タイトル 「新宿鮫」(文庫版)
著者 大沢在昌
文庫 412ページ
出版社 光文社
発売日 2014年2月13日
<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・「悪夢狩り」
<< ここ最近の思うこと >>
『悪夢狩り』を読み終わってから、そのタフでハードな雰囲気の虜になってしまったおじさん。こーなってしまったら、もう代表作と言えるこのシリーズに手を出すしかないだろってことで選んだ今回の小説。
日本国内で鮫と言ったら、ネット界隈で有名になった鮫島事件?それとも映画の「鮫肌男と桃尻女」?(この映画はホント大好きよ)
いやいや、我が国の鮫って言ったらコレしかないでしょ!
おじさんが子供の頃に実写映画が公開されて話題になっていたと思う。
数年後にはテレビ地上波で放送もされていた、気がする(^^;)
幼過ぎてその魅力が理解できず、なんとなーく恐ろしげな雰囲気だけは覚えているけど、くたびれた中年になってしまった現在ならこの物語の味を堪能できるはず。
ではそろそろ・・・。
欲望渦巻く東京の新宿を満たすのは、溢れるほどの人の海。
そこに潜む凶悪な警官殺しを追い求め、おじさんも鮫と一緒に飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ
<< かるーい話のながれ >>
歌舞伎町二丁目を巡回中の警察官二名が何者かに射殺された。
新宿警察署で単独遊軍の鮫島警部は、過去に逮捕した密造銃作りの天才・木津が絡んでいるとみて捜査を続けていた。特別捜査本部が設置されて公安職員も捜査に参加するが、警官殺しは続いていく。警察組織が総力を挙げて犯人を捜し続ける中、鮫島は自身の勘を頼りに単独で木津の周囲を回り続けて、徐々にその中心へと近づいていく。
蠍の刺青、翳のある目、アガメムノン、まだ駄目なの、真壁、俺がくらわしてやる、鮫島は後者だった、公安内部の暗闘、得意な遊び場、一発だけ、ふたつの戦い、変造銃、やさづけ、複数薬室型、木津がかいた絵、間宮運輸、ほしは奴らには渡せんな、おいた、ばかやろう、職人としては一流だ、スナガミ、救わなかった人物、すべての始まりとなったライブ、階級特進のチャンス、できそこない、悲しみに似た表情、お巡りさ・・・。
不屈の執念が実り、木津の居場所を突き止めた鮫島は状況を判断して単身乗り込むことにしたのだが、事態は最悪の展開になってしまう。孤立無援の鮫島を助けに来る者はいない・・・。
一方、鮫島の恋人である女性ロックシンガーの晶にも暗い殺意が迫って来ていた。
<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>
///メンツ本位のやり方///
解散したトルエン小売り組織のリーダーだった青年を確保する為、鮫島は吉祥寺のライブハウスへ向かう。元リーダーの青年はヤクザ組からも追われており、周辺には張り込みらしき車や構成員の姿が確認できた。鮫島は部下たちに指示を出しているであろう若頭が乗るメルセデスへと近づいていき・・・。
44Pより。
―――警察官とやくざの価値観が似るのは、完全なタテ構造社会にいるからだ。上の命令は絶対であり、逆らうことは許されない。結果、命令系統の下部に属する現場の人間たちは似通った体質をもつようになる。―――
確かに警察もヤクザも組織的には似ているって言えるかもね。となると完全タテ社会の自衛隊とかにも当てはまる?
共存関係とか挨拶が存在する理由とか、他にもメンツ立ての為に行われる自首など、一般人からは見えない警察のアレコレに目から鱗がポロポロでしたわ。もちろん全部が事実なのか不明だし、令和の現在でいろいろ変化している所もあるとは思うけど。
現役警察の方々に話を聞いてみたいという欲求が沸々と(;´∀`)
///変わらなければならないこと///
射殺された二名の警官らを思い出す鮫島。
新宿署に勤めている警官は扱う事件や人の多さから、どうしても恨みを買いやすくなってしまう。
誰かに殺されるほどの怨みを買っていたとしても、それを見つけ出すのは困難だと鮫島は判断した。
143Pより。
―――警官が身内意識をもつのは、社会からの疎外感ゆえである。職業の特殊さが、どうしても、警察の外での、警察官を孤立化させる。おそらくそれは、いつの時代になっても、どこの国でも、かわらないだろうと、鮫島は思っていた。―――
以前に読んだ『噂』でも似たようなことを言っていたなぁ。
あれから月日が経ったけど、未だにパトカーとすれ違ったり警官を見かけると少し身を固くしてしまう自分がいる。
身内意識も結束が強くなるっていう良い面もあるよね。それと比例して身内の犯罪が発覚しにくくなるっていう鮫島の考えにも納得する。
理想の警察は外圧にも内圧にも公平に裁きを下せるっていう存在だよね。でもそれを人間が行うには役者不足なのが現実だと思う。もちろん鮫島はフィクションの存在だし。やはりここはAIを完璧な物にして、社会を統治してもらうのが最良の世界なのかも・・・(; ・`д・´)
///狂人に宿る銃作りの才能///
鑑識の部屋で藪から木津が作り出してきた銃の説明を聞く鮫島。
変造銃の特徴などを調べて、警官殺しで使用されている物がどのような銃なのか考察していた。
325Pより。
―――「天才だな、木津は。銃って代物をよく理解している。命中精度を求める銃、求めなくてもいい銃、きちんと分け、ニーズにあわせて手作りしていた」―――
知っているようで全然知らない銃のお話。おじさんも変造銃に対して一発必殺のために強力な弾丸を使用すればいいなんて考えていたけど、そんな簡単な話ではないんだと知りましたわ。
記憶に新しいモノだと、安部元首相の銃撃に使われた自作銃だね。
アレは正規の実包も使わず全て自作で作ったっぽいから凄い執念だわなぁ。
あの事件で押収された自作銃も藪のような鑑識がいろいろ調べてるんだろか?
気になってしまうのが男心よ(;´Д`)
<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>
///けっこうガードが甘いような///
自宅に戻った鮫島が警官殺しの犯人について考えていると電話が鳴った。
相手は恋人の晶からで、今度部屋に行ってもいいか?と聞かれる。
出来るだけ危険から遠ざけようとして今まで自宅には入れなかった鮫島だが、今回は折れてしまう。
146Pより。
―――「何を本当はいやがってたんだい?あたしがそこに行くことで」
「何もいやがっちゃいない」
「嘘つき」
晶は電話を切った。だが、その声に怒りはなく、むしろ喜びで弾んでいた。―――
ヤクザにも煙たがられて警察組織からもはみ出しているにも関わらず、職務を忠実に全うする鮫島ははっきり言って敵だらけな状態なんじゃないのか?
それなのに晶を自宅に招いてしまうとは、自ら弱みを曝け出しているようなものかと。
でも敵が本気で監視なり尾行なりしたら、一個人の弱点なんてすぐにわかっちゃうか。
今後のシリーズで晶が敵に狙われる展開が目に見えている、気がする。
///タクシー運ちゃんはツライねぇ///
木津を発見したとのタレコミを受けて現場に急行する鮫島。
潜伏場所を確認するために単独で尾行しなければならず、タクシー会社に連絡して車を回してもらう。鮫島はやって来たタクシーの運転手に警察手帳を見せて協力を要請した。
176Pより。
―――かきいれの時間帯に待ち料金のみでの実車を余儀なくされた運転手は不服そうな顔になった。―――
「前の車を追ってくれ」「あいよっ」ってな具合にノリノリなタクシー運転手は想像しやすい。
(想像の産物でしかないかもだけど)
でも稼ぎ時に張り込みとしてずっと待機しとくのは嫌だわね、別途支給のお金も無しなんて。
令和の現代ではどうなんだろ、ちっとは捜査協力費用みたいなの出るのかな?
///びっくりしちゃうママの言葉///
捜査協力の為に本部へ連れてこられた少年二人と女装の男性。
銃撃犯と思しき人物の電話を聴いて、知り合いと同じ声か確認してもらいたかったのだが、刑事らの態度が気に入らず言い合いになってしまう。
284Pより。
―――「なによ、おかま風情で悪かったわね。あんたらお巡りだって、ホモはいっぱいいることくらいわかってるのよ。ふざけたこというと、新聞に投書するからね。差別だ、って」―――
このオカマ・ママさんが言っていることは本当なのだろうか・・・(; ・`д・´)
でも平成の警察組織なんてバリバリの男社会だから、そーゆー人が多くなってしまうのも仕方ないかも。
それにしても新聞に投書するってのが時代を感じさせるね。今風に言うならSNSで拡散させるってところか。同じく時代を感じさせると言えば、LGBTQなんちゃらかんちゃらが現代のグローバルスタンダードになるなんて、世の移り変わりは判らんもんだねぇ~。
(個人的には良いとも悪いとも判断できませんですはい)
<< 読み終えてどうだった? >>
///全体の印象とか///
ほとんどが鮫島を中心とした三人称視点で語られて物語は進んでいくけど、合間合間にとある人物をスポットした語りが挿入されている。
本書が世に出されたのが1990年とのことで、作中での舞台も同じ1990年なんじゃないかと思う。
ちなみにこの年の流行語は・・・・
「バブル経済」「オヤジギャル」「ファジィ」
「ファジィ」って初めて聞いたぞ。こんな意味だったのね(^^;)
音楽では「おどるポンポコリン」。流行った本だと「「NO」と言える日本」
あ~、どっちも流行ってたねぇ。ちびまる子ちゃんなんて国民的アニメになったし。
映画では「夢」や「フィールド・オブ・ドリームス」とのこと。
黒沢監督の「夢」は1990年だったのか、子供ながらに異質だけどそそられる内容だったことを覚えている。そして「フィールド・オブ・ドリームス」だよ!コレも良い映画だわ、観たのは最近だけど。
良くも悪くも危険な魅力にあふれた時代。
決して混ざり合うことのない者同士が密集して、その衝突や軋轢から発生する熱量で煮えたぎる新宿。
Ⅴシネマのようなギラギラした雰囲気が文章から浮かび上がってくるのを感じたよ。
まぁ、その時はまだ子供だったし新宿にも行ったことないんだけどね(笑)
///話のオチはどうだった?///
警察官連続射殺事件はスパッと切れ味の良い爽やかな終わり方だった。
個人的には、鮫島と殺人犯のエピローグ的なモノを見たかったけど、あのやるせない展開があるからこそ、もう一人のキャラクターも際立ってくるんだよね。
大勢の他人が集まっている大都会ならでわの寂しさを感じた。
事件に関しては上記の通りだけど、鮫島自身に関してはまだ気になる謎がいくつか残っている。
抱え込んでいるが故に孤立している爆弾のことや、鮫島が警察官になるまでの人生、そういや危険な雰囲気をプンプン漂わせている暴力団員の真壁だって今後も登場してくるだろうし、ヒロインである晶の魅力がまだ存分に発揮されていない気もする。
シリーズを読み進めていく度に晶のキュン・ポイントが爆上げしていくのだろうか。
とにかく、90年代の新宿で巻き起こる新たな事件と鮫島刑事の活躍がもっと読みたくなってしまった。
///まとめとして///
面白かった小説とか、とくに良い刑事小説を読み終わると脳内で曲を流したくなるのが普通だと思う。
(いや、おじさんだけかも知れないけど)
もう今回はこの歌しかありえんだろうて。
つい最近コレを初めて聞いたんだけど、一瞬で好きになっちゃったわ。ギラついた時代を象徴する名曲だと思う。なんでこの曲なのか?ってのはまた後で説明いたしまする。
「眠らない街」 作詞:田中美奈子,作曲:工藤仁志。
個人の思いや願いなんてあっという間に忘れられて消え去ってしまう街。
それが当たりの日常だけど、中には自身の犯した罪を消えないように刻み込む者もいる。そういう者がいる限り新宿鮫は泳ぎ続けるだろう・・・・・って思わずカッコつけたくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。
<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>
『新宿鮫』は吉川英治文学新人賞、1991年度日本推理作家協会賞受賞作なのです!
同作品は『眠らない街〜新宿鮫〜』というタイトルで実写映画化し、1993年10月9日に東映配給で公開もされた。でもって主題歌が上記の「眠らない街」なのです!
まだ観てないのよぉ、アマゾンレンタルに無いのよぉ(;´Д`)
11Pより。
―――「すっぱだかで入るサウナ風呂で板の間稼ぎか?」
男は口をつぐんだ。瞬きをして、あせったようにいった。―――
「板の間稼ぎ」とは、ふろ屋・温泉場で入浴客のぬいだ着物や金品を盗み取ること。またはそれをする人のこと。
18Pより。
―――その規模は、大喪の礼に匹敵し、警視庁管内の警官だけでは足りず、近隣三県、千葉、埼玉、神奈川の各県警からも応援を要請したほどだ。―――
大喪の礼は、日本の天皇又は上皇の国葬。国事行為たる皇室儀礼。
31Pより。
――― 一年前、晶と知りあったとき、鮫島はトルエンの卸しグループを追っていた。―――
トルエンは、芳香族炭化水素に属する有機化合物で、ベンゼンの水素原子の1つをメチル基で置換した構造を持つ。人体に対しては麻酔作用がある他、毒性が強く、日本では毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている。
ガッツリ吸うと急激な酩酊状態になるみたいだね、酒でイイ感じに酔うほうがよっぽどマシだなぁ。
135Pより。
―――声の向こうでは、男どうしのカラオケ・デュエットが流れていた。曲は「新宿そだち」だった。―――
『新宿そだち』1967年にミノルフォンレコードから発売された楽曲。この曲を主題歌とする映画作品もあるようで。新宿の夜の街を舞台とした津山洋子と大木英夫のデュエット曲。
昭和歌謡だねぇ~。
160Pより。
―――もちろん、拳銃弾にも、KTWといって、貫通力を高めるために特殊加工をしたものもありますが、日本国内で入手することはたいへん困難で、米国においても、あまり一般的ではない。―――
KTW弾は貫通力の高いピストル弾。
スチールや銅のコアにテフロン・コーティングした構造となっており、コーン型の形状が特徴。
通常の拳銃弾はコアに鉛を使用しているけど、KTW弾はスチールや銅のコアを使用しているため着弾時の変形が少なく、高い貫通力を持っているらしい。
映画「リーサル・ウェポン3」で扱われていた銃弾と似て非なる物かな?
216Pより。
―――裁判所に提出する疎明資料はそろっている。あとはそれに桃井の同意を得て、請求するだけだ。―――
疎明資料とは、本人以外の方が交付請求する場合の請求事由(発生原因・内容・理由)について客観的に確認することができる資料のこと。
298Pより。
―――鮫島が見ていると、ハイネケンとギネスを半分ずつ混ぜて、グラスに注いだ。鮫島も同じものをもらった。―――
「ハーフ&ハーフ」は馴染みのある色合いの淡色ビールと濃色ビールを1:1の割合で混ぜ合わせる飲み方。 淡色ビールのさわやかな味わいが、濃色ビールの強い味わいを抑えてくれるので、濃色ビールが苦手な人でも飲みやすくなるらしい。
ハイネケンとギネスのビールをやりながら、『新宿鮫』を読む、もしくは観る・・・キマるねぇ~。
319Pより。
―――両名とも帰国便のリコンファームをおこなったそうですから、同便は明日の午後二時には成田に到着します」―――
リコンファームとは、搭乗の72時間前までに航空機予約の再確認を行うこと。 リコンファームを行わないと予約が自動的にキャンセルされてしまうことがあるようで。 予約を行ったものの実際には搭乗しないケースを防ぐための措置らしい。
<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>
今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
255Pより。
―――改造銃の向こうで木津が大きく目を広げて、鮫島を見下ろしていた。
鮫島に、銃をかまえなおす余裕はなかった。頭の芯にたっした痛みはそこで爆発し、鮫島の意識はとぎれた。―――
何かと巷で話題になっているAI絵師問題。情報をポチポチ打ちこめばプロ級のクオリティーで、一場面のイラストが出力されてくるのだろうか・・・それってめっちゃ便利やん。
でも使い方がわからないし、覚えることも大変そうだしぃ。
それにまだiPadやpencilを料金分使い切ったと言える状況ではないしぃ!なんて言い訳ばかり考えてるからホラ、密造銃のライフル弾と散弾の銃口位置が左右反対になっちゃったじゃないの。
よし、見なかったことにしよう(;´∀`)