忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

Iターン 読書感想

タイトル 「Iターン」(文庫版)
著者 福澤徹三
文庫 402ページ
出版社 文藝春秋
発売日 2013年2月8日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「すじぼり」
・「怪談熱」


<< ここ最近の思うこと >>

金をガッツリ稼ぐならどんな仕事をやればいいのか?もちろん資格や学歴なしで。
漫画「GTO」ではマグロ漁船で働く鬼塚が描かれていて、時代が進んだ昨今の漫画「ウシジマくん」では板橋が蟹漁へ身売りされていた気がする。もうないだろうけど、一時期は原発作業員で稼がされるってのもネタとしてあったようななかったような・・・。
はたして次はどんな仕事が現れてくるんだろうねぇ、危ない仕事をしなくて済むようにお金は大切に使いましょう。

てなわけで今回は福澤作品の三発目。
極道青春モノ、怪談モノときてこれから読むのは新たなカテゴリーの極道サラリーマンモノだ。
なんかどこかで聞いたことのあるタイトルだけど思い出せない、と思ったらドラマ化しているからCMとかで名前を聞いてたのかも。メディア化に恵まれている作家さんだなぁ。
ではでは、会社とヤクザの間で揉みくちゃにされてももがき続ける中年男性を刮目するぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

広告代理店に勤める47歳マイホーム妻子持ちの狛江は、人生初の単身赴任を言い渡され北九州市のQ市へ向かう。
不況のあおりを受けた広告代理店の中でもQ支店はリストラ対象の弱小支店で、狛江は会社から見捨てられつつあることを確信した。
自分の築き上げてきた人生を守るために業績の回復を目指す狛江だったが、強引なやり方が祟って間違った広告が流れてしまう。しかもその顧客がヤクザ組だったので無茶苦茶な謝罪金を要求される始末。
会社にも家族にも知られないようカード会社で金を作った狛江だったが、その翌日に今度は違うヤクザがQ支店に押しかけてきて責任者を出せと吠え立てた・・・。

文化果つる地、田舎っすから、5本だな、お前を売って銭を作る、ホルモン道場、お前は即逮捕じゃ、蟹や、スターダスト、おぞましい写真、当番、陰険な気持ち、赤い染料の殺人、表の顔ばかりじゃないよ、エス、失格だな、拳銃密売事件、ないけどあるよ、C4、カチコミ、旨いッ、ぶち殺してやる、辞令、こういうときのために、単身赴任や・・・。

本社の上司からはリストラのプレッシャーをかけられて、ヤクザ組の対立に巻き込まれて、警察からも目付けられて、家族も部下も頼れない狛江はどんどん危険なドツボにはまり込んでいく。
絶望の中を歩き続ける狛江に未来はあるのか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///記録こそ最大の防御///
竜崎とDM仕事の打ち合わせを終えた狛江は、岩切への金を用意するために融資をしてほしいとお願いする。ことの経緯を聞いた竜崎は、岩切相手に金など払う必要はないと言い切った。
87Pより。
―――「あいつとの会話を、ICレコーダーか携帯で録音しろ」
「えッ」
「恐喝の言質をとって、警察にチクるんだ。それでいっぺんにカタがつく」―――
なるほど録音ね!読んでいておじさんも狛江と同じようにワタワタした気持ちになっていて思いつきもしなかった。テンパっている時っていい考えがまったく浮かんでこないよね。
今ではドライブレコーダーが当たり前の時代。
今後は一人に一台の常時レコーダー装備が当たり前になってくるのかも?

///知られざる極道の世界///
ヤクザ事務所にて初めての当番をした翌日、狛江はやけに旨い朝食をとりながら部屋住みヤクザの桜井や、他の組員に極道社会のルールや常識を教えてもらう。
198Pより。
―――「この世界じゃ仕方ないんです。組を移ったら、ほとんどは一から出直しです。それでも家業を続けられるだけましで、破門や絶縁になったら、どこの組にも入れません」―――
極道系エンタメ作品の中でよく破門やら絶縁やらという言葉を聞くけど、まさかこんな意味があったなんて知らなかったわ。一般人の世界に順応するか一匹狼で裏社会を生き抜くか、どちらにしても相当に辛い思いをするだろうなぁ。

もひとつコチラ。
200Pより。
―――つるつる男はお辞儀について熱心に解説をはじめた。つま先は開き気味に、両手を膝にあてて、直角に腰を折って頭をさげる。その際に眼は正面を見ろという。―――
極道系エンタメ作品の中でよくみる独特な姿勢の挨拶にはこんな理由があったのね。
身内の者以外には一切隙を見せてはいけない、常に臨戦態勢であれってことか。
なんだかお侍さん時代の名残り味を感じる。

///言われてみればたしかにどうなんだろう///
祇園祭を控えたある日、当番をしている狛江は突然拡声器から放たれた大声に驚く。
暴力団追放を叫ぶ群衆を眺めながら西尾が語る疑問に耳を傾ける狛江。
250Pより。
―――「でも、暴力団は悪い、だから街をでていけっていうのは思考停止ですよ。外の連中がやってることも一種の暴力ですが、当人たちはそれに気づいていない」―――
物理的な暴力と精神的な暴力、多数派への便乗、ことごとく排除する論理、なるほど確かにヤクザも一般人も「暴力」ってのはどこかで一様に使っているんだろうね。
最近はドラレコの普及によってヤクザまがいのことをする一般人がポンポン発見されるようになってきたし、その反動で反社会的勢力の人たちをもっと一般人が叩き付けて・・・。
でも反社会的の人たちが一切悪くないかと言われるとそーでもないわけで、なんだかなぁ(´-ω-`)


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///読書好きとしては信じられない行動///
のぞみで東京からQ市に向かうまで五時間弱かかる為、買ってきた週刊誌や文庫本に目を通して時間を潰す狛江。
11Pより。
―――時間潰しに文庫本も買ってあるが、シークレットなんとかという題名からし推理小説かと思いきや、念じれば幸福になれる、などと教訓めいたことが書いてある。―――
小説好きのおじさんからしたら、こんなのあり得ないような選び方でしょ。
普通は裏側に書いてあるあらすじだとかを確認して選ぶもんじゃん。
わざわざ推理小説っぽいの選ぶくらいだから、狛江は少しくらい読書を嗜む人間だと思っているんだけど、出発までに時間が無くて急いでいたのかな?

///何かありそうな気がする///
岩切に指定されたミニクラブへやって来た狛江と深町。
不安になる外観とは違って店内は洒落た作りになっており、接待する女性達もレベルが高い。
二人を出迎えたのは背の高い切れ長の眼をした美女だった。
151Pより。
―――ボックスに腰をおろすと、女は万事心得ているといいたげにウィンクした。深町に差しだした名刺を横目で見たら、彼女がママの麗香だった。―――
スターダストのママである麗香と岩切の間になにがあるのか、あったのか気になるね。
二人が直接なにかを話していた場面はなかったと思うけど、おじさんの考えとしては岩切は麗香を大切に思っていて、麗香は岩切に惚れている・・・なんて浅はかすぎる妄想をしながら読んでいたはぁ。
その辺についてもいつかどこかで、ふらっと語られたりするんだろうか。

///これも極道の流儀?///
岩切に指示された通りスターダストへ出向いた狛江は、立て続けに起こる事態に驚きながらも理解していく。そしてすべてが終わった後で、岩切は狛江と盃を交わした酒を用意するように指示した。
391Pより。
―――「この酒でした」
意味がわからぬままにそういうと、岩切はボトルの首を逆手に握った。
殴られるかと身構えた瞬間、―――
岩切が行ったこの行為に一体どんな意味があったのか気になったので調べてみた。
おそらくなんだけど、「水杯」って儀式だったんじゃないかと思う。闇金ウシジマくんにも出ていたな)
いやぁ~、一切何も語らない岩切の漢っぷりに痺れるねぇ。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
最初から最後まで狛江の一人称視点で語られる作り。
北九州にあるQ市ってとこが舞台なんだけど、ヤクザ文化の濃い地方都市という設定どおり欲望と危険が潜む街って雰囲気がよく伝わってくる。北九州地方にお住いの方の人ならどのあたりかわかるのかな?

おじさんは中間管理職でもないし家庭も持っていないけど、狛江と年齢が近いこともあって常にシンクロ率80%超えでハラハラドキドキがたくさん味わえた。
特に仕事関係のトラブルが起こる場面なんて、狛江のストレスに共感しすぎて内臓が重くなってしまうくらいだよ。

///話のオチはどうだった?///
今まで読んできた福澤作品と比べるとかなりマイルドで大円団って感じの結末になっていた。
(でもまた大問題になりそうな要素はしっかりのこっているけど、読者としては楽しみ要素の一つだね)
こんな晴れやかな物語も悪くない、アリですな。
さすが極道ジャンルのプロである福澤徹三
ヤクザ社会とサラリーマンの結末として、ちょうどいい落としどころを用意したって感じかと。

基本的に狛江視点だから『Iターン』は最後まで大衆向けに感じたけど、作中の見えないところでは『すじぼり』のような恐ろしい事がきっちりと行われているんだろうなぁ。
チラリと見せるリアルな暴力の影にヒヤッとさせられたし。
297Pの階段を使った制裁場面とかね。

///まとめとして///
ヤクザ社会と普通の会社、どちらが良いかと聞かれたら平凡なサラリーマンを選ぶけど、そっちのほうがマシってだけでやってることはヤクザもリーマンもあんまり変わんないじゃないのって思った。
やっぱり事業主、自営業が一番なのか?なんにせよ属するのは自分自身だけでいい。
学生を卒業して社会人になったみなさん、理不尽な世間に揉まれて自分を見失っていませんか?
ヤバイもう限界ってなったら後先考えずIターンしてみると、案外うまく回るかもよ。(うまく回らない場合がほとんどかも知れないけど)

暴対法が施行されて暴力団はなりを潜めたけど、いなくなったわけじゃないんだよね。
街には半グレが増えたり外国人犯罪が目に付くようになってきた現在、日本の治安は今後どうなっていくのかね。良いヤクザだけ残ってくれたら助かるんだけどそんな都合のいい話は・・・あ、それが国営ヤクザと言われる方々なのかな?
いつも国民と国家の治安と平和を守っていただき、ありがとうございます(`・ω・´)ゞ

ではいつもの〆で。
濃厚な香りの豚骨ラーメンを平らげてから、レバ刺しをしゅるっと口に入れて生ビールをグイっとやりたくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

なんと『Iターン2』という続編があるみたいで。
本編ではあーゆー終わり方をしたから、狛江さんはきっとまたトラブルに巻き込まれるんだろうなぁ。

『Iターン』はムロツヨシ主演でドラマにもなっているみたいね。
ムロツヨシは狛江のキャラにピッタリ合っている気がするけど、もう少し老けた感じが欲しいかも。
岩切はもう少し大柄な役者の方がイメージにあるような。
でもなんだかんだで、機会があれば見てみたいドラマですたい。

155Pより。
―――「本日はお忙しいところ、お運びいただきまして、誠にありがとうございます。不肖、深町智博、ただいまより死人のカンカン踊りをご覧にいれます」―――
「かんかんのう」は日本の俗謡で、江戸時代から明治時代にかけて民衆によって広く唱われていた。
別名「看々踊(かんかんおどり)」っていうみたい。
落語の「らくだ」にて語られるのが死人のカンカン踊りってやつみたいで、そういやアニメ「うちの師匠はしっぽがない」でもやっていた。
どんな踊りなんだろうか、九州の人なら知っているのかな?

233Pより。
―――「わしの舎弟が銭貸しごときにイモひくんかい」岩切の台詞が終わらぬうちに、ごきん、と頬が鳴った。―――
「イモを引く」とは怖気づいて尻込みする、及び腰になる、という意味で用いられる言い方。
暴力団がらみの業界用語で、芋の蔓を引いてへっぴり腰になっている姿になぞらえた表現とのこと。

263Pより。
―――「お客様がご注文になったのは、ドンペリのエノテーク、俗にいうブラックでございます。原価でも四万円ですので、良心的なお値段かと—————」―――
ドンペリ エノテーク」とはシャンパーニュを代表する大手メゾン、モエ・エ・シャンドン社が世に送り出す、プレステージ・キュヴェのドン・ペリニヨン
ドンペリニョン自体が良いブドウが収穫できた年にしか作られないのに、エノテークはその中でも特に優秀なブドウを使って長期熟成させて作る最高の作品とのこと。
うーん、宝くじさえ当たればおじさんも飲んじゃうよ(´Д`)

274Pより。
―――「さっきの無銭飲食やけどな」城島がにやにやしていった。―――
無銭飲食における詐欺罪になるほど。
お会計の時に金が足りない!って気付いてもとりあえず詐欺罪にはならないのね。
もし焦って逃げたとしても現行法上では特に犯罪が成立するわけではないらしい。(実際の所どうなのかは不明)
けれどそんなことはしたくないから手持ちの金には気を付けよう。

360Pより。
―――「そいつはミルウォール・ブリックちゅうて、即席のメリケンサックや。もとは第二次大戦中にアメリカの諜報部員が考えたもんやが、最近はテロリストやフーリガンが使っとるらしい。おまえの腕力でもチンピラくらいは倒せる」―――
Wikipediaには「ミルウォール・ブリック」がサッカー試合から使われ出したって書いてある。
メリケンサック的に使ってたけど、棒状や塊状態にして使ったりもするのね

391Pより。
―――ボトルの文字に目を凝らすと、リシャールヘネシーだった。高級クラブでキープをしたら百万円はするという、バカラ社製のボトルに入ったブランデーである。―――
ヘネシー リシャール」はヘネシー社が誇るフラッグシップコニャック。
100年以上熟成された原酒を100種類以上ブレンドし、複雑極まりない至高の味わいへと昇華させたコニャック界最高峰の1本となっているとのこと。
宝くじが当たったら、高級クラブで堪能してみたい一本だはぁ。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
殴るシーンで印象的なのは漫画「ろくでなしブルース」に描かれていた前田太尊のパンチね。
殴った相手が勢いで一回転してしまうほどのパンチって、そんなの死んじゃうでしょうに(笑)
でもめちゃめちゃカッコイイのよ痺れるのよ。(たしか葛西編だったような気がする・・・)
やっぱり絵にはノリと勢いってのが大切なんだなぁ~、なんて思い出に耽ったり(;´∀`)


374Pより。
―――「おれの部下を首にするのは、おれが許さんッ」狛江は喉の奥から絞りだすような声で怒鳴った。次の瞬間、高峰の顔めがけて、思いきり拳を打ちこんだ。―――