忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

Ank: a mirroring ape 読書感想

タイトル 「Ank: a mirroring ape」(文庫版)
著者 佐藤究
文庫 656ページ
出版社 講談社
発売日 2019年9月13日

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この作者の作品で既に読んだもの
QJKJQ」


<< ここ最近の思うこと >>

近い内に友人たちと京都旅行へ行くことになった。
京都と言ったら「鴨川ホルモー」を思い出す。
あの映画が上映されてから、誰か一人は『レナウン娘ダンス』をしたヤツがいるだろう。
そして今回の小説も京都が舞台。
だけど内容はガラッと変わって圧倒的な暴力の渦が大渦のようにぐわわっと!!
この作者が書いた「QJKJQ」も素晴らしい作品だったから、嫌でも期待感は上がるぜ。
読む前に期待し過ぎるのは良くないよ・・・でもこの小説を前にして期待するなって方が無理だって!
さあ、2026年の京都へ飛び込もう(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

霊長類研究者の鈴木望が所長を務める施設、KMWP(京都・ムーン・ウォッチャー・プロジェクト)に一頭のチンパンジーが送られてきた。
南スーダン共和国のジャングルからやってきたチンパンジーは密猟者に捉えられ、トラックで輸送されているところを保護されたのだった。
アンクと名付けられたそのチンパンジーは驚異的な知能を持っていた。
そして望はアンクに極秘の実験を行う。
成功した実験と偶然の事故によって、京都は暴力の都へと変貌する。

失われた類人猿、人類全体が記憶喪失、話すAI、二歳の先へ、鏡と仮面のテスト、震度五、緊急事態宣言、StSat反復、京都御苑での戦い、警戒音、ゲルストマン症候群、二度目のビッグバン、空前絶後の競争劇、ナルキッソス、鏡を覆う、8分19秒、見つめ合うこと、進化の解答・・・。

現生人類はなぜ生き残りここまで進化することが出来たのか?
その謎が解かれる時、太古の昔から隠されてきた真実が溢れ出す。

第20回大藪春彦賞および第39回吉川英治文学新人賞のダブル受賞を果たしたこの小説。
読書好きなら読まないと勿体ないっしょ!


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///劉氏の言葉に納得///
216Pより。
―――「―――動物に刃物―――私の知る限り、前例はないですね。パフォーマンスとしてはおもしろい。でも危険すぎるのではありませんか?」
「知能とは攻撃性の制御です」と劉立人は言い切った。
「それさえ可能であれば、あとは不慮の事故を防ぐだけの話ですよ」―――
まさしく↑のとおりだと思うよ。
カッとなって暴力を振るった場合どうなるのか?どのようなことが起こる可能性があるのか?
先のことを予想して行動することが知性なんじゃないかと思いますわ。
(とか言いつつ、車の運転中にイラッとしたらすぐに悪態をついてしまう自分がお恥ずかしい)

///金閣寺で繰り広げられる地獄///
375Pより。
―――誰もが知るあの場所で、人間たちが渦巻いている。二〇〇〇人を超すエキストラが集められ、ロンドを踊っているように見える。しかし見ているうちに、そこに何が映っているのか、しだいに明らかになってくる。―――
老若男女、日本人外国人、観光客がごった返す中で発生した超暴動。
全員が全力で殺し合う光景を俯瞰して見る光景は凄まじいだろうね。
頭の中で想像する光景を絵で表現する実力がないのが残念。
(似たような光景でいうなら映画「ワールド・ウォーZ」とかかな?)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///襲撃者が狙うターゲットの法則///
ホモ・ハイデルベルゲンシスはどうして望を襲ってきたのか?
襲われた時に望達は川の中にいたから、二足歩行の姿は見えないはずだけど・・・。
川に入る所を遠くから見ていたとか?

///知り過ぎた者は消されるのがセオリー?///
京都暴動の真実を知ってしまったケイティーの元にやってくるペンタゴン諜報機関NSA。
犠牲者を増やさない為にも京都で起こったことの真相を教えてほしいと言われて全て伝えてしまう。
このパターンはケイティ自身もなかったことにされるのでは?って思ったけどそうはならなかった。
証明する物証をすべてNSAに渡したのが幸いしたのかな?
真相がはっきり判明した訳じゃないし、証拠もなにもないケイティだからしばらく監視・管理する程度の処置でいいだろうってことになったのか?


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
京都暴動が起こる以前の話からはじまって、暴動が沈静化してその数年後までが描かれている。
その合間合間に各所での暴動シーンが短く挿入されている。
(↑この作りは「QJKJQ」と同じだね。おじさんはこの演出好きだ)
ただ話の時間軸が一方通行ではなくて、過去と現在の話が行ったり来たりしているから読み慣れるまでちょっと時間がかかったよ(^^;)

自我に目覚めたAIが暴走して全世界のスピーカーからアレを流して人類を削減・・・てな展開にはならないよ。
あくまでも京都内での暴動で話はまとまっていましたわ。

///話のオチはどうだった?///
京都暴動の終息から再生までしっかり描かれていたし、プロローグからエピローグもしっかり描かれていたから満足なんだけど、最後の文章がどーゆーことなのか未だに悩んじゃっている(;^ω^)
遺伝子に刻まれた記憶と世代間で受け繋がれていく習慣、類人猿から進化した人類が暴き出してしまった呪い、隠していた真実を照らし出したのが鏡・・・。
そしてまた人類は真実を覆い隠してしまい、いつかまた繰り返すのか?
うーむむ、悩むのが止まらない。
これじゃあ泉に写る自分を見つめるアルファ・ミラリング・エイプみたいだ(;´Д`)

///まとめとして///
ボリューム満点! 読み応え十分! さすがダブル受賞の超弩級エンタメ小説!!
でも個人的には「QJKJQ」のほうが好きかなぁ・・・。
まあ「Ank」はパニックエンタメ作品だから、ジャンルの違う作品を比べてもしょうがないよね。

今後おじさんは鏡を見る度に思うだろう。
「映っているのは自分」「映っているのは自分ではない」「でも映っているのは自分」「でも映っているのは自分ではない」
無限の殺戮を経て人類に進化した人間は未だに同族での殺し合いを断ち切ることが出来ない。
それは次なる進化への過程なのか、それとも殺し合いこそが人間の本質なのか。
佐藤究の新作が出たら絶対読もう!読まずにいられるかコンチクショウ!!
そう決心させるくらいの満読感ってことで92点!
さぁ~て、次はなにを読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

第四十七回群像新人賞優秀作の「サージウスの死神」というのが佐藤究のデビュー作みたい。
早く文庫化されないかなぁ~。

(って、今確認したらもう発売されてるじゃん!!! はよ買わんとあかんばい!!!)

48Pより。
―――メルセデス・ベンツSLS-AMG―――F1レースで、セーフティーカーとして活躍したこともあるスーパーカー。騎士の美しい甲冑のような銀色の塗装が日差しにまばゆく輝き、流体力学を計算しつくした車体の窓のなかから、アディダスのジャージ姿の望むが手を降っている。―――
メルセデス・ベンツ・SLS AMGはドイツの自動車メーカー、メルセデス・ベンツAMG部門により開発されたスーパーカー
2009年9月に開催されたフランクフルトモーターショーで発表されて2014年に生産終了することが発表された。
日本での販売価格は2,490万円から・・・・・一番安い値段でコレかぁ。

75Pより。
―――「本当はわかっていないんです。突然泣く理由はね」と望は言った。「それでいて、聞いてのとおり、この爆発的な泣き声です」
「親だけでなく、科学者にも理由がわからないってわけか」
「とくに夜泣きは進化上の謎です。たとえばチンパンジーの赤ん坊は絶対に夜泣きしません」―――
ははぁ~なるほどねぇ・・・・・なぜ人間の赤ん坊は夜泣きするのか?気になるな。
夜泣きした時に、折り畳み式の小さな蚊帳みたいな防音BOXを赤ん坊に被せて、その中に親も頭を入れてあやせばご近所を気にするストレスは無くなるのでは?なんて思いついた。

225Pより。
―――ケイティは『2001年宇宙の旅』に出てくる宇宙ステーションを思いだし、それからミゲランジェロ・アントニオーニ監督の『欲望』のいくつかの場面を連想した。―――
『欲望』は1967年のイギリス・イタリア合作映画。
1960年代中盤のロンドンが舞台。
人気カメラマンの主人公が撮ったある写真にまつわる奇妙な出来事を描く。「スウィンギング・ロンドン」と言われた、当時のイギリスの若者のムーブメントを織り交ぜつつ、サスペンスかつ不条理な独特の世界観となっている。1967年のカンヌ国際映画祭にてパルム・ドールを受賞。
↑パッケージ画像は何度か目にしたことがあるよ。意外なところで概要を知ったわ。

259Pより。
―――劉はアボカドをかじっていた。ナイフで固い皮を剥きながら食べている。チンパンジーはアボカドを嫌うので、油断した隙に奪われる心配がない。―――
ネットで探してみたけれど、それっぽい情報はないっぽいかと。
「ペルシン」という物質が多くの動物にとってよろしくないようで、人間は「ペルシン」を無毒化することが出来るので問題ないらしい。

357Pより。
―――金閣寺に面する池は、室町時代から<鏡湖池>と呼ばれていた。その名の示す皮肉に苦笑いするものは皆無だった。―――
鏡湖池は浄土世界にある七宝の池を模して造られたといわれているとか。
とても美しく八つの功徳を備えた池・・・・・心が穏やかになること間違いなし。

365Pより。
―――犬に咬まれた左腕を舐めて、アンクは収穫されたばかりの<えびいも>を拾い上げる。京都の高級食材。においをかぎ、器用に泥を落としたあとで、かじりつく。―――
えびいもは京芋とも呼ばれていて収穫時期は10月上旬~11月中旬。
湾曲して表面には横縞がありエビのように見えることが名前の由来とされているらしい。
優れた風味、煮崩れしない、色も変化しないってことで高級食材として扱われているとか。

612Pより。
―――正午には国連の代表とWHOからなる調査団が入洛する。彼らは航空自衛隊のヘリに搭乗し、封鎖地区の京都市北区を視察する。―――
「じゅらく」
都である京都にはいること、と言う意味らしい。

624Pより。
―――隣接する京都御苑から風に乗って運ばれてきた紅葉だ、伊藤若冲の色使いを思わせる鮮烈な赤。宙で太陽を背にすると、逆光のなかで一休禅師の墨絵に変わる。―――
伊藤若冲は近世日本の画家の一人で、江戸時代中期の京にて活躍した絵師。
濃彩の花鳥画、特に鶏の絵を得意としたようで、トサカや顔の赤色が鮮やかで印象的だね。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
自衛隊クリーバーが襲ってくる場面や、人類代表VSチンパンジーの場面とか、妄想風景が捗る部分が多かった今作。
迷った挙句、今回選んだのはココ↓
112Pより。
―――敵の下から這いだした少女は、血に染まった顔で周囲を見渡し、ふいに落ちているクリケットのバットをつかむ。しばらく啞然として、カヌーのシングルパドルに似た木製の道具を見つめている。―――

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 女子高生クリケット部員達による暴動シーン。
一人だけ拾ったバットを茫然と見つめていた少女は、突然なにかに取りつかれたように、先ほどまで自分を襲っていた相手に全力の一撃を・・・。

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