忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

アリス殺し 読書感想

タイトル 「アリス殺し」(文庫版)
著者 小林泰三
文庫 384ページ
出版社 東京創元社
発売日 2019年4月24日

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「玩具修理工」(ブログ開始前に読んだ)
・「天獄と地国」


<< ここ最近の思うこと >>

これを読んでいてアニメの『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』を思い出した。
前作よりもちょいと大人向け?に面白くなっていておじさんは気に入ったよ。
(でもよくよく考えてみると、Re:RISEと今回の小説は特に共通した内容でもないのよね・・・)

まぁそんなこた~置いといて。
今回はひょんなことから知り合った人にオススメされた小説。
おそらくこんな機会がなければ手に取ることは無かったと思う。
だってファンタジーで推理系だし、ねぇ・・・(・・;)
読む前から不安がぽつぽつ沸いてくるけど、本との一期一会を大切にしていざページをめくってやるぞい(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見る栗栖川亜理。
彼女は不思議の国で起きたハンプティ・ダンプティ殺害事件の犯人として疑われる。
夢から覚めて大学へ行くと、玉子というあだ名の研究員が飛び降り自殺をしていた。
実験設備の使用交渉で偶然出会った井森という学生が、実は不思議の国でビルという蜥蜴を演じていることを知った亜理は共通の夢という現象に驚く。
しかし井森はもっと驚くことを亜理に伝えた。

75Pより。
―――「そう。二つの世界の死はリンクしている可能性がある」
井森は静かに言った。
「その場合、アリスの死刑は現実世界の君の死を意味する」―――

夢日記、ブージャムだった、アーヴァタール現象、アリスの死刑、牡蠣中毒、グリフォンは騙された、一週間、レッドキングには誰も絶対に勝てない、犯人にも弱みがある、二面作戦、必ず一人で、かつあげ、事故、バンダースナッチ、ダイイングメッセージ、人の命、死んで頂戴、僅かな閃き、唯一の証人、誰の夢、例の茸、リセット、頭の悪い女王、残虐な刑、君が忘れているだけ・・・。

はたして亜理と井森は真犯人を突き止めて、アリスの死刑を防ぐことが出来るのか?
なぜ不思議の国と地球との間で、死はリンクしているのか?
不思議の国で次々と起こる連続殺人犯の正体とは一体!?
ティム・バートンの『アリス・イン・ワンダーランド』よりも、もっと強烈な悪意がこもった物語かと)


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///ハンプティ・ダンプティの中身ががが///
とにかくハンプの死体描写がグロイ!
殻の内側に張り巡らされたピンクの細胞組織(ピクピク震えてる)に、濁った体液。
それをスープと勘違いして飲みだす三月兎
47Pより。
―――「これはハンプティ・ダンプティの背中の部分だ」
「どうして背中ってわかるの?」アリスは尋ねた。
「内側を見てみろ。背骨があるだろ」
「うげっ」―――
っていうか卵なのに背骨があるって、なんか意味あるのソレ(笑)
でもこの不気味で気持ち悪い描写が堪らなく好きなおじさんなんです(;^ω^)

///長々と四苦八苦する斬首刑///
悪人にはとにかく苦しんで死ぬがヨロシと思っているおじさんでも、もういい加減スパッと殺してさしあげてと思っちゃうほどの・・・。
361Pから362Pより。
―――「・・・やめて・・・」「いや。駄目よ。死刑だから、やめられないわ」
「・・・やめて・・・。痛いのは嫌」
「そうなの?じゃあ、なるべく痛くないように切るわ」「女王様、鋸、持ってきました」
「なんだか、錆びついてぼろぼろだけど大丈夫?」
「よくわかりませんが、骨は木より柔らかいからなんとかなるんじゃないでしょうか?」
「そうなの?やってみて」―――
人の首を一撃で切り落とすのって、容易には出来ないのかぁ。
(ギロチン刑は死刑囚にとって救いでもあったのかもしれない・・・なんて考えちゃう)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///獣を操る方法が気になる///
犯人は不思議の国でブーシャムやバンダースナッチを操って殺人計画を進めていた。
でも怪物ともいえる獣をどうやって操っていたのか、その方法が気になります!
(けっきょく作中では語られなかったけど)

///ちょっと無理やりな展開な気もする?///
アリスの無実が証明される唯一の証言者を食べちゃう展開は無理やりすぎるのでは?なんてことを読んでいて思った。
127Pより。
―――「生牡蠣、貰い!」ビルは頭のおかしい帽子屋の掌から、ちゅるんと牡蠣を吸い取った。
アリスは何が起こったのか理解できず、呆然とビルの顔を見詰めた。
ビルの唇から液が溢れ出た。―――
これをやっちゃうとどんな場面でもお構いなし、誰もが無茶苦茶な行動をしてもアリの展開になっちゃうのでは・・・(でも不思議の国の基準で考えれば日常茶飯事なのかも。)

///最後のページに書かれた言葉///
あれれ、これはどーゆーことなの?
アナタは死んだんじゃないの?
やだもう訳わかんない!!
続編の○○殺しシリーズを読めば理解できるようになってるの!?
チェシャ猫さん、私・・・気になります(`・ω・´)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
内容は地球での話と不思議の国の話が交互に進行していく。
最初、不思議の国の会話パートが読んでいてイライラしてくるくらいまだるっこしいんだけど、読み進めるにつれてさほど気にならなくなってきたから良かったわ。(最初の数ページが一番辛かったかな)

昔見た映画の『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』に出てきた動くお菓子達、あんな感じの不気味さが全編漂っていたわ。
(もしくは『まどマギ』の魔女空間的な)
特にそれぞれの被害者が殺害される場面なんか、もう気持ち悪いくらいの雰囲気でサイコーよう!

///話のオチはどうだった?///
推理小説は犯人を突き止めたところが面白さのピークになると思うんけど、『アリス殺し』はそこからさらにどんどん面白くなっていったから驚かされたわ。

狂気の犯行描写や、もうヤメテ!と叫びたくなるような死刑描写、そんでももってちょっぴり切ないラスト・・・・・・どんだけ終盤に詰め込むのよ、こんなの大満足に決まってるじゃん!

///まとめとして///
それでは教訓、きょーくん。
他人から勧められた守備範囲外の作品は味わってみるべし。
気に入ったのならまたオススメ聞いたらいいし、ダメだったらもうあてにしなければいいだけだし。
(でも大概おススメされたモノって高クオリティ率が高いのよね)

ファンタジーとSF、ファンタジーとグロ、ファンタジーと現代ミステリー、お互いに違う性質のモノを混ぜ合わせたら予測がつかない面白さが生まれてくる、よね?
読了感は勧善懲悪でスッキリ解決!!
って割り切れないくらいの残酷な描写がたっぷり詰まった不思議の国連続殺害事件。
おじさんのファンタジー作品を拒む壁が一枚打ち抜かれたほどの満読感で92点!
さぁ~て、次はなにを読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『アリス殺し』で2014年啓文堂書店文芸書大賞を受賞している!

『クララ殺し』と『ドロシー殺し』
↑二作の続編があるみたいだけど、この『アリス殺し』以上のどんでん返し的な物語を果たして作れたんだろか?
読んでみたい反面、それほど面白くなかったら嫌だなっていう気持ちも・・・。
(どうやら別宇宙の話で共通の登場人物は井森だけみたいな感じ)

27Pより。
―――「えっ?でも、わたし困るんです。今日、蒸着装置の予約をしていて、これを逃すと三週間先になってしまうんです」―――
「蒸着装置」
真空蒸着とは、真空中で金属や金属酸化物などの成膜材料を加熱して、溶融・蒸発または昇華させて、基材や基板の表面に蒸発、昇華した粒子(原子・分子)を付着・堆積させて薄膜を形成する技術とのこと。

蒸着技術は光学薄膜、磁気テープ、ディスプレイ構成の電極・半導体膜・絶縁膜など、携帯電話、本体装飾コーティングなど、食品包装材、ファッション素材や建材など様々な分野に広く利用されているとか。

32Pより。
―――「なるほど。電極を形成しさえすればいいんだろ」
「まあ、つまるところ、そういうことになるわね」
「だったら、スパッタを使えばいい」―――
「スパッタ」
金属表面に高エネルギー粒子を当てると金属表面から原子が飛び出すこと。
真空中にArなどのガスを低圧力で導入してグロー放電させ、プラズマを発生させて、このプラズマのターゲットへの衝突で原子を蒸発させガラス基板などに成膜する技術。

233Pより。
―――だとしたら、僕は蜥蜴ではなく、蛇なのかな?でも、蛇だったら手足はないよね。ああ。でも、金蛇は足があるか。あれは蛇?それとも蜥蜴?どっちなのかな?―――
「かなへび」
カナヘビとは尻尾が長く、舌先が2つに割れたトカゲで土には潜らない。

294P~295Pより。
―――「厳密に言うと、銃と言うよりは工具ね。コンクリートや鉄板に釘なんかを打ち込む時に使うの。でも、原理は銃と同じなの。だから、鋲打ち銃と呼ばれている。猟銃と同じく許可証も要るの。だから、正真正銘の銃だわ」―――
「鋲撃ち銃」
ネイルガンは釘を板などの材料に打ち込む際に用いられる工具の一種である。
日本では釘打機とも呼ばれる。
昔に木材を組み立てる仕事で使っていたけど、許可証とか全然知らなかったわ。
事業者が所持していれば誰が使ってもいいってことなのかな?
(木材に打ち込む時、稀に予想外の方向へ釘が飛び出してくるから、あれはコワいぜよ)

今回の『アリス殺し』に載っていた澤村伊智の解説を読んで、小林泰三の『人獣細工』に収録されている『ぶた娘』の話を読んでみたくなった。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回は地球でのショッキングな場面を描いてみた。
飛び散る液体って、描くのが難しいね。
そして大学の敷地内を描いてみたんだけど、地面が壁のような傾斜になっちゃってるじゃん(笑)
まあ1939年の映画『オズの魔法使』みたいな雰囲気を感じ取ってもらえたら幸いです(;´∀`)

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162Pより。
―――「ちょっと何する気?」亜理は狼狽えた。刃の先端が喉と胸の間に当たった。
皮膚が押されて凹んだ。

「危ないわ。もうやめて」
ぷつ。血がにじみ出した。男の手は止まらない。表情が苦痛のそれへと変わる。
「何考えてるの!」
止めるべきだわ。この男のためにも、自分のためにも。―――