忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

舟を編む 読書感想

タイトル 「舟を編む」(文庫版)
著者 三浦しをん
文庫 347ページ
出版社 光文社
発売日 2015年3月12日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・「ロマンス小説の七日間」


<< ここ最近の思うこと >>

昔から辞書が嫌いでしたわ~。
重いし、調べたい単語がすぐに見つけられないし、なによりつまらんし。
子供の頃は便利な電子辞書なるモノがほしくてたまらなかったよ、高価で手に入らなかったけど。
(誕生日やクリスマスのプレゼントで電子辞書を選ぶようなことはしません、それよりオモチャやゲームだチクショウ!)

そんなこんなで、恋愛小説枠で『愛なき世界』を買おうと思ったらまだ文庫化されていないだと!?
(現在では文庫本上下巻が発売されているみたいです)
仕方ないので同作者のこの小説を読むことにした。
少し前に映画化されて名前をちらほら聞いていたけど、はてさてどんな感じなのか。
それでは、『ロマンス小説の七日間』以上の盛り上がりを期待して、いざ三浦しをんの世界へ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

出版社・玄武書房で中型国語辞典『大渡海』の刊行計画を進めていた編集者荒木と国語学者の松本。
しかし道のりはまだまだ遠く、荒木の定年退職の前に辞書制作を引き継ぐ若手を探すことになった。

営業部員として働いていた馬締光也という新入社員。
社内でも「変な人」として扱われていたが、荒木は彼の適正を見出し辞書編集部に異動してもらい『大渡海』の制作を引き継いでほしいと依頼する。

玄武書房、最後の大仕事、まじめですが、言葉の海を渡る舟、かぐや、こころ、後楽園遊園地、うひょっぐ、いい辞書作ってね、名よりも実を取ろう、お守り要員、俺の配偶者です、ぬめり感、人海戦術、究極の紙、二人で、すべてのひとのために編まれた舟、玄武書房地獄の神保町合宿、言葉に身を捧げた一生、絶対に言葉が必要だ・・・。

かなり変な人の馬締光也をはじめとして、個性的な面々が辞書作りに全力で挑む。
初めての辞書制作や突然訪れた美女との恋愛、ふりかかる困難やトラブル、初めての部下と残された時間、果たして『大渡海』は無事に出版されるのだろうか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///これが馬締渾身の恋文だ///
溢れ出んばかりの思いを綴ったラブレターを西岡に講評してもらった馬締。
これで良いと言いつつも、笑いをこらえる様子の西岡。
105Pより。
―――馬締は腑に落ちず、なんだか自分をなさけなくも感じつつ、西岡から返された十五枚の便箋を封筒に入れ、鞄に収めた。―――
ラブレターが十五枚の便箋!?
その枚数だけで驚愕してしまうんだけど、その中身も気になる。
自身はまったく気にしていない馬締のキャラクターが確かに変人だ(笑)
(いきなり『大都会』の熱唱にも一本取られたぜよ)

さらにこのあとの展開で少しだけ手紙の内容が明かされるんだけど、そこがまた面白い。
230Pより。
―――「いまの私の心情を率直にお伝えするなら、『香具矢香具矢、汝を如何せん』といったところです」
こ、これは・・・・・!項羽が「四面楚歌」な状況に陥ったときに詠んだという、有名な詩のもじりではないか・・・・・!―――
岸辺ちゃんの切れのイイつっこみにおじさんも思わずニッコリよ(*´ω`*)
そしてなんとこの文庫にはおまけとして「馬締の恋文」ほぼ全文が収録されている。
しかも西岡と岸辺のコメンタリー付きで!


///綺麗事だけじゃできないのです///
原稿を修正されてプンプンな大学教授を説得するために、西岡は単身で乗り込んでいく。
172Pより。
―――辞書は綺麗事だけでできているのではない。商品であるからには、品質を保証するネームバリューは絶対に必要だ。監修者として松本先生の名前を表紙に載せるのは、品質保証の一例だ。―――
辞書にも人選というモノがあったこと改めて知りましたわ。
ほとんどの人にとって辞書に誰が関わったかなんてどうでもいいことなんだけど、辞書を選んで購入を決定する人達にとってはこれほど重要なことはないもんね。
名が売れているイヤな奴にもお願いしなきゃならん訳か。

///あの紙やこの紙をめくらずにはいられなくなる///
「大渡海」に使用する紙のチェックにやってきた岸辺。
以前に確認した紙はぬめり感が無いと馬締に言われて却下されたのだった。
(歯痛を起こした芥川龍之介みたいに難しい顔をする馬締・・・・・どんなんだろう)
258Pより。
―――肝心なのは、ぬめり感。馬締が一番重視しているぬめり感は、いったいどうだろう。岸辺は無言のまま唾をのみ、ゆっくりと紙をめくった。一枚、二枚、辞書のページをめくるように、紙の束をめくっていった。―――
読んでいると思わず辞書のページを触ってみたくなる。
でも辞書が手元にないから、手に持っている「舟を編む」のページをぴらりと捲って「う~むむ」と唸ってみる。
・・・・・やっぱり辞書じゃないとわかんないな(^^;)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///岸辺が辞書編集部送りになった理由///
初めて辞書編集部のある玄武書房別館にやってきた岸辺みどり(入社三年目)
気温&埃アレルギーのある体質なので、別館の汚れ具合に早くもげんなりしてしまう。
192Pより。
―――「ビッグプロジェクトだから」と聞かされていたのに、これでは島流し同然じゃないか。私、なにかヘマでもしたのかな。何度も考えたことをまた考え、憂鬱になる。―――
なんで岸辺が異動になったのか気になった。
本人曰く特に何かしでかした訳でもなさそうだけど、知らないうちにヘマをしていたのか?
辞書作りの増援として選ばれたからには何かしら理由があるのかもって思っちゃうよね。
う~むむ、気になるなぁ。

///謎を残す香具矢さん///
辞書に使用する新開発の紙チェックも終わって一息ついた岸辺は、香具矢の店である「月の裏」を訪れて気になっていたことを聞いてみることに。
266Pより。
―――「まじめさんのどこをいいと思われたんですか」
これでは失礼だと気づき、急いでつけ加える。「いえ、たくさんあるとは思いますが」
「辞書に全力を注いでいるところです」―――
容姿端麗で恋愛経験もそれなりにある香具矢がどうして馬締を選んだのか?
↑で語られていただけが理由じゃないと思うけど、やっぱり十五枚の恋文がクリティカルヒットしたんだろうか?
彼女が厳しい板前の道を選んだ理由も詳しく知りたいね。
一応本人の口から語られていたけど、辛い道だからこそ覚悟を決めるような何かがあったんじゃないかと期待しちゃうおじさん。
(なぜ玄武書房が馬締のような変わった人材を新入社員として採用したのかも気になる)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
時系列順に荒木視点、馬締視点、西岡視点、岸辺視点、そして最後にまた馬締視点って具合に変化していく内容だった。ずっと馬締の視点だけで進んでいくもんだと予想していたから、これは予想外だったね。

それと今回の小説は恋愛小説枠として購入したつもりだったけど、恋愛パートは全体の三分の一くらいだったような印象ですわ。
お話の中心は「大渡海」の制作について、その箸休め的に恋愛なり成長なりが練りこまれていた。
(恋愛展開も馬締だけだと思っていたけど、そうでもなかった・・・)

///話のオチはどうだった?///
いや~、みんなで一生懸命になって長い時間をかけて一つのモノを作り上げるって、いいもんだねぇ。
そんでもって、ありきたりな終盤の展開だったのに思わず泣きそうになっちゃった。
周りに人目がなかったら涙が流れちゃったかもしれないわ。
そこまで胸にグッときた理由はやっぱり三浦しをんが作るキャラクターに情熱が詰まっているからなんじゃないかと!

悲しさもあるけど、それ以上に暖かな感情が溢れる終わり方で、作者様にありがとうございましたとこの場を借りて(*´ω`*)
(最終ページに印刷された「大渡海」の表紙を見て、改めて涙ぐみそうになっちゃったよよよ)

///まとめとして///
今やインターネットで簡単にいくらでも最新の言葉を調べられる時代。
この小説を読み始めた時は、辞書なんていらんでしょって考えたりもした。
でも電力や電子端末やネットが無かったら?最終的に残るのはやっぱり紙の辞書なんだと思う。
この地球に住むすべての人々に、平等に言葉を知ってもらうには紙の辞書じゃなきゃね。
(その前に言語と文字の統一が必要か)

長い年月と幾人もの情熱が込められて作られたモノが辞書なのだ。
舟を編む』を読んでそのことを知った今、一冊くらい辞書を持つのも良いかななんて思っちゃう。
でも期待していた恋愛展開には少し物足りなさを感じる内容だったので満読感7点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

舟を編む』は2012年(第9回)本屋大賞受賞作です。

2013年に実写映画化されている、さらに2016年にはアニメ化までされている!
どちらも有名豪華な俳優やら声優やらを起用しているね。ちょっと見てみたいわ。
6Pより。
―――荒木の両親は荒物屋を営んでおり、仕入れや店番で忙しかった。―――
「あらものや」は家庭用の雑貨類を売る商売、またはその店、雑貨屋など。

13Pより。
―――「やはり、定年になるのをのばせそうにありませんか」
「すまじきものは宮仕え、です」
「嘱託でもいい」―――
「すまじきものはみやづかえ」
他人に仕えることはいろいろと苦労があるから、なるべくやらないほうがよいという意味らしい。
まったくもってその通りだわ。可能であるならば自営業が一番良いよ。

23Pより。
―――「俺は東京ですが、両親の出身は和歌山です。問屋場のことを、馬締めとも言ったそうで」
「旅人に馬の差配をする、馬の元締めということか」―――
問屋場(といやば)は、宿場運営の中心的な施設で 問屋(宿場の代表者)を中心に宿役人たちが、宿場から宿場へ幕府等の書状を中継する手配や、参勤交代の大名行列等における本陣や旅籠等の手配や人足・馬の動員など重要な役割を負っていたとのこと。

86Pより。
―――「どうしたの、おばあちゃん」
「持病の癪が」
「そんな持病、おばあちゃんにはないでしょ。だいたい、癪ってなんなの?」
「差しこみのことです」―――
さしこみとは、疝痛とも言われる痛みの種類。
 これは通常の腹痛とは違い、何かに刺されるような痛みが特徴で、立っていられないくらいの痛みらしい。
酷い便秘の時や、尿管結石等の病気の時にもこの激しい痛みは起こるみたいで。

128Pより。
―――しかし、辞書づくりの邪魔になるといけないし、板前修業の邪魔をされても困るしと、千々に思い乱れるうちに時が経ってしまったと言っていました―――
「ちぢに」
さまざまに変化すること、多数に分けられる様子、など。

216Pより。
―――辞書以外でも、聖書、保険の約款、薬の効能書き、工業用品など、薄い紙の需要はさまざまなところにありますからね―――
「やっかん」
契約・条約などの取決めの、一つ一つの条項。

225Pより。
―――それにしても、データが古い。執筆者リストのなかに、数年前に物故した著名な心理学者の名前を見つけ、岸辺は腕組する。―――
「ぶっこ」
人が死ぬこと。死去。

282Pより。
―――「日本における近代的辞書の嚆矢となった、大槻文彦の『言海』。これすらも、ついに政府から公金は支給されず、大槻が生涯をかけて私的に編纂し、私費で刊行されました。―――
「こうし」
かぶら矢、または物事のはじめ、最初という意味らしい。

301Pより。
―――季節を問わず赤いTシャツを着ているので、赤シャツとあだ名されている。『坊っちゃん』の登場人物とはちがって、この赤シャツは変人だが明朗快活だ。―――
夏目漱石の「坊つちやん」の登場人物。
主人公の坊っちゃんが赴任した四国の中学校の教頭で、「赤シャツ」は坊っちゃんがつけたあだ名。
女のような声、いつも赤いシャツをきている、そしてきざで陰険な存在っていうキャラみたいね。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
深夜に帰宅して薄暗い玄関を開けて気の緩んだ瞬間、廊下の隅に何者かがしゃがみこんでいる!?
香具矢さん、あなたよく悲鳴を上げなかったね。
おじさんだったら間違いなく「うひぃ!」って声出しちゃうわ(笑)


108Pより。
―――早雲荘の廊下にしゃがんでいる馬締に気づき、深夜に帰宅してきた香具矢はびっくりしたのか、閉めたばかりの玄関の引き戸に背中をぶつけた。
「うわ。そんなところでなにやってんの」
「驚かせてすみません」―――