忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

「独白するユニバーサル横メルカトル」 読書感想

「独白するユニバーサル横メルカトル」(文庫版)

著者 平山夢明
文庫 318ページ
出版社 光文社
発売日 2009年1月8日

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<< ここ最近の思うこと >>

最近邦画を見ていないんだよねぇ~。
だって観たいって思う作品がぜんぜんないしぃ・・・(´_ゝ`)
って思っていたけど「無垢の祈り」はちょっと気になる今日この頃。
今回は上記の短編も収録されている、ネットで話題のコレをついに読む時が来た!
はたして噂通りの恐ろしい内容なのか?
メチャグロ超展開の「獣儀式」を読んだおじさんにもっと激しいエネルギーを感じさせてくれ!!


<<かるーい話の流れ>>

「C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆」
普通の家庭で普通に暮らす心優しき少年が、ある日いきなりイジメッ子のターゲットにされてボッチになってしまう。
イジメッ子は市長の妾の子らしくて教師も誰も少年を助けないし、親にも言い辛い雰囲気。
ある日、少年は子供の死体が見つかった立ち入り禁止区域にて暮らすホームレスおじいちゃんと出会い、交流していくのだが・・・。

「Ωの聖餐」
交通事故で全てを失った元数学者の主人公は、ヤクザに紹介されて死体を食べる大食い巨漢のオメガの世話仕事をすることに。
地獄のような環境に早くもギブアップ寸前の主人公だったが、オメガは意外にも高い知性と教養が備わっていて助言をしてもらいながらなんとかお世話をこなしていく。
実は食べた脳の記憶と知性を吸収できるオメガ。
それを知った主人公はあることを計画するのだが、オメガからも交換条件を出されて・・・。

「無垢の祈り」
新興宗教に縋る母親とDVクズ義理父親の家庭で暮らす主人公の少女。
学校でもいじめられて精神をすり減らす毎日を過ごすうちに、彼女は近所で起こった殺人事件の現場へ足を運ぶようになる。
そこで彼女は連続殺人犯に会いたいと願い、メッセージを残す。
いくつもの現場にメッセージを残し続ける彼女は、果たして犯人に会えるのか?
殺人犯に出会った時、少女は何を願うのか・・・?

「オペラントの肖像」
あらゆる芸術が禁止されて排除された平和な世界。
しかし隠れ芸術信者は常に存在しており、見つかれば危険な思想を持つ者として矯正施設送りに。
主人公は優秀な芸術取締官だが、彼は調査にやって来たある家庭の娘に恋をしてしまう。
娘が芸術を愛していることを確信した彼は、何とかして彼女だけでも救おうとするのだが・・・。

「卵男」
女性を殺害して食べてしまう連続殺人犯(主人公)が美人捜査官に運悪く捕まってしまい、洞窟のような死刑囚独房に入れられてしまう。
隣の房には気の弱い死刑囚が入っている。
美人捜査官から被害者の遺体(骨)を隠した場所を言えといわれ、交換条件として自由の身にしろと要求する主人公。
交渉を成立させるためにも遺体の場所を知られてはならないのだが、どうにも隣の死刑囚が怪しい。
恐らく場所を聞き出すために送られたスパイだと勘ぐる主人公だが・・・。

「すまじき熱帯」
恋人と一緒に洋服店を開業するための資金を貯めていた主人公。
しかし不動産屋に資金を騙し取られてしまい、偶然出会ったクズ父親の誘いに乗って、ある男を殺す仕事を一緒にやることに。
遠い海外の熱帯ジャングルにやって来た二人は、危険だらけの川を進んでいる最中に敵の襲撃にあって捕まってしまう。
連行された場所で二人が見たのは、ターゲットの男を崇拝する現地民達で作られた集落だった。
果たして二人の運命や如何に・・・。

「独白するユニバーサル横メルカトル」
タクシー運転手に長年愛用されてきた地図帳が主人公のお話。
ひょんなことから真面目で誠実な主人が殺人を犯してしまい、それから殺人行為の虜になってしまった主人を心配しつつも捕まらないように色々手を尽くす地図帳。
しかし不運な事故で主人が死亡してしまい、地図帳は息子の手に渡ってしまう。
やがて地図帳にこれまでの遺体埋葬現場がチェックされていることを知った息子は、自身もその現場に向かいさらには父親と同じく殺人行為の虜になってしまうのだが・・・。

「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」
組織のボスに仕える忠実な拷問師の主人公。
拷問という仕事を続ける者は、誰でもすぐに精神を病んでしまうのだが主人公だけは平静でいられる術を持っている。
ある日、若い女を拷問しろと命令される。生死は問わず、絶望を与えるようにと。
女は今までの人生で変態ばかりの相手をさせられて体中が傷だらけで、特に顔面は無茶苦茶だった。
いつも通りに拷問を行っていくのだが、その時から主人公の平静は揺さぶられて崩れ始めていく。
一体何が起こっているのか?
主人公は現実と夢の中で原因を探すのだが・・・。

ふい~~~、思わず全部のあらすじを書いちゃうくらい面白かったわ。


<<印象に残った部分・良かったセリフ・シーン>>

もう全話に印象的なシーンがあったからさ、今回はズラッといっちゃうよぉ~(=゚ω゚)ノ

「C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆」より。
22Pの「酷い目に遭って、それをだれにも告げずにいることほど身体に毒なことはないからねぇ」ってセリフはまさしくその通りって共感したんだけど、一番印象的なシーンはやっぱりこれかな。
36Pの「じじい!俺の話を黙って聞け!」ってところ。
もうね、読んでいて思わずフフッて笑っちゃたわ。衝撃的で笑劇的な展開が気に入った!

「Ωの聖餐」より。
70Pのオメガの脚を切り落とすシーンが凄まじい!
不衛生な環境で不健康にブクブク太り続けるオメガはちょっとした傷でもすぐに化膿して腐ってしまう。
死なせてしまうと親分に殺されるから、緊急的な処置で腐った部分の片足を切り落とすことになったんだけど、ギチギチに縛ってチェーンソーでガリガリやって最後に化膿止めのガスバーナーってのが、もう十分です結構でございますすみませんでした!と言いたくなるくらいしっかりと描かれている。
読んでいるだけで疲れる場面って凄い!

「無垢の祈り」より。
やっぱりラストでしょ!
珍しく救われた?感じの結末でホッとした&スカッとしたシーン。
それまではずっと読んでいて辛すぎる展開だったからねぇ(;´・ω・)

「オペラントの肖像」より。
140Pの堕術者の末路である発電システムがほんとうにヒドイ!
変率スケジュールによって餌が出てくるタイミングを管理された人間。
その姿は利き腕一本を残して四肢を切断された状態だ。
彼らは一心不乱に壁に付けられたレバーを動かし続けて発電を続ける。
見学者に理解させる為に監視員がボタンを押すと、レバー稼働回数のカウンターがゼロに戻されて言葉にならない悲鳴を上げる肉の発電機。
生理的に嫌気のしてくるこの設定に作者の才能を感じるぜよ!

「卵男」より。
181Pのカレンのガラス越しのキスがゾクゾク来るね!
エッグマンの顔と声帯を薬品で焼いて、両目を摘出、右腕と左足と生殖器を切除して街に釈放してあげると嬉しそうに説明する彼女のサディスト的性格が怖いけどタマラナイんだなぁ(*´ω`)

「すまじき熱帯」より。
何匹もの人食い泥鰌に顔面を喰われながら川に自殺しに行く女性のシーンも強烈だったけど、覚せい剤を密輸するために赤ん坊の生皮を剥いで防腐処理した後、それに覚せい剤を詰め込んで密輸するってのが衝撃だったけどなるほどとも思った。
ベビーカーで大人しくしている赤ん坊をわざわざ起こしてまで検査しないだろうからねぇ。
麻薬取締犬はそういうのも嗅ぎ分けれるのかな?

「独白するユニバーサル横メルカトル」より。
市街道路地図帳の主人公が、詳細編み図(おそらく女性かな?)を自身に挟み込み、怯える彼女をなだめながら一緒にくっ付いて一冊になってしまおうと言うんだけど、窓を開けながら走行する車内に入り込んできた旋風が一瞬にしてページをめくり編み図を車外へ吹き飛ばしてしまう場面。
地図帳にとっては想い人?を失う悲しい場面なんだけど、その風景を想像すると何故か笑いそうになっちゃうんだよね(;^ω^)
その時の怒りで主人の為と言いつつ、復讐することを決意した地図帳が人間らしくて憎めない奴(笑)

「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」より。
この話が読んでいて一番のめり込んだわ!
とくに296Pのカニューレとトロカールを使った拷問が・・・もうね・・・おじさんが今まで読んできた小説のエグイ描写ランキングで堂々の一位に輝くくらいに壮絶だったと記しておきます(>_<)
んでもってこんな切ない終わり方が待っているなんてさぁ、すんごいお話だと思うよコレは!
紙に描くコテージに、いつかひょっこりやってくるのを待ちながらってのがロオマンスだわねぇ。


<<気になった・予想外だった・悪かったところ>>

気になるとこで二つほど。
「無垢の祈り」の続きはが知りたいんだけど、あれで終わりなんだろうなぁ。
いやあそこですっぱり終わったからこそ綺麗にまとまっているんだろうなと思ってすっぱり納得しよう。

「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」にて。
MCの夢の中に現れたのは結局なんだったのかな?何者かの侵入なのか、MCの思い込みなのか・・・?
あとココの正体は何者だったのかってのもハッキリ描かれてはいない感じだったと思うけど。
(まあでも、正体はやっぱりアレだったんだろうなぁ・・・)


<< 読み終えてどうだった? >>

はあぁぁ~(*´▽`*)
短編集で全部面白かったのは初めてだったよ!
どれもこれも生理的に精神的に嫌気のする場面や設定が作られていて、さらに結末もハッピーエンドじゃあない物語ばかり。
だけど、それが良いんです(=゚ω゚)ノ
全部の話が主人公視点のみで語られているからめっちゃ入り込んじゃうのだ。
んでもって酷い結末を迎えた瞬間、自分はただの読者で本当に良かったって心の底から感じるのが快感になっていたのかも。

それにキャラクター達がまたいい味出してて、生き生きしているのよ。
「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」の主人公MCがおじさんのお気に入りで、ずーっと磯部勉メル・ギブソンの声優をよくやる人)の声でセリフが脳内再生されていたんだ。
ほんとに映画を観ている気分で読んじゃってたね。

もっと早くにこの作者の小説を読んでいたら良かったのに・・・。
だけどこれから未読作をズバズバ読み漁れるから逆に良かったのかも?
さてさて、今回の読了感は・・・どうせ作り物だろうなぁと思って入った見世物小屋で本物の衝撃を食らってしまった感じだぞ。
うーむ、何言っているかわからないよね(^^;)
溢れんばかりの膨大なエネルギーの熱に当てられて、読了後しばらく脳内がぽーっとトリップしてた。
つまりすんごいどハマりしちゃった、久しぶりに声に出して面白かった!と言いたくなる短編集だたよ。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

「独白するユニバーサル横メルカトル」は第59回日本推理作家協会賞受賞作!!

36Pより。
―――「克己心!これに勝る兵法なしじゃ。わしがあんたぐらいの時にはまだこの國も健康で生き生きとしておった。―――
「こっきしん」
自分の感情・欲望・邪念などに負けないこと。打ち勝つこと。

50Pより。
―――処理を請け負った人間を喰ってる・・・・・大食いだからな。奴にすりゃあ、昔取ったキネヅカってわけだ。―――
昔取った杵柄とは、若い頃に身に付けた技量や腕前のこと。
または、それが衰えていないこと。

61Pより。
―――テバは素封家の出だったが病的とも言える対人恐怖症のため会社勤めはできなかった。―――
「そほうか」
大金持ちとか、財産家という意味らしい。

62Pより。
―――リーマン予想、俗にRHと呼ばれているそれは1とそれ自身しか割ることのできない素数について予想したものであった。―――
数学において、リーマン予想はリーマンゼータ関数が負の偶数と実部が 1/2 の複素数にしか零点を持たないという予想ってことらしい。
ドイツの数学者によって提唱されたため、その名前が付いているとか・・・。

―――なぜならばリーマン予想の利用は、それだけで人類史上かつない”最強の暗号”を手にすることができるからである。――― 
↑ネットで調べてみたけどぜんっぜんおじさんには理解できましぇん(ノД`)・゜・。
友人に聞いてみた所、単純に誰も知らない公式を使った暗号は作った本人しか解けないから最強の暗号になるんじゃないか?とのこと。
な、なるほど・・・・・確かにその通りだわな(;´・ω・)

63Pより。
―――先生の薫陶を受けた者同士だからね。君にも同じ閃きがやってこないとも限らない・・・―――
「くんとう」
すぐれた人格で感化し、立派な人間をつくること、らしい。

138Pより。
―――人には恐怖や感情など存在しない。あるのはただ皮膚の電気反応と2.2ボルトの不随意筋震動のみである―――
「ふずいいきんしんどう」
自分の意志によって動かすことができない筋肉で、主に自律神経の支配を受けている。
内臓や血管の壁の筋肉、心筋などがそうみたい。

143Pより。
―――それに私は君が活躍し、お父上の瑕疵を自らの手で是正するのを願ってもいるのだ。―――
「かし」
傷、または欠点など。
または法律や当事者の予期するような状態や性質が欠けていること。

167Pより。
―――どちらにせよ情報開示とオンブズマンに対するお互いの見解が違いすぎるわ―――
「おんぶずまん」
国民に代わって行政活動を監視して、また国民からの行政機関に対する苦情を処理する人。
スウェーデンから始まったとか。

225Pより。
―――たとえ御質問があったにせよはっきりと答える術が此方にはないのでございます。どうかこの身の浅陋を御嗤笑下さいませ。―――
「せんろう」
知識や考えが浅くて狭いこと。

257Pより。
―――その時、タタルは獲物の腕の動脈を結紮し、MCは皮を取り去った上腕筋をバーナーで焼いていた。―――
「けっさつ」
血管をしばって血行をとめること。

290Pより。
―――君もいよいよ場末の娼婦らしさを醸し出してきた。わたしにもそれに付き合えというのだ。<刑吏なら刑吏らしく>と。―――
「けいり」
刑、特に死刑の執行にあたる官吏(旧制度の役人)のこと。


<< 登場した地域・道具・姿・形などの気になった画像 >>

307Pより。
―――それからきっちり二十六時間後、喪失の極みにいMCは生きることを決め、自宅でグレープルフルーツ用のスプーンを使って―――

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今回は「グレープフルーツスプーン」で!
しかし・・・・・なにもこんなギザギザした形状のものを使わなくとも。
まぁ抉り出すことには特化しているけどさ・・・(・・;)