忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

野火 読書感想

タイトル 「野火」(文庫版)
著者 大岡昇平
文庫 224ページ
出版社 新潮社
発売日 1954年5月4日

 

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・今回の「野火」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

ネットの評判で映画『ハクソーリッジ』っていう戦争映画がめっちゃグロいってのを見かけたから、YouTubeで予告とか紹介動画を見てみたのよ。
上半身だけの死体を片手で持ち、もう片方の手で銃を撃ちまくりながら進むアメリカ兵には驚いたわ。
メル・ギブソンもいろいろ頑張ってるなぁ~、その熱意でアルコールのトラブルも克服してほしいね)

そんな動画を見ていたら、今回の小説の実写映画がオススメに出てきた。
名前だけは知っていたし日本の戦争小説に興味が沸いたので購入してみることに。
予告動画のクオリティーが思いのほか良かったから小説にも期待しちゃう。
ではでは、大岡昇平の戦争文学世界へ飛び込んでみるぜい(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

太平洋戦争末期、フィリピン戦線でのレイテ島が舞台。
肺の持病が再発して部隊を追い出された田村は、居座っていた病院陣地が攻撃されたことをきっかけにして、一人森の中を当ても無く進み続けた。
外国の戦地にて敗残兵となり、病気と飢餓に見舞われ絶望する中で生への執着は僅かに消えず、田村は彷徨い続ける。

馬鹿やろ、比島人、安田、組織的な攻撃、飽満の幾日、十字架、つんとする臭気、デ・プロフンディス、若い女声、パロンポン集合、面白え話、こーさーん、ここを食べてもいいよ、奇妙な運動、田村じゃないか、今にわかるよ、猿、復員、精神病院、黒い太陽・・・。

劣勢となった日本兵がレイテ島で絶望に覆われる時、人間の理性はどこまで消失していくのか。
生と死の狭間で揺れる田村は狂人となって生きるのか、人間として終焉を迎えるのか?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///このコンビ、絶対失敗するヤツでしょ///
病兵仲間の松永と安田、この親子ほど年の離れた二人が協力して生きていこうとする場面。
46Pより。
―――私はこれからまだ悪化すると思わねばならない状況の裡で、この速成の親子の辿る運命を知りたいと思い、実際奇妙な偶然からその目撃者となることになったが、しかしそれは何という結末であったろう。―――
若い松永は脚気で中年の安田は片足が熱帯潰瘍、敗残兵の陣地には食料も薬も無い。
間違いなく平穏な結末になんてならないでしょうに。
速成の親子の辿る運命におじさんの好奇心はクギヅケよ。

///お宝発見で思わずテンションが上がっちゃう///
敵の攻撃を受けて逃げた田村は、一人で島を彷徨い続ける。
空腹と疲労で限界に達しようとした時、田村は放置された畠を見つけた。
60Pより。
―――芋は歯の間で崩れるように噛みくだかれて喉を通った。何本目かで私は漸くその甘味を感じ、窪地へ降りて、そこを流れる水を飲み、芋についた土を洗い落とす余裕を持った。―――
飢餓状態からの食糧発見は冒険小説?にとって熱い展開だよ。
掘りだしてすぐにかぶりつく、まさしく生きる為に食うということ。
田村の喰いっぷりを読んでいると思わず芋が食べたくなってきちゃう。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///昔からあった叫びなのかな?///
パロンポンへ向かう道中、米兵達が待ち受ける道を超えなければならない場所がある。
夜になるまで林の中に潜伏している田村達の前を、米兵の車両が通り過ぎていく。
138Pより。
―――兵士達はひたすら射ち続け、「うえい」と喚声を挙げながら、私のいる丘の林を盲滅法に射って、通り過ぎた。―――
陽キャ御用達(いつからだ?)の「うぇーい」という言葉がここで。
圧倒的有利な状況で銃を乱射する米兵、気が大きくなって「うぇーい」と騒ぐ現代の陽キャ
興奮時に似たような叫びを上げるのは人間の本能なのかね?

///カタツムリはヤバいらしいけど、蛭はどうなの?///
米軍の待ち伏せによって仕方なく来た道を引き返す田村。
砲撃で破壊された森には、いたるところに破壊された日本兵もあった。
空腹と絶望に侵されながらも田村は一人きりで彷徨い続ける。
145Pより。
―――雨が降り、木の下に寝る私の体の露出した部分は、水に流されて来た山蛭によって蔽われた。その私自身の血を吸った、頭の平たい、草色の可愛い奴を、私は食べてやった。―――
なんかのニュースでカタツムリを生で食べた人が取り返しのつかないことになってしまったってのは知ってるけど、蛭はどうなんだろうね?
う~む、どう考えても火を通した方が良いに決まってるわな。

///なーんでそこで教えちゃうのか、渡しちゃうのか///
体力の限界を迎えて倒れた田村は、運良く仲間に発見されて一命をとりとめた。
敗残兵3人の集まりは、危ういバランスで保たれていた。
182Pより。
―――私は何気なく取り出して、渡した。
「ほう。九九式だな。うむ、ちゃんと緊填してあるな。ふむ、こりゃ使えそうだ」
そういいながら、彼の取った動作は奇妙なものであった。―――
事前に手榴弾を教えるなって言われていたのにポロっと教えて、ポイっと渡して、さすがにうっかりし過ぎでしょ!とは言ったものの、何もない異国の戦地で彷徨い続けていたら誰だってどこかしらのネジは緩んだり外れたりするか。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
田村視点で語られる内容は単独行動が多いということもあって、レイテ島の自然や風景の描写、田村自身の心理描写が結構なボリュームで語られている。
文学小説を愉しむスキルがほとんどないおじさんは理解できずに流し読む部分も多々あった訳で。
それに1951年の作品だから見慣れない漢字や表現も多々あった訳で(>_<)

戦争小説なのでもちろん死体とかバンバン出てくるんだけど、教養のある田村の視点で淡々と語られているのでネチネチしたグロイ描写などはあまり感じられなかったかと(おじさんの個人的な主観でね)

///話のオチはどうだった?///
こーゆー終わり方かぁ・・・・・えぇ~と、つまりどういうことなんだろ(・・;)
終盤の真相はわからないままで、読者の想像に任せる的なヤツかな?
まあ米軍の衛生兵が言っていたことが真実なんだろうけど、モヤモヤが残るよ。

受け止めることが出来ないくらいの現実に直面した時、人間は自分を守るため?正常を保つため?に頭の中を書き換えていく。
戦争が終わって日本での日常的思考に書き換える人もいれば、田村のように戻せなくなった人もいる。
でも最後に田村が出した結論を自身が受け入れることが出来たら、狂った精神は再生できると願いたい。

///まとめとして///
読む前は世にも恐ろしい内容、というか描写を期待していたけど(不謹慎でごめんなさい)読み終わって感じたのは、そんな単純な作品じゃなかったってことかと。
戦争文学小説って言葉が相応しいくらいに文学な小説だった、と思う。
敗残兵の日常が淡々と描かれていて、未来のない戦地で彷徨い続ける虚無感を凄く感じましたわ。

『野火』を読んだことによって会社の弁当がガッカリメニューだった時、あの比島よりはマシだわなって思えるようになったのは幸いかな。
文学小説熟練度が未熟なおじさんには少し早すぎた作品だったってことで満読感6点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『野火』は第3回(昭和26年度)読売文学賞・小説賞を受賞しております。
1959年に市川崑、2015年に塚本晋也がそれぞれ映画化しております。
塚本晋也版をまずは観てみたいなぁ、リリー・フランキーの演じる安田がぴったり過ぎる(笑)

6Pより。
―――十一月下旬レイテ島の西岸に上陸するとまもなく。私は軽い喀血をした。―――
「かつけつ」
咳とともに血液を喀出すること。

7Pより。
―――彼は室の小さな芋の山から、いい加減に両手にしゃくって差し出した。カモテと呼ばれ、甘藷に似た比島の芋であった。―――
フィリピンではさつま芋のことをカモテと呼ぶらしい。
握りこぶしよりも小さく中身はカボチャのような色をした芋。
蒸して食べるとなかなかに美味しいようで。

14P~15Pより。
―――奇怪なのは、その確実な予定と、ここを初めて通るという事実が、一種の矛盾する聯関として、私に意識されたことである。―――
「れんかん」
互いにかかわり合っていること。

41Pより。
―――「誰もお前みたいに自慢しやしねえさ、映画や小説にはあらな」
「うん『瞼の母』ってのを見たが、俺あいやになっちゃってね」―――
瞼の母』は1930年『騒人』に掲載された長谷川伸の戯曲。
演劇、映画、ドラマ、漫画や歌謡曲など様々な形式で制作されているみたい。

175Pより。
―――食事が終ると、永松は胸のポケットから煙草の葉を出し、丹念にちぎって、これも大事に取ってあるらしい洋罫紙の切れ端で巻いて、火を点けた。―――
「ようけいし」
海外製のノート紙みたいなもんかな?


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
98Pより。
―――私は砂に折り敷き、いい加減に発射した。銃声は海面を渡り、岬に反射して、長く余韻を引いて、消えて行った。男は一層慌ただしく櫂を動かした。私は笑って、引き返した。―――

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ある日、友人がガスガンの三八式歩兵銃を買ってしまった。
確か11万円ほどする品物で、重いし長いしサバゲーでは使いづらいロマン武器だと思った懐かしい記憶。
そんな彼は今頃どうしているのか、元気でやっているのか、さよならだけが人生か。
・・・・・染みるねぇ(´・ω・`)