タイトル 「向日葵の咲かない夏」(文庫版)
著者 道尾秀介
文庫 470ページ
出版社 新潮社
発売日 2008年7月29日
<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・今回の「向日葵の咲かない夏」だけ
<< ここ最近の思うこと >>
今回の小説もあるイベントで知り合った人にオススメされた一冊。
本屋で何度も目についた小説だったけど購入してみようって気持ちには至らなかった訳で。
『人間の証明』や『アリス殺し』に続いて、この小説もおじさんに新鮮な感性を味あわせてくれるのか?
リーンカーネーションの輪の中で何度生まれ変わっても・・・と、嘆いていたのは『埼玉ゴズニーランド』を歌う大槻ケンヂ。
オン アミリティ ウン パッタ 軍荼利・・・と言えば、『ベルセルク』の仙将ダイバ。(果たして完結はいつなのか?って思っていたら、まさかねぇ)
さあ、道尾秀介の描くもう一つの夏休みに飛び込んでみようぜ(=゚ω゚)ノ
<< かるーい話のながれ >>
夏休みを迎える終業式の日。
小学四年生のミチオは欠席していた同級生のS君にプリントを届けに行くが、S君は自宅で首を吊って死んでいた。突然の状況に混乱したミチオは学校へ引き返し、教師らにS君の自殺を報告するとすぐに帰宅させられた。
翌日、ミチオの家にやってきた刑事達と教師は言う。
「Sの死体なんて、なかったんだ。どこにも」
わけがわからないミチオだったが、さらに理解できない出来事に遭遇する。
自殺したはずのS君が現れたのだ、変わり果てた姿になって。
S君はミチオに告げる。
「僕は殺されたんだ」
2つの共通した特徴、S君がいた、あの嘘のこと、臭いが、悪い王様、体を見つけて欲しいんだ、性愛への審判、向日葵のこと、ポラロイド写真、普通じゃない形が、見つかったんだ、トコお婆さん、許さないから、もう一つの可能性、私じゃないんだ、食べちゃいな、三毛猫、がりがり、言わずもがな、今夜かぎりの話にするよ、3年ぶりの事だな、平気だよ・・・。
S君の無念を晴らすために、ミチオとミカは協力して犯人と消えた死体を捜索することにした。
なぜS君は殺されなければならなかったのか?
消えた死体はどこにあるのか?
連続する犬猫変死事件と、S君の殺人事件は繋がりがあるのか?
同級生の自殺をきっかけにして、絶望の夏休みが始まる。
<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>
///ミチオ少年はシックスセンス持ちなの?///
S君の死体が消えた後、自宅にて夕食を食べ終えたミチオは自室に戻ろうとするも、ドアの向こうにナニカの気配を感じたので隙間から中を覗いてみた場面。
72Pより。
―――すぐ鼻先に、顔があった。眼を大きく見ひらいていた。口が、何か大声で叫んでいるように縦にあけられて、その上下に、並びの悪い歯の先が、ぎざぎざに覗いていた。
僕はそのままゆっくりとドアを閉めた。―――
いや待て!怖すぎるだろ!
目の前にこんな光景があったらぜったい悲鳴を上げるわ(;^ω^)
パニックにならずゆっくりとドアを閉めるミチオはこーゆーことに慣れているのか?
(もしくはミカと一緒だから強がっているのか)
その場面を想像してみると、怖いけどシュールで笑えてくるね。
///ハラハラドキドキの侵入展開///
S君を殺してその死体を隠したであろう人物の部屋に侵入してみるミチオとS君。
部屋の主が出かけた隙を狙って中に入ると、そこには予想外のモノが・・・。
182Pより。
―――「ミチオ君、何だろう、あの写真・・・」硝子の天板の上に、まるでトランプの一組のように、大量の写真が散らばっているのだった。僕は硝子テーブルに近づき、身を屈めた。普通の写真の形と、少し違う。縦長で画像が上側にずれている。
「ポラだね」S君が言う。―――
映画とかでもそうだけど、ヤバい人物の部屋に入る場面はいつもドキドキさせられる。
そこで一体どんなヤバいモノが発見されるのかって展開がまたワクワクさせられる。
さらに部屋の主が帰ってきちゃった日にゃあアンタ・・・もうハチャメチャよ!
///ミチオ少年、ヤバい///
色々な出来事が起こって、ミカとS君の仲良し具合にも嫉妬して、ストレスの限界に達してしまったミチオはとんでもない行動に出た。
298Pから299より。
―――「そうそう、S君にプレゼントがあるんだ」「え、何、何?」「はい、これ」
僕は、それまで背中に隠していた右手を、さっと目の前に差し出した。その瞬間、S君はぴくりと身体を硬直させて息を詰めた。
「新しい友達、ほら」―――
子供らしい残酷な八つ当たり。
とはいえ、相手は自分と同級生だった元人間なのに、こんな事を思いついて実行するなんて・・・。
いい意味でも悪い意味でも、子供には無限の可能性がありますな(・・;)
<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>
///小学生の考え方じゃねえ(笑)///
S君の自殺現場を発見してしまったことを父親に報告したいミチオ。
しかしそのことを言えば母親から目を付けられてグチグチ言われるのは明白。
そこでミチオは微妙なニュアンスで伝えることを思いついた。
68Pより。
―――「人は、死んだらどうなるの?」
こういった話し方なら、お母さんも余計なことは言わないだろうし、お父さんも、あとでS君のことを知ったとき、僕がこのとき何を言おうとしていたのかわかってくれるだろう。上手くすれば、「友人が死んでしまったという事実にショックを受けて、感受性の強い息子はそのことを直接話すことができなかったのだ」と思い込んでくれるかもしれない。我ながら、見事なアイデアだった。―――
小学生がここまで深く考えてモノを話すのだろうか・・・・・でも泰造じいさんもミチオのことを頭のいい子って言っていたし、思考能力に個人差もあるだろうからありえなくもないか。
三歳児の妹であるミカも利発すぎだよね(すべて読み終えてから納得したけど)
///若手とベテランの理由///
S君の事件を捜査するために泰三の元へやってきた谷尾と竹梨という刑事。
88Pより。
―――ドアをあけると、そこには背広姿の見知らぬ男が二人立っていた。親子かな、と思った。父親に見えるほうは、頬のこけた男で、上目遣いにこちらを見る表情が、なんだか卑屈な印象だ。息子らしきほうは、額の広い、顔のつるつるした男だった。―――
映画『天気の子』でもそうだったけど、若手新人刑事が年配のベテラン刑事とコンビを組むことって警察業界では当たり前のことなのかな?
お互い歳が近いほうがいいような気もするけど、なにか理由があるのかね。
まあ、ふつーに考えればベテランがルーキーを教育するのは当たり前なんだけどさ(^^;)
<< 読み終えてどうだった? >>
///全体の印象とか///
大体はミチオの視点で語られているけど、たまに泰造の視点からも語られている。
新潮文庫は1ページの文字数も多いし、小説も470ページもあるのにぜんぜん退屈しなかった。
予想できない展開と、次々に出てくる真実と仮説と嘘が常に読者の心をザワつかせてくるからなのか?
個人的には、舞台が夏の小説ならばやっぱり夏に読んだ方がもっといろんな部分で共感できると思うし、イメージもしやすかったんじゃないかと思った。(おじさんは真冬の一月に読んでしまったのだぁ)
///話のオチはどうだった?///
『向日葵の咲かない夏』という題名と、新潮文庫というイメージから予想していた、ちょっぴり悲しくもスッキリ感のあるンディングを期待していたけど、あれまびっくりぜんぜん違っていたわ(゚Д゚;)
とてもジメっとした救いのない結末だったから少し驚きよ。
(いやでも、最後はマトモになったみたいから100%のバッドエンドではないぽい?)
終盤に近づいてから怒涛の展開が待ち受けていたんだけど、そこでの「嘘」と「ほんとう」が繰り返される会話が読んでいて理解するのが手こずってしまった。(ほんとは理解できずに流し読みしたり・・・)
細かい部分は流し読みしちゃったけど、恐怖と狂気の結末に向かって突き進んでいく物語は充分おじさんを熱中させたのは間違いなし。
///まとめとして///
2020年の年末に映画『ミッドサマー』を観て、2021年1月3日に祖父が逝ってしまって、その日の内に『向日葵の咲かない夏』を読み終えたのよ。
輪廻転生を重んじるコミューンがあったり、七日間ごとに生まれ変わる命もあれば、神となって家と家族を守ってくれる命もある・・・・・なんだか巡り合わせを感じた年末年始だったなぁ。
さてでは今回の小説!
狂った街でまき起こる、狂ったひと夏の事件と悲しい結末。
夏だからこそ熱くて辛い料理を食べるが如く、夏だからこそジメジメに狂ったの物語を読んでみるのもアリじゃないでしょうか!?ってな訳で、満読感7点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。
<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>
60Pより。
―――「このあいだの、あれは解決したの?線路の音の問題は」トコお婆さんの質問に、僕は大きくうなずき返した。―――
電車のレールは繋ぎ目の部分に隙間が作ってあって、そこを通過するときに「ガタンゴトン」と音が鳴るみたい。
季節によって繋ぎ目の隙間が閉じたり開いたりするから音も変わるらしい。
最近では繋ぎ目のないロングレールというモノもあって、それだと音がしないから静かみたいね。
69Pより。
―――「中有の状態にある魂には、七日ごとに、生まれ変わるチャンスがめぐってくる。最初の七日目でだめだったら、次の七日目、それでも駄目だったら、また次の七日目ってな」―――
↑インド古来の四十九日に対する考え方ってことかな?
宗教の種類や宗派によって考え方がいろいろあるみたいだけど、基本的には七日ごとに生まれ変わるとか裁きを下されるとか、そーゆー感じみたいね。
(もう一度生まれ変わったら、家族を連れて、埼玉ゴズニーランドに行きたぁ~い!)
308より。
―――僕たちがそんな会話をしていたら、ミカが口を挟んで、蚊取り線香と線香花火はぜんぜん違う形をしているのに、どうしてどちらも線香なのかという質問をした。―――
蚊取り線香はもともとまっすぐな形だったらしいけど、燃焼時間や火災の危険性から現在の渦巻き型に変化したみたい。
線香花火については、竹ひごや藁で作られたすぼ手(元祖線香花火?)は現代のように手に持つ物ではなく香炉の灰に立てて鑑賞していたようで、この様子が線香を立てているように見えた事から線香花火と呼ばれるようになった。
346より。
―――その日、泰造は山の中で一人膝を抱えて過ごした。母の出棺をみることも、僧侶の誦経を聞くこともなかった。―――
「ずきょう」
経文をそらで覚えて唱えること。僧に経を読ませること。
<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>
今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
383Pより。
―――踵を返す。家のある方向へと、林道を戻りかけたとき───。
「よかった、ここにいたんだ」
声がした。虚を衝かれ、泰造は顔を上げる。
「家に行ったら、いなかったから。ここかなと思って」
「きみは───」―――
森とか林とか描くのはしんどいです(>_<) (いや、描くのにしんどくないモノも無いんだけどね)
もう勢いでだぁーっとやるしかないじゃない!
めんどくさがらず丁寧に描くことを身につけなければ。
わかってるのよ、わかっちゃいるけど・・・・・出来ないのが人間、じゃなくておじさんなのよよよ。