忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

王とサーカス 読書感想

タイトル 「王とサーカス」(文庫版)
著者 米澤穂信
文庫 472ページ
出版社 東京創元社
発売日 2018年8月30日

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「古典部シリーズ」(このブログを始める前に読了)
・「小市民シリーズ」(このブログを始める前に読了)
・「さよなら妖精」(このブログを始める前に読了)
・「いまさら翼といわれても」


<< ここ最近の思うこと >>

日本の地方にあるインドカレー屋は、大体がネパールから来た人がやっているとか。
はぁ~・・・・・しばらくナンとネパールカレーを食べていないなぁ、食べたいなぁ。
↑はどうでもいいとして、もうずっとむかしに『さよなら妖精』という小説を読んだ。
内容はイマイチ覚えていないけど、作品タイトルと切ないラストはずっと忘れなかったね。
いつのまにか続編がでているじゃんってことで今回の小説を購入。
さっそく読んでみるぞい(=゚ω゚)ノ
(つーか太刀洗シリーズがもうすでに何冊も出ているだと!?)


<< かるーい話のながれ >>

新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、編集者から海外旅行特集の協力を頼まれ事前調査でネパールへ。
物売りの少年や日本人の僧、宿で知り合ったアメリカ人青年や女主人、彼らと交流しながらネパールの旅行取材をしようとした矢先、王宮で国王をはじめとする王族8人が皇太子に殺害されるという大事件が。

自身のキャリアの為にこのスクープを取材しようとする太刀洗だったが、期待していた成果は得られず、さらに予期せぬ殺人事件にも遭遇してしまう。
しかしその殺人事件は、王宮の事件との繋がりを予感させるモノが残されていた。

ガネーシャに何を祈るべきか、タチアライにおすすめ、撮るべきもの、これは俺の『投資』さ、恐ろしいニュース、インドの陰謀、王殺しを王にする、自動小銃の暴発、お前はサーカスの座長だ、密告者、知らずにはいられない、発射残渣、写真の裏を取る、世界有数のガンジャタウン、長い一日になるだろう、当たり前のことじゃないか、わたしはそういう世界に生きている、INFORMER・・・。

王族殺害事件の真相は?
なぜこの人物は殺されたのか?
刻まれたメッセージの真意とは?
―――「それに哲学的な意味はありますか?」―――
学生時代のかけがえのない出会いと別れを経て、太刀洗万智はネパールでどのような経験をするのか。



<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///毎日流される様々なニュースを見て、アナタは何を思う?///
太刀洗が王宮銃乱射事件の取材を申し込むのだが、当日の王宮に居た軍人ラジェスワルは彼女の申し出を断り、その理由を述べる場面。
199Pより。
―――「自分にふりかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ。意表を衝くようなものであれば、なお申し分ない。恐ろしい映像を見たり、記事を読んだりした者は言うだろう。考えさせられた、と。そいういう娯楽なのだ。―――
ぐぬぬ、まったくもってその通りですわ。
毎日いろんなニュースを見ているけど、視聴者はどんな心構えで観るのが良いんだろうね。
んなもんいちいち悩んでなんていられないでしょ、娯楽なんだからどーでもいいじゃんって言われればそうなんだけど、うーむむ・・・・・まさしくサーカスか。

///迷う時は僧の説教がよろし///
素人同然の自分が重要な事件の取材をして、記事を作る意味があるのか?
悩む太刀洗に対して、八津田が説教をする場面。
238Pより。
―――我々は完成を求めている。詩であれ絵であれ、教えであれ、人類の叡智をを結集させた完成品を作り上げるために、それぞれが工夫し続け、智恵を絞り続けているのではないかと思うのです。―――
素人も達人も、みんなが「完成」を目指してそれぞれ努力して何かを作り続ける。
この考え方になんだか救われた気分になっちゃったわ。
(おじさんもなんで読書感想や妄想挿絵なんて書いているんだろ?って悩む時があるからさぁ)



<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///太刀洗がナイフを手にしたならば・・・///
お土産として中々に凝った装飾のククリナイフを手に入れた太刀洗
44Pより。
―――手の中のククリを見る。鞘の材質はプラスティックかと疑っていたが、これは何かの動物の角だ。金の象眼もただ塗っただけでなく、きちんと模様が彫ってある。―――
となれば終盤くらいで、ククリが活躍する場面があるかと思っていたけど、そういう展開はなかった。
読み終わった今だから言えるけど、ナイフが活躍する展開がなくても十分楽しめたから良し)

///ニュースで流れる映像の基準は?///
イギリスで傭兵をしていたラジェスワル。
酒場でニュース番組を見ていた時に経験した出来事を語る場面。
199Pより。
―――「もしキプロスの仲間たちが事故ではなく、ロケット弾で死んでいたら、その現場の映像があったら、パブの客たちはサーカスの虎と同じように楽しんだだろう。私は教訓を得たのだ」―――
海外のニュース映像ってけっこう過激なのが多いよね?
怪我をして血を流している人が普通に映っていたり、さすがに死体を映すことは無いと思うけど。
放送基準は国によってかなり違うのかな?


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
最初から最後まで太刀洗の視点から語られて、ネパールに来てから王宮銃乱射事件、謎の殺人事件、事件の真相までが描かれている。
様々な場所で語られるネパール描写は否応なく想像力を駆り立ててくるから、思わず作中に登場した場所をグーグルアースで観に行ったりしちゃった。
(彼女自身が王宮内で乱射事件に立ち会ってしまう展開ではなかった・・・まぁ当たり前だわね)

///話のオチはどうだった?///
終盤はもう次々に謎が解明されていくからページを捲る手を止められなかったよ。
そして最後のあの場面、感情を露わに本心を語るところ・・・あそこは胸にズキっと来た!
(たしかに、全部言っていた・・・おじさんもサーカスを愉しむ客の一人だったわ)
読んでいて痛い所を突かれるようなオチが米澤作品の好きなところなんですよ。

///まとめとして///
恥ずかしながら、この小説を読んで初めてネパール王宮の事件を知ったんだ。
でもって生まれて初めてネパールやカトマンズについて検索したり画像を見たり想像したり・・・ネットだけで何が分かるんだ?ってことなんだけど、読む前よりはネパールという国に興味を持ったのは事実。

知り得た情報と供に刻まれる作中の言葉や風景。
―――「尊さは脆く、地獄は近い」―――
いつかトーキョーロッジで甘~いチャイとセルロティを味わいながら、破戒僧の心地よい説教を聞いてみたいもんだなぁってことで、満読感7点!(10点満点中)
100点方式はよくわからなくなってきたから、今回から10点満点方式に変更しました。
さぁ~て、次はなにを読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『王とサーカス』は2015年の「週刊文春ミステリーベスト10」文藝春秋、2016年「ミステリが読みたい!」早川書房、「このミステリーがすごい!」(宝島社)において国内部門1位を取ったらしい。
これほど話題になった小説なのに今まで知らなかったとは、おじさんの小説検索アンテナが折れていたのかなぁ。

30Pより。
―――「わたしたちはスプーンを使っているけれど、彼らは指を使って食べている。この国ではそうするのがふつうのようね」―――
ネパールでは右手で食べ物を口に運んで、左手は使わないっていう文化があるみたいね。
(左利きの人は逆バージョンになっているのかな?)
でも近年では若者の間でスプーンを使うのが広がっているらしい。
水が貴重な地域だからなるべく洗い物を少なく済ませる為に、手づかみの文化なのかな?

25Pより。
―――よく見ればドーナツよりも幾分か細いし、輪もしっかり繋がってはいない。そういう食べ物なのだろう。わたしの視線に気づいたロブが、「セルロティっていうんだ」と教えてくれた。―――
米粉で作られたドーナツ。
粗びきで食感はプチプチとしているらしく、カレーと一緒に食べることもあるとか。
甘いセルロティ―とカレー・・・・・ちょっと気になります。

51Pより。
―――土産物屋の店先にはフェルトのポーチや金色の独鈷杵、小さなマニ車などがずらりと並んでいた。―――
「とつこしょ」
神々が手に持っている密教法具、煩悩を打ち破る象徴として表されるとか。

90Pより。
―――「さっきの話の続きだけど、俺には五歳上の兄貴がいたんだ。兄貴は絨毯工場で働いてた。タチアライ、絨毯工場を見たことあるかい?」―――
一日10時間以上、休みなく織物仕事をして狭い部屋に数人と同居する生活環境。
作中で語られていたように塵や埃も酷いに違いない。
現在ネパールの法律では、14歳以下の子どもの労働は禁じられているけど、表に出ていないだけで実際は今も沢山の子ども達が働いているんだろうね・・・。

176Pより。
―――政府は信頼されていないがトップ個人は敬愛されているという状況は、珍しいことではない。ユーゴスラヴィアではあらゆる人々がチトーの死を悲しんだが、政府は国を保つことができなかった。―――
第二次世界大戦からその死まで最もユーゴスラビアに影響を与えた政治家であり、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国大統領、ユーゴスラビア共産主義者同盟の指導者で「ティトー元帥」という呼び名でも知られている。

219Pより。
――― 一九九一年、長野県。雲仙普賢岳で、大規模な火山活動が観測された。噴煙が噴き上がる中、間近に迫った噴火を報じようと、複数の記者が現地に入っていた。―――
1991年6月3日の火砕流災害で新聞やテレビ局、フリーのカメラマン、それにマスコミがチャーターしたタクシーの運転手4人、警官や消防団をあわせると、20人がこの一帯で火砕流にのまれて命を落としたみたい。
付近の草むらの中には今でも2台のタクシーが埋まっているとか。

240Pより。
―――「わたしの記事と釈迦の教えとでは、格が違いすぎます」
八津田は体をゆすり、「なに。乾屎橛ですよ」と言うと、コップに残った緑茶をくいと飲み干した。―――

「かんしけつ」
禅宗で、乾いた棒状の糞(くそ)。
仏とは何かという問いに対する答え。
一説には「くそかきべら」で、不浄なもののたとえ。
八津田は自分の説教なんて大したことないっていう意味で言ったのかな?

391Pより。
―――指揮者レナード・バーンスタイン曰く、偉大なことを成すには二つの要素が必要だという。一つは計画。もう一つは時間、ただし不足気味の。―――
ユダヤアメリカ人の作曲家、指揮者でありピアニストとしても知られている。
アメリカが生んだ最初の国際的レベルの指揮者になり、20世紀後半のクラシック音楽界をリードしてきたスター音楽家だった。愛称はレニー。
かなりのヘビースモーカーで、1日に煙草を100本とウイスキー1本を飲む事を日課としていたという噂も・・・いやさすがに無理でしょう(笑)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>


今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
433Pより。
―――小さな人影が近づいてくる。サガルだった。彼がどこから出てきたのか、空を見ていたわたしにはわからなかった。
「済んだのい」と、サガルが言った。視線を下ろし、わたしは頷く。
「ええ。終わった」
「そりゃあよかった」
日焼けした顔を無邪気にほころばせ、サガルが白い歯を見せる。その笑顔を見ていると、もう少しだけ、この街にいてもいいかもしれないと思えてくる。―――

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あれれ、なんだか太刀洗さんの身長がドアと比べてめっちゃ高くなっちゃった?
まままぁ・・・遠近法ということで済ませちゃおう(;^ω^)