忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

不死症 読書感想

タイトル 「不死症」(文庫版)
著者 周木律
文庫 384ページ
出版社 実業之日本社
発売日 2016年6月3日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「不死症」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

2022年の9月にふと思った。
最近、記憶に残るゾンビ映画が少ない気がする。
「ドーンオブザデッド」は素晴らしい仕上がりで「28日後」シリーズも面白い。「バイオハザード」は・・・まあⅡまでならありかなぁ。
でもってゾンビもしくは感染者って獲物を食べているんでしょ?それなのに食害描写や被害が全然ないのはどうかと思う。最近では流血描写さえほとんどない作品も。
まあいろんな人に配慮とか規制とか興行収入の儲けとか、理由はあるんだろうけど合理的になりすぎるのはどうだろうか。
蒟蒻レバ刺しでは満足できない時だって人間あるでしょうに。

そんなこんなで今回はコチラ。
たしかTwitterで紹介されていて、気になったから購入してみた。
ゾンビ系の小説は以前に会社の上司から貸し出された「ワールドウォーZ」しか読んでいなかったと思う。あれはあれで歴史を味わっていくような、初めての内容だったなぁ。世界大戦感はよく伝わってきた物語だった。
なので日本人作家のゾンビ小説は今回のが初めてだね。
ではでは、周木律の作り出したバイオホラー&ミステリーの世界へ飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

長野と岐阜の県境にある山村の奥神谷。そこに建つ平成製薬奥神谷研究所で突如、謎の大爆発が起こる。
爆発したのは敷地内にある被験者棟で、その瓦礫の中で泉夏樹は目を覚ます。
自分の仕事や研究に関する記憶を無くしていた彼女は、瓦礫の中から這い出して同じように生き残った生存者たちと状況の確認をする。
その時、新たに現れた一人の生存者が夏樹たちに向かって歩いてきた。
様子のおかしい生存者を不審に思う夏樹たちだが、近づくにつれて進むスピードを速める生存者はついに全力疾走で飛びかかってくる。

人肉食、大爆発、SR班、6人目の生存者、BSL4、人間と似て非なる何か、ぱきん、ウェンディゴ、生き延びるぞ、不老不死、陸上自衛隊、新たな逃避行、テロ、研究棟、ファージ、生還、提案、最初の兆候、被験者棟、新種、首謀者、静かな防衛線、三十五年、泉夏樹、一枚の写真、さようなら・・・。

夜になり、どこからともなく出現してきた者達は夏樹たちに襲い掛かってきた。
訳も分からぬまま戦い逃げ惑う彼らはやがて施設ゲートに辿り着くのだが、そこには想像もしていなかった絶望が待ち構えていた。
被験者棟で夏樹は一体何をしていたのか?
なぜ奴等は襲い掛かってきて、一心に貪るのか?
施設を完璧に包囲している者達の目的は何なのか?
一人、また一人と仲間が倒れていく中で、夏樹は生きて地獄の研究施設から脱出できるのか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///人類と菌の終わらない戦い///
襲撃者を撃退し、出入口ゲートを目指す一行。陽の暮れた暗い道を歩きながら信は記憶の欠落した夏樹に奥神谷や平成製薬、当研究施設の業務内容などの情報を教える。
48Pより。
―――菌と抗菌剤とのいたちごっこ———————言いえて妙だと夏樹は心の中で頷いた。―――
いたちごっこになるほどと共感しましたわ。
常に人類側が一歩先を進んでいないと大変なことになるもんね。まさしくコロナがそうだった訳だし。
すぐ成果が出る訳じゃないけど、けして疎かにしてはいけない研究なんだよ。
何でもかんでも予算削ればイイってもんじゃないわな。
それにしても、菌って一体どんなタイミングで様々な耐性を持つようになるんだろうか。

///ゾンビものならやっぱこうでないと///
道中に建つ倉庫の窓に人影を見たと言う棟管理人の蝉塚。
何か事情を知っている人間がいるのでは?と期待して、念の為に身を潜めつつ窓から覗き込む夏樹たち。
生存者の一人である小室井も、夏樹たちと少し離れた別の窓から覗き込むが・・・。
62Pより。
―――踵を上げると———————怪訝そうに窓の向こうを覗き込んだ。
その瞬間。
「うわああっ!」
小室井が絶叫した。―――
先の展開が分かっていてもこーゆー場面はドキドキさせてくれるから興奮したわ。
そして見るに堪えない悲惨な状況・・・これこそ食人ゾンビものだよ。
もし同じ状況だとしても、おじさんなら絶対に見に行かないな。
(つーか、中にいた奴らはなんで走っていたんだろ?)

///一体なんの前触れなのか///
施設内の安全を確認するために視察する自衛隊の松尾。
滅茶苦茶になった施設を復興するために動き回る人々を見て、ふとした違和感を感じていた。
261Pより。
―――問う夏樹に、松尾三佐は僅かに首を傾げた。
「どうも奇妙に思えるのだ。皆、やけに快活に見えることが」―――
あららもう終わっちゃったの?って思っていたら、なんだか妙なことになり始めて・・・。
ここから今までのジャンルとは違うベクトルへ展開していったね。
突拍子もない展開の連続で驚いたけど、こーゆーもんだと受け入れてみれば充分楽しめる後半戦だよ。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///普段から鍛えていたんですかね?///
襲い掛かってくる集団を廃材で殴り倒し、なんとか生き残った夏樹たち。
しかし第一陣よりも多い第二陣がすぐ近くまで迫って来ていた。
絶望する夏樹たちに向かって、信は持ちこたえてくれと言う。
123Pより。
―――より激しく、よりシビアで、より凄惨な戦闘が再開された。―――
他の読了者も気になっていたみたいだけど、この人たちの体力と戦闘センスはどうなっているんだろうか。
研究者と初老の管理人が何人もの敵を鈍器で殴り(脳を破壊する威力)続けて、さらにもっと多数の敵を相手にするとは。しかも血しぶき一つ自身の粘膜に付着させず戦い続けるなんて。
まぁ、人間死ぬ気になれば予想外の力が出せるってことなのかなぁ(;^ω^)

///ネタバレ注意の疑問///
かなりネタバレな部分の疑問点なので、読みたい人は反転してみてね。
322Pより。
―――分泌するψテロメラーゼこそ不安定だったが、不老不死原虫そのものは強靭で、高い繁殖性を持つ上に、酸の中でむしろ活性化する性質を持っていた。―――
これだけ強い原虫がなぜ今までずっと繁殖もせず、まったく発見されなかったのか?
偶然発見されたのはまだいいとしても、強すぎる原虫がずっと見つからなかった理由は知りたかった。
奥神谷がド田舎過ぎるから発見されなかったとか?
あとマウスで行った実験の結果、老化現象が起こらなかった理由の説明がなかったような気がする。
動物には悪さしないのかな?でも一切の老化はなかったみたいだし・・・なんでやろか。

///いつも気になるところ///
全体を通してなんだけど、感染者たちはどうやって襲う対象を判別しているんだろうか?
視力は弱く音には敏感って、それだけじゃ自分以外の者を手当たり次第に攻撃しまくるだけじゃないの。
作品によっては「重症化する病原菌の有無」だったり「感染者から出る匂い?フェロモン?」から判別していたりと、理由を考えているものもある。
(中にはメイクと挙動だけで仲間と判断される映画作品もあったりね)
ゾンビ映画好きとしてはやっぱり気になっちゃうのよ。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
主人公である泉夏樹を中心とした三人称視点で物語は語られていく。
帯にも書いてあるように、この小説は「ホラーミステリー」というジャンルになっている。だから終始ゾンビと戦うっていう内容ではない。
大まかに分けて、前半はホラースプラッタ系で後半はミステリーってな構成かな。
未読の人はそのへんを注意しておいた方がいいかもね。

あくまでも個人的な感想だけど、『不死症』という小説は読書経験の浅いもしくは小説初心者にはオススメな作品だと思った。
(あとゾンビ映画を観慣れていない人にもオススメかな)
様々な小説を読んでいる読書歴長めな人には、物足りたいと感じてしまう部分が多々あるかもしれない。
もう一度書くけど、あくまでも超個人的な感想でね(^^;)

///話のオチはどうだった?///
一般的なゾンビ映画のように、結末がはっきりしない終わり方になるんじゃないかと思ったけど、綺麗にスパッと終わらせてくれたらから良かったわ。オチとしては幸せなもんではないけれど、おじさんはけっこう好きな締め方だよ。後味も悪くないし。
美しい、可愛い女性がカッコよくビシっと決める姿ってたまらないのよね(*´ω`*)

まーね、う~ん?と思っちゃう部分もいくつかあったけど、細かいことを深く考えたり、読み終えて何かを学んだりするような話じゃないと思う訳よ。
良作のホラー映画やゾンビ映画もそんなもんじゃん。
一時でもワクワクドキドキ出来て、最後にイイ感じの雰囲気を味わえればそれで良しってことにしよう。

///まとめとして///
改行の多い文章、簡素なセリフや描写、帯の過激な煽り文句や今風のイラスト表紙。
おじさんが想像するに、『不死症』は新規の読書人を増やす為、普段から全く小説を読まない人達に向けて作られた一冊なんじゃないかと思った。
その結果は・・・・・どうだったんだろか?
思い返せば携帯小説ブーム、山田悠介ブーム、毎年騒がれる村上春樹ノーベル文学賞ブーム?と時代を経てきた訳だけど次に来る波はどんなモノになるんだろうねぇ(´-ω-`)

相変わらず新規の増えないどころか、年々減り続けている(気がする)小説の読書人口。
でも諦めずに続けることで、いつかきっと目指すところに辿り着くんじゃないかな。
作中の夏樹ちゃんみたいに。
周木律は『不死症』の他にも『土葬症』と『幻屍症』っていうシリーズを出している。
コツコツと積み重ねていくことが大切!
勝手にそんなこと考えながら、小説文化が永遠に続くことを願ってしまう満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

9Pより。
―――語彙や知識はきちんとあった。先刻からきちんと日本語で思考しているし、加法定理だって諳んじられる。ただ、彼女自身に関する記憶のみがなかった。―――
加法定理、加法法則、加法公式とは、ある関数や対応・写像について、2 つ以上の変数の和として記される変数における値を、それぞれの変数における値によって書き表したものであり、様々な加法定理が世の中に存在している。
いやぁ~ぜんぜんわからん(笑)

44Pより。
―――「日本列島改造論に湧く当時の世相じゃ、抗いようがなかったんだろうね。―――
日本列島改造論は、田中角栄自由民主党総裁選挙を翌月に控えた1972年6月11日に発表した政策綱領、およびそれを著した同名の著書。
日本列島を高速道路・新幹線・本州四国連絡橋などの高速交通網で結び、地方の工業化を促進し過疎と過密の問題と公害の問題を同時に解決するといった内容でイタリアやアメリカを例にしたものらしい。
北部を工業地帯に、南部を農業地帯にすべきであるという主張や、電力事業における火力発電から原子力発電への転換についても語られていたとか。
グリーンピア施設か、懐かしい名前だ。

―――元々地元を潤わせるっていう下心が見え見えで、そもそも本当に役立つのかっていう疑問も提起されていたからね。侃侃諤諤の後で、結局、ダム建設は中止されたというわけ」―――
「かんかんがくがく」とは遠慮なく直言すること。大いに議論すること。

103P~104Pより。
―――ある種のビタミンが欠乏すると、表情が失われるのだ。あるいは狂犬病の亜種ならば、彼らが音に敏感だという特徴が説明できる。狂犬病患者は、水や音のような刺激をことさらに嫌うのだ。―――
ビタミン不足によって無表情になるってのはネットで軽く調べてみたけどわからなかった。
鬱病の人とかも表情があんまりない気がする・・・あくまでも気がするだけ。
狂犬病に罹った者が音や水の刺激を嫌うのかもわからなかった。
症状に神経過敏があるから、とりあえず刺激全般が怖くなっちゃうのかな?
恐ろしい病気だわ(>_<)

240Pより。
―――だからかは知らないが————————安堵しつつも、夏樹はいつまでも、戦きを隠せずにいた。―――
「おののき」とは恐ろしさ・寒さ・興奮などのために、からだや手足が震えるってことみたい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

365Pの夏樹ちゃんの場面を描きたい!って思ったけど、それはあまりにも終盤過ぎるので止めとこ。
108Pの横一列になって走ってくる奴等の場面も印象深いね。まるで映画『28週後』みたいでゾクゾクしてくる。だけど今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ

309Pより。
―――「・・・・・あ、あああ」長い呻き声を漏らした。
夏樹の頭の中で、今、世界がぐるぐる回っていた。
何が起こったのか、何が原因なのか、今のこの事態は何の結果なのか、そもそも自分はどう関わっていたのか。すべてが、ここには書かれていたからだ。―――