忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

道徳の時間 読書感想

タイトル 「道徳の時間」(文庫版)
著者 呉勝浩
文庫 448ページ
出版社 講談社
発売日 2017年8月9日

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「道徳の時間」だけ

<< ここ最近の思うこと >>

かな~り昔に『破線のマリス』っていう第43回江戸川乱歩賞受賞の小説を読んだのよ。
その小説には映像を作る者にとって忘れてはならないことが語られていたような気がする。
(上記のことと、あとは真犯人しか覚えていないくらい昔の話)

話変わって、職場にて新入社員の子に好きなTV番組ってあるの?と聞いてみたところ、『ザ・ノンフィクション』を好んで観ていると言っていた。
あーゆー暗い現実の映像を見て楽しめる気持ちがおじさんには理解できなかったけど、年を取ってきたこの頃は辛い現実を身近に感じるモノがあるのか、割とこーゆー番組アリかもって思っちゃったり。
(つーか『ザ・ノンフィクション』の魅力にハマりかけているおじさんがいる・・・)

そして前回、『野火』を読んだ後に今回この小説を選ぶとは、無意識の内に精神的なダメージを受けていたのかも(笑)
正しいこととか人としての道徳を求めているのだ。
つーわけで、いざ江戸川乱歩賞受賞作の中へ飛びこむぜよ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

休業中のビデオジャーナリストである伏見祐大に仕事の依頼が舞い込んできた。
依頼主は越智冬菜という若い女性で、祐大をカメラマンとして指名してきたらしい。
彼女は十三年前に起こった小学校での講演会中に殺人を実行した青年のドキュメンタリー映画を撮るのだと説明した。

同じ頃、祐大の住む鳴川市では連続イタズラ事件が問題になっていた。
小動物を使ったイタズラには「生物の時間を始めます」、鉄棒を使ったイタズラには「体育の時間を始めます」というメッセージが残されており、住民たちは警戒心を強めていた。

そんな中、地元で有名な陶芸家が服毒自殺をした現場に「道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?」というメッセージが発見された。
殺人の可能性を考えて本格的に警察が動き出す中、祐大は冬菜に教えてもらった言葉を思い出した。
講演会殺人事件の犯人である青年は言った「これは道徳の問題なのです」と。
その後、青年は一切を黙秘して刑に服したらしい。
沸き起こる好奇心と自身のカンに負けた祐大は、冬菜の依頼を受けることにした。

自殺、タチの悪い奴、異常事態、鳴川第二小事件、道徳の問題、ドキュメント映画、ぬるま湯は肌に合いません、教育者育成会、同級生、三番目の夫、アスレチック、真相はどちらでもいい、狐に化かされた気分、あれに近づくな、子供の悪戯、同じ穴のムジナ、任意同行、鮮やかなブルー、みんなくん、湯浅教育研究所、一筋の傷が残る舌、モラルの拳、この先が観たいんです、犬を食べる話、やり切れない告白、愛情も平等、彼の言葉・・・。

鳴川市で連続するイタズラ犯は一体誰なのか?
自殺した陶芸家の現場に残されていたメッセージの意味は?
黙秘を貫いて刑を受け入れた青年の真意と目的は果たして!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///中身も外見も素晴らしい伏見朋子がイイ///
伏見祐大の奥さんである朋子。
自他ともに認めるプロポーションと皆に好かれる性格、そして素晴らしき母であり妻である女性。
息子の成績を「終わっている」と語りつつ、将来は絵描きか漫画家になってくれたら老後は安泰と楽観視する器の大きさ。
尊敬する陶芸教室の先生を罵られても、最終的には夫を励まして仕事に送り出してくれる優しさ。
『道徳の時間』において女神のような存在の彼女、そして気になるのは何故主人公と結婚したのか?
良き女性ほど尖がった男性を好む傾向があるのだろうか・・・。
(劇場版アニメ『シロバコ』の遠藤夫婦みたいだ)

///結局のところゆとり教育ってなんだったの///
伏見のご近所さんで、子供同士が友人の駒井。
自警団の見回りを終えて、主人公と二人で学力重視の教育と社会が何故危ういのかということを語る。
112Pより。
―――受験戦争というシステムが、長らく右肩上がりの経済大国を支えた理由だった。
「一方で問題もあります。与えられた課題への対応に慣れ切ってしまえば、自ら課題を見出すことができなくなる。その範囲でしか物事を解決できなくなる」
「そこで想像力や柔軟な思考なんかを鍛えようとしたわけですね。つまり人間力ってやつだ。でも失敗した」―――
このあとどうして失敗したのかって理由もしっかり語られているんだけど、読んでみて納得したよ。
グローバルな人間を育成できるのはどんな人なのか?目先の利益しか視ない大人にはまず無理だろう。
(そもそも教育次第でどうにかなるモノ・・・なんだろうかね?)

///当たり前だけど、みんなそれぞれ事情がある///
この小説では色々な事象にはっとさせられることがあった。
祐大が鯨幕を見ると腹が減るのは何故だろう?
内野さとみという人物はどのような内面を隠しているのか?
殴られて鼻血を流す吉川誠の笑みに何を感じたのか?
おじさんが普段からどれほど色眼鏡をかけて他人を視ていたのか思い知らされましたわ。
(でも小説と現実は違うからっていう心の声に流されないよう、いつまでも柔らかくありたいです)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///働いてなくても家計が苦しくても、譲れぬモノがある///
子供同士のトラブルで、ガラの悪い吉川という人物と関わりを持ってしまった祐大。
ヤクザとも繋がりをもっているチンピラのようだが、祐大は自分一人でことを収めようとする。
18Pより。
―――青柳さんに話を通してみましょうか?という厚意は丁寧に辞退した。つまらない意地だが、権力者の世話になりたくない。一匹狼のジャーナリストとして、染みついた習性だった。―――
カッコイイこと言っているが、結局相手の言われるがまま金を渡す約束をする祐大。
自分や家計の現状が分かっているのだろうかと疑問に思う。
さらには新たに始めた仕事のことや、吉川との金銭解決策を朋子に一切報告・相談しないなんてちょっとどうなんだとツッコミたくなったけど、頑固で意地っ張りな男だからしょうがないってことか。

///もう少し具体的に言ってあげたら?///
動物に対して酷いことをしようとした誠を殴りつけて止めさせた友希。
正しいこととはいえ、暴力を使った息子に社会のルールを説明する祐大。
20Pより。
―――「ぼくはどうしたらよかったん?」
「説得するしかないんや。おれらには言葉がある。言葉で誠くんを説得せなあかんかったんや」
「言ったよ。ぼく、誠にたくさん言ったんやで。やめ、って。そんなことしたらあかんて」同情を押し隠し、伏見は断じた。
「それでも殴ったらあかん。あかんもんはあかん。そう決めとかな、社会は回らんのや」―――
いやいや、そこは相手の手を掴むとか動物を逃がすとか、そーゆー具体的なこと教えてあげれば良いのにって思っちゃった。
誰かや何かを守るために力は必ず必要になるんだから、頭ごなしに暴力=悪っていうのはどうかと。
(そういやアカデミー賞授賞式でのウィル・スミスは重い処罰を与えられてたなぁ、如何なる場合も暴力は悪!・・・・・とはいうけど、あれは情状酌量の余地ありだと思うわ。コメディアンも悪いだろ)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
ミステリー小説(でいいのかな?)なので主人公である伏見雄大の視点だけで語られていく。
毎回のことだけど、これはおじさんの好きなタイプの作りだわ。

ページ数が448Pもあるのに、どこを読んでも面白いんだからさすがだね。
いくつかの事柄が同時進行していく展開のおかげなのかな、それに少し渋みのあるシニカル(?)な伏見雄大の語りが気に入ったせいもあるかも。
(人によっては好き嫌いがはっきり分かれそうな文章って感じかと)

///話のオチはどうだった?///
いやぁ~こんなに熱い意志が込められた話だったなんて、まったく想像してなかったわ。
人生ガチャでこれほどのハズレを引いてしまったら、おじさんだったら即ドロップアウトしちゃうよ。
だけど彼らは違った。
―――生き延びるために戦うこと、それ以外に確かなモラルなどない―――
この言葉がビシッとおじさんの胸に刻み込まれちゃった、痺れるぜよ。

とはいえ、生きる為ならなんでもやってヨシ!なんて言ったら世の中すぐ無法地帯でしょ。
だからこそ、人と人の間には「道徳」っていう概念が必要なのさ。
人間社会の中で生きる為に必要なモノ、それが「道徳」なのだ(`・ω・´)
当たり前のこと語っちゃったけど、そんなことつらつら考えちゃうくらい突き刺さった小説だった。

///まとめとして///
派手な展開があるわけでもなく、グロい描写があるわけでもないし、恐怖するような話でもない。
なのに最後まで熱中読書してしまったのは何故なのか?
たぶん人間の根本に訴えるような道徳の問題がテーマだったから、なんて思った。

前にも書いたけど、読み終えて悩んだり考えたりしちゃう小説は名作ってやつではないかと。
みなさんも社会に揉まれる大人になった今だからこそ、懐かしい「道徳の時間」を再開してみませんか?ってな訳で満読感9点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『道徳の時間』は第61回江戸川乱歩賞受賞作なのです。

7Pより。
―――鯨幕を見ると腹が減る。この罰当たりな条件反射を、誰かに明かしたことはない。―――
「くじらまく」とは葬儀の際、式場などで目にする黒と白の2色が縦に入った幕のこと。

66Pより。
―――「・・・・・『ゆきゆきて、神軍』をやるつもりか」異様な情念を抱えた犯罪者を、執拗に追った傑作が脳裏に浮かぶ。―――
ゆきゆきて、神軍』は1987年公開の日本映画。太平洋戦争の飢餓地獄・ニューギニア戦線で生き残り、「神軍平等兵」と称して慰霊と戦争責任の追及を続けた奥崎謙三の破天荒な言動を追うドキュメンタリーとのこと。
今村昌平企画、原一男監督の作品で、日本国内外で多くの賞を受賞したらしい。
ガルパンを思い浮かべてしまうのは何故だろう・・・)

160Pより。
―――「そりゃ危険ですよ。でも滝田先生は無頼というか奔放というか、一風変わった人で、そういう所に無頓着、今で言うと無責任ってことになるんでしょうけど、とにかくなんでもやってみろって感じでしたね。」―――
「ぶらい」とは無法な行いをすること、そういう人。
または頼みにするところがないこと、とのこと。

193Pより。
―――人を殺しにいく興奮や躊躇も、人殺しを止めに行く焦燥も読み取れない、いたって普通の歩行に見える。いかに記憶が改変されるかの傍証となった。―――
「ぼうしょう」とは間接的な証拠。
または直接の証拠とはならないが、その証明を補強するのに役立つ証拠。

356Pより。
―――どんな綺麗事を並べても、世間はそれをいかがわしい行いとみなし、陰に陽に、好奇の目を向けるのだ。―――
「いんにように」とは、あるときはひそかに、あるときは公然とって意味らしい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
作為的過ぎるインタビューに怒りを抑えきれなくなった祐大は、帰りのエレベーター内で冬菜に詰め寄り問い詰める。
326Pより。
―――それは世界中で見てきたいくつもの顔を、伏見に思い出させた。
絶望を日常的に受け入れ、明日自分が死ぬことにいささかの驚きも持たない顔。
「お前―――、何もんや?」
女は黙って、じっとこちらを見つめてくる。黒目がちの瞳の奥に、釘づけの自分が映っている。―――

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なんだか似たような構図の絵ばっかりになっちゃっている気がする。
もうちょっと奥行というか立体感というか、次の段階へ上りたい今日この頃ですだすよ。
おじさんも誰かに「こいつ、1UPしたな」って言われてみたい(´・ω・)
(最近なぜかあのCMがお気に入りのおじさん。特に岡野陽一が出ている『喫茶店店員の証言』編が大好きです)