アジアやアフリカなどの開発途上国で牧原がかつて見た光景をおもいおこさせた。―――
危険地帯では情報をいち早く手に入れないと生死に関わってくるのか。確かに情報化社会になったとはいえ、世の中はフェイクニュースで溢れているもんね。
一番信頼できるのは自分の目と耳で得たモノってのに納得ですわ。

もうひとつコチラ。
防衛医大の宇野という女性自衛官と二人でバーに行く牧原。
そこで彼女から自己の正当化、人類の脳の進化、ナイトメア90の開発理由などの深い説明を聞く。
223Pより。
―――「人間の脳の進化が二足歩行によってうながされたことは知っているでしょう」―――
なるほどそーゆー考え方もあるのね、確かに理にかなっている気がする。
ネットでかるく調べてみたけど、脳の進化については色々な説があるからどれが正しいのかわからない。
でもこれだけは言える・・・・・ランボーをバカにするのはヤメロ~(゚Д゚)ノ


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///謎の容器の機能///
新作のドラッグだと思って購入した人物が、追い詰められた状況でやけくそになりナイトメア90を服用しようとする場面。
84Pより。
―――〝卵〟の中は、小さな電子部品が詰まっていた。時計とわかるデジタル表示もある。―――
これだけハイテクっぽい専用容器なのに、なぜ発信機的な機能は付けなかったのか引っかかった。
過激派の工作員たちは容器に反応する機械を使ってナイトメア90を探していたんだし、そんな機能があるなら・・・・・と思ったけど近付かないと反応しないのかもね(ビミョーに役立たずだなぁ)

///種は蒔かれてしまったのか?///
後半でグレアムはナイトメア90の新たな研究結果を牧原に伝えるけど、それがまたとんでもない内容。
それをふまえて、けっきょく宇野はアレしちゃったのか!?
まさか一緒についていったあの子とも!?
それ次第では世界が混沌に飲み込まれるし、続編だってきっととんでもないストーリーに!?
なんて期待したいけど、『悪夢狩り』はこれで完結なんだろうなぁ(´-ω-`)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
最初の事情聴取の場面を除いて、主人公の牧原を中心とした三人称視点で物語は進んでいく。
ていうかしょっぱなから語られるディスコ襲撃事件の状況を読むだけで、この小説に対するワクワク・アンテナがビンビンに起立しまくりなのよ(ヤラシイ意味ではない)
若者達が踊り狂うホールに向かってマシンガンを乱射する男達って、もうヤバいじゃん!

この小説は設定も内容も無茶苦茶なんだけど、話が展開する場所が割とコンパクトだし時間的な制約もある状況だから大味にならず楽しめたのかもしれない。
映画『ダイ・ハード』もナカトミビルという限定された空間だからこそ、あれだけ面白い作品になったんだと信じているおじさんなのです。
(↑とか言ってて次に好きなのが『ダイ・ハード4.0』なんだけどね)

///話のオチはどうだった?///
最後の戦いはド派手に暴れまわっての大乱闘!って思ったら予想外にしっとりと、あっさりと終わったのよね(;'∀')
まぁそれまでがぶっ飛びバトルの連続だったから、これはこれでアリな締め方かなんじゃないかと。
(N5は宇野から「ウェイカー」のことを聞いていなかったのかな?それとも教えてもらえなかったのか?)

中途半端に世界が大混乱になった描写を残して終わられるよりも、こうやって不安の残る感じにしたほうが印象に残るし、読了後もふ~むって考えちゃうよね。
(おじさんは間違いなく、また訪問者がくるだろうなぁ~って思ってます)

///まとめとして///
暇を持て余し刺激を求めている男の子にぴったりな小説がコレ!
B級映画のようなストーリーでも、小銭程度でこれほどのエンタメ・ホラー・アクションが楽しめるなら充分元は取れるっしょ。
あと牧原の男っぷりに刺激されておじさんは『新宿鮫』を購入すること決めちゃった。
辛く厳しい戦場を生き抜いて、それでも筋の通った人間性を失わない頼れる男。こういう主人公ってあんまり出会わなくなったから、逆に新鮮に感じているのかも。

さてさて、今これを書いている時もロシア軍がウクライナを侵略し各地で戦闘と虐殺をしている。
2022年にもなって未だに大国が戦争をおっぱじめてしまうなんて、これはまさしく人間の失敗というヤツなんじゃないかと。んでもって悪夢がまた現実で始まったということなんじゃないかと・・・。
どうだい、あんた、そうは思わないか?ってな訳で、今回も満読感頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。
(いつも似たような点数しか出せない典型的小心者日本人なおじさんなので、今回から点数付けは中止に致しますですはい)


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

23Pより。
―――港区の六本木に、広大な米軍施設があることは、意外に知られていない。夜ごと、嬌声や歓声がネオンの間でこだまする街の、すぐそばに、軍事施設があるのだ。しかも、そこからわずか直線で五百メートル足らずの位置には、防衛庁がある。―――
赤坂プレスセンターは東京都港区六本木にある在日米軍基地で、ハーディー・バラックスとも称される。
東京都区部にあるアメリカ軍基地の一つで、在日米陸軍が管理している。前身は旧日本陸軍歩兵第3連隊の駐屯地で、現在は星条旗新聞などの事務所、宿泊施設、ヘリポートとして使用され、大統領など来日する米政府要人の移動拠点としての役割も担っているとのこと。
なお基地内の建物の建築費や光熱費は、日本の思いやり予算で賄われているらしい・・・。

32Pより。
―――彼ら兵士が訓練を受けたアメリカ合衆国ベトナムとでは、まるで風土、気候がちがっていたからだ。その問題を解決するために、『ナイトメア計画』は立ち上がったのだ」―――
ベトナム戦争時代に立ち上がった兵士の肉体と精神を強化させる「ナイトメア計画」・・・・・ネットで調べてもそんなものはもちろんある訳がないっつーの(笑)
でも、ほんとうにそーゆー計画が存在しなかったのかねぇ?
妄想しながら読むともっと楽しめるかもよ(゚∀゚)

38Pより。
―――「射殺された。二十二口径のライフル弾を頭部に二発撃ちこんだが、それでも暴れたので、象撃ち用のウェザビーマグナムを使った」―――
.460ウェザビー・マグナムは米国・ウェザビー社が開発・販売しているライフル弾。
市販品ではホーランド&ホーランド社の特注品を除けば、店頭で一般販売されている狩猟用弾薬としては世界最強の威力を誇るらしい。
通常の銃では使用できないので、オリジナルの銃を作って売っているみたい。商売上手ですなぁ。

81Pより。
―――「だがコーヒー代は俺が払うことにする。教師がやくざにお茶を奢られたとあっちゃ、末代までの恥だからな」
水野は鼻白んだ。が、牧原はそれを無視し、レジの方に歩いていった。―――
「鼻白む」(はなじろむ)は気おくれした顔つきをする。また、興ざめがするって意味とのこと。

84Pより。
―――そして、電子部品に包まれるようにして、ラシャを張った空間があった。そこに、紫色をした少し大きめのカプセルがひとつ入っている。カプセルはぴっちりとはめこまれるようにして穴に刺さっていた。―――
羅紗(らしゃ)は、羊毛またはそれを織った布のことで、ウールの日本での呼ばれ方になるみたい。
ビリヤードの台に使われている布みたいな部分のことだったのね。

94Pより。
―――袋小路での銃声は、ゲームセンターの電子音にかき消された。銃口を下に向け発砲した場合、拳銃はさほど大きな音をたてないものだ。―――
ネットで調べてみたけどわからん・・・。
想像で考えてみると、音の波が広がらないからあんまり響かないのかな?

145Pより。
―――目の奥にこびりついた悪夢を洗い流そうと、冷凍庫で冷やしてあったズブロッカをラッパ飲みし、ベッドに倒れこんだ。―――
ズブロッカポーランド世界遺産「ビャウォヴィエジャの森」で採れるバイソングラスを漬け込んだウォッカ。瓶内にはバイソングラスが一本、手作業で入れられている。
桜餅に似ていると形容される柔らかな香りと、まろやかな飲み口が特徴とのこと。
知らないうちにズブロッカの種類が増えてる・・・そして「冷凍庫」でキンキンに冷やしたウォッカをグイッと流し込む飲み方・・・・・やってみたいかも。

251Pより。
―――サイレンサーをつけると、拳銃は安定を失い、命中率、貫通力がともに落ちる。―――
これも実際のところはどうなのかよくわからなかった。
普通に考えるなら余計なモノを付けるんだから射撃の性能が下がって当たり前な気もするけど、現在では技術が進歩してほぼ影響を受けないサイレンサーがあってもおかしくない、と思う(笑)
実際はどうなんだろうね。
ちなみにリヴォルバーは構造上サイレンサーを付けても消音効果は薄くなってしまうらしい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
166Pより。
―――「撃て!」剣持が叫んだ。アサルトライフルによる一斉射撃の火蓋がきられた。耳をろうする銃声とともに、何十発という高速弾がナイトメアの体に叩きこまれた。―――


この時代(おそらく1990年くらい)自衛隊装備ってどんなんだったのか?
極秘任務に就くくらいだからそれなりに整った装備なんだろうけど、小銃は89式でいいのだろうか?
防弾ベストは付けているのか、肘膝パッド等は付けているのか、空薬莢の回収は・・・・・・てなことを色々考えてもしょうがない。
よし、描くモノが少ない設定でいこう(´Д`)