忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

漂流英雄 エコー・ザ・クラスタ 読書感想

タイトル 「漂流英雄 エコー・ザ・クラスタ」(文庫版)
著者 森月真冬
文庫 328ページ
出版社 集英社
発売日 2019年9月25日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「漂流英雄 エコー・ザ・クラスタ」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

はるか昔に映画『トゥルーマン・ショー』ってのを観たんだよ。
当時も思ったけど、人権無視にも程があるだろって考えたりした。だがしかし映画の面白さとコメディ展開で真面目な考えは吹き飛んでしまい、おじさんもTVショーを楽しむ視聴者の一人になり果ててしまった懐かしい記憶。
やはり主演がジム・キャリーだからこそ、あんなに軽やかに爽やかに楽しませられるんだろうか・・・。

そんなことを思い出しつつ、今回はこの一冊。
ライトノベル枠から一巻完結作品を探して巡り合ったこの小説は果たしてどうなのか?
内容的には漂流展開でトラブル&トラブルの中、なんとかやりくりしてサバイバルしていくのかな~なんて期待しつつ、いざいざ二人ぼっちの宇宙空間に飛び込んでみようぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

地球人が宇宙に進出して854年。
資源を巡って戦争をしている辺境国のツキムラクモと神聖アルビオーノ王国は七年も戦い続けていた。
新兵器の移送部隊を強襲する任務を受けたツキムラクモ軍の少尉・狛犬アカネと部隊員達は、航路に待ち伏せをしてやって来た輸送兵団に攻撃を仕掛ける。
突貫をして目標を仕留めようとするアカネであったが、敵の一機と交戦になり激しく損傷した両機はもつれたまま戦域から流されていった。

くまたすー、運命共同体、貸し借りはなしだからね、理屈で量れない部分、不可解な行動の意味、戦争そのもの、とある事件、悲鳴、悲惨な運命、嫌な味、不憫な恋、報われるべき魂の行方、四角い物体、悪趣味で不幸な舞台、プロローグ・・・。

どことも知れない宙域を秒速5kmで流れていくスクラップの両機。
敵機から出てきたのは神聖アルビオーノ王国の兵士・リリス
まだ幼い美少女リリスとアカネは、最初こそ敵意をむき出しで争うが死を目前にした状況でお互い協力するほか助かる道はないと悟り、なんとか元居た宙域に戻ろうとするが・・・。
二人が目指す先に待ち受ける結末は、果たして救いか絶望か!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///伝統的様式美の世界がここに///
突然リリスの悲鳴が聞こえてきたので、心配して急ぎ彼女のいる場所へ向かうアカネ。
ハッチを開けたアカネの目に飛び込んできた光景が・・・。
142Pより。
―――「きゃあ!」不意に、天井のハッチから悲鳴が聞こえた。
「ど、どうしたのっ!?」驚いたアカネはコーミングを駆け上がり、ハッチを開ける。―――
これは見事なラッキースケベ展開が決まりました、かなりの高得点が期待できます。
通常ならまず相手に声掛けをして返答の有無を確認してから中に入るでしょうに、長時間の共同生活でそのへんの常識が緩んでいたのかな?
ちなみにこの場面は最初の折りたたページにカラーで鮮やかにバッチリ描かれているから、気になる読者は確認するがヨロシ!

///わかる人にはわかるこの感じ///
リカーズタブを見つけて興味本位から飲み始めた二人。
早々に酔いつぶれて眠るアカネの髪を気に入ったリリスはあることを思い付き実行しようとする。
155Pより。
―――「あらやだ。こんな素晴らしいアイデアを思いつくなんて・・・・・あたし、天才じゃないかしら!?」ヘラヘラ笑いながら、リリスは工具を引っ掻き回す。―――
あーこれはもう完全にヴァニス的な撫子風味を感じてしまった。
ギャグとして穏便に済まされるのが『漂流英雄 エコー・ザ・クラスタ』なわけで、そのまま狂気の行為を実行してきっちり描写されているのが『ヴァニスの歌』な訳で(笑)
なんにせよリリスは初めてのアルコールっぽいけど、よくグイグイ飲めたな。
ワインやブランデーにウォッカ、ポン酒なんて初心者の若人には無理だろ。
(変化のない日々が続いてるせいで刺激物を欲していたから平気だったのかも)

///時代と共に進化する部分、退化する部分///
食料も徐々に減りつつある中、食べなれた種類がなくなったリリスは食事をとらなくなる。
気力の無くなってゆく彼女を心配するアカネは対策を考えるが・・・。
174Pより。
―――「あの様子・・・・・!こりゃ、なんとかして無理にでも食べさせないと、本格的にマズいぞ!・・・・・昔の人は、もう少し頑丈だったらしいけどなぁ」
ここ数百年で、人類の身体は格段に弱くなったという資料を、アカネは思い出した。―――
科学力によって環境を快適にしてきた結果、どんどん肉体の耐久性が下がってきたという設定になるほど。SF未来の話に聞こえるけど、親知らずだって柔らかいモノ食べ続けた結果、退化した部分って言われてるもんね。(そんな話を聞いた気がする)
それにストレスに弱くなってきているというのも大いに納得だ。科学の力でその辺をなんとかならんもんかねぇ。(はぁ~もうサラリーマン辞めてのんびり生きていき台湾)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///人間味が超薄口醬油な主人公///
戦闘により動かなくなった機体の中でアカネは自分の死を覚悟する。
45Pより。
―――「うーん。十五年・・・・・短い人生だったね」
最後は動かぬ機体に乗り、宇宙を駆ける鉄の棺桶。なんだか、マヌケな終わり方だった。―――
想像しただけで恐怖心でパニックになりそうだよ。なんでアカネはこれほど落ち着いているんだろうか。
雪鯨のコクピットが広い作りになっているから、閉塞感や圧迫感がないストレスフリー環境のせい?
それとも若いから?軍人だから?
まぁなんにせよ、この物語で表現したい部分はもっと違う所なんだろうね(;^ω^)

///何が彼女をそこまで頑なにさせるのか///
食事を拒むようになったリリスは目に見えて体調が悪くなる。
アカネは食料を食べるように勧めるが、彼女はまったく食べようとしない。
173Pより
―――よく見れば、その肌の色は、いつにも増して青白い。アカネは、彼女の額に自分の額を押し当てる。ものすごく冷たく、体温が低下しているのがわかる。まともに食べなくなって、たったの数日なのに・・・・・思いっきり、栄養失調と貧血を起こしていた。―――
人間の三大欲求の一つである食欲、これをコントロールするのは容易ではないことくらい誰でも知っている。
温室育ちのお嬢様であられるリリスが大した理由もなく空腹を我慢できるのだろうか?
いやきっと出来ないだろう。
思うに心が折れる直前半歩手前のところでアカネが動いたってことなんだろうね、きっと。
しかし納豆とハッカ飴とミルクで?
想像もつかない組み合わせだな、作者は試してみたのだろうか(笑)

///これが「ネオテニー世代」なのか///
つぎはぎの機体を発進させて何もすることがなくなり、過ごした時間の長さに比例してお互いの距離も縮まった二人は、共に幸せにはなれない未来を待ちながら最後の時を満喫する。
232Pより。
―――とんでもない熱々ぶり。かなり危険な方向に暴走している。普通、ここまで二人で〝出来上がって〟ると、周囲がブレーキをかけてくれるものだが、ここには彼らしかいないのであった。―――
二人以外誰もいない閉じた空間、そこで両想いになりイチャイヤしだしたらアンタ・・・。
もう止められないわよっ!!
って思っちゃうのがおじさんなんだけど、令和の若者たちはまた違うのかな~?
ていうかこの物語は令和でもないし、ネオテニー世代は性欲も変化してきているのかね。
(そのまま超濃厚接触を開始されても大変なことになっちゃうんだろうけど)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
アカネとリリスがメインの三人称視点で語られている。
あらすじで説明されている通り本編のほとんどが宇宙空間を二人ぼっちで漂流する内容で、だいぶ未来のお話になっている。
アカネの国では日本の文化がそのまま残っているようで、食品や料理もそのまんま日本のモノ。
日本ではないのにまんま日本文化ってのがなんとも奇妙な感じだったね(^^;)

作中のメカニックや世界観の設定はよく作りこまれているけど、キャラクターの内面造形が甘い気がしていまいち緊張感に欠けるのがちょい残念だったかな。
(あえてゆる~い雰囲気のお話にしたんだろうけどね)
だから映画の『ゼログラビティ』とか『火星の人』とか思い浮かべている未読者は要注意が必要よ。

///話のオチはどうだった?///
プロローグの時点でハッピーORバッドのエンドはわかってしまうのでオチの意外性はない・・・・・と思っていたけど、予想外な方法でスパッと問題解決する畳み方はおじさんも楽しく読んじゃったと告白しよう。(いくつか「?」と思う部分がある終盤の展開だったけど、まあその辺は・・・ね)

もちろんイラストも雰囲気もキャラクターもコテコテなライトノベルってやつなんだけど、一冊でしっかり完結させているしなによりもこの物語は「愛と笑顔の感動〝ドラマ〟」なんだから、そう考えるとしっかりコンセプトを貫いた作品だったと思う。
(そもそもが性根の腐り始めた中高年読者向けではない小説なんだから)

///まとめとして///
ラノベ慣れしてない人にはやっぱり物足りないお話だと思うし、馴染みのないセリフや文章も相まって途中で投げ出すこともあると思う。
だけど癪な部分を気にしたり探していたら損をするだけだよ。
今までと文化が違うタイプの小説に出会ったとき、どうやって楽しめるのかを探したり考えたりするのもありなんじゃないのか?
そんなことを『エコー・ザ・クラスタ」は気付かせてくれたんだ。
(とはいえ程度の問題もあるけどさ。誰にだってもうムリって投げる作品もあるのが現実)

じゃあどう楽しめばいいってのよ!?
かつて、海外恋愛小説の女性翻訳家がこんなことを語っていた。
ロマンス小説の楽しみ方は「うっとりとツッコミの微妙な塩梅」を堪能するものだと。
ボーイミーツガール系ライトノベルって、男性向けロマンス小説とも言えるのではないか?
(もちろんラノベの種類によっては女性向けロマンス小説だって沢山あるだろう)
それにこの物語には、おじさんの胸にグッとくる展開も用意してあった。
アカネは見事、強大な敵を打ち倒し兄ソウマの仇をとったんだからってことで満読感7点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『漂流英雄 エコー・ザ・クラスタ』は第7回集英社ライトノベル新人賞金賞受賞作なのです!

15Pより。
―――そこに座るパイロットスーツ姿のアカネは、全周囲モニターに映る真空の暗闇に輝く無数の星々を眺めながら、口の中のハッカ飴をガリガリと嚙み砕く。―――
ニホンハッカは日本在来のシソ科ハッカ属の多年草、ハーブの一種で洋種のペパーミントとはちがう。
精油成分には大脳皮質や延髄を興奮させる作用があり、発汗、血液循環を促進させる働きがある。
外用すると局所的に血管を拡張させる作用から、筋肉の緊張や痛みを和らげる働きをするらしい。

64Pより。
―――大きさは手のひらに載るくらい。ベロアのような生地で全体が覆われ、ひときわ目立つマークが刻まれている。―――
ベロア素材は非常に柔らかく、ベルベットに似たビロード生地(とても安価)とのこと。
通常ベロアは綿原料やコットン自体から作られ、またポリエステルなど合成繊維で作られる物も有。

91Pより。
―――ジャケット、ネクタイ、シャツ、スラックス、ベルト、靴、カフス、ピン、飾緒、帽子、マント・・・・・―――
飾緒(しょくしょ、しょくちょ)とは一般に軍服の片肩から前部にかけて吊るされる飾り紐のこと。
材質に金銀糸が使用されることからモールとも呼ばれているらしい。

228Pより。
―――うん。一対一の試合形式だったら、僕の兄さんとやっても、いい感じのレシオつけるかもね。―――
「レシオ」とは比率、 割合、株価収益率、または一株当たりの税引き利益に対する株価の倍率。

303Pより。
―――神聖アルビオーノ王国には、「貴族の睦言は嘘と同じ」なんて格言があるらしく、身分を蔑ろにするようなリリスの態度は、とりあえず問題にならなかったそうだ。―――
「むつごと」とは仲よく語り合う会話。特に男女の寝室での語らいのこと。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
270Pより。
―――事態を把握し、二人の視界がグニャリと歪む。そして、足元から崩れ落ちる。―――


ズタボロの合体兵器で戦う終盤を期待したがそんなものはなかったので、せめて兵器だけでも描いてみたかったからこの場面にした。2022年の2月現在ではヨアソビの絵師が話題になっている真っ最中。
はたして絵を描くのが好きだったから名声の誘惑に負けたのか、金儲けが好きだったからビジネスに走ってしまったのか・・・・・ままま、なんにせよこの絵のレベルしかかけないおじさんには関係ないことなんだけどね。
あ~あ、好きな絵描くだけで食っていけないかなぁ~(´-ω-`)