忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

べっぴんぢごく 読書感想

タイトル 「べっぴんぢごく」(文庫版)
著者 岩井志麻子
文庫 286ページ
出版社 新潮社
発売日 2008年8月28日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

ブログ開始前に『ぼっけえ、きょうてえ』は読んだことある。


<< ここ最近の思うこと >>

今回の小説はTwitterで誰かが紹介していたコチラ。
内容も思い出せないくらい昔に『ぼっけぇきょうてぇ』を読んだことはあるけど、どんなんだったかなぁ~怖いというより愛憎の恐ろしさがメインな・・・・・駄目だ思い出せない(;´∀`)

この小説はあらすじを読んでみて面白そうだなと、好奇心をくすぐられたので購入してみた。
期待値未知数の作品は読み始めるまでに時間がかかる。だけどいつかは読まなきゃならない時が来るってんで、22年の6月初旬なら読書シチュエーション的にも適しているんじゃないかと!(意味不明)
さぁさぁ、岩井志麻子の描く「ぢごく」の世界へいざ飛び込むんじゃ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

乞食をしながら旅をする母と七歳の娘のシヲ。その二人に付きまとう片足だけの死霊。
二人(三人?)は岡山の寒村に流れ着き、しばらくその土地に留まっていた。
寒村で一番のお金持ちである竹井家にはとみ子という一人娘がいて、失恋のショックから気がふれてしまった彼女は、シヲを遊び相手として気に入っていた。
ある日、突然起こった事件がきっかけでシヲは母親を失い天涯孤独の身となってしまうが、とみ子のおもちゃ兼世話役として竹井家で住むことになり、ひと時の安住を得る。
しかしそれはシヲから始まる女達が紡ぐ、長い因果の始まりだった。

男の味、ぼっけぇ因果、影、母の足、水汲みじゃ、たいした別嬪、白骨、女の因果、牛蛙、二つの背反する気持ち、壊されとる、なかなかの男前、えらいきれいな子じゃで、赤い長襦袢の死霊、アレ、地獄を見た目じゃ、離さんで、真っ黒な夢、人骨の欠片、とんでもねぇもの、シオ、畜生道、絶えりゃあせん・・・。

シヲの一族が受ける美女と醜女の運命は、犯した罪の報いなのか、それとも死霊たちの怨念なのか。
明治から平成にまで続く乞食の娘と、その子孫たちの数奇な人生の物語。
べっぴんが落ちるぢごくの果てに終わりはあるのか・・・?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///これはNTR性癖と通ずる、かも///
ふみ枝は同級生で親友の美代子を実家に招きもてなす。
だがこの時、ふみ枝はある欲望に駆られてしまい、美しく愛おしい美代子をアレに差し出す計画を思いついてしまう。
94Pより。
―――美代子はある意味、情人であった。愛憎のともなう、自分が求める光と影の象徴だった。思い切り可愛がりたい。死ぬほど傷つけたい。どちらも、本心なのだ。―――
ふみ枝さん、またねじ曲がった癖を持ってしまったのねぇ(;´Д`)
こんなに屈折した二律背反な感情と展開、これが昼ドラ的魅力?はたまはNTR的魅力なんでしょうか?
なんだか『彼岸の奴隷』を思い出しちゃうよ。
さらにこの先のお話で、ふみ枝のとった行動がまた予想外な・・・。

///どーなっちゃうのよこの先は///
小夜子の許されぬ恋愛の結果、生まれてきた赤ん坊。
祟りなのか罪なのか、赤ん坊は人として生きていける体ではなかった。
178Pより。
―――小夜子はその布団に寝る者を、凝視する。―――
これじゃあもう醜女とかいうレベルの話じゃないでしょ(´;ω;`)
一体なんでこんなことに、なにか理由があるのか、祟りか怨念か、それとも運命なのか。
これにて竹井シヲの一族は終了!べっぴんぢごくは途絶えましたって思っていたんだけど、これまたまさかの展開がこの後に・・・因果はまだまだ続いていく。

///壮絶なカラミを覗き見れ///
竹井の実家にて、夜中に目が覚めた亜矢は片足だけの死霊に誘われるまま乞食隠れに向かう。
数時間前に母親と愛人が使用した据え風呂が庭に残されており、その中には一組の男女がいた。
224Pより。
―――内側から、乞食隠れを撫でる。土間に立って、庭を覗く。据え風呂があった。風呂の中に、男と女がいた。そこで、骨張った男の足は掻き消える。―――
まさかそんな、あの人がそんなことして大丈夫なの!?
これはやはり死霊の仕業なのか、一体目的は何なんだ、つーか翌日の小夜子は訳知りだったのか?
謎もさることながら、毒々しくも妖艶なカラミ描写がおじさんの心をグラグラと沸かせてくる。
このほかにも244Pでは馬並みな大男と小柄な少女が、お寺の縁の下で日も高いうちから・・・人の良い住職の気持ちを考えると少し朗らかな気分になる(笑)


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///琵琶法師の謎///
竹井家の娘として受け入れられたシヲは、季節外れの風邪にかかり布団で横になっていた。
朦朧とする意識の中、不意に乞食隠れの向こうから聞き覚えのある琵琶法師の声が流れてきた。
50Pより。
―――「ひさしぶりじゃのう」菅笠に顔は隠れていたが、紛れもなくあの座頭であった。―――
岡山の寒村で出会い、束の間の間シヲと母親と供に過ごしていた琵琶法師。
この男の存在も目的も分からなかった。
シヲの家系についてなにやら知っている素振りだったし、衝撃的な事件を起こしていなくなった後、また戻って来てアレを渡して・・・。
一体何がしたかったんだ?作者なら答えを知っているのだろうか?
気になるなぁ~(。-`ω-)

///男前乞食の処遇は?///
婚約者の松本慎一郎が美代子の名前を口にしたことで、ふみ枝はあの夜の出来事を思い出す。
その時、塀の向こうを黒い影が過ぎて行った。
104Pより。
―――あのような事件を起こしてもまだ、この辺りをうろついている乞食なのであった―――
お嬢様にあんなことを仕出かしておいてなんの制裁もなかったのが不自然に感じたけど、その理由は後に語られていた。でもでもでも、それでご家族の気持ちは収まるもんなのか?
お金もあるんだし、やり方は色々あるんじゃないのかなって思った。
とはいえ噂が広まるリスクを考えると、やっぱり放置が一番妥当なのかなぁ。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
シヲから始まってその娘のふみ枝、その娘の小夜子、その娘の・・・ってな具合にスポットされる人物が入れ替わって語られていく。
そして実に読みやすい文章で驚いたよ。
スッと頭に入ってくる文章は味わい深い出汁の効いた吸物のように読者を虜にしていく。
もしやこれはおじさんの読書レベルがアップしたのか!?
・・・まぁそんな訳なく、作者の圧倒的な実力に決まってるわな(;´∀`)

全体を通して何か目的があるお話ではなく、因果に縛られた女たちの人生を描いている作品だから、わかりやすいヤマ場とかオチとかを期待しないほうが良いかと。
でもつまらないとかいう訳ではなくて、昼ドラ的に楽しめばいいんじゃないかなぁって思いますはい。
(とはいっても、おじさんも昼ドラまったく見たことないんだけどね)

///話のオチはどうだった?///
こーゆー系の物語はあんまり読んだことないから、オチについてなんと答えればいいのか戸惑う(;´∀`)
バッドエンドというべきか、ハッピーエンドと言うべきか、まあ当人たちが幸せならそれでいいっしょ。
(最後の二人は好き同士の成就だから、トゥルーラブ&コングラチュレーションなオチと言えるのかな?)
それよりおじさんが気になっていることは、次に誕生する娘は一体どれほどの美女なのか、妄想するだけで口内に唾が溜まるのを感じまつ!

あと付け加えると、いろんなことが判らぬまま結末になってしまう。
謎は謎のまま、狂気と因果の運命だったと受け入れるしかないね。
いやはや、この物語は『Jの神話』や『瓶詰の地獄』などと同じ脳内フォルダに収納されるだろうて。

///まとめとして///
神も仏もない世界で、本能と欲望だけを道しるべに生きて行くシオの一族。
因果に囚われた者は命を失っても一族から離れることはできない。
美と醜、美と毒、美とぢごく、岩井志麻子が作り出したドロドロの世界にあてられて、おじさんのキャパシティはちょっとパンク気味よ。平山夢明吉村萬壱とはまた違うエネルギーだったね。
言葉や文章から醸される怪しい色気が読者の理性を溶かしていく感じ、味わってみない?

読み終わると茶店の外は暴力的な彩あふれる緑と快晴。狂った夏の到来を予感させるぜ(゚∀゚)
強すぎる美が生み出す醜悪な物語に胃もたれしそうな満読感、頂きました。
(事実、この日に家族で行ったちょいお高い焼肉屋で、それほど食べてないのに気持ち悪くなっちゃったよ・・・)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >

10Pより。
―――しかし下を向いて歩いていれば、それこそ食べられるアラメも落ちている。着物の裾は食えないが、アラメは飢えを束の間とはいえ満たしてくれる。―――
アラメはコンブ目コンブ科アラメ属に属する大型の褐藻の1種。
太平洋岸では東北地方から伊豆半島日本海岸では山陰地方から九州および韓国の一部に分布し、低潮線付近で大規模な藻場を形成する。ときに食用とされるとのこと。

11Pより。
―――「臥薪嘗胆、臥薪嘗胆」小学校とて行けない身の上だが、流行言葉は知っている。お国が遼東半島とやらを、毛唐どもに返せ返せと迫られて、清の国に戻してやった。その屈辱に耐える呪文がそれだ。―――
臥薪嘗胆(がしんしょうたん)とは、将来の目的や成功のために長い間苦心、苦労を重ねることを意味する四字熟語。

18Pより。
―――ここいらでは分限者、土地持ちだという豪壮な家の気違いの娘など、いつもいつもシヲを見つけては奇声をあげる。駆け寄ってきて、頬を摺り寄せてくる。―――
「ぶげんしゃ」とは、ものもち。または、かねもちという意味。

44Pより。
―――死装束は鋏や物差しを使ってはならぬ。寸法は畳の縁で測り、女達が引っ張り合って白布を裂く。糸も留めて結んではならない。長く垂らしておく。―――
ネットで調べてみたけど、こういう風習は全国的にあったみたいだね。

55Pより。
―――初夏の午後は、すべてが洋杯のリボンシトロンの甘さと泡の中に沈んでいきそうだ。東京の女学生のように束髪にしてリボンをつけたシヲは、ぬるくなったリボンシトロンを一口だけ飲んだ。―――
リボンシトロンの歴史は古く、1909年にサッポロビールの前身である大日本麦酒によりレモン風味の炭酸飲料「シトロン」として発売。
1914年には同社の清涼飲料にリボンブランドを採用。翌1915年、シトロンもリボンシトロンと改称して現在に至る、とのこと。
なんかめっちゃリボンシトロンが飲みたくなってきた。

82~83Pより。
―――「ほれ、東京から取り寄せたカルピスを作っちゃろう。甘い酸っぱい、ハイカラな味じゃ。美味いもんを口にしたら、腹の立つんも、薄れてくる」―――
飲料のカルピスは1919年大正8年7月7日に販売が開始された。この時のカルピスは現在の薬用養命酒のような下膨れのビンで、ミロのヴィーナスが描かれた紙箱の包装だった。1922年に水玉模様の包装紙を巻いたものになったみたい。
ヤバイめっちゃカルピスが飲みたくなってきたぁ。

126Pより。
―――二年前までは、弟と妹がいた。二年前に岡山県下で大流行した、嗜眠性脳炎。林太郎も千花子も、それで死んだ。―――
流行性脳炎の一種で、病原体はウイルスと考えられるが未確認。
1916~1926年頃世界各地に流行したが現在はほぼ終息しているとのこと。

191Pより。
―――隣に座っているアカネが、酒はさほど飲んでいないのに呂律の回らない口調でしなだれかかってきた。この絨毯バーに入る前、岡山駅の桃太郎像の前で待ち合わせをしたときから、もう睡眠薬を飲んでいた。―――
ネットで検索してみたけどよくわからないね。
絨毯が敷き詰められた土足厳禁のバーなのか?

193Pより。
―――アカネとは前の彼氏に連れられていった神戸のゴーゴーバーで知り合い、偶然にも同じ岡山市で遊んでいると知って、その後も連絡を取り合うようになったのだ。―――
ゴーゴーバーはゴーゴーのリズムに合わせ、ゴーゴーダンサーがポールダンスなどを見せるバー、ナイトクラブである。
タイ王国やフィリピンではがっつり性風俗店として繁栄しているようで。
昔は日本にもあったのかね?調べたけどわからない。

197Pより。
―――アカネのバッグからハイミナールの入った煙草入れを取り出すと、未央子も数粒噛み砕き、安いウィスキーで流し込んだ。―――
ハイミナールは非バルビツール酸系のメタカロンを成分とする催眠鎮静剤(睡眠薬)で現在製造中止。
依存や乱用や催奇性の副作用が問題となり市場から消えていったとのこと。

242Pより。
―――娘はどこかが壊れた木偶人形の格好で、立ち上がる。乞食は娘を担ぎ上げた。娘はされるがままだった。周りの百姓はどよめき、邏卒も止めに入ったが。―――
邏卒とは見まわりの兵卒。巡査の旧称。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
ホラー系の美女といえば稲川淳一の『富江』でしょ。
よーしじゃああんな感じで描いてみっかぁ~・・・・・って、描けるわけないやろが!

話変わってボーナスが支給されたおじさんは絵を描く為にiPadお絵描きハッカドール・グッズを探してみた。いろいろなモノがあるんだなぁ~思い切ってPCでのお絵描きガジェットでも~なんて考えたけど、そんなことより今は描けと。
今ある手持ちの道具で描きまくれと!
己に生温い喝を入れなおし、今回もなんとか描き上げることができましたわわ(;´Д`)


183Pより。
―――「不憫じゃなぁ」生まれて初めて、といっていい。小夜子は、祖母が涙ぐむのを目の当たりにした。
「人にも、なれんのに。女にゃあ、なっていくんじゃ」
障子の向こうにいる死霊もまた、慟哭していた。とみ子も、赤い長襦袢の裾から血を滴らせている。―――