忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

「遠い国からきた少年」 読書感想

タイトル 「遠い国からきた少年」(文庫版)
著者 樋口有介
文庫 347ページ
出版社 中央公論新社
発売日 2018年4月20日

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この作者の作品で既に読んだもの
・「風の日にララバイ」


<< ここ最近の思うこと >>

グラタンが食べたい・・・。
これを描いている時に見た世話焼き狐の○○さんでもグラタンが登場していたし、今回の小説にもシリーズ通して旨そうなグラタンが登場している・・・しかもバーで出される特別料理!
まあそれはおいといて。
前作「猿の悲しみ」を読んでから数年後・・・やっと続編の文庫版が発売された!!
めちゃめちゃ面白いって訳じゃないのに、何故か癖になる樋口作品。
それじゃあ久しぶりに味わっちゃおう。
またしばらくの間、風町サエの活躍に惚れちゃうぜぇ~(*‘∀‘)


<< かるーい話のながれ >>

アイドル候補生が店員の安売りピザ店(ラビット・ピザ)を経営して、人気投票で上位を獲得したらOKEというアイドルグループのメンバーになれるというシステムで、大儲けをしている小田崎貢司。
彼が依頼者として羽田法律事務所を訪れたのは、ラビットピザでアルバイトをしていた女子高生が自殺した件で、遺族側が1億2千万円の賠償金を求めてきたからだ。
問題を大きくさせたくないので何とかしてほしいとのこと。
風町サエは自殺した女子高生とその遺族の『弱点』を探ってみることにする。

同時に巨大ボランティア団体を管理する荒木凜華という女性からも依頼を受ける。
小田崎が理事会会員になりたがっているので、彼の『弱点』を見つけて諦めさせてほしいと。
妙な繋がりをもった二つの依頼だが、溺愛する息子(風町聖也)の為に一億円の貯金を目指しているサエは金の為なら仕事は選ばず、犯罪行為もなんのその。

アイドル候補生の女子高生が自殺した事件の真相とは?
謎に包まれた小田崎貢司の『弱点』とは?
聖也が街で彼女らしき女の子と歩いていたという情報の真偽は!?

誰もがあのアイドルグループだろうなぁって連想するストーリー。
今回は最初から風町サエのムエタイが炸裂するシリーズ第二作目だぜよ!!


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///樋口シリーズ新ヒロインの風町サエのキャラクターが好き///
不法侵入に盗聴、身分詐称、暴力行為、金の為なら多少の悪いことでもなんのその。
愛する一人息子の為に今日もせっせと一億円目指して仕事を頑張るシングルマザー。
彼女の魅力がビシビシ伝わってきたセリフを抜粋してみた。

地元のピザ屋で応援したい女性店員からピザを購入して、数分間の軽いおしゃべり。
お気に入りの子からピザを買えば買うほど、アイドルへの道が近付くシステム。
ITなんでも屋である大野(肥満の巨体)が、かつて推しであるほのかちゃんの為にピザを十二枚食べたと自慢気に語っていたのをディスるのがニヤリ。
62Pより。
―――営業時間も朝の七時から夜の十二時までだから建前はファストフード店なのだろうが、実態は青少年向けのキャバクラで、これではピザを十二枚も食べるバカも出てくる。―――

調査に向かった先でふと見つけたタイ?料理屋。
ムエタイを仕込まれた時に料理の味も覚えたので、食事のために立ち寄ってみたサエ。
しかし自分のことを絶世の美女と表現するのはいかがなものか(;^ω^)
(まあたしかに美人であることは間違いないんだろうけど)
98Pより。
―――テーブルに座っていた中年男女が腰をあげ、とつぜん侵入した絶世の美女に困惑しながらも、愛想よく頭を下げる。―――

基本的に表面上は大野に対して優しく接しているサエ。
だけど心の中ではけっこうビシビシ石を投げているのが笑える。
若い女に入れ込んでいるのが面白くないから、今回は大野ヘイトが多いのかな?)
159Pより。
―――「ホノカちゃんが店にいたころ、ぼく、二千枚は食べてるす」
「偉いわね。ホノカちゃんも感謝してるでしょう」
「ちゃんとぼくの名前を覚えてくれたす」
それはそうだ。自分のためにピザを二千枚も食べる男がいたら、その不気味さに、私なら夢でうなされる。―――

一人息子の聖也がラビット・ピザに行ったことがあるということを告げられて、ガチで慌てるサエ。
普段はカッチカチにクールなのに、メロメロな息子の問題になるとポンコツな母親になってしまうのが微笑ましいよねぇ(*´▽`*)
(相変わらずOKEに対して厳しいご意見なのは、やはり女の僻みもあるのか?・・・まあでも、真理ではあるかもね)
166Pより。
―――「だって、ああいうところって、バカと不良が行くのよ。ラビット・ピザなんか行ったら人生が汚れてしまうでしょう」
「大げさだな」
「大げさでもなんでも、人間は品格を大事にしなくてはいけないの。バカな場所に出入りしていると、最後は自分もバカになってしまうんだから」―――

///魅力あるキャラクター達///
前作「猿の悲しみ」から引き続き登場してくる友愛協会の荒木凜華という女性キャラ。
底の知れないコワい美女なんだけど、今回はOKEオーナーの小田崎が友愛協会に入りたいと言って来たので、それを自主的に諦めるネタを探してくれってサエに頼んできた。
その時の会話で、凜華が小田崎に対して思っている心象がまた毒舌(笑)
30Pより
―――「OKEスペシャルなんて、しょせんは猿回しの猿でしょう。小田崎さんはその猿使い。ですからそういうご自分の品格を自覚していただきたいの」―――

不良時代のサエの知り合いで、現在は日本料理屋で店主をやっている岩本京治。
正義のフリーライター吉田と一緒に店にやって来たサエに対して、吉田が席を立った途端に「女房に内緒で付き合ってもいいぜ」と誘ってくるチョイ悪オヤジ。
サエはまったく相手にしないで、それよりも生きのいい舎弟を使ってある人物を締め上げろと依頼する。
過去の殺人事件で負い目を感じている岩本は渋々その依頼を受けることに。
そして「女房に内緒にすると言われてもアンタとは付き合わない」の手のひら返し(笑)
樋口作品は男女の会話がキレイにテンポよくオチが付くから読んでいて心地いいのかも。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///姿を見せない小田崎遥帆子の存在感///
小田崎貢司と彼の妻である前沢遥帆子、ふたりのなれそめが気になった。
OKEグループの創設者と初代OKEメンバーのアイドルの結婚。
サエが調査していくと意外な二人の関係が判明するんだけど・・・。
愛情が芽生えて結婚したって感じはしないから、お互いの利益が一致したビジネスな結婚だったのかな?
(うーむ、遥帆子は次回作に登場してきそうな予感がするなぁ・・・根拠の無いカンだけどね)

///櫻の下にはやっぱりアレが埋まってるの?///
終盤の小田崎邸にて、サエと小田崎貢司の会話場面。
337Pより。
―――「桜なんか近くの公園でいくらでも見られるでしょう」
「そうは思いますがね。あれは家内が植えたんですよ」
「昔話だったか誰かの小説だったか、『満開の桜の下には屍体が埋まっている』というような話があったわね」
「あいにくその方面には疎くて」―――
もしほんとうに埋まっているとしたら、遥帆子の・・・?
いやいや、それじゃああまりにも安直すぎるか(;^ω^)
遥帆子はなぜ庭に桜の木を植えたんだろうねぇ。

///前作「猿の悲しみ」にて、サエが最後に気づいた恐ろしい何か///
ふと気になったので自分なりに考えてみた。
凜華が腹違いの兄である水沼に「自分は妹なのだ」と打ち明けたのが大学を卒業してから。
水沼の驚いた顔が今でも目に浮かぶというセリフ。
友愛協会の仕事をしつつ、夜には深夜託児所でボランティアをする。
そしてサエが思わず鳥肌が立って背中に寒気を感じるくらいの考え。
おじさんなりに考えると・・・。
凜華は水沼が腹違いの兄と知っていて付き合い始めた。
水沼はお互いの関係をまったく知らなかった。
大学を卒業してから、凜華は水沼に自分達は異母兄妹だと告げる。凜華のお腹には水沼の子供がいるということも一緒に。
そして子供は無事に出産して、凜華がボランティアしている深夜託児所で極秘に育てている。
ってなことじゃないかと思った。
全部おじさんの根拠の無い妄想だけどね(;^ω^)
「猿の悲しみ」のネタバレがオッケーな人は反転してみてくださいまし↑


<< 読み終えてどうだった? >>

樋口作品はこれまでいろいろ読んできたなぁ。
だからって訳じゃないけど、今回のはタイトルを見てなんとな~く一番大きなオチが予測出来た。
(分かったのは一個だけで、細かい部分まではわからなかったけどね!)
でもこの作者の小説はオチとかストーリーがメインってわけじゃなくて、文章から漂ってくる雰囲気がおじさんにとっては重要なのよ。
くたびれた中年の感性にじんわり染み込んでくるこの感じ・・・(´▽`)
樋口作品以外では味わえないこの魅力にもうメロメロなの。
(むかしは固い文章が苦手で居眠りすることもあったのにねぇ・・・お酒や煙草と同じで慣れればヤミツキになる?)


アイドル候補生の滝田芽久美が自殺した事件の真相は、情の欠片も無い酷いモンだったねぇ。
小説ではしっかり謎が解明されて悪い人間にも罰が下るような展開だったけど、現実はどうだろ。
(国民的アイドルグループのアレなんかも、知られていない揉め事が沢山ありそう・・・つか絶対あるわな)

もう一つの凜華から依頼された案件は、予想していた結末とはちょっと違っていた。
サエが下した判断は、殺人で服役してもその後の人生をしっかり生きている人間だからこそ、理解できる人情ってのが伝わって来たよ。
なんだか以前に読んだ「人間の証明」に近いモノを感じたわ。

さてでは、まとめとして。
107Pより。
―――チンパンジーの群れは最大でも百匹前後だから、本来なら人間も百匹ぐらいの集団が適切なのだろうに、「集合の狂喜」に快感を覚えてしまったらもうやめられない。コカインや覚醒剤と同じで、人間にとっては人間そのものが麻薬なのだ。―――
この文章が樋口作品全体の根本って感じ。
人間なんてどれだけご立派なことを言っても所詮は猿と同じで、くだらない問題を繰り返し続けるだけ。
だけど嘆いていたって人生は続いていくんだから、その日その日をやりくりして行こう。
(どうせ悩むなら人生とかよりも、今夜の肴をなんにするかで悩もうや的な?)
何言ってるか分からなくなってきたわ(笑)
そういや聖也の彼女らしき人物とは一体・・・?
↑コレについては次の風町サエ・シリーズで明らかになることを期待だね。
てなわけで、満読感は86点!
さぁ~て、次はどれを読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

69Pより。
―――「この飯能もねえ、今はただの田舎町だけど、昔は青梅より賑やかだったらしいわ」
「昔って」
「戦後の赤線があったころ。記者さん、中町へは行ってみた?」―――
「あかせん」
GHQによる公娼廃止指令(1946年)から、売春防止法の施行(1958年)までの間に、ほぼ公認で売春が行われていた日本の地域とのこと。
赤線区域、赤線地帯って言われることも。

107Pより。
―――店主の岩本京治は不良仲間時代の知り合いで木連川の三代目だか四代目、祖先は古河公方だというが、嘘に決まっている。―――
「こがくぼう」
室町時代後期から戦国時代にかけて、下総国古河茨城県古河市を本拠とした関東足利氏。
享徳4年(1455年)第5代鎌倉公方足利成氏が鎌倉から古河に本拠を移し初代古河公方になったらしい。

145Pより。
―――調理師学校へ通ったから料理が得意といえばそれまで、しかし亜季菜のこの、ちょっとしたセンスのようなものは生得的なものだろう。―――
「せいとくてき」
性質や能力などが生まれながらにそなわっていること。
または本有的って意味らしい。

194Pより。
―――「沖縄には筍がないから」
「まさか」
「竹自体がないんです。あるけど、本土みたいな真竹や孟宗ではないんです。だから筍を食べる習慣がなくて、父も母も最初は分からなかったそうです」―――
グラって呼ばれている細長い筍は生えてるみたいだけど、内地の方で一般的な筍っていうのはやっぱり生えていないみたいだね。
ややや!沖縄には杉やヒノキの花粉も沖縄には無い・・・だと?

285Pより。
―――「名物のウツボ料理も絶品、か」
玉之浦で名物なら、福江でだって名物だろう。ウツボをどんな料理にするのかは知らないが、地元の焼酎かなにかで、今夜は気持ちのいい晩酌にしたいものだ。―――
皮の食感がすごく個性的らしい。
唐揚げや湯引き、天ぷらや味噌汁・・・う~む、骨が怖いがちょっと食べてみたいかも。
(調べてみると『NEWパンドラ』っていうお店がウツボ料理で有名みたいで)

298Pより。
―――「マサカリ。鯛にはマサカリとかナギナタとか、弁慶の七つ道具という小骨があるんだ。昔は鯛が貴重品だったからさ、そこまできれいに食べなさいという教訓なんだろうね」―――
マサカリ、ナギナタ・・・どれのことだろ?ネットでは農耕道具として紹介されてる

345Pのあとがきより。
―――ミステリーやサスペンスには、こういう粘りっけが重要なんだなと思った。―――
奥田瑛二の解説にて。
粘りっ気とはなるほど表現だと思う。
樋口作品の雰囲気は「粘り気が強い」というとしっくりくるなぁ
俳優で映画監督でもある人なんだけど、読みやすくてわかりやすい文章だった。
ありがたやありがたや。

―――樋口さんは沖縄にいらっしゃるんですよね?沖縄の海を眺めながら考えるとそういうことを思いつくのかななどと考えてしまった。―――
作者は沖縄暮らしなのかぁ。
おじさんの好きな作家の友成純一もタイ?で暮らしているし、小説家は南国好きが多いのか?
まあ、たまたまなんだろうけどさ。
(宝くじで億を当てたら、沖縄でのんびり暮らしたいわぁ)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>


今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
241Pのところから。
小田崎の過去を調べる為にキャバクラのフロアレディー志望として湘南興業の事務所にやって来たサエ。
稼ぎたいなら一本100万円でAVに出てみないか?とか誘われて、ちょっと心が揺れそうになりながらサエはある写真を見つける。
写真のことやあれやこれや効いてくるサエに対して、湘南興業社長の寺川は女がフロアレディー目的でやって来たわけではないと気づいてしまう。

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元ボクサーで初老の寺川 VS 本場仕込みのムエタイ使い風町サエ。
異種格闘技戦は唐突に始まった!!

遠い国からきた少年 (中公文庫)

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猿の悲しみ (中公文庫)

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