忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

機龍警察 暗黒市場 上  読書感想

タイトル 「機龍警察 暗黒市場 上 」(文庫版)
著者 月村了衛
文庫 320ページ
出版社 早川書房
発売日 2020年12月3日



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「機龍警察 〔完全版〕」
・「機龍警察 自爆条項 上」
・「機龍警察 自爆条項 下」
・「土獏の花」


<< ここ最近の思うこと >>

キツイ仕事ってあるじゃない。
その中でも警察って物凄く肉体的にも精神的にも辛い仕事だと思うのよ。
そんな仕事を続けるためには何が必要なんだろね?
性格的に合っている、キツイと感じない適正、天職だと実感した・・・・・いろいろあると思うけど、警察として絶対に必要なのが不正を許さない精神じゃないかと考えた。
どんなに辛くても辞めない精神的支柱・・・・・仕事とは金を稼ぐ為の手段!という信念を持っているおじさんには絶対に務まらない職業、それこそが警察なのだ!(何を言ってるんだろうね?)

つーわけで今回は機龍警察シリーズの文庫最新刊!(21年7月現在)
スポットが当てられたのはユーリ・オズノフ。
なんだか初っ端からとんでもない展開になっておるじゃないか、こうしちゃおれん!
今すぐ暗黒市場へ飛び込むのだぁ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

警視庁との契約を解除された龍機兵搭乗員ユーリ・オズノフは、少年時代からの知り合いであるロシアン・マフィアのアルセーニー・ゾロトフと手を組んで、兵器の横流しに手を染めていく。

一方では、殉職した囮捜査官からの情報により、近いうちに龍機兵がブラックマーケットに流されると知った特捜班は、組織犯罪対策部と手を組んで捜査に乗り出すが、機甲兵装を使用した犯罪は人員の欠けた特捜部のことなど関係なしに発生してしまう・・・。

裸足の男、俺はもう犬じゃない、掟ある盗賊、死ぬ気でやるぞ、こんなときに限って、運命なんてただの影だ、ルイナク、母胎を同じくする兄弟、やるしかない、骸骨女の刺青、俺専用のダーチャさ、英雄の息子、痩せ犬の七カ条、父と同じ刑事の目、スタンド・バイ・ミー、リーリヤ、祝福と感謝と忠告さ、囮捜査、オリガミの鶴、警察とは接触するな、メフィストフェレス、金しかないなあ、儲けることだけ考えろ、契約解除の印、何が狙いだ・・・。

父親に憧れて念願のモスクワ警察に入ったユーリが体験する黄金と絶望の過去。
同じ過ちは繰り返さない、そう自分に言い聞かせるユーリはかつて教わった条文を思い出す。
『もっとも痩せた犬達』から追い出された野良犬は、全てを取り戻す為にたった一人で漆黒の犯罪世界へ突き進んで行く。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///バンシーの近接戦用装備に既視感が///
タイ人グループによる機甲兵装を使用した工場立てこもり事件の対処をすべく、姿のフィアボルグとライザのバンシーが突入する場面。
粉塵爆発の恐れがあるため、火器の使用は命取りになってしまう。
75Pより。
―――ライザ・ラードナー警部専用機『バンシー』。純白に塗装された左右の前腕部装甲には短い鉄棒が溶接されている。槍のように鋭く尖ったその先端が粉塵の靄を裂いて流れるように動いた。―――
この武器はまさか、前作の敵である「墓守」が使っていた武装からヒントを得て作ったのか?
それにあんなビックリギミックまで搭載されているなんて、男の子心をくすぐるイイ設定だぜ。

///痩せ犬の七カ条が染みる///
モスクワ民警刑事捜査分隊の一人、ボゴラスが「どうしてそんなに優しくなれるのか?」というユーリの問いに答える場面。
203Pより。
―――「今日までいろんなことがあったよ。いいこともあったが、つらいことの方が多かったな。それでも自分はいまこうして生きている。自分が信じてきたことは正しかった。それだけは間違いない。逆に自分が信じられないと、自分が正しいと思うことも信じられなくなる。そこが揺らぐともう駄目だ。誰のためであっても前向きに戦えなくなる。自分が正しいと信じることのために、自分自身を信じるんだ」―――
何よりもまず第一に自分自身を信じぬくこと。それができないとやることなすこと自信が持てずに崩れていってしまう。
なるほど確かにその通りだよ。でも自分を信じるってのがまた難しくてねぇ(;^ω^)
一体どれほどの苦難を乗り越えてきたら、こんなに熱い言葉を語れるようになるのだろうか。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///今回は刑事モノがメインな感じ///
全体的にちょっと機甲兵装の活躍が少ないかも・・・いや少ないですな。
最初の駐在所襲撃と日勝製粉千葉工場とユーリの機甲兵装初陣だけだったか。
まあ上巻だし、ユーリのモスクワ時代がメインな感じだし、現在編でも捜査が始まったばかりだしね。
今回は人間ドラマを楽しむってことで。

///一体なぜ生き残ることができたのか?///
機甲兵装による初陣にて、ユーリがどうやって生き残ったのか、その戦いを詳しく読みたかった。
先制攻撃を知られて待ち伏せされた状態から、銃器も壊れてがむしゃらに殴り掛かっていくユーリ搭乗のドモヴォイ。
七機対四機の混戦になる缶詰工場・・・・・ユーリ側の味方歩兵が思いのほか頑張ったのかな?


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
今回の上巻では現在の日本から始まって、ユーリの少年時代から警察に入るまで、そしてモスクワ警察を離れて沖津と出会うまでが語られている。

信頼される警官の息子であるユーリと、落ちぶれたヴォルの息子アルセーニー・ゾロトフ。
映画『スタンド・バイ・ミー』のような美しい関係ではないけれど、光と影のように対となる存在の二人が過ごしてきた人生が、おじさんの中年心に染み込んできましたわ。

///話のオチはどうだった?///
まあ上下巻の上巻だから、まだまだわからないことだらけだよ。
でも衝撃的な展開から始まる現在と、栄光と転落までが語られる過去の組み合わせだけで充分に楽しませてくれた。
ロボットのガチンコアクションを期待していたのに、ほとんどソレが無い内容でこれほど満足させちゃうんだから凄いよね。

アルセーニー・ゾロトフや中国人犯罪組織の黄、そして沖津旬一郎・・・・・どん底に落ちた所でも生き延びるチャンスと優しさ、そして這い上がる機会を与えてくれる者がいる。
―――善と悪とを区別する線はどの人間でも心臓の中に分け入っているのだ。一体誰が自分の心臓を一片でも進んで切り取ろうとするのだろうか?―――
冒頭に書かれていた言葉が思い出される上巻だたよ。

///まとめとして///
ロシア警察を追われる身となってしまったユーリは事件の真相に辿り着けるのか?
本当に龍機兵が兵器のブラックマーケットに出品されるのか?
ティエーニのアルセーニー・ゾロトフとアガニョークのユーリ・オズノフ、少年時代から続いてきた二人の関係が行き着く先にはどんな結末が待っているのか!?
相変わらず好奇心を盛り上げまくってくるこのシリーズ、上下巻なのが憎たらしい(゚Д゚)ノ

個人的には下巻へのワクワクがパンパンだし充分楽しめたんだけど、物語の展開上やっぱり抑え気味で中途半端に終わってしまうのが上巻のさだめってことで、ちょい物足りない満読感7点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・・・って、下巻に決まってるだろうこの野郎!!


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『機龍警察 暗黒市場』は第34回吉川英治文学新人賞受賞作なのです!

76Pより。
―――さして広いとも言えない店内には組織の構成員が他に十名。それぞれ好き勝手に飲んで騒いでいる。すべてのテーブルの上にはロシア式ザクースカ(前菜)が所狭しと並べられていた。―――
ザクースカはロシア料理やウクライナ料理で提供されるビュッフェ形式の前菜。
料理の種類は肉類、魚、野菜、乳製品に大別されるが、燻製の肉とサラダが特に多い。
ザクースカの種類の多くを占めるのは冷菜であるが、ザクースカにはピロシキやブリヌイなどの温菜も含まれるとか。

ちなみにゾロトフが黒パンと一緒に食べていたサーロは、ウクライナ料理で供される、豚の脂身の塩漬けで「白豚脂」と意訳されるみたい。
食用油脂のラードと異なり、未精製で食されているらしい。
生の豚さん・・・・・大丈夫なんだろうけど、抵抗があるわ(^^;)

80Pより。
―――ヴォルが犯罪組織へと成長したのは一九八〇年代以降である。ペレストロイカの流れの中で犯罪組織、オリガルヒ(新興財閥)、さらには政府機関が結びついて天然ガス、石油、貴金属、レアメタルなどの資源をはじめとする国家財産を私物化した。―――
ペレストロイカは、1980年代後半からソビエト連邦で進められた政治体制の改革運動。
ロシア語で「再構築(再革命)」という意味らしい。
1985年に共産党書記長に就任したミハイル・ゴルバチョフが提唱・実践して、あわせて進められたグラスノスチ(情報公開)とともに、ソビエト連邦の政治を民主的な方向に改良していった。
教科書や授業で学んだはずだけど、全然覚えていない・・・・・名前しか知らなかったは(;´∀`)

121Pより。
―――「この前話した転校生、ゾロトフっていう名前なんだけど、お父さん、何か知ってる?」
ラッソーリニク(酢漬けのキュウリを使ったスープ)を口に運んでいたミハイルは、手を止めて息子を見た。―――
ラッソーリニクまたはラソールニックは、キュウリのピクルスとオオムギ、ブタかウシの腎臓から作るロシアの伝統的なスープ。
塩漬発酵させた野菜の風味とその漬け汁で味浸ける少し酸っぱい味みたいだね。

135Pより。
―――七歳から十五歳までの少年達は、三か月もある夏休みの一か月以上を各地のサマーキャンプで過ごすのだ。ロシアの子供にとってそれは、長く短い、輝ける興奮と退屈の日々だ。―――
ロシアでは大人は平均で一カ月、学生は一カ月半、子供は三か月も夏休みなのが当たり前みたい。
寒い地域ほど夏休みが長い傾向があるとか。
なんでそんなに長いのか?理由が知りたかったけどわからなかった・・・。

156Pより。
―――ニュース番組を放映していた。カシルスコエ通りのハイパーマーケットで発生した強盗事件のニュースだった。―――
ハイパーマーケットとは、衣食住全てを扱う郊外立地の倉庫型・集中レジ方式の総合スーパーの1つの形態であり、主にヨーロッパで広く見られる小売業態で、米国ではスーパーセンターの名称で呼ばれているらしい。
2006年にロシアに第一店舗がオープンしたGlobusではレジが84列もあるくらいの大きさだとか。

165Pより。
―――この事件は特に大きな衝撃を国民に与えた。二〇〇二年モスクワのドゥブロフカ劇場占拠事件、二〇〇四年北オセチア共和国ベスランの学校占拠事件を誰もが想起した。―――
モスクワ劇場占拠事件は、2002年10月23日 - 10月26日にかけて、ロシア連邦内でチェチェン共和国の独立派武装勢力が起こした人質・占拠事件。
非致死性ガスを使って武装グループを全員射殺、人質は銃弾で死亡した者はいないとの発表。

ベスラン学校占拠事件は、2004年9月1日から9月3日にかけてロシアの北オセチア共和国ベスラン市のベスラン第一中等学校で、チェチェン共和国独立派を中心とする多国籍の武装集団(約30名)によって起こされた占拠事件。
特殊部隊の突入により1181人の人質の内、386人が死亡(うち186人が子供)、負傷者は700人以上の大惨事となった。

209Pより。
―――いや、似ているようで大きく違う。主人公達の旅はリリシズムで以って締めくくられるが、自分はあのとき吐き気をこらえるのが精一杯だった。―――
リリシズムとは叙情詩的な趣や味わいという意味らしいけど、いまいちよくわからんね(笑)。

244Pより。
―――「『セブンサムライ』。カラチャイ・チェルケスのスーパープレミアムウォッカで、私の最も好きな酒だ」
ユーリの視線に気づいたミカチェーラが顔を綻ばせて言った。―――
ネットで調べると4000円くらいで買えるのか、飲んでみたい。
冷凍庫でキンキンに冷やして飲んでみたい。
それにしてもコサック騎兵と七人の侍とは・・・・・さすが世界の黒沢監督やね。

251Pより。
―――ロシアで盛んなオリガミ”Оригами”)の語源は日本語だと聞いたことがある。小さな紙でさまざまな形態を作り出す器用さはなるほど日本人のものかと納得したものだ。―――
ロシアでは折り紙教室が国のいたるところにあって、モスクワだけでもその数は50を超えるらしい。
折り紙の他にも、ひょっとしたらガンプラもはやるんじゃないか?
でも折り紙に比べたら高値になっちゃうから、浸透していかないか。

296Pより。
―――それもまた当然の趨勢だった。切れ味の鈍った道具を手元に置いておく理由はない。道具というより質草か。―――
「すうせい」
物事がこれからどうなってゆくかというありさま、なりゆき、など。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
18Pより。
―――トラックは駐在所の手前で停止し、さらに凄まじい銃撃を加え続けた。木造平屋建ての駐在所は消し飛ぶが如くに倒壊し、駐車スペースに置かれていたパトカーも無残なスクラップと化した。―――


早川書房の文庫本は微妙にサイズが大きいから、愛用しているブックカバーには入らないのだ。
そこで早川書房(機龍警察)用のブックカバーを購入した。
独特な作りで変な切れ込みとかあるけど、サイズ的にほぼぴったりなのでまあ良しかなと。