忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

クチュクチュバーン 読書感想

タイトル 「クチュクチュバーン」(文庫版)
著者 吉村萬壱
文庫 224ページ
出版社 文藝春秋
発売日 2005年8月3日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「回遊人

ブログを始める前に「ボラード病」やら「バースト・ゾーン―爆裂地区」やら「独居45」やら色々読んでいる。


<< ここ最近の思うこと >>

延期に次ぐ延期を経たソシャゲの「ウマ娘」が配信スタートして六カ月以上たった。
なかなかに人気らしく会社の人もスマホでコツコツと頑張っているようだ。
スペシャルウィークも良かったけど、トウカイテイオーも泣けたわ)
それがなんじゃい!こちとらシマウマ男じゃ~い!
一物抱えて必死で走れ、爆逃げしないと巨女に捕まるぞ。

今回はすでに読んだことのある小説をもう一度読んでみることに。
思えば会社の上司に貸し出しされたこの作品が吉村萬壱小説のデビューだった。
あの時からおじさんのおぞましい系ジャンル好きが始まったのかもしれない。
ではでは、感性歪んじゃうくらいの終末世界に二度目のダイブじゃ~(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

「クチュクチュバーン」
ある日突然、世界が狂いだした。
この世の情報すべてが詰まった核が変化をし始めて、全ての物質が常識では考えられない変化をするようになった世界。
虹色の雲が現れ、太陽は増えて海には穴が出現し、生き物は融合と変化に翻弄されていく。
目指す場所もなく歩き続ける人々、変化を恐れて閉じこもる社会、迫りくる融合の波。
人類の終焉はすぐそこまで迫っていた・・・。

「国営巨大浴場の午後」
ある日突然、空一面にナッパン星人が飛来して、人類を虐殺し地球をめちゃくちゃにしていった。
破壊と殺戮の限りを尽くし、地球の環境を劇的に変化させて、彼らは唐突に去っていった。
生きる気力も、死ぬ気力もない人類がわずかに残された地球。
文明の崩壊した廃墟の街でただ生きている、首の曲がった男と問いかけるだけの女、沈思黙考氏。
全てが狂ってしまった世界の午後、三人は国営巨大浴場へ行くことに・・・。

Twitterで作者が書いていたけど、ナッパン星人は日販(日本出版販売株式会社)から、ターハン星人はトーハン(株式会社トーハンからもじって名付けたらしい。

「人間離れ」
何の前触れもなく空から巨大な卵が無数に落ちてきた。
その中から出てきた大小様々な蟹に似た化物は、凄まじい勢いで人間を殺戮していった。
なすすべなく破壊しつくされた世界で、生き残った人間達の間で妙な噂が広まっていた。
直腸を引っ張り出せば見逃してくれる、人殺しをすれば助かる、などなど。
ヤツらは人間を殺して回っているのだから、人間離れしたことをすれば助かるのだ・・・という願望のような噂に踊らされる人々。
そして崩壊寸前のビルの屋上から、奇行に走る人間達と無差別に殺戮をする蟹達を眺める男が一人。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///恐怖!犬人間の罠!///
荒れ果てた地で珍しくも犬を見つけたが、それは犬と人が融合したような生き物だった。
数人の男たちが苛立ちからくる衝動で犬人間を殴打するのだが・・・。
30Pより。
―――男たちは「妙だぞ」と思い、一瞬顔を見合わせたかと思うとその場から突然逃げ出すべく体の向きを変えようとした。しかしそれはほんの僅かの差で遅かった。そのことに男たちもすぐに気付いたが、もうどうしようもなかった。―――
ひええぇ、まさか一瞬であんなことになるなんて。
しかも中で生きているのか蠢いている様子が恐怖だわ(; ・`д・´)
死にゲーを初見で死なずにクリアするのと同じくらい極ハードな世界だよ。

///白熱の糞吸いデスマッチ///
弱った藍色を見つけて、人々は甘味を得るためその体にまとわりつき、垂れ下がった肉壁をかき分けて肛門を探索する。
168Pより。
―――藍色の糞は酸化すると忽ち苦くなってしまうのだが、肛門に口を密着させて吸い出すと大変に甘く、砂糖水のような味がする。人々は慢性的に甘いものに飢えていたから、藍色の「糞吸い」は危険を承知で敢行する価値があった。―――
探すのは肛門です、間違っても違う穴に吸い付いてはいけません!
もし違う穴に吸い付くと・・・・・「ぁぁんんぉぉぅぅ・・・・・」と、断末魔の悲鳴を上げながら足をバタつかせることになっちゃいますから。
肛門を見つけたらその瞬間から穴を巡っての肉弾戦が始まるし、あーもうむちゃくちゃだよ(笑)

///せめて最後は笑って///
出入口をガッチリ塞いだ地下8メートルほどの場所。
高さ1メートルほどの水が溜まったその空間に隙間なく詰めている人々。
水面から天井までの隙間は僅かで、四日も音を立てずに静寂を保ったまま最後を迎えようとしていた。
152Pより。
―――それはあり得ない筈のことだったが、しかし粉うかたなき笑い声だった。誰かが笑ったのだ。
<絶対の沈黙と無為>の鉄則が破られた瞬間だった。―――
死体や糞尿がそのままの密集空間に四日も居たら、そりゃ爆発しますって。
殺されることが確定した瞬間から、絶命するまでの僅かな時間にもう笑うことしかできない心情。
「笑う」ことができる人間ならではな最後だと思ったよ。
(映画『悪の法則』でもブラピが首にアレを付けられた時に、力なく笑っていた場面を思い出した)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///使えないターハン星人め///
知性的で女性的なシルエットのターハン星人。
ナッパン星人の次に地球にやってきた彼らの目的は一体なんだったのか。
106Pより。
―――それに、ターハン星人はどうやらかつてナッパン星人の襲来を経験していたらしく、圧倒的に人数が少なく、また虐殺の恐怖に脅え切っているように見えた。今思うに、ターハン星人たちは地球に死ぬためにやって来たのではなかったろうか。―――
死ぬ覚悟があったのならもうちょいなんとかならかったのか?
宇宙船を作るほどの技術力があるのになぜ弱い?
一体何しに来たんだよお前たちは(笑)って言いたくなっちゃう。

///普通にダメージは与えられるの?///
仲間達と一緒に行動しないで項垂れたまま動こうとしないナッパン星人がちらほらと見つかって、無抵抗なのを確認した人間達が次にとった行動は・・・。
108より。
―――我々は瓦礫の山から各々武器になりそうな物を手に持ち、何故とっくの昔にそうしなかったのだと自分自身に問いかけながら、この四年間の自分たちの無為と怠惰と被虐趣味を心底呪いつつ、残ったナッパン星人をこれ以上はないというほど殴打し、切り刻み、焼き、引き裂いたのだった。―――
切ったり焼いたり引き裂いたり出来るのであれば、銃による攻撃も有効なのでは?って思った。
もしそうなら、人間側がこれほどまでにやられちゃうなんてあり得ないでしょ。
ひょっとして健康正常なナッパン星人はもっと肉体が強靭なのかも。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
「クチュクチュバーン」と「人間離れ」は数人の登場人物目線で細かく切り替わりながら物語が語られている。「国営巨大浴場の午後」は主人公の男性目線だけで終始語られていた。

三話共通して崩壊した世界でか細く生き残っている(みんなすぐ死ぬけど)人間達のお話だから、一切の救いも温もりもない読み心地。(元上司はそーゆー部分を気に入っていたみたいだけど)
でも可哀想とか悲しいとか、そーゆー感情を感じる暇もなく無茶苦茶な展開が続いていくから、読んでいて辛いとはあまり思わなかったね。
動物が酷い目に合うとかいう描写もなかったし。

///話のオチはどうだった?///
基本的に流されるがまま抗うこともできず、絶望を受け入れるだけって感じで終わるね。
「クチュクチュバーン」だけは崩壊のその先が語られていたけど、結局よくわからない世界だし。
(なぜウマ男だけ・・・・・神出鬼没の質問男とは・・・・・文明とかあるの?)

というかこの小説に関してはオチとかどうでも良いって感じかなぁ。
読み始めから一気に興奮の頂点に到達して、あとは結末までずっとその状態を維持。
そして突然にぷっつりお話終わりな展開だから(笑)

///まとめとして///
すでに読んだことのある今回の小説、二回目なのになんなんだろうねこの圧倒的熱量は!?
予測もつかない超常的で無慈悲な展開がおじさんの好奇心を刺激しまくりで、相変わらずのあわわわわだったよ(´゚д゚`)

絶対的な変化に遭遇した時、人間はただ受け入れることしかできないし、愚かな行為も進んで行う。
そんな程度の存在だから、せめてこの小説の中だけでは残酷で不謹慎な空想を存分に楽しもう。
安全な立場から崩壊する世界を眺めるのは、その小説の読者にだけ許された特権ってやつだよね。

一度読んだら忘れられない小説は?そう聞かれたら間違いないく『クチュクチュバーン』と答えるだろう。(もしくは『獣儀式』かな)
圧倒的な物語の勢いに呑まれて読了後は惚けてしまうことに注意ってことで満読感9点!(10点満点中)
(万人受けする小説じゃあないので、合わない人も大勢いるだろうから未読の人は注意してね)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『クチュクチュバーン』は第92回文学界新人賞受賞作です!

13Pより。
―――従ってあなたは十本脚の蜘蛛になるのです、と説明されて一体誰が平然と「諾」と言えるだろうか。―――
「だく」「うべなう」
応答すること、承知すること。うけあうこと。または、承諾の言葉。

34Pより。
―――「おいっ。手加減ボール盤にて使用するドリルの径は、十二・五ミリ以下だ。それより更に小型のボール盤は、卓上ボール盤だぞ」―――
工作物をテーブルの上に固定して加工する機械。
直径13mm以下の穴をおもに手送りであける小型の直立ボール盤のことを卓上ボール盤,または手加減ボール盤というみたい。

65Pより。
―――口々に挨拶を残して人々は挽肉になっていき、そのたびに巨女は「琵琶湖周航の歌」を歌った。―――
作詞:小口太郎  作曲(原曲):吉田千秋
今津の宿で誕生した「琵琶湖周航の歌」は平成29年(2017)に100周年を迎えたらしい。
100年歌い継がれるこの名歌には歌詞・曲調の素晴らしさだけでなく、人を魅了する興味深いストーリーが存在しているとか。
(ちなみにこの場面、思わず笑えてくるのはおじさんだけ・・・?)

192Pより。
―――水平線上の東雲の空が赤く染まり、海上に浮かぶ数体の巨大な藍色が島のように浮き上がって見えた。そして例の物も・・・・・。―――
「しののめ」
夜明け。明け方。また、明け方に東の空にたなびく雲。

197Pより。
―――町外れの小高い丘の上、密生した灌木の上に乗っかるようにして、全裸の少女が一人倒れていた。―――
「かんぼく」
丈が低く、幹が発達しない木本植物。 
ツツジナンテンなどの類で、幹と枝とが区別しにくく、二~三メートル以内のもの。
 現在では低木というみたい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
65Pより。
―――問題は誰が彼女を満足させる肉棒となるかであったが、こうして彼女が倒れるたびにその恐ろしい挽肉器の前には行列が出来、押すな押すなの大混乱となるのだった。
「これで御浄土へ行けるぞ」
「この女を昇天させてやる」
「生まれ変われるわ」
「グチャッとしてぇ!」―――


初めて読んだときから絵に描いてみたいと思っていた強烈な場面。
挽肉器の作りがどうなっているのか気になって調べてみたけど、材料をスクリューで押し出してプロペラの様なナイフで刻み、穴が沢山空いたプレートから挽肉が出てくる・・・と。
巨女の佳枝に付いている挽肉器は、スクリューがあってその奥にナイフがついているのか、すぐ目の前にナイフが付いているのか、どっち向きに付いているんだろう?
(まあ血しぶきが舞い上がるくらいだから、ナイフだけが付いてる状態かもしれないけど)

 

琵琶湖周航の歌

琵琶湖周航の歌

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