タイトル 「パーフェクトフレンド」(文庫版・新装版)
著者 野崎まど
文庫 272ページ
出版社 KADOKAWA
発売日 2019年11月22日
<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・「アムリタ」(ブログ開始前に読了)
<< ここ最近の思うこと >>
まだ一人暮らしをしていた20代前半の頃、本屋の新刊文庫本コーナーに並べられていた『アムリタ』を購入して読んだ。
細かいところは忘れちゃってるけど、ちょっと怖くて切ないラストだったってことは覚えている。
内容を思い出そうとするとなんだか青い春の感覚がチクチクと蘇ってくるあたり、若い頃のおじさんにはなかなかのセンチメンタルな読了感だったのかなって想像する。
あの頃からもうずいぶんと時間が過ぎてしまったなぁ。
そんなわけで今回もTwitterで流れてきて気になったから購入した一冊。
緩そうなあらすじとキャッチ―な少女たちのイラストが気に入ったわ。
個人的には怖いのやグロイのや激しい物語が好きなんだけど、ソレ系ばかり読んでいたらバランスが悪いからね。こーゆーグイッと方向転換したベクトルの物語も読んでおかないと、好きなジャンルを楽しめなくなっちゃうし。
ではでは、めっちゃ久しぶりの野崎まど作品の世界へいざ飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ
<< かるーい話のながれ >>
小学四年生の理桜は自他共に認めるクラス委員の素質を持ったしっかり者の女の子。
ある日、担任に頼まれてとあるクラスメイトの自宅へ訪問することになった。
そのクラスメイトは「さなか」という少女で、転校してきてから一度も登校しておらず、母親から「同級生に訪問してもらって声をかけてあげて欲しい」と頼まれたと担任は説明した。
仕方なく理桜は友人のやややと柊子を連れてさなかの自宅へ行くのだが・・・。
りざうあ、超絶めんどくさい仕事、完全に敗北した瞬間、社会人、友達の必要性、嫌な予感、INO、実験、ゼロ金利、人間の不自由さ、好きな人、だいたい解りました、七月十五日の教室、ほんとバカね、INOその27、人智を超えた存在、世界の本当の見方、もう一つの見方、動機、論理は必要ない、その人は・・・。
さなかという少女は理桜のキャパシティーをはるかに超える人物だった。
いいように扱われて完璧にマウントを取られた理桜は、感情に任せてさなかに友人がいないことを指摘する。論理も根拠もなく友人の重要さを語った理桜に対して、さなかは意外にもその意見を認めて学校への登校を約束した。
そうして、四人の少女たちの友達生活が始まった。
<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>
///なんて恐ろしい精神攻撃///
初めて小学校へ登校してきたさなか。
しかし彼女には勉学を学ぶ必要がないので、授業中もクラスメイト達を観察してばかり。
さすがに見かねて担任は授業に集中するよう注意するが。
57Pより。
―――「失礼になるかもしれませんが、私はこの井の頭西小学校に学問的な勉強をしにきたのではないのです」―――
自分の目的を達成するために行うさなかの作戦になるほど。
それに対抗する理桜の意見も理にかなったものだったけど、担任である二十代後半の千里子先生に対してさなかが繰り出す精神攻撃の前には屈してしまうところで笑った。
95Pで新たに繰り出されるやり方にも、古いなぁ~と思いつつニヤリとしてしまう。
これは男だから気楽に読んでいられるギャグなのかなぁ?
いやおじさんも笑って流してる場合じゃないんだけどね(;^ω^)
///さなかという少女について///
この小説のダブルヒロイン?ともいえるさなかちゃん。
彼女のインパクトある場面を二つほどピックアップしてみた。
さなかを含めた初めてのお泊り会にて、やややと柊子が寝てしまった夜に寝付けなかった理桜はあることをさなかに相談してみることにした。それは誰にも言わなかった年相応の気持ちだった。
127Pより。
―――「私はお二人の年齢差について、さほど問題を感じてはいません」
さなかは布団に横になったまま理桜の方に顔を向けて、小声で話した。―――
年頃の女子小学生あるあるな相談に対して、ここまでカッチリ収まる答えをだすさなかに驚いた。
理詰めやロジックで解き明かされるとすんなり納得しちゃうよね。おじさんも「読むだけで絶対やめられる禁煙セラピー」を一度読んだその瞬間からスパっと禁煙できたし。
感情的にならず素直に受け止められる理桜も偉い。さすが最も重要な位置を約束された女子だ。
続いてコチラ。
「友達」についての持論がまとまったということでさなか宅に招かれた理桜。
本に埋もれた部屋の中でPCを使用しながら、さなかは「友達」の解析結果を淡々と語っていく。
141Pより。
―――「サンプリングを増やして見えてきたのです。友人間の非論理的とも思える振る舞いは、実はミクロ的な行為でしかなかったということが」
「ミクロ的?」
「〝友達〟とはマクロ的な現象なのです」―――
う~ん、この狂気とも思えるズレた感性の持ち主がさなかちゃん。
一体何がどうしてこんなもん作ったのか、どーゆー仕組みなのかぜんぜん理解できないけど生理的嫌悪感を醸し出すシロモノだってことは伝わってきた。
イイですよこのキャラクター。そして自信満々なさなかの心境を把握した理桜の対処がまた素晴らしい。さすがクラスで、学年で、最も重要な位置を約束され・・・。
///嘘だと言ってよ野崎まどぉー///
『よろしくだなゃー』の手紙を笑ってペンケースに入れた理桜。
さなかは生まれて初めて友達を作ることが出来た。
そうして、やややと柊子を含めたいつものメンバーは変わらない日常を過ごす。
175Pより。
―――放課後。
四人は井の頭公園に向かった。保留になっていたINO探検隊の再開であった。―――
はぁぁぁっ!!Σ( ̄□ ̄|||)
どーゆーこと!?マジでか!?
166Pあたりでもうクライマックスじゃんって思っていたら、こんな・・・。
そのまま愕然と読み進めるとさらにポカーンとなる事態に(´゚д゚`)
野崎まどに翻弄される快楽を楽しみましょう。
<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>
///このノリが中年にはこたえるのよぉ///
まずはコチラ。
初めてさなかの家を訪問した理桜たち。
玄関先で先手を取られた理桜はなんとか平常心を取り戻そうとするが、さなかは追撃の手を緩めない。
31Pより。
―――「ところで理国鳥のトキさん」
「ニッポニア・ニッポンッ!!」―――
最初につらつら読んだ時はなんのこっちゃかよくわからなかった。だからもう一度しっかり読み返してみたけど、音の抑揚だったのね。(つーか「よくよう」がまず読めなかったおじさん)
このやりとり、嫌いじゃないけどすんなり喉を通らないギャグだったなぁ。
続いてコチラ。
ちょっとした事故でさなかに危険が迫ったとき、思わず名前を叫んでしまった理桜。
初めて名前を読んでしまい照れ隠しする理桜と、同じく照れ隠しで弄るさなか。
110Pより。
―――「私も理桜さんのことを眼鏡を取ったら実は美少女・コズミッククラス委員リリカルリザクラと呼んでもいいですか?」
「いつだ!! いつ私が眼鏡をかけたっ!! 言ってみろ!!」―――
リリカルといったら「なのは」になるわけで、リリカルリザクラという語呂もイイ感じだけど、この後に続くリリカル・ネタが出る度になんだかこっぱずかしい気持ちがチクチクと・・・(;´∀`)
最後にコチラ。
深夜の吉祥寺公園で一人湖面を眺め佇んでいると、奇妙な格好をした人物に声をかけられた。
飲み物を買ってもらい二人でベンチに腰掛けると、さなかは隣に座る人物に何者なのか問いかける。
193Pより。
―――「失礼な子だな。そんな目で大人を見るんじゃないよ」
さなかは養豚場の豚を見るような眼差しを向けた。
「そんな目で大人を見るんじゃない!」―――
どんな目だよ、命を頂いている養豚場の豚さんたちに失礼だろうが(゚Д゚)ノ
なんて真面目なツッコミは置いといて、この部分もシリアス過ぎる場面であーゆーやりとりは読んでいて共感性羞恥心がチクチクと。
それに童〇ネタも一回くらいならいいけど、何度もされるとちょいくどいのよね(^^;)
///ゆーてもこれフィクションだからさ///
子供が出てくるほとんどの小説・漫画・アニメがそうなんだけど、『パーフェクトフレンド』に登場する小学四年生たちは現実からかけ離れたキャラ設定だった。こんな子供がいるなんて想像もできない(笑)
でもこれがメディアワークス文庫だから、固くなりだした頭を切り替えてこの世界を受け入れてみよう。
そうすればきっと楽しめるし楽になれるよ。(リメンバー、ジェイコブズ・ラダー)
<< 読み終えてどうだった? >>
///全体の印象とか///
全体的に理桜を中心とした三人称視点で語られていき、後半からはさなかが中心って感じかな。
挿絵とかは一切ないんだけど、会話のノリや雰囲気はライトノベル味がけっこう強め。
だからそーゆー系が苦手な人は注意して留意して読んでね。
女子小学生たちが飛びぬけた変わり者の少女と交流を深めていく。ただそれだけの物語なのに何故か退屈しないでサクサク読んでしまう。なぜなのか?
この感じは映画『グリーンブック』を彷彿させた。あれは不穏なことが起こりそうだけど終始穏やかにちょっぴりハラハラなロードムービーだったけど、『パーフェクトフレンド』も似たような印象だったね。
とにかく愛らしいキャラクターたちが幸せになっていくなら良し・・・・・と思っていたら(>_<)
野崎まどが作りだす読めない展開にブンブン振り回されたわ。
まさしくさなかに振り回される理桜の心境に共感よ。
///話のオチはどうだった?///
オチとしては、読者がどちらの考察を選ぶかによって後味は変わってくる系かと。
あっちの辻褄を選ぶとしたらゾワゾワとした悪寒が背中を這う気分になるし、一体どれだけのコストがかかるのか予想もつかないし、なによりそれだけのことを実行する精神が怖い。
だからおじさんは空飛ぶ乳製品的な辻褄を選ぶよ。
でも実際はどうだったのか?このほんわかとひんやりの狭間で思いをはせるのも良い余韻。
個人的にコレ系のオチはあんまり好きじゃなかった筈のおじさん。
でもなぜこんなにスッキリ気分で暖かい何かがいつまでも胸に残っているのか?
なんだか狐につままれたような気分になっているけど、ひとつ言える確かなことは『アムリタ』で残っていた後味は綺麗に払拭されたから良しってことで(´▽`)
///まとめとして///
今回のを含めて野崎まど作品は二冊読んだけど、この作者の物語にはブギーポップ的なモノを感じた。
エモいテーマと少しの不思議が混じった世界に、スパイスとしてほんの少しの恐ろしさが含まれる。
そうして作られる物語はまるで甘い霊液のような未知の美味。もちろん飲んだことないけど(笑)
いや~しかし読み終わった今、ひしひしと感じるのは手元に『アムリタ』があればなぁって後悔よ。
なんでそう思うのかは読めばわかるさ。
どっちから読んでも特に問題はないけど、やっぱりオススメは出版順のほうがいいかな。
読む前はやっぱり色眼鏡越しに、箸休め用のライトノベルってぐらいな期待感しか持っていなかった。
でも結果は予測を大きく上回るモノで、いつものことながら自身の先入観に対して反省ですわ。
小説は読み終わらないとわからない。改めて実感した満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。
<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>
『アムリタ』、『パーフェクトフレンド』の他に四作品あるシリーズは、メディアワークス文庫の記事で「野崎まど異彩ミステリ6作」ってことになっているらしい。
一番最後に出版された『2』のあらすじとネタバレ無し感想を読んだけど、これもう順番にシリーズ全て読破しないと気が済まないじゃんよ!まずは『舞面真面とお面の女』を読破せねば(`・ω・´)
153Pより。
―――「そしてそれらを、集積し、並べ替え、関連付け、読み解き続けました。私がこれまで学んだ数学にはその手法、理論、体系が既にある。ゲーム離村、ベイズ統計、マルコフ連鎖、決定理論、計量経済学、グラフ理論、複雑ネットワーク、バラバシ・アルバートモデル」―――
ネットワークにおいて一部のノード(要素)が膨大なリンクを持つ一方で、ほとんどのノードはごくわずかなノードとしかつながっていないようなネットワーク構造をスケールフリーネットワークと言いう。
スケールフリーネットワークは、航空機の路線や電力網、学術論文の引用関係、WEBのリンク関係など社会のいたるところでよくみられるとか。
1999年にバラバシと彼の学生のアルバートが、それなりに現実らしい作り方でスケールフリー性が実現されるネットワークのモデルを提案したのが「バラバシ・アルバートモデル」ってことみたいだけど、もちろんよくわかんないね(笑)
30Pより。
―――それは小学生としてはあまりに特殊でちょっと嫌な技術であり、そのプロ並みの技たるや青木功もかくやというほどであった(理桜の父親はゴルフが好きだった。)―――
青木 功は千葉県我孫子市出身のプロゴルファーで、日本プロゴルフツアー永久シード保持者。
1980年に全米オープンで準優勝、1983年には日本人で初めてPGAツアーで優勝を果たすなど日本を代表する名ゴルファーの一人なのです。
とんねるずの全落オープンで判定を行うAO木さんが好きでした。
40Pより。
―――「102ページはメッセンジャーRNAのスプライシング」―――
生物学におけるスプライシングとは、ある直鎖状ポリマーから一部分を取り除き、残りの部分を結合すること。リボ核酸(RNA)の自然修飾をRNAスプライシングというみたいだね。
さっぱりわらからいよさなかさん(>_<)
98Pより。
―――「これが最もエネルギー効率の良い瞼のポジションだからです。これ以上開けても得られる情報の量は変わりませんし。ならば開いていてもATPのロスにしかなりません」―――
アデノシン三リン酸 / ATP
筋肉の収縮など生命活動で利用されるエネルギーの貯蔵・利用にかかわる物質で「生体のエネルギー通貨」と呼ばれているようで。
屁理屈力の高い子供の扱いは大変そうだ(^^;)
137Pより。
―――さなか本人も、それなりにリテラシーの高い話になるはずだと言っていたので、―――
「リテラシー」とは、もともと「読み書きの能力」を意味する言葉だったらしい。
現在の使われ方としては「ある分野に関する知識や能力を活用する力」を指すことがほとんどとのこと。
意識高いビジネス用語で聞いた気がする。あとはネットリテラシーとか。
令和5年の現在でもまだ変な会社ではルー大柴用語みたいなカタカナ会話を使っているのだろうか?
<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>
今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
表紙に主要キャラクターの四人が描かれているから、これ幸いと気楽に描き始めてみたものの、やっぱりうまくいかない。そんな簡単に出来れば苦労しないってわかっているけど、出来上がった絵を見ているとう~ん・・・なんでだろ?って悩んじゃうんだよねぇ。
プロの絵描きさんが作る作品はやはり何かが違うと言うことか(>_<)
163Pより。
―――ここからは先を知っている本を読むようなもので・・・・・。私はそれに興味を感じません」
「あんたねぇ・・・・・っ!」
理桜は声を荒げた。
何だかわからないが、とにかく思いっきりむかついていた。
「やややとひぃはどうすんのよ!」
「やややさんと柊子さんが私に何か用事があるのでしたら対応はさせてもらいますが、私の方からは特に何も」
「だったらっ!!」
そこで理桜の叫びが止まる。―――