忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

野性の証明 読書感想

タイトル 「野性の証明」(文庫版)
著者 森村誠一
文庫 510ページ
出版社 角川書店
発売日 2015年2月25日

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この作者の作品で既に読んだもの
・「人間の証明

<< ここ最近の思うこと >>

草原を重厚な車体を震わせて進む戦車。
それに随伴する表情の見えない武装した自衛隊員達。
そして少女を背負ったまま、彼らに向かって行く高倉健・・・。
YouTubeで映画の予告を観て、何だこの好奇心くすぐりまくりな映像は!?ってことで購入した。
昔の角川映画は勢いがあってエネルギッシュだから派手だなぁ~。
森村誠一の作品でこーゆーエンタメなのは想像できないけど、とにかく読まないと気が済まない。
それじゃあ森村ワールドに飛び込んでみよう(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

保険の外交員に転職した味沢は羽代市にて心機一転の人生を送るべく仕事に励んでいた。
味沢は養子受け入れした頼子という少女と一緒に暮らしている。
彼女は岩手県の山村で起きた大量殺人事件の唯一の生き残りだった。
(頼子は数日間、犯人と行動を共にしていたらしいが、その時の記憶を思い出すことが出来ない状態)

同じく山村の大量殺人事件で、姉を殺された越智朋子との仲も良くなってきた味沢だったが、自分の担当する女性が保険金目当てで事故死にされたのでは?と疑問を持ち、単独で調査することに。
しかし死亡した女性の夫は羽代市最大のヤクザ中戸一家の者で、彼等を私兵として黙認しているのが羽代市を牛耳っている大場一族だった。

保険金事故の真相や、不正な土地取引を明るみに出されたくない中戸一家と大場一族は、ジリジリと味沢を追い詰めていく。
さらに山村大量殺人事件を捜査している岩手県警の刑事も味沢の隠された過去に目を付ける。

剥がされた爪、泥、プラスチックコンクリート、茄子、異能、Z種隊員、キュウリ揉み、マリオットの盲点、軟腐病・・・・・小さな手がかりと入り組んだ人間関係を辿った先にある真実とは?
果たして味沢は羽代市を支配する大場一族に一矢報いることができるのか?
山村大量殺人事件の犯人は誰なのか?
野性の証明」とは、一体どういうことなのか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///チラリと見せてくれた特殊工作員の実力///
338Pのところから。
自衛隊員でさらに特殊な訓練を受けていた味沢が、その実力をチラ見せしたところが印象に残る。
脅しをかけてきた暴走族三人組に対して、バイクを発進させる瞬間にあるモノを使用して一台のバイクを急停止させた味沢。もちろん搭乗者は放り出されて激しく地面を転がった。
なるほど、アレを使えば簡単にバイクを急停止させることが出来るのかぁ・・・。
って、素人が真似したって出来るわけないんだろうけどさ(;^ω^)
長いこと焦らされてようやく見せてくれたカッコイイ場面がすごく印象に残ったよ。

///今回の森村節も切れ味は鋭い///
暴走族に入ってイキがっているボンボン学生を皮肉る文章が素晴らしい。
350Pより。
―――それは高度化する機械文明の中で、精神だけ未発達のまま取り残されてしまった哀れな若者の姿である。彼はせめて高性能のマシンにまたがって、精神の遅れを取り戻そうとしていたのかもしれない。―――
前に読んだ「人間の証明」にて描かれていた豪華な食事に対する皮肉もそうだけど、この作者の世相を切る的な言葉が気に入っているおじさんなのです(´▽`)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///頼子の特殊能力は一体なんだったのか?///
物語の中盤辺りから農村大量殺人事件唯一の生存者である頼子にある能力が芽生えてくる。
それが超能力なのか直感像という症例なのかは判らない。
でもどう考えても未来予知としか思えない出来事が多すぎる!
そしてそのスゴイ能力が物語の鍵となるって訳でもなく流されていく・・・。
(個人的な感想なんだけど、頼子のこの設定は必要だったのかなぁ)

///アレの感染経路は?///
これはネタバレになるから知りたい人だけ反転してみてね↓
軟腐病の病原菌であるエルウィニア菌がどうやって人間に感染するのか?
この経緯を是非とも知りたかったわ。
結局のところ、暴力行為をする原因のようなものが人間の性なのか、自衛隊訓練の影響なのか、エルウィニア菌感染なのか、どれもわからないまま終わったのが残念だったね。
野性の証明」ってタイトルだから、きっちり証明してほしかったかなぁ。
気になる人は今すぐ「野性の証明」を読むべし↑


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
野性の証明」・・・う~む・・・映画と小説はまったくの別物と考えたほうがよろしい!
映画がアクションエンタメな作品で、小説は推理サスペンスな作品かと。
僅かな手がかりを頼りにコツコツ真実へと近づいていく展開は「人間の証明」とかなり似ているんだけど、「野性の証明」はソコに暴力描写を少量プラスした感じかな。
個人的には映画版の内容を期待していたから、悪い方の予想外になってしまったね(;^ω^)
(だからってつまらないお話ではなかったし、最後の味沢野性解放シーンは凄く迫力あったし!)

///話のオチはどうだった?///
あぁ~・・・こーゆー終わり方でしたかぁ・・・(・・;)
まぁ好みの問題なんだけど、おじさんは「人間の証明」みたいな終わり方のほうが好きだなぁ。
いろいろ判らないままな部分もあるし、その後あのヒトの行方を知る者はいないってのも寂しい。
(あと大場成明を仕留めきれなかったのも個人的に残念でならない!)
あれだ!急にバッサリ幕を下ろされた感が強い(笑)
ちなみに映画の方もアレがラストシーンだったとは・・・。
(おまけ短篇の「深海の隠れ家」ってのがこれまた予想外なお話だった。このボランティアって実際にあるのかな?)

///まとめとして///
優しくて強くて誠実な味沢さんがとにかくツイてないことに巻き込まれていき、あの結末・・・。
ちょっと後味は良くないわなぁ。
期待していた内容と違っていたことも後味の悪さを増幅させている気がする。
(予告を観ずに読んでいたらもっと違う感想だったかもね)
ネットで知ったことだけど映画「人間の証明」の大ヒットを受けて、最初から映画化前提で書き下ろしてくれと頼まれて書いたのが「野性の証明」ってことらしい。
スクリーン映えする派手なモノを作ってくれって言われたのかなぁ・・・。
静かに深く響いてい来る人間ドラマが得意って感じの作風なのにねぇ(おじさん個人の感想です)
てなわけで、今回はちょっと低めの満読感75点!
さぁ~て、次はどれを読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

147Pより。
―――そのうずきが、味沢をしてゴールデンゲートで聞き込みをした帰途襲撃された事実と、交通事故偽装殺人の暴露が、そのまま警察と中戸一家の癒着の剔抉につながる可能性を、忘れさせてしまった。―――
「てつけつ」
えぐりだす、悪事などを暴き出すっていう意味らしい。

157Pより。
―――工事はおおむね、盛り土の転圧と、水に接する「のり面」を固める土羽打ちと仕上げた斜面の芝付けの三つに分けられている。―――
「てんあつ」
土砂やアスファルトなどに力を加えて空気を押し出し、粒子同士の接触を密にして密度を高めること、らしい。

189Pより。
―――かたわらでいぎたなく眠っていた若い女が、ようやくもぞもぞと体を動かした。―――
「いぎたなく」
いつまでも眠りこけている、もしくは寝相が醜い様子ってことみたい。

225Pより。
―――いまの子供は進んでいましてね、おとな顔負けの劇を考え出します。とにかく小学生がロッキード汚職を諷刺した寸劇なんかをやるんですから。―――
ロッキード事件アメリカの航空機製造大手のロッキード社による、主に同社の旅客機の受注をめぐって、1976年2月に明るみに出た世界的な大規模汚職事件のこと。
事件当時現職だった田中角栄首相も逮捕された戦後最大の汚職事件って、名前は知っていたけど詳しい内容は知らんかったわ・・・・・興味もなかったし(;^ω^)

260Pより。
―――だが、このハプニングに羽代署以上に仰天した者があった。大場一成である。彼は早速一族の主だった者を集めて鳩首会議した。―――
「きゅうしゅ」
人々が集まり、額を寄せ合って熱心に相談すること。まるで鳩の群れみたいにってことかと。

299Pより。
―――侵犯とその後の強迫によって自家薬籠中のものとした獲物である。電話一本で易々と呼び出せるだろう。―――
「じかやくろうちゅう」
自分の所有する薬籠の中にある物っていう表現。
いつでも好きなように使うことができる、完全に手中にある、てな意味で使われるらしい。

313Pより。
―――民主主義は、絶えざる疑心と監視によって成立維持される制度である―――と言った学者の言葉が村長の心に植えつけられている。―――
↑ダメだぁ・・・・・誰が言っていたのかさっぱりわかりませんですわ(>_<)

404Pより。
―――最近は、羽代地裁にも青法協の影響があって、逮捕状の発付が厳格になっている。―――
青年法律家協会
1954年に憲法を擁護し平和と民主主義および基本的人権を守ることを目的として、若手の法律研究者や弁護士、裁判官などによって設立された団体・・・とのこと。

487Pより。
―――世間は、彼を犯人として疑わないだろう。"第二のソンミ事件"としてマスコミが大々的に取り上げることは、火を見るより明らかである。―――
ソンミ村虐殺事件
ベトナム戦争中の1968年3月16日、アメリカ軍兵士がクアンガイ省ソンティン県ソンミ村で非武装ベトナム人住民を虐殺した事件。無抵抗の村民504人が無差別射撃などで虐殺された。
↑やっぱり戦争は地獄だよ・・・。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
482Pのところから。

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雪の降りだした夜に暴走族マッドドッグの集団相手に素手で孤立奮闘するもやられそうになる味沢。
しかし不意に手渡された斧を使って一気に攻勢逆転する。
自衛隊特殊工作員の味沢が武器を手にした時、いくら多勢とはいえ素人が敵う訳がない。
怒りと疲労と痛みで思考が麻痺した味沢は、本能だけで次々とマッドドッグを切りつけて屠っていく。
すでに戦意喪失して逃げ出そうとする者でさえ、後ろから切りつけて背骨を割る容赦ない斬撃。

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  • 発売日: 2016/01/29
  • メディア: DVD