忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

虹を待つ彼女 読書感想

タイトル 「虹を待つ彼女」(文庫版)
著者 逸木裕
文庫 480ページ
出版社 KADOKAWA
発売日 2019年5月24日

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この作者の作品で既に読んだもの
・今回の「虹を待つ彼女」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

本屋で見かけて帯の文句に誘われて購入しちゃった。
小説の衝動買いは久しぶりだ。
アマゾンを利用しだしてからホントに本屋で買わなくなったからね。
(むかしは毎回1時間くらいウロウロと悩んで選んでいたのに)
本屋には超有名な作品か最新作しか置いてないから、どこに行っても欲しいのがないのよ。
街の本屋はこの先どうなるのだろうか・・・?
(個人的には電子書籍よりも紙媒体派なんです)


<< かるーい話のながれ >>

有能な研究者故に他人を見下しがちな工藤賢という男が主人公。
会社で故人を人工知能化して提供しようとするプロジェクトが立ち上がり、プロトタイプとして水科晴という女性がモデルに選ばれた。
ゲームクリエイターである水科晴は数年前に渋谷でドローンを使ったテロを実行して、その最中に自身も自殺をしている。
享年は25歳で、末期の胃がんを患っていたらしい。
彼女の人物像を知るために工藤は様々な手を使って情報を集めていく。
そして独特な自殺方法の真意に気づいたとき、工藤は水科晴に恋をした。

晴を知りたい、会話をしてみたいという個人的欲求に押されて情報を集めていく中、工藤のもとにHALという人物から調査を辞めろと言う脅迫メールが送られてくる。
かまわず調査を続ける工藤だったが、脅迫メールは止まらず彼の身の回りでも不穏なことが起こり始めて、ついには暴力による被害者まででてしまい・・・。

リビングデッド渋谷、スーパーパンダ、榊原みどり、死者の人工知能化、水科晴、セックスフレンド、最新バージョン、HAL、契約成立、EXIFデータ、晴の記録、RAIN、自殺者、棋士の目、何度も警告したよね、デバッガー、謝罪、虹になるのを待て、ムーンリバー、さよなら・・・。

スーパーパンダVS目黒隆則、勝負の結果はいかに?
AIアプリ「フリクト」は社会に出るのが早すぎたのか?
晴とHAL、そして雨・・・・・工藤ががむしゃらに追い求めた先にあるのはどんな結末なのか?
読み終わった時、あなたは「ムーン・リバー」を聞きたくなってしまうこと間違いなし(`・ω・´)


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///人工知能とはこういうモノだって考え方に納得///
51Pより。
―――「一時期流行った技術的特異点にしてもそうだ。人工知能が自発的に、優れた人工知能を作る。新しく生まれた知能が、より優れた知能を作る。そうやって知能が爆発的に発展していく。だが、そういうものが実現するまでには、あと何段階も技術的なブレイクスルーが要る。何十年かかるか判らないし、実現する見通しはない。ほとんど感情そのものを作るという話だからな」―――
言われてみれば今の世の中に出回っている人工知能っていうのも、詰め込んだデータの中から該当するモノを引っ張り出してきているデータ解析ツール、なのかな?
おじさんがイメージしている人工知能っていうのは、無から何かを生み出すモノ、それ即ち「感情」を持ったコンピューターこそ人工知能だと思う。
そして「感情」があるのならそれはもう生命と言っても過言ではない(゚Д゚)ノ
↑なんてことを妄想しちゃったね。

///合理的で理想的な恋愛・・・アリかも///
55Pより。
―――「むしろ、人工知能と恋愛をするほうが合理的かもしれない。彼女らはいざこざをおこさない。二十四時間、いつでもどんなときでも、こちらの喜ぶことを言ってくれる。飽きたら取り換えることもできるし、一度に複数の人工知能と恋愛をしていても、修羅場になったりしない。そんなこと、生身の人間には無理だろ?」―――
恋に恋をする状況を楽しみたいなら、確かに人工知能は合理的だわね。
それに孤独なストレスからのトラブルや犯罪は減りそうな気がする。
早く映画「her」みたいなの作っておじさんを癒しておくれよよよ(ノД`)・゜・。

///わかる人にしかわからないみどりの言葉///
56Pより。
―――「工藤くんは本当のの恋愛を知らない。それだけだよ。相手のことが好きで好きでたまらない。相手のことをもっと知りたい。損得をすべてなげうっても、相手に自分を捧げたい。そんな風に思ったことがないでしょ?だからそういう風に、効率よく酔っ払うにはどうするかみたいな話になってくるんだよ」―――
↑このみどりが言った言葉が染みたねぇ。
最初に読んだ時は「なんでいこんなありきたりの言葉並べやがって既婚者べらんめぇ!」って思ったのに、そう思っていたのに・・・・・納得させられちまったよチクショウ。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///由里子はフリクトを嫌う理由は?///
工藤が就いている会社モンスターブレインの営業部長である瀬名由里子。
この女性が人工知能アプリであるフリクトをとにかく嫌っている。
ずっとフリクトを消し去ってやるぞ!というスタンスを崩さない。
芯の強い女性は好みだ・・・・・じゃなくて、どうしてそこまで嫌うのか理由が知りたい。
(元カレをフリクトにとられたのか、もしくは現在進行形でとられそうなのか、不気味なだけなのか)

///ちょっと無理やり過ぎる行動?///
293Pの展開に違和感。
両者共に血の気の多い建設作業会社と大学のアメフト部が居酒屋で大乱闘をして、わらわらと警察がきて20人ほどが連行されて行ったのだが、そのあとで間違えて女性用トイレに入った建設作業員が酔いと興奮に任せていきなり・・・。
警察も来ている居酒屋のトイレであんな事しようとするかね(・・;)
あとで必ず逮捕されるだろうに、これじゃホームラン級のバカだろうて。
(でも世の中にはそーゆー人もゼロではないってことかな)

///プログラムを見れば全部まるっとお見通し!なんてことはならないか///
131Pより。
―――「晴のゲームには、どれも裏モードが、あるんですよ」―――
パソコンゲームの裏技とか隠しイベントとかって、プログラムを見てあるかないかの判断は出来ないの?
おじさんには到底無理だけど、プログラマーの人なら判るんじゃないのかね?
まったくわからん世界だからそんな疑問を持ってしまった・・・今度SEの友人に聞いてみるか
(後日聞いてみたところ、プログラムの文字列だけでどんなことが起こるのか判断するなんて芸当はムリやでアンタって言われましたわわわ)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
激しい展開がほとんどない物語だけど、いくつかの出来事が同時進行していくから飽きずに楽しめた。
毎回読み始めはワクワク感低めだけど、数ページ進むといつの間にか引き込まれちゃう不思議!
あっちの問題がどーなったとか、こっちの進展がどーなったとか、コロコロ変化するのが巧い作りかと。

冒頭のドローンテロ描写で、虐殺からの終盤もっと酷い世界規模のテロ計画が起こるのか!?
↑のような妄想が先走ってしまったけど、そんなことは無くて感情とデジタルが絶妙にブレンドされたお話が静かに進んで行ったよ。(途中で予想外の暴力描写があったのは嬉しい刺激)

///話のオチはどうだった?///
毎回のことなんだけど、今回もまんまと騙されたわ。
まさかアレがソレだったとは(; ・`д・´)
雨はどこで狩りのやり方や暴力の使い方を習得したのかな?
フランスに居た頃に?・・・・・いやまさか独学で!?
愛の力は無限大なのかなぁ。

帯に「鮮烈なラストシーンをあなたは目撃する」ってあったけど、ちょっとハードル上げ過ぎだったのではないかと。
確かに珍しい物語だったとは思うけど、最後の描写はそれほどおじさんには響かなかったかなぁ。
これは工藤というキャラクターが嫌味な奴過ぎて「ま、しゃーないわな」ってなっちゃったから(笑)
(終盤では雨と晴の二人に心を持っていかれたってのもあるだろうけど)

///まとめとして///
晴と雨が過ごしていた、虹のように美しい場面がしばらく頭から離れないよ。
この感覚が尊いということ?
読み終わってからYouTubeでオードリーが歌う「ムーン・リバー」を聞いてみた。
なんだか暖かい気持ちで心が満たされましたわ(*´▽`*)
この小説のように人間に優しく寄り添ってくれる人工知能が早く出来ることを切に願うよ。
という訳で満読感83点!
さぁ~て、次はなにを読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『虹を待つ彼女』は第36回横溝正史ミステリ大賞受賞作です!

19Pより。
―――晴は口ずさんだ。ヘンリー・マンシーニの『ムーン・リバー』だった。―――
ムーン・リバー」はジョニー・マーサー作詞・ヘンリー・マンシーニ作曲の1961年公開の映画『ティファニーで朝食を』で、主演女優のオードリー・ヘプバーンが劇中で歌った曲とのこと。
沢山の人が歌っているがヘンリー・マンシーニ自身は、オードリーの歌こそが文句なく最高の『ムーン・リバー』だと書き記しているとか。

39Pより。
―――チューリングテストからイライザ効果、フィリップ・K・ディックから伊勢物語へ、ふたりの話は学問や時代の垣根を横断して飛び、繋がっていった。―――
ELIZA効果とは意識的にはわかっていても、無意識的にコンピュータの動作が人間と似ていると仮定する傾向を指す、らしい。
これは、プログラミングの限界の自覚とプログラムの出力を生む動作との微妙な認知的不協和の結果・・・・まったくわからへん(;´Д`)

93Pより。
―――最近ブラッドベリの『刺青の男』って本を読んだけど、面白かったよ。工藤くんもよんでみて―――
「刺青の男」の全身に彫られた刺青が動き出して18の物語を演ずる、という設定のもとで全体がひとまとまりになっているレイ・ブラッドベリの短編集。(内容としてはSFになるのかな?)

138Pより。
―――あいつ、いろんなものに「A」をつけて呼んでた。川越の言葉を思い出す。この惹句を冒頭に入れるのが、晴の作法なのだろう。―――
「じゃっく」
客を引きつける文句、うたい文句、またはキャッチフレーズなど。

180Pより。
―――「俺は、晴を死なせてしまったことが、たまらないんだ」
工藤ははっとした。栗田の声からは、慙愧の念が感じられた。―――
「ざんき」
恥じ入ること。

422Pより。
―――残りの二名もモンスターブレインを辞めた精鋭で、ソースコードを管理しているリポジトリを覗くと、毎日凄まじい勢いでソースコードが書き換わっている。―――
「りぽじとり」
英語で「貯蔵庫」「収納庫」の意味。
アプリケーション開発の際に、システムを構成するデータやプログラムの情報が納められたデータベースのことであり、ソフトウェア開発および保守における各工程のさまざまな情報を一元管理する意味でも使われるらしい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回は作中で一番印象に残ったこの場面を描いてみた。
描いていて途中からベタ塗り機能を使うことを覚えた!
凄く便利ですたい(`・ω・´)

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318Pより。
―――マンションと思しき、小さな部屋のなか。晴は、こちらに背を向けている。黒いキャミソールに、ベージュのショートパンツ。表情は見えない。
「はーるーさん」―――
(ネタバレになるので省略)
―――「何してるの、晴さん」
晴はフローリングの床に片膝を立てて座り、座卓の上のパソコンモニタを見つめていた。―――