タイトル 「営繕かるかや怪異譚」(文庫版)
著者 小野不由美
文庫 288ページ
出版社 KADOKAWA
発売日 2018年6月15日
<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・「残穢」
<< ここ最近の思うこと >>
今回は親戚の子にオススメされた小説。
同じ作者で以前に「残穢」を読んだけど、芯から震える怖さがあった覚えが・・・。
あらすじを読む限りだと、自分で選ぶことは無いだろうなぁって感じの短編集。
でも教訓を忘れてはならない。
蟲師の作家さんが表紙を描いているこの小説、今回もガチで怖がらせてくるのか?
ではでは、いざページを捲らんとする。
<< かるーい話のながれ >>
『奥庭より』
亡くなった祖母の家を引き取り、一人で住んでいる祥子。
中庭を挟んだ向かいには「開かずの間」があり、そこは唯一の出入り口である襖の前に箪笥が置いてあって、まるで塞いでいるかのようだった。
そしてその部屋の襖は、何度閉めてもいつの間にか少しだけ開いてしまう。
ある日、祥子はその襖から出てこようとするモノを目撃してしまう。
恐怖に煽られた祥子は襖自体を無くしてしまおうと思い、祖母が以前に仕事を頼んだ工務店に連絡をするのだが・・・。
『屋根裏に』
「ねえ、屋根裏に誰かいるよ」
母親の言葉を聞いた晃司はついにボケが始まってしまったと思い、古い家を生活しやすいようにリフォームする。
嫁いだ先で窮屈な人生を歩んできた母親には、せめて老後だけでも穏やかに過ごしてほしいと願う晃司であったが、リフォームをしても母親が聞いたと言う足音は消えなかった。
ある日の夜、まだ幼い兄妹の悲鳴が聞こえて晃司と妻は飛び起きる。
怯えた兄は「黒い影が掴もうとしてきた」と訴える。
幼い妹は「くろい、子」が家の中に居ると言う・・・。
『雨の鈴』
ある雨の日、有扶子は近所で鈴の音を響かせる喪服姿の女と出会う。
異様な雰囲気を感じ取り注意して観察してみると、女は歩いているのにその場に留まり続けていた。
幼い頃から妙なモノが見えてしまう体質の有扶子は気にしないようにして通り過ぎる。
それから雨が降る度に場所を変えて女は現れたが、何か害があるという訳ではなかった。
しかしアクセサリー教室の生徒からある噂を聞いて、有扶子は自身の身に降りかかるであろう恐ろしい未来を知ってしまい・・・。
『異形のひと』
祖父の古家に引っ越してきたばかりの真菜香は、古家にも中学にもまだ馴染めていなかった。
越してきた家には勝手に入り込んでお供え物を食べたりする謎の老人がいて、間の悪いことにその老人の姿を見た者はまだ真菜香一人だけだった。
家族に訴えても「田舎だからよくあること」と気にしない考え方。
しかしその老人は真菜香に予想も出来ないような所から現れては一瞬で消えるようになっていった。
やがて何かを開けることに怯えだす真菜香、家族は彼女の為に古い家をリフォームしようとする。
『潮満ちの井戸』
旦那の和志と二人で祖母の家に移り住んだ麻里子。
ある日、庭いじりに目覚めた和志が古い井戸の側にあった祠を壊してしまう。
大切にされている訳でもなく、何のためにあったのかもわからない祠だったので、まあいいかと済ませてしまう麻里子。
しかしその日から異変が起こり始めた。
庭の草花は枯れはじめ、謎の腐臭が漂ってくるようになり、不安に思った麻里子は植木業者に庭を見てもらうことにした。やってきた業者は感じの良い人だったが、庭の井戸を見た瞬間に怯えた様子で代金も受け取らず引き上げていった。
対応の悪さに呆れる麻里子だったがその日の夜、湯船に浸かっていた彼女の元にあの腐臭が漂ってきて、さらに何かが跳ねながら近づいてくる音が・・・。
『檻の外』
クズな旦那と別れて地元に出戻ってきたシングルマザーの麻美は、親戚から格安で借りた古家に娘の杏奈と二人だけで住んでいる。
古い納屋を改造した車庫を使っているのだが、ここのところずっと軽自動車の調子が悪い。
学生時代の後輩に仕入れてもらって事故歴も無い掘り出し物なのに、しょっちゅうトラブルを起こす。
ある日、車を車庫に入れようとバックモニターを見ていると、そこに見知らぬ子供の姿が一瞬映る。
見間違いだと思ったが、その後も子供らしき声が車内から聞こえてきて、麻美は後輩に事故歴の確認をしてもらうが、やはり車に事故を起こしたという経歴は一切ないとのこと。
さらなる恐怖体験に襲われた麻美は、格安で借りることができた古家の理由を知ることとなる。
<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>
///隅田の言葉になるほど確かに///
真菜香の心残りを知って柔らかく語り掛ける隅田。
167Pより。
―――「見たことがあるのと、会うのとは違うよ。通りで見掛ける、すれ違うのは背景の一部だからね」―――
168Pより。
―――「逆もある。俺は同じ家に孫もいるし、職人の若いのも抱えてる。だからこんなもんだ、と思っているが、あまり若いのと関わらない年寄りは、若い奴を見ると外国人を見てるような気がするみたいだよ」―――
老若男女、白人黒人、日本以外のアジア人・・・・・何度も見たりすれ違ったりしたことは数知れないけれど、関わりを持ったことはあんまりないね。
特に外人の集団とかを発見したら思わず距離をとってしまうわ。
(おじさんは他人全般に対して壁作っちゃってるなぁ~・・・イカンイカン)
///ホラー小説つったら恐怖シーンでしょ///
この小説で最怖だったのは「檻の外」だったね。
車内から娘を手招きして車庫に呼び込もうとする場面もゾクッと来たけど、その後の展開がさらに怖い。
真っ暗な車庫の中に閉じ込められて、聞こえてくる子供の声と窓ガラスを叩く音。
やがて車のドアロックが外れてドアが開き・・・・・キャ~~~(゚Д゚;)
さすが『残穢』を作った小野不由美!
ホラー作品ならやっぱり怖がらせてなんぼのもんでしょ(゚Д゚)ノ
///悪意や邪念ならお浄めできる、でもそれ以外だったら?///
「檻の外」にて語られていた僧侶の言葉が胸に残る。
264Pより。
―――いっそ親を怨んで怒ってくれれば―――子供の方が親を見捨ててくれれば、救うことだって簡単になるのに、と―――
児童虐待がなかなか無くならない、早期発見されない理由がやるせない。
親と子の関係はそう簡単に壊れないわな、幼い子供ならなおさら親を求めるのが当たり前なんだし。
<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>
///見取り図を、ください・・・///
風景描写を丁寧に伝えてくれるのが小野不由美節。
しかしイマイチ古民家の間取りなどが想像できない所が多々・・・。
特に「雨の鈴」の最後はどーゆー配置なのか気になる。
(と思ったけど、「雨の鈴」は改めて読み返してみたらなんとなーく想像できました)
///良くも悪くも全部ワンパターンな短編集///
古家に住んでいる住人が怪奇現象に遭遇する。
放置できないくらいの状況になる。
なんだかんだで最後に尾端と知り合って、営繕して解決。
収録されている話すべて↑の流れだから、物語の展開やどんでん返しが好きな人には合わないかも。
<< 読み終えてどうだった? >>
///全体の印象とか///
主人公が毎回変わるタイプの連作短編、になるのかな?
必ず登場するのが営繕屋の尾端で、各話の主人公らは何がしかのツテで彼と出会うことになる。
ホラー小説なのは間違いないんだけど、『蟲師』の漫画やアニメを見ているおじさんにはどうしてもギンコの声とイメージが浮かんできてしまう(笑)
///話のオチはどうだった?///
オチとしては全部ネットで有名なコピペ「寺生まれのTさん」って感じでしたわ。
「破あぁぁぁ!!!」で解決じゃないけど、何か心得てる尾端が劇的に営繕して恐怖のビフォーから幸せのアフターにしてくれる。
「残穢」のオチと比べると物凄く清涼感溢れるようなスッキリ清々しいエンドばかりだね。
不穏な後味で怖がりたいって人には物足りない小説かも。
///まとめとして///
ひと言で説明するとすれば、「ホラー的!蟲師ビフォーアフター」ってこれじゃ安直すぎるね(;^ω^)
最後の「檻の外」がガチで怖くてちょっぴり泣きそうになっちゃうくらい楽しませてくれたから、おじさんとしてはしっかり満足。
一日一話くらいのペースで、雨音を聞きながらしっとり読みたい一冊だった。
てなわけで、満読感84点!
さぁ~て、次はなにを読もうかな・・・。
<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>
題名より。
―――営繕かるかや怪異譚―――
「えいぜん」
建築物を新築または修理すること。
17Pより。
―――思いながら、手前の箪笥に入ったものを全て出し、苦心惨憺して箪笥を動かした。―――
「くしんさんたん」
非常に苦心していろいろやってみること。
49Pより。
―――癒す時間が必要だ。癒えればずっと撓められていた自分を取り戻すに違いない。―――
「たわめられて」
木・竹・枝などを、曲げたりまっすぐにしたりして形を整える。
悪い性質やくせなどを直す。矯正きようせいする。
作中では窮屈な思いをしてきたって意味で使われているのかな。
86Pより。
―――夾竹桃には毒があるんだっけ。けれども濁りのない白と、花の形が美しい。そのまま女性の指に添えれば、大きくても品の良い指輪になりそうだった。―――
キョウチクトウは、キョウチクトウ科キョウチクトウ属の常緑低木もしくは常緑小高木で、
和名は葉がタケに似ていること、花がモモに似ていることから付けられたとか。
強力な毒成分が含まれ、キョウチクトウを燃やして出た煙にも残るらしい。
105Pより。
―――本当、と加代は言って、大昔の武者溜まりにある踏切で、などと場所を説明していた。生徒たちによれば、高架になるまでは事故や飛び込みの多い踏切だったらしい。―――
「むしゃだまり」
軍勢の集合用に、城門の近くに設けられた広場。
124Pより。
―――「魔を呼び込むから。路殺といって、家相のうえでは凶とされます。ですから入口は、わざとずらすのが古くからの常識です。―――
「ろさつ」
風水では、T字路や袋小路のように道路が向かってくるような場所に建つ家のことを、路殺(ろさつ)または路冲殺(ろちゅうさつ)というみたい。
道路には人と共に見えない邪気や念が流れていて、道路の直線状にある家(さらに同線上に玄関もある家)はその良くない流れを真正面から受け止めちゃうから良くないよってことらしい。
249Pより。
―――杏奈の「おかあさん」という声、青白い月明りと冷えた夜気、両手を地に突き、いざるようにガレージを転がり出た。―――
「いざるように」
座ったまま(しりを下につけ、またはひざがしらで)進む状態、とのこと。
<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>
今回は「異形のひと」から。
神出鬼没の不審者じいさんにビクつく真菜香ちゃんが、ホラー映画的な展開でじいさんを見つけてしまった場面。
風呂桶を開けるところも実際に遭遇したら悲鳴上げちゃうくらい怖いやろうて(笑)
(水曜日のダウンタウンでも似たような企画があったような・・・「ベッドの中に人がいる」ってやつか)
143Pより。
―――真菜香は改めて周囲を見廻し、そしてふと思いついて身を屈めた。作業台兼用の小さなテーブルの下を覗き込み―――そして、老人と目が合った。―――