忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

すじぼり 読書感想

タイトル 「すじぼり」(文庫版)
著者 福澤徹三
文庫 480ページ
出版社 KADOKAWA
発売日 2009年7月25日

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「すじぼり」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

ヤクザ物と聞いて一番印象に残っているのは映画『アウトレイジ』だね。
好きなセリフはもちろん、グバナン共和国大使の「カジノ?カジノデキナイヨ」ってやつ(笑)
ままま、そんなことはどうでもいいとして。
今回は『残穢』にて登場していた福澤徹三の小説を読んでみよと思ってさがしてみた。
そしたらなかなか興味を惹かれる作品を発見しちゃった。
ではではさっそく読んでみよう(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

父親と二人で北九州に越してきて、私立大学のデザイン科に通う亮という青年が主人公。
夢も希望も情熱もない大学生活をタラタラと送っている。

ある夜、友人ら(和也・翔平)と集まって大麻を吸っていると、調子に乗り過ぎた流れでクラブに保管されている大麻を盗みに行くことになった。
思いつきの行動が上手くいくわけがなく追っ手に捕まってしまう亮だったが、偶然逃げ込んだバーに居た客に助けられる。
亮を助けたのは真和会の速水というヤクザだった。

大麻を盗む、アッシュ、奇妙な生活、渾名が狂犬、デリヘル嬢の面接、三百万、開けてはならない金庫、キリトリ、男の遺体、犯罪の定義、侠道、復讐という烈しいもの、彫眠、確かに潮時だ、政略結婚、フィリピン行きが二枚、専門の業者、死にかただけを考えてきたんや、おまえを売ろうとしてたんだ、眼のない龍・・・。

何もなくただ日々を過ごすだけだった大学生が、昔ながらのヤクザ達とひと夏を共に過ごす。
時代に合わない速水達の強烈な生き様は、亮にどのような変化をもたらすのか。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///わかっちゃいるけど、難しいんだなぁ///
亮の通う大学の講師が言った言葉に納得するねぇ。
37Pより。
―――「確かに、企業は学歴差別をする。きみはそれを知らなかった。しかし、それを知ってる若者も大勢いる。だから、こぞっていい大学に進もうとするんだ」
それがいいかどうかはべつにして、と佐久間は続けた。
「無知だということは、それだけで損をする。それが大人の社会だ」―――
後に目黒が亮の金を巻き上げながら、無知だと損をするって教えるところも印象に残ってる。
おじさんも税金関係とか全然まったくちっとも覚えていないし理解しようともしていない(・・;)

///極道的判断基準の見分け方///
57~58Pより。
―――「おまえ、女のみわけかたがわかるか」
「いいえ」
「なら覚えとけ。女と一緒に飯を食いにいったら、勘定のときに金がないていうんや」―――
こんなこと女性にされたら、おじさんはイチコロで惚れてまうやろー!ってなっちゃう(笑)
詳細を記すと様々な方々から文句が飛んできそうなので、気になる人は読んでみればヨロシ!

///ヤクザ小説なんだから暴力描写は凄まじい///
416Pより。
―――「歯を一本ずつ削って神経をだす。上顎の次は下顎や。それから歯茎の肉を削る。たいていは、そこまでいかんがの」
「やめてくれッ」
思わず叫んだとたん、鉄パイプが唇を割って入った。―――
想像もできない痛みを妄想してみたけど、読んでいて頭がクラキュ~しそうになったわ。
さらにこのあと、トンデモナク恐ろしい処置を施そうとする展開ににに(゚Д゚;)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///ちょっとお金関係で抜け過ぎでは///
主人公の亮が実に抜けている、抜け過ぎている。
彼女と焼き鳥屋に行ったはいいけど、昼間にケータイを買って財布に金がないことを忘れている。
(そのあと菜奈がとった行動にキュンとしちゃうわ)
金に困って質屋に預けた父親の時計、後に現金の余裕ができたにもかかわらずすっかり忘れていて、思い出したころには買い戻すのに倍以上の値段が必要になってしまう。
他にもいろいろとダメな部分があるけれど、菜奈はどうして亮と付き合っているんだ?
ダメさを帳消しにしちゃうくらいイケメンなのか?


///類は友を呼ぶ?想像力がなさすぎでは///
亮の大学の友人である和也も抜け過ぎている。
ヤクザが仕切っているクラブから大麻を盗もうとして、その時は運良く無事に収まったのにまた同じクラブへ遊びに行くなんて・・・(理由は彼女が行きたいと言ったから)
そういえば、クラブから大麻を盗み出そうと言っていたのも和也だったか。
暇な若者は怖い物知らず(世間知らず)とはいえ、ドラマや映画でヤクザ系の人達と揉めるのがどれだけヤバいのかってことくらい知っているだろうに。
(でもこーゆーキャラがいないと物語が成立しないから、仕方ないとは分かっております)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
物語は全て亮の視点から語られている。
普通の大学生として友人達、父親、彼女と関わりながら過ごす部分と、速水総業の面々と過ごす部分が少しずつ交わりながら徐々にヤクザの世界に傾倒していく。
ヤクザ小説だけど語り手が一般の大学生だから、読みやすいしハラハラドキドキも共感しやすいね。
でも亮の危機感の無さやドジっぷりが酷いのでイライラする部分も(笑)

///話のオチはどうだった?///
あれ、ここで終わっちゃうの?っていう感はあったよ。
でも青春極道小説ならばこーゆー終わり方がピッタリかな~と思った。
虚しさというか、寂寥感というか、いきなり台風がやって来て被害の爪痕を残したらすぱっと消えていったような気分。
酷い目に遭ったり、大切な人を失ったり、文字通り痛い目にあったりしないと成長できない人間もいるのよね。(おじさんも被害を受けないと変化しないタイプの人間ですわ)

///まとめとして///
登場するキャラクター達に対して、どうか酷いことしないでください!という気持ちが生まれる小説は良作の証拠。
速水総業の面々に心を持っていかれたのは亮だけじゃない、おじさんもがっちり持っていかれたさ。

そして最後に一人残された亮よ・・・。
目の無い龍のすじぼりは、まさしくラストの彼そのものじゃないかと。
これからの人生で背中のすじぼりに何を入れていくのか、もしくはすでに侠道の魂が入り込んだのか。
願わくば、綺麗で鮮やかな龍の刺青が似合うような漢になって欲しいぜってことで満読感89点!
さぁ~て、次はなにを読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『すじぼり』は第10回大藪春彦賞受賞作品なのです。

2019年にU-NEXT独占配信で連続任侠ドラマ『すじぼり』が作られたみたい。
うーむ、予告を観た感じだと小説よりもスタイリッシュに変更されているっぽい?
予告で流れているROSの「RUN TO GLORY」って曲がカッコよくてお気に入り。

150Pより。
―――「これはスティレットいうて、シシリーのマフィアが使うナイフや。剃刀より斬れるで」―――
スティレットは短剣の一種で、中世期後半チェインメイル(鎖帷子)が普及し、それまでの剣等ではなかなか相手にダメージを与えられなくなった時代に発明されたと言われる武器。
ちなみに「シシリー」とはシチリア島の英語名らしい。

237Pより。
―――「売春も法律で禁止されとるが、一発やらせんソープランドはどこにもない。あれも風呂に入ったあとは自由恋愛とか抜かしとるけど、デリヘルで同じことやりゃあ即逮捕や。似たようなもんなら、まだなんぼでもある」―――
風呂屋とか料亭っていう名目の店舗だから、その中で自由恋愛したなら本番OKよ。
でも風俗という名目の店舗は自由恋愛でも本番ダメだからねって・・・屁理屈じゃんか。

248Pより。
―――「中里介山に日本武術神妙記という著作がある。昔の武芸者たちの記録を集めたものやが、そのなかに、こんな話がある」―――
1944年に没した日本の小説家。
1929年に実業家・藤田勇の紹介で上京間もない合気道創始者植芝盛平の道場に入門して、見慣れぬ武技を熱心に観察したらしい。植芝盛平といったらバキ・シリーズの渋川剛気のモデルじゃないか!)
1933年には古文書から武術に関する逸話などを網羅した『日本武術神妙記』を著した。

298Pより。
―――線だけの龍は、眼も白い穴だけで、どこか間が抜けている。画龍点睛を欠く、となにかで読んだ覚えがあるが、まさにそんな感じだった。―――
一般的には「画竜点睛を欠く」と書くみたい。
 ほぼ完全に出来上がっているのに、肝心の部分が抜けているために不完全な状態になっていること。 「睛」は瞳を表しており、「晴」とするのは本来は誤りらしい。

354Pより。
―――「何十年も働いて、ひとつも財産はできんやったけど、息子がおってよかったわい」
「どういう意味」
「なんぼおまえでも、死に水くらいとってくれるやろ―――
死に水は、釈迦が臨終の際に水を求めたという言い伝えから行われており、死者の蘇生を願い、それが無理でも死後の世界で乾きに苦しむことのないようにと祈る想いの込められた儀式とのこと。
一般的には、新しい筆か割り箸の先に脱脂綿をつけたものに茶碗の水を含ませ、臨終の人の唇を軽く潤ますらしい。

397Pより。
―――「最後に教えといたる。きっちりひとを殺るときはダムダム弾かホローポイントや。躯んなかで炸裂するけ、急所に当たらんでも重傷を負わせられる」―――
ダムダム弾は被銅の先端を取除き、かつ被銅を薄くしてあるので、命中すると柔らかい鉛が潰れて傘のように広がる盲管銃創となり、ズタズタの傷になるらしい。

ホローポイントは弾丸先端部分に凹レンズのようなくぼみを持たせたもので、命中時にそのくぼみに空気が閉じこめられ衝撃波を発し、さらに先端がキノコ状に変形・拡張して運動エネルギーを効率よく与えることにより、ズタズタの傷になるみたい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
151Pより。
―――あッ、と思わず叫んだ。松原が左手でナイフの刃を握っている。男は呆れたように首を横に振って、「あほなことすんなや。このままナイフ抜いたら指が落ちるで」
松原は無言で左手を引いた。―――

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今更になってお絵描きに使っているアプリに直線機能があることを知った!
普通に考えればペイント系アプリに入っていて当然だろうに、なぜ今まで探そうとしなかったのか。
歳はとりたくないね・・・・・いや、これは年齢関係なく性格の問題か。
おじさんも亮たちのことをバカにできんわ(;´Д`)

RUN TO GLORY

RUN TO GLORY

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