忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

魔女 読書感想

タイトル 「魔女」(文庫版)
著者 樋口有介
文庫 320ページ
出版社 東京創元社
発売日 2018年1月22日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「風の日にララバイ」
・「遠い国からきた少年」
・「少女の時間」
・「風景を見る犬」


<< ここ最近の思うこと >>

最近、kindleで『やれたかも委員会』というマンガ買ってちらちらと読んでいるんよ。
青年期の青い春な雰囲気にエモさを感じたり笑ったり呆れたりして楽しく読んでおります。
ふと思ったんだけど、やれたと判断されたあの日の感傷や後悔、満子女子による手厳しい指摘、何考えてるかわからない男女・・・この感じは樋口有介作品とどことなく似ているような気がする。
もちろん超個人的な感想だよ(;^ω^)
ちなみに一番好きな話はやっぱりアレだね。
「ジャリボーイ、ごっつええのもっとるやんけ」ってやつ(笑)

さてさてではでは今回の小説。
皆さんお察しの通り樋口有介作品でございます。
シンプルなタイトルとなーんか昔に読んだことあるようなあらすじ・・・まさか二度目なのか?
うむむむ~思い出せないわからない。こうならないようにこのブログを書き始めたのだ。
とりあえず読んでみたらわかるだろうて。
ショッキングなプロローグから始まる青春ビターな樋口ワールドへいざ飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

大学卒業後、就職浪人となった山口広也は姉の友人である美波の仕事を手伝いながらフリーター生活を満喫していた。ある日、姉である水穂からアパートで起きた焼死事件の調査をしなさいと命令される。
その事件は放火殺人の可能性もあるようで、被害者は広也が学生時代に付き合っていた安彦千秋だった。
局内で記者からニュースキャスターへの昇格を狙う水穂は、元カレというアドバンテージを持つ弟を使って特ダネを得ようと考えているのだった。

なぜ私が、このままの関係、放火の疑い、無害そうな人に見えたから、パートナリティ障害、みかん、未練男としての勘、天性の娼婦だった、君の秘密、魔術を使ったの、火傷のような痣、貴方と私の幸せ黒魔術、全てが溺死、いくらなんでも、猿の本能、タバコは躰に悪いんだよ、オマジナイ、緊急特報、赤トンボ・・・。

昔から姉には逆らえない広也は、軍資金を手渡され仕方なく調査を開始する。
生前の千秋と繋がりのあった人物達に接触し、話を聞いていくうちに想像もできない元カノの人物像が浮き上ってきて、広也は困惑しつつも調査を続けて行くのだが事件は急変してしまう。
誰にも心を開かず、誰にも理解されなかった千秋は、どうして魔女のように焼き殺されなければならなかったのか?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///素晴らしき美女と美少女///
樋口作品と言えば魅力的な女性キャラクターでしょ。
てことで『魔女』の中で特に記憶に残った二人を紹介。
まずは山口広也の姉である山口水穂。
頭脳明晰、容姿端麗、自称花形記者からニュースキャスターへ上り詰める野望を持っており、その為ならば使える手は使うバイタリティ溢れる女性。
そんな水穂の特に印象に残った部分を紹介。
25Pより。
―――知性と教養はともかく、行動力は子供の頃から証明されている。池がせまくて鯉が可哀そう、という名目で、子供のころの水穂はよく洗足池から鯉を盗んできた。その鯉であらいや鯉こくをつくり、アフリカ帰りの親父をもてなしたのだ。―――
ヤバいでしょこの姉さん(笑)
てゆーかコレって見つかったら犯罪とかにならないのかね?まあバレたとしても子供のやったことだから&美少女のやったことだからってことで済みそうだけど、そこまで計算していたのかな?
・・・・・この姉なら計算していたのかも。
水穂のほうがよっぽど魔女に近いじゃん(;^ω^)

二人目は焼死した安彦千秋の妹である安彦みかん。
みんなからちょっと変わった子という印象を持たれていて、事実みかんの行動は突発的で謎めいたものばかり。でも彼女の中ではちゃんと理由があり、性格だって年相応の少女なんですよ。
もうこのみかんがちょっとずつ広也に心を開いていく展開が、読んでいてムズムズこちょこちょとおじさんの感性を刺激しまくり(*´Д`)
そんなみかんのツンデレ具合がよくわかる一場面がコチラ。
188Pより。
―――階段へ向かって歩きかけたぼくの足をとめたのは、途中の板戸にあいている十センチほどの隙間だった。部屋から廊下へは薄日のような影が流れ、隙間からは片膝を立てたみかんの横顔が見える。雲隠れをしておきながらちゃんと戸に隙間をあけておくみかんのサービスが、小癪に可笑しかった。―――
怒って出て行ったくせに、隙間を開けて気付いてもらえるように待っているなんて、なんとも愛らしいじゃないの。
最初のころはあんなに不愛想だったみかんが、ページを進めるにつれてあんなに・・・。
コテコテな設定のキャラなのにすっごくハマるのは、やはり魔術のせいなのか?
(このあとに続くタンポポとヒマワリのやりとりもクスッとさせてくれる)

///これでアナタも安心できる?///
千秋の部屋から借りてきた黒魔術書を流し読みする広也。
その中にはストーカーを撃退する方法も記述されていた。
202Pより。
―――ストーカーが窓からのぞいていて相手の女がこんな儀式を始めたら、たしかに恐れをなして退散する。―――
好きで好きでたまらない相手をコッソリ覗き見ていたら、ある日いきなり奇天烈な行動を始め出して珍妙なことを唱えだす・・・・・こんな場面を目撃したらストーカーでも引いちゃうでしょうよ(笑)
ちびまる子ちゃんのナレーションを彷彿させるシュールなギャグも樋口作品に共通する魅力的な味だね。

///パンドラの箱、空けちゃった?///
居酒屋「ピエロ」にて、広也は水穂に焼死事件調査の報告をするのだが、千秋の周辺や人間関係を調べるうちに彼女は本当に魔術を使ったのかもしれないという疑念を抱き始める。
妙な考えに囚われ始めた弟に対して、水穂は常識を説く。
228Pより。
―――「冷静になりなさいね。そりゃ世間ではオカルトやホラーが流行ってる、だけどそれは閉塞社会での逃避心理なの。今の若い子たちは将来に希望がない。だからオカルトや新興宗教に逃避するの。未開の社会につまらない迷信が蔓延するのと同じ現象よ」―――
オカルトが流行る理由になるほどなるほど。
確かに都市伝説とかって若者の間だけで広がったり流行ったりしてる気がする。
中年以上の年取った人たちは知ってはいても気にしてないって感じだし。
(超個人的な経験談だけど、やんちゃ系の若い子達は都市伝説とかけっこう好きなんだなって思った)


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分  >>

///まるでどこぞのモテ中年フリーライターのような///
姉の同級生でバイトの雇い主でもある美波の部屋でシャワーを浴びた広也。
先ほどまでベッドで寝息を立てていた美波はいつの間にか起きていた。
12Pより。
―――「広也くん、お水をお願い」ベッドの頭板に背中をあずけながら、美波がシーツを胸の上にかきあげる。髪が短くて屋外作業も多いのに、肩も腕も蝋細工のような白さを保っている。
「起こしてしまったな」―――
大学卒業したばかりの青年が「起こしてしまったな」と・・・。うーむ人それぞれだと思うけど、おじさん的には違和感を感じてしまった。
その他の部分でも広也というキャラクターが、設定では若者だけど中年な雰囲気を隠し切れない部分がいくつかあったり。まあその辺も作者の味っていうことでね(;^ω^)

///一体どんなリアクションをするのか?///
若いモデルとの交際が発覚した俳優の香坂四郎。そんな有名人が偶然にも美波に仕事を依頼してきた。
香坂はつい最近まで水穂と秘密の関係だったのだが、結局モデルの方が本命だったらしく広也はこの件を姉に知らせるべきか悩んでいた。
258Pより。
―――「姉貴のバイトが残ってるんだ。そういえば、あれはどうした?」
「あれって」
「香坂四郎の仕事」
「契約したわよ」
「落ち着いたら姉貴にも話してやろう。ああ見えても・・・・・。」―――
香坂四郎の件を水穂が知ってしまったらどんな反応をするのか?もしくはどんな仕返しを繰り出すのか非常に気になってしまったは。
魔女のような水穂が本気で仕返しするならば、トンデモなく恐ろしいことに(; ・`д・´)
ってな妄想をしてみたけど、水穂はもうとっくにどうでもいいってくらいにしか思ってないかもね。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
ほぼ全編が主人公である広也の主観から語られる作り。
いつもの樋口作品と同じで馴染み親しんだ文章がスルスルと脳に入り込んでくる。
実は今回おじさんが購入したバージョンは大幅な改稿をされて東京創元社より出版された物らしい。
『魔女』という小説は2001年に単行本として出されたんだけど、その時はアメリカンハードボイルド調の文体だったって作者のあとがきに書いてあった。
(おじさんは改稿バージョンの文章が好きだなぁ)

定職に就かず暇を持て余し、幾人もの美女とご縁の多い青年が過ごすモラトリアム?で若さ有り余る時間が濃密に描かれている内容だった。
主人公自体がくたびれた中年男性みたいなキャラなんだけど、周りを囲む女性キャラ達がパワフルで奇抜なおかげで物語全体が軽やかになっている。
なんにせよ、今回も羨ましすぎる設定の主人公だったわ。

///話のオチはどうだった?///
『魔女』という題名に相応しく、まさかこれって本当に魔術や呪いなの?って終盤までドキワクさせられたよ。だけど事件はしっかり解明されるからどうぞご安心して楽しんでくださいな。
でも犯人の動機に関してはイマイチはっきりしないかなって思った。
まぁその辺を濁したままにしておくのも樋口作品の味なんだと理解して納得したほうが気分はイイ。

もっと若い頃は樋口作品に対してオチの物足りなさを感じていたけど、最近は読み終わった後に訪れる切ない余韻の虜だよ。ほんと中年になってからどんどん好きになる作家さんだ(*´ω`*)
仕方ないことは、仕方ないよな・・・なんて思っちゃう嫌な毎日だけど、降り注ぐ雨なんて気にせず前を向いてまっすぐ歩いていこう。
彼女が駆け抜けて行く最後の描写、あれはマジでシャドウぽろぽろ涙がこぼれ落ちそうになっちゃった。

///まとめとして///
あとがきにて作者が落語の間や呼吸が作り出す芸術ってのを語っていたんだけど、それを読んであぁなるほど樋口作品にしか出せない魅力っていうのはコレだったのねって納得した。
妙にクセの効いた台詞回しがどうしてこんなに心地良く魅力的なのか?実は言葉だけじゃなく文字以外の部分が文字通りの隠し味だったとは、ほんとに脱帽でございます。

そんな樋口先生も2021年に亡くなってしまって、この先の人生は未読作品を読み漁ることしかできないのが辛い。マジで生きる楽しみが一つ消えた気分だ。
イカイカン、もっとポジティブに考えてみよう。ひょっとしたらおじさんの死後にアッチの世界で柚木草平や風町サエの続きが読めるかも!?そんな風に考えないと人生なんてやってらんないよ(>_<)
って感じで、今回も過ぎ去った青春のやるせないけど輝いていた満読感を頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

11Pより。
―――早川美波はフリーのガーデニングプランナーで、北欧風ガーデニングではすでにオーソリティだという。―――
オーソリティとは権威や威信、または専門の道に通じて実力をもつ人って意味らしい。

31Pより。
―――「彼女ね、焼死したときトリアゾラム系の睡眠薬を飲んでいたの。ハルシオンのようなものらしいけど、それを通常の五倍も。慣れない子がそれだけの睡眠薬を飲めば意識があっても躰は動かないわ」―――
トリアゾラムベンゾジアゼピン系の超短時間作用型睡眠導入剤
アメリカ合衆国のアップジョン(後にファイザーが買収)が開発し、商品名ハルシオンとして販売され、特許切れ後は後発医薬品も発売されているようで。
商品名の『ハルシオン』はギリシャ神話に登場する、風波を静める伝説の鳥「Halcyon」に由来するみたいで。やけにカッコイイ名前の由来だな。

115Pより。
―――「そうか、メダカの仔か。放っておくと親に食べられるものな」―――
メダカを育てる場合は親と子供、または成長の個体差がある場合などは分けて育てないと共食いが起こってしまうらしい。
親は小さすぎる我が子を餌と勘違いして食べてしまうらしいんだけど、メダカに限らず共食いは色々な魚の間で起こっていることのようで。
メダカの世界も楽じゃないんだねぇ。

120より。
―――緑生寺は門柱に寺名が刻まれているだけの、庫裏のない無住寺だった。―――
「くり」
寺院で食事を調える建物、または住職やその家族の住む場所。
以前に調べたような気もするけど、忘れてたんだしまあいいか。

133Pより。
―――名古屋なんて饂飩屋ばっかり。久しぶりに『砂場』のざる蕎麦が食べられると思ってたら、気のきかないバカがこんな病院へ運んできたの。―――
室町砂場は明治二年の創業で天ざる・天もり発祥の店とのこと。戦後、三代目兄弟の時に天ぷらそばを夏でも美味しく食べやすく提供できるようにとの思いから生まれたようで。
お品書きを見てみると・・・天ぷらそばが1600円か。
先ずは「富士そば」デビューからしてみたいかな(笑)

144Pより。
―――「リバンツァのネグリジェもお願い」
「なんの?」
「リバンツァというブランドよ。銀座へ行けばデパートで売ってるわ。」―――
ネットで検索してみたけど「リバンツァ」というメーカーは・・・な、ないだと?
樋口有介作品では珍しいフィクションのメーカーだったのかな?

152Pより。
―――「本当に今夜はおかしいわ。雨の日は機嫌が悪いなんて、ギリシャの猫みたい」―――
コチラもネット検索したが見つからない・・・。
ちなみに、ギリシャ生まれの猫として有名なのが「イジアン」。見た目は日本猫と似ているけど、猫遺伝性疾患がない遺伝子を持っているという、世界的に見てもとても珍しい特徴を持っていて、病気に強い猫のようで。また水が苦手ではなく、泳いでしまうこともあるらしい。
泳ぐ猫か、驚きだね(´゚д゚`)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
308Pの千秋も良かったし、252Pの仁王立ちで腕組しながら空を睨むみかんも好きな場面だけど、やっぱり一番最初にピンときたここを選んだよ。
この胸キュンしちゃう出来事のあと、捨てられたタバコをしつこく潰しつつ呟いた広也の一言がまた沁みるんだなぁ。


127Pより。
―――「わたしのせいじゃないのに」
「おれのせいでもない」
「電車が悪いんだよ。わたしが乗ろうとしたとき、ドアが閉まったの」
「それは、電車が悪いな」
「みんなわたしのことをバカにする。チアキも電車もお祖母ちゃんも、それからあんたも、みんな大嫌い」―――