忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

螺旋時空のラビリンス 読書感想

タイトル 「螺旋時空のラビリンス」(文庫版)
著者 辻村七子
文庫 256ページ
出版社 集英社
発売日 2015年2月20日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「螺旋時空のラビリンス」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

少し前にクリストファー・ノーラン監督の映画『プレステージ』を見た。
ニコラ・テスラの発明には度肝を抜かれたし、ノーラン監督の映画はやっぱり面白かったぁ。
ゾクッとするあのラストシーンが印象に残っている。
(今回の小説を読んでチラッと思い出したのよね)

ライトノベル枠として選んだこの小説、改めてよく見てみると「ライト文芸レーベル」ってことらしいけど、このレーベルは女性様向けのロマンス小説っぽいのかな?
・・・・・・・・・いや、失敗したかもとか全然思っていないし(^^;)
小説ってのは読んでみないとわかんないもんだし!

一抹の不安を抱きそうになったけどそんなくだらん色眼鏡は捨てて、いざ19世紀のパリに向かっておじさんもアリスの鏡に飛び込むぜよ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

大戦が終了して世界人口が二十億人にまで減少した2099年。
二千万人の富豪達が贅沢に暮らし、残りの者は貧困に喘ぐ未来では時代を超えた泥棒稼業が存在するようになっていた。
「時間遡行機」を扱う会社が依頼された芸術品を過去に飛んで盗み出してくるというビジネス。

17歳の主人公ダブルゼロ・トゥウェルフスは時間遡行会社ジャバウォックで働く泥棒の一人。
彼の今回の仕事は、会社で保管されていた至宝インペリアル・イースターエッグを盗み、19世紀パリへ飛んだ同僚のフォースから品物を取り返してくることだった。

泥棒の見る夢明、芸術の振興、ピンパーネルの法則、ジャバウォック、見返してやるのはそれからだ、主よ御許に近付かん、もっと深く考えて、ドッペルゲンガー、奇妙な現象、諦めるな、フラッシュバックした言葉、トルトニへ行こうぜ、タイムラグ、最後のチャンス、起死回生、私には今日しかない、俺の本番はここからだ、開示された機密文書、あなたが一番好きな曲・・・。

幼馴染でもあるフォースは19世紀のパリで高級娼婦の「椿姫」として生活していた。
トゥウェルフスが彼女と接触した時、時間の迷宮はその出口を閉ざしてしまう。
果たしてトゥウェルフスはエッグを手に入れて、フォースを救い、無事帰還することが出来るのか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///好奇心をそそられる過去の現場話///
時間遡行した泥棒が自分自身を目撃してしまった場合、それは危険の先触れということ。
トゥウェルフスがその特殊な仕事先へ出向いていた同僚のことを思い出す場面。
81Pより。
―――サウザンド・ファーストの現場―――タイタニック号に開いた扉は、沈没一時間前のパニックの最中、一枚だけだった。―――
沈みゆく豪華客船、パニックになる群衆、そこでお宝をいくつも奪取してくる泥棒。
こっちの話が凄く気になる興味そそられる!
でも何度も同じステージを最初からプレイできるんだから、すぐに飽きちゃうかも。
いやでも危険でタイムリミットのある場所へ時間遡行して、数々のトラブルに見舞われながらも盗みを成功させる泥棒の話・・・・・ってこれじゃほとんどルパン三世みたいだわね(^^;)

///「強い理由」が強すぎる///
エッグを寄越して元の時代に帰れば病気も治るからと説得しようとするトゥウェルフスだが、フォースは頑なにその誘いを拒否し続ける。
トゥウェルフスはフォースの小間使いである少女ローズにも協力を仰ごうとするが・・・。
109Pより。
―――「俺たちの国ではそうじゃないんだ!あんなもんは注射の一本で治せるんだよ!」
「では、いっそう強い理由があって、ここに残りたいのではありませんか」―――
おじさんもローズのセリフを読んではっとさせられましたわ。
たとえ近い将来に死ぬとしても戻りたくはない、死よりも耐え難い理由があるからだってなぜ今まで気づかなかったのか(>_<)
そしてそれがあんな恐ろしいことだったとは・・・。

///時間トラベルものならではの///
状況の打開策が見つからないトゥウェルフスはフォースから提案された「順応する」というプランを試してみることに。
一年間を通して彼女の生活ぶりを観察していた。
113Pより。
―――V・Vというたいそう縁起のよさそうなイニシャルの旦那は、姿も見せず百個のオレンジを百枚の百フラン札でくるんでは送りつけてきて、最後には破産したと新聞に書かれていた。―――
後々にわかることだけど、V・Vなるイニシャルの旦那にニヤリだわ。
これぞタイムリープ?ループ?系の物語ならではな演出だね。
(ちなみに19世紀の1フランあたりは金の価値で換算すると1423円となるようで。
ってことは1423×100で・・・100フラン札は一枚で約142300円の価値があるってこと!?)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///足りない人材を補うには?///
時間遡行泥棒稼業は使い物になる泥棒を育てるのに時間も金もかかるし、仕事の依頼は山のようにやってくるようで、それを解決する手段が・・・。
時間遡行の技術力があるのならクローン技術とかないのかな?
極秘で生産育成して人権も無視して使い放題にできるのにって思った。
でも現実世界の技術が架空の未来世界にも必ずあるなんてルールはないし、ひょっとしたら戦争で失われたのかもしれないし、その辺は気にしなくていいってことか。
(もしくは設備・維持費とかに金がかかり過ぎるから却下されてたりね)

///2099年の世界情勢とは?///
この未来世界の現状がいまいちわからないところも。
二千万人の富豪達が世界政府と富とメディアを掌握しているけど、国連は一応あったり時間遡行犯罪を取り締まることもしたり、はたまた非人道的行為を糾弾する善意もあったり。
つーかまず真っ先にタイムトラベルなんて危険な行為は禁止しちゃうもんなのでは?
おじさんの考え方が両極端過ぎるのかもしれないわな、現実世界でもお金持ちが世界のルールを作っては壊している訳だし、今とそれほど変わらないのかもね。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
最初から最後まで主人公ルフの視点だけで語られている作り。
19世紀に移動してから中盤までの展開は、正直少し中ダレしそうになってしまったけど、それ以降からが面白さ爆発って感じでずっと楽しませてくれたから良かった。

読む前はまぁ所詮ライトノベルでしょって高をくくっていたおじさん。
でも想像していた以上にしっかり作りこまれた設定と文章、そして1ページの文字数に驚いた。
SF小説としても充実した内容だったから、これは嬉しい想定外だったね。

///話のオチはどうだった?///
読了感さわやかなハッピーエンドだった。
まさかあんなやり方で一矢報いるとは、それに泥棒ならやっぱり狙った獲物は必ず手に入れないとね。
しかし結局のところ世界の富豪達が世界政府を掌握しているんだから、いくらでも同じような行為が出来ちゃいそうな気がするんだけど・・・そこは未来の国連に頑張ってもらうしかないか。

「ちょっとロマンス」が売りであるオレンジ文庫なので、結末にはもちろんラブな展開も盛り込まれていて読者の心をほっこりさせてくれた。
しかし捻くれた中年おじさんには少々キレイ過ぎる展開で、素直に受け入れられない感もあったけど、若い読者なら熱い感動を全脳で受け止められるんだろうなぁきっと・・・若さって羨ましい(;´∀`)

///まとめとして///
初めて読んでみた集英社コバルト文庫だけど、今回の『時空螺旋のラビリンス』くらい作りこまれた小説が他にもあるのだとしたら読んでみたいね。
また過去のノベル大賞作品から面白そうなものを選んで読んでみようかなぁ。

↑で綺麗過ぎるラブ展開を素直に受け止めきれないと書いてしまったおじさんだけど、こんな
萎びれた中年が読んでいてうっとりする場面があったことを思い出した。
164Pにて、パリにある劇場で行われた仮面舞踏会。
楽しそうにいろんな仮面紳士と踊り続けるフォースと、その様子を眺めるルフ。
奇妙なコメディーでもあり儚くも美しいこのダンス・シーンは、乾燥しているおじさんの心を一時暖かく潤してくれたってことで満読感7点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

著者の辻村七子は『時泥棒と椿姫の夢』で2014年度ロマン大賞受賞。
その受賞作を改題・加筆改稿したものが『螺旋時空のラビリンス』ってことみたいね。

18Pより。
―――「生粋のパリジャンか!意外ですね。ロシア語も堪能なのに。フランス人は伝統的によその国の言葉が苦手だって言うでしょ?」―――
フランスの方は「H」から始まる単語が発音しにくいようで、ホテルがオテルになってしまうとか。
あとは数十年間も同じ英語の例文が教科書に載っている勉強方法だから喋れないって説もあったり。
フレーズの丸暗記は実践には役立たないってことみたいね。
当たり前だけど、現在では外国語ペラペラなフランス人も多数いるようで。

19Pより。
―――巨大なメガネをガクガクさせ、蓬髪を振り回し、アルフレードは熱弁した。―――
「ほうはつ」
のび茂ったよもぎのように、のびて乱れた髪のこと。

21Pより。
―――会社に至っては社訓にする有様である。私掠船をかりたてる、女王陛下の号令のようだ。―――
「りしゃくせん」とは国王から免許を受け、敵国の船を攻撃し略奪する権利を認められた船のことで、略奪した金品は国王と船長とで分配したとか。
16世紀ごろから19世紀まで、英国をはじめヨーロッパ各国で盛んに利用されたみたい。

23Pより。
―――建物の統一感のなさからして、明らかに都市大改造の前だが、所々敷き詰められた石畳の上を馬車が走っている。女性たちのドレスは、クリノリンの発明直前か。―――
クリノリンは、1850年代後半にスカートを膨らませるために発明された鯨ひげや針金を輪状にして重ねた骨組みの下着、とのこと。
クリノリン」とは馬の尻尾の毛を指す「クラン」と、麻布を指す「ラン」を合成してできた言葉らしい。

76Pより。
―――俺は書き置きを錦の御旗に、徹底的にアパルトマンを調べることにした。―――
「にしきのみはた」とは赤地の錦に、日月を金銀で刺繍したり描いたりした旗のこと。
鎌倉時代以後、朝敵を征討する際に官軍の旗印に用いたらしい。
意味としては自分の行為・主張などを権威づけるために掲げる名分だとか。

112Pより。
―――常に汚物の臭いが漂っているが、煤塵の他には何物にも汚染されていない大地は、ひょっとしたら二一世紀の終わりよりも美しいかもしれない。―――
煤塵とは物の燃焼に伴って発生するすすや灰、燃えかすの固体粒子状物質のことで、工場の煙突から排出される煙や鉱山、石切り場などの塵の中に含まれている物などを指すとのこと。
っつーか、常に汚物の臭いが漂っているのか(;´Д`)

160Pより。
―――ワインではなく林檎酒を飲み、牧童と戯れ、後々の世で怪奇小説家が怪盗のアジトにしてしまう奇岩を仰ぎ見た。―――
北フランスのノルマンディー地方に位置する小さなビーチ。
エトルタと呼ばれている地域にある断崖はモーリス・ルブランの「怪盗紳士アルセーヌ・ルパンシリーズ」の一篇にて「奇岩城」として登場しているらしい。

247Pより。
―――「私がもう稼げなくなってきた頃に、随分援助してくださった匿名の篤志家がたくさんいると聞いたけれど、あれは」―――
「とくしか」とは「社会奉仕や公共の福祉などを熱心に実行したり支援したりする人」って意味の言葉。
篤志」は「志(こころざし)が篤(あつ)いこと」で、特に社会奉仕や慈善活動に熱心であることの意味で使われているみたい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
192Pより。
―――中二階からは、銃口が俺を狙っている。実際に撃つことなんてないと、何の保証もなしに思っていた警備員たちが、白いマス目で区切られた部屋をぐるりと囲んでいる。―――


YouTubeで「主よ御許に近付かん」と「舞踏への勧誘」を聞きながらこの読書感想や絵を描いたりしていたけど、ふたつとも聞いたことのある曲だったのが驚き。
(ディカプリオめっちゃ若いなぁ~、でもおじさんは髭の似合うおじプリオの方がカコイイと思う)
クラシック音楽って自分で思っている以上に、人生のいたるところで耳にしているんだね~。
知らなかったね~、ためになるねぇ~(´▽`)

 

Nearer My God to Thee (Piano)

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舞踏への勧誘(ウェーバー)

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