忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

「獣革命」 読書感想

「獣革命」(キンドル版)
著者 友成純一
出版社 アドレナライズ
紙の本のページ数 223ページ(新書版)
発売日 2014年11月21日

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<< かるーい話のながれ >>

いきなり自衛隊が空から降下して陸から現れて首都圏の人々を次々に殺しては建物も破壊していく。
このクーデターの首謀者が大尉と呼ばれる毛むくじゃらで常にアーリータイムズを飲んでいる巨漢なオッサン(正体不明)で、彼曰く無政府主義革命を起こしたと、乗っ取ったTV放送で宣言した。
クーデター目的は破壊と殺戮以外なにも無くて、クーデター隊も指揮系統が無いからみんな好き勝手に行動して、時には互いに殺しあっている無茶苦茶な状態になった首都圏。

この小説の中で主な登場人物を上げるとしたら、自衛隊を率いる大尉。
あとは一般人から。
お互いに気になっている兄妹の伸之(平凡なサラリーマン)と明日香。(可愛い少女)
後は視点が被害者だったり加害者だったり変わるんだけど、どちらにせよ大体すぐに死んでしまうのだ。

革命後のストーリーとしては日本は世界各国から放置されて衛星により監視だけされている。
激しい体験により淫魔的存在になった明日香、魅力に囚われた大尉が明日香を連れ去って終始イチャイチャしまくる。
そして石のように固まったままだった無双(元伸之)が、自身に快楽を与え続けてくれていた明日香を探し求めて大尉達を追いかけていく・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

まずはココ!
大尉率いる部隊が進学中学校を襲撃!
教師も生徒も虐殺したあとで、肉体の成長がイイ感じのキレイな女子達を連れ去っていくシーン。
その連行のやり方がエグイ!!
全裸の女子生徒全員の両掌に穴をあけてそこにロープを通す、そしてゆっくり走るジープに繋いで連行!
転んだり体力が尽きたりしたら・・・・・そのまま放置ですねはい( ゚Д゚)
女子生徒達は痛みと不安で「あー!あー!」と泣き叫びながらジープの後ろを走ってついていく。
シュールだなぁ・・・どっかの絵画で描かれていそうな光景で頭の中で想像しやすかったわ。
たぶん、むか~しとかに外国で行われていたんだろうなぁ。
いや、いまでもどっかの紛争地帯とかで実際に行われている気がするし(/ω\)

もうひとつは終盤での宴で行われる残酷シーン。
さてさて今回の友成・ショー(意味不明)はいかほどか・・・?
毎夜おこなわれる残酷な宴にて。
一人の女を二人の男が前後に刺してハッスルしているんだけど、足を上に回し過ぎて女性の股関節が外れちゃっている状態。
それに飽きると二人の男はバイクに乗って女性の両足首にロープを通し、それぞれのバイクに結ぶ。
もうお分かりの「股裂き」デス!
引っ張るにつれて女性の前と後ろの穴が広がって行って、それを抑えようと女性は逆さ刷りの状態で股間に手を持っていくが無意味ですね。
結末はぱっくり綺麗に真っ二つではないけど、二つに裂けて殺されてしまいます(>_<)

その一方で違う女性は、針金で亀甲縛りにされて木に吊るされるんだけど、ひとしきり犯した後が酷い。
亀甲縛りからはみ出た肉の部分をナイフでそぎ落とす男達。
その度に女性は鳥の悲鳴のような叫び声を上げる。
ちなみに女性達は最終的に全員殺して食料にされるから男達は女が死のうが苦しもうが関係なしで嬲る。
う~むむ・・・その他にも悲惨な描写がたっぷりで、相変わらず凄まじい想像力でした。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

友成作品にありがちなんだけど、今回は特に色々なことの説明が無かったわ。
クーデターを引き起こしたであろう人物の大尉は一体何者だったのか?
在日米軍達はなんにもしなかったのか?
そもそもどうやったってこんな大規模で無計画なクーデターを起こせたのか?
(どう考えても事前に情報漏えいして失敗するだろうに)
上げていくとキリがないけど、まあ・・・・・もう慣れたかな( ̄▽ ̄)

それともう一つ。
無双(伸之)と明日香は人間やめちゃった存在なの?
無双の方は憤怒のあまり血流が頭に廻りすぎて脳が溶け出した後で、青銅の様な光る肌を持つ筋骨隆々な巨漢怪力男になっちゃうし、明日香は犯されぬいた後で痛みさえも快感に感じてしまう淫乱美女(相手を魅了する能力持ち)になっちゃうし。
なんでこの二人だけが怪物化したのかまったくわかんなかったなぁ。
(あとこの二人は獣革命の物語に必要だったのでしょうか・・・?)


<< 読み終えてどうだった? >>

いや~~~、今回も案の定なぶつ切りエンドですわ(´・ω・`)
明日香を追いかける無双から逃げ続ける大尉と、されるがままの明日香で終わり。
大尉としてはこんな状況をずっと求めていたと言うか、これはこれで悪くないって感じで逃げ続けている心境なようで。(思い浮かぶのはマンガ『殺し屋1』のロマンチックな追いかけっこの場面)
ちょっと今まで読んできた作品に比べると雑な感じがしたかなぁ?
でもまぁたま~に全部ぶっ壊したくなるくらいストレスの溜まったアナタ!!
そんな時に読むと結構スカッとするんじゃないかと(笑)

個人的には「獣儀式」みたいに意思疎通が出来ない化物に蹂躙されるほうが面白いと思うんだよね。
っていうか範囲が日本国内だけになって、鬼の変わりに自衛隊が人々を蹂躙する「獣儀式」だった。
ままま、もともと何かを期待して読むような作品ではないと思っているから、これはこれでアリかぁ。

読了感としては、ぶつ切りエンドだしクーデターの元凶である大尉も生きているし色々な疑問がほったらかしだし、あんまり良くはないかなぁ。
でも「キンドル版のあとがき」が面白かったから、これはこれで宜しいじゃないですかって感じで(笑)


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>


202Pより。
―――逃げろ。おい!歩兵戦闘車だ。あれは、M2ブラッドレー・・・―――
M2ブラッドレー歩兵戦闘車は、アメリカ合衆国で開発された歩兵戦闘車
車内に歩兵を搭乗させることが出来て、自身も積極的に戦闘に参加できるように強力な機関砲だとかミサイルだとかが搭載されている戦車みたいな兵器。

841Pより。
―――立川駐屯地を発車した列車砲エレファントは、前に仕えた中央線の橙色の車両をブレードで弾き飛ばしつつ、暴走を続けた。―――
エレファント重駆逐戦車は、第二次世界大戦で使われたドイツの駆逐戦車ってことみたいだけど、線路の上を走るようには出来ていないと思うけど。
かといってグスタフとかあんな無茶苦茶な古い兵器が出てくる訳ないし・・・わからん(・・;)

1029Pより。
―――その鼻歌は、よく聞くと、「インターナショナル」だった。―――
「インターナショナル」は、社会主義共産主義を代表する曲らしい。
ソビエト連邦では十月革命(1917年)から第二次世界大戦(1944年)まで国歌になっていて、日本でも労働歌として歌われていたとか。

423Pより。
―――しかし中学に進学し、そろそろ番茶も出花の年頃が近付くと、事情がまるで違って来た。――
番茶でも入れたては香りが高くておいしい、どんな女性でも娘盛りは美しいものであるというたとえ、らしい。

685Pより。
―――男子生徒が十一人いたわけだが、彼らのうち何人かは、兵士の気紛れで衆道の契りを結ばされた。―――
衆道とは日本における男性の同性愛関係(男色)の中で、武士同士のものをいう、みたい。
いわゆる男性同士の性行為ということですか、怖や怖や(/ω\)

1265Pより。
―――清楚で大人しい明日香、無邪気な子供っぽさこそあれ、女らしさやコケットリーには全く無縁だった明日香が決して持ち得なかった笑いだった。―――
コケットリーは、女性特有のなまめかしさのこと。フランス語のcoq(オンドリ)に由来しているらしい。

あとがきより。
右傾化して合衆国の付録という立場をますます鮮明にしつつ、恥知らずな資本主義=議会制民主主義という悪の道に走っている日本をぶっ壊すという、完全にテロリストな願望でこの小説は書かれているみたいだね(; ・`д・´)
ここまでぶっちゃけたあとがきはなかなか凄いわぁ。
(このあとがきはお酒飲みながら酔っぱらって書いていたのかな?)

もう一つ。
トロツキーの「テロは、弱者が強者に対抗しうる唯一の、そして強力な手段である」という言葉は本当だと思っている。って書いてあるけど、確かにそうだと思うけどさぁ・・・でもでも、一般人を巻き込むんだからどんな酷い報復を受けたとしても文句は言えないよねぇ、テロ側も。

最後にコレも。
ベトナム戦争でベトコンが使用したトンネル戦術は硫黄島の戦いで日本軍が発明した戦い方で、それを人民解放軍が改良してベトコンに授けたって書いてあるんだけど、なるほど確かに抵抗する側で戦うのならば日本はかなり強いのかもしれないね。
(前の大戦も侵略戦争じゃなけりゃ勝てたってことかな?よく知らんけど・・・)


<< 挿絵で見たい場面や物など >>

序盤で説明されていた地獄の堕天使事件。
デパートからぶら下がる七十体近い首吊り死体、建物内には武装集団の男三人女二人のテロリストが重武装で立て籠もり、最終的に若い女性の人質八十人ほどが捉えられていた。
突入作戦が実行されて特殊工作専門の警備員達がデパートに踏み込み、犯人達を全員射殺したのだが、人質は誰一人として救出されなかった。
デパート内部は調理器具や大工工具によって散らかされた肉片(人質)まみれの地獄絵図だったから。
これをきっかけに警備会社は武装化していって、日本国民の銃器所持も暗黙の了解になっていった。

「残穢」 読書感想

残穢」(文庫版)
著者 小野不由美
文庫 359ページ
出版社 新潮社
発売日 2015年7月29日


<< かるーい話のながれ >>

ホラー関係の作家をしている「私」(おそらく小野不由美自身)のもとに久保さんという読者から恐怖体験の手紙が届く。
その恐怖体験を「私」はどこかで読んだことがある気がして過去の手紙を漁ってみると、やはり同じような内容の手紙が見つかった。
送り主は「八嶋」という人物で、久保さんと同じマンションに住んでいるようだ。
「私」と久保さんは気になって八嶋さんの部屋を調査しようとするのだが・・・。

怪奇現象があった場所に住んでいた住人を調べていく内に、現象の内容が人によって違っていることが判明してきて「私」は部屋ではなくその土地に原因があるのではと思い、土地の歴史をどんどん遡って調べていく。
その過程で怪奇現象の原因らしき事件・事故などは判明するのだが、根本の原因には今一つ届かない。
そして調査を進めていく「私」の身の回りにも、原因不明の現象が起こり始めてしまう・・・。

住人が次々に出て行ってしまうマンションの部屋と、同じく住人が定着しない団地の建売住宅には何の因果があったのか?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

ホラー小説なんだから、やっぱ怖~いシーンでしょ!
まずは57Pにて。
久保さんの前に204号室に住んでいた梶川と言う人物。
すでに彼は違うアパートに引っ越していて、そこで自殺してしまったと判明する。
自殺する前夜にアパートの大家の家へ梶川らしいモノが来訪して来た場面。

静かな深夜、窓越しに伊藤おばあさんに話しかけてくる梶川の声。
「すみません」と「申し訳ありません」ばかり繰り返し、次の瞬間には玄関へ瞬間移動た梶川の声はさらに謝罪を続けて、やがて気配は消えた。
ガラス越しにシルエットは見えるんだけど、なにやら異様な雰囲気がある存在がぽつぽつと謝罪し続ける場面は恐怖じゃないんだけど不気味だ。(いや、どうかんがえても恐怖だわこりゃ)
虫の知らせ系な話はありきたりなんだけど、この小説だとなーんか背中がゾクゾクするんだよねぇ。
これが読ませる文章力なのだろうか?

もうひとつ、219Pにて。
マンションから始まって穢れた土地をどんどん遡り調べていく「私」と久保さん。
しかし久保さんは部屋を引っ越したにも関わらず、以前に聞こえていた畳を擦る音がまた聞こえ始めた。
同じく「私」の新居にも電気センサーが勝手に反応したり、飼い猫達が不意に明後日の方向を凝視するなど奇妙なことが起こり始める。
穢れを持った話は、それに関わるほどその穢れを呼び寄せてしまうということらしいが。
でも奇妙な現象に対して「私」は「なんだろうね?」と飼い猫に問いかけるだけで済ませちゃう。
さすがホラー作家だ(笑)
恐怖心というか警戒心がちょっと足りないのかOFFにしてるのか(^^;)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

とにかく登場人物が多いのよ!
歴史を遡るにつれて土地の所有者がどんどん変わっていくもんだから、読んでいてこの人が一体何に関係している人なのかってことが頭の中で整理出来ないまま読み進めることも多々ありまして。
(人名を覚えるのが苦手なおじさんだからなのかもしれないけど)
遡る時代も今世紀から明治大正期までじっくり掘り下げていくから、一気読みしたほうが話の流れを理解しやすいかも。


あと主人公がホラー作家で恐怖に物怖じしない女性(おまけに超常現象とかをあまり認めないタイプ)だから、語られる文章もとにかく淡々としているんだよね。
そんでもって分かりやすい山場とかが無い展開だったから、エンタメ好きなおじさんにはちょっと物足りない感じで終わったかな~。
でもなぜか今まで読んできたホラー小説の中で群を抜いてゾクっとさせられた場面が多かったよ。


<< 読み終えてどうだった? >>

いやはやなんとも、今回は初めて読むタイプのホラー小説だったね。
分かりやすい展開とか山場とか、グワッとくる怖さじゃないんだよ。霊が出てきて人間を襲う訳でもないし、原因とか対処法とかもある訳でもない。
基本的に起こった怪奇現象の原点を探っていくだけな内容ですわ。

でもエンタメ性を削った分、現実味がグッと増して怪奇現象がすぐ隣で起こりそうな気分にさせられる。
現実味を増している理由は他にもあって、登場する人物達が実在する人が多かったこともあると思う。
あと実際に起きた事件や怪奇現象も取り上げられていたし。
(中にはお話を聞いただけで穢れを貰ってしまうような危険な怪談も・・・それは後ほど)

そんなわけで、淡々と進んで行く物語は熱気が無くとにかく冷たい感じで、その冷気が読者であるおじさんの背中や肩をヒヤっとさせてくる。
霊が現れた部分や不可解な現象が起こった場面を読んでいる時なんて、自分の上下左右に目を向けることさえちょっと怖かったくらいだ。
(一人で読んでいたせいもあるかな?でも消音でTVも付けて部屋も明かりばっちりだったのにねぇ)

―――「書物の中の恐怖が現実を侵蝕し、読者の日常を脅かす」―――
この小説の紹介文に書かれていた言葉だけど、なるほど確かにこの小説はおじさんの日常を十分に脅かす穢れを持っていたわ。
(夜の犬の散歩が怖くなってしまったわわわ・・・)

読了感としては、一見ハッピーエンドみたいな感じでエピローグが語られていたんだけど、最後の一文でしっかりおじさんの心に残穢を刻んでいったね(;´Д`)
なのでこの小説は読み終わってから読者の心に、いや~なしこりを残してしてくれる作品ってことで。
(ホラー小説として良い後味だしてるって意味でのいや~な感じね)


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

56Pにて。
―――店子の中には建て替え前からいる住人も多い。―――
家を借りている人とか、借家人って意味みたい。

172Pにて。
―――綺羅星のような執筆陣も嬉しい。―――
きらきらと光り輝く無数の星。地位の高い人や明るいものが多く並ぶようすのたとえ。らしい。

213Pにて。
―――鶴瓶落としに陽は沈んでいく。―――
釣瓶を井戸の中へ落とすときのように、まっすぐにはやく落ちること。
季節が秋だと夕暮れから日没までがほんとうに早いよね。

327Pにて。
―――外連味の無い箱型の建物が立ち枯れた雑草の間に埋もれていた。―――
はったりを利かせたり、ごまかしたりするようなこと。らしい。

207Pにて。
書くと障りがあるから書けないので、一部を封印してやっと書ける最恐のお話が「現代百物語 新耳袋八甲田山」らしい。
マジですが?怖くて調べたくありませんが、物凄く気になる!でも怖いから調べたくありましぇん!!

266Pにて。
―――「私宅監置、って知ってますか」―――
明治期から終戦直後まで制度として存在していた私宅監置。精神病患者を自宅に監置するいわゆる座敷牢とのこと。
まあそういうのがあっても全然不思議じゃないわね。ドラマとか映画とかでもこういう監禁ネタは色々使われているし。
きっと裕福な家庭だけがそういうこと出来たんだろうなぁ。

310Pにて。
障りのある土地を調べていくにつれて、「私」を含めて色々な人達に何かしら良くないことが起こり始めたことに対して、まあこーゆーことが全くないってことでもないし、ただの偶然でしょって感じで「私」自身を納得させた場面にて。
―――だからこそユングは「共時性」などという概念を発明する必要に迫られた―――
ユングが提唱した概念で「意味のある偶然の一致」日本では「共時性」とも呼ばれるみたい。
虫の知らせみたいなもんで関係の無い二つの事柄が似ているんじゃないか?関連があるんじゃないか?と考えてしまうこと、みたいな?

2016年に竹内結子主演で『残穢 -住んではいけない部屋-』という実写映画にもなっているね。
うーむ、一人で観るのはちょっと怖いな(;一_一)


<< 挿絵で見たい場面や物など >>

終盤の335Pにて。
門に囲まれた広い庭のある平屋作りの真辺邸(廃墟)にて。
神頼みでも払えなかった穢れを消すために最終手段で骨董屋から曰く付きの品々を集めていた真辺氏。
しかし結果は・・・。
あちこちに神棚や仏壇、丸盆にコップと盛り塩が置かれて、庭には社や地蔵が並べられ、雨戸の裏側には沢山の角大師の札が張られまくった廃家を探索する一同。
原因不明の病のせいで首にコルセットを付けた「私」、好奇心で付いてきた久保さん、そしてホラー作家の平山氏と福澤氏。

「七回死んだ男」 読書感想

「七回死んだ男」(文庫版)
著者 西澤保彦
文庫 360ページ
出版社 講談社
発売日 1998年10月7日


<< かるーい話のながれ >>

かつては自堕落な生活をして家庭をないがしろにしていた渕上零治郎。
妻が先立ってしまったことによりますます腑抜けになってしまい、残された三姉妹は早々に零治郎の元を去ろうと考える。
そして長女と三女は素早く結婚して、絶縁同然に零治郎と二女を捨てて家を去った。
それから数年後、零治郎はギャンブルや株で大儲けして大金を手に入れて現在では全国規模の飲食チェーン店の会長になっていた。

金持ちになった頃から始まった年始恒例の渕上家お泊り会。
(長女一家と三女一家が数日間泊まりに来て飲めや食えやの宴会三昧)
零治郎と暮らし続けている次女が独身者で子供もいないので、会社グループを継ぐ者は決まっていない。
そこへ長女一家と三女一家がそれぞれの子供達を連れて零治郎の家にやって来る。
どちらも今回は何故か夫が来ていない。
もうお分かりだと思うが、どちらの家庭も自分の子供を次女の養子にして会社の跡取りにしようと計画しているのだが、零治郎は長女と三女に対して勝手に出て行った恨みがあるので、秘書や運転士まで含めた跡取り争奪戦を計画する。
そんな中、初日宴会の次の日に零治郎は撲殺された死体となって発見されたのだが・・・。

主人公は長女家族の末っ子である久太郎という高校生だ。
彼はある能力を生まれながらに持っていて、それは自分の意思とは関係なしで特定の一日を七回繰り返してしまうのだ。
零治郎が死んだ日が丁度その繰り返し日になってしまった久太郎は、何とかして祖父を死なせない様に努力するのだが・・・。

一応SFミステリーなジャンルになっているらしい。
突飛な設定があるんだけどちゃんとした推理モノなんですわ。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

まずはこの小説のヒロインと言ってもいい次女の秘書である友理さんがすごくタイプでっす(#^^#)
77Pの場面にて。
久太郎の母親が血縁者以外を養子候補に入れるなんてとんでもない!と零次郎に意見するんだけど、またその言葉が本当に笑えるくらい酷いんだわ。そしてこれでもかと馬鹿にされた友理さんはいつものニュートラルな表情が崩れ、怒りを露わにしたレーザーみたいな眼光を見せる!
あまりの迫力に皆が固まってしまうんだけど、ここが読んでいて思わずニヤついてしまった。
そのあとで最初は辞退したいと言っていた養子候補に、心変わりしたから立候補すると宣言する友理さんらしい仕返しもチャーミング(笑)

もうひとつはコチラ。
240Pの大乱闘座布団&クッション投げ合戦のシーン。
第六週目に久太郎は全員を集めて長女家族と三女家族の男女を結婚させて子供を作り、その子供で零次郎を釣って子供達を養子にしようという案を皆に提案する。
これなら両家とも幸せになれる案であった。
だけどまたしょーもないことがきっかけで口喧嘩が始まりだして、運悪く今回は全員が居合わせた為に雪だるま的な連鎖で大乱闘が始まってしまう。
みんながみんな相当に口が悪く感情が高ぶっているせいか下衆なことを言うわ言うわ(笑)
そこから豪邸の中で柔らかめの物を使用しての投げ合い合戦(たぶん柔らかい物は軽くてみんな投げやすいから?)
仲裁しようとしてぶっ飛ばされた久太郎でさえ、眺めていたら楽しそうだから自分も参加してみようかなって思っちゃうくらいの様子は、読んでいるこちらも参加してみたいって思えてくるのだ(*‘∀‘)
しかしみんな濃い性格というか、面白おかしい人ばかりな一族だわ渕上家の人々は。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

全体的に小難しくて聞きなれない表現言葉が多かったから結構飛ばし読みしちゃいました。
でもなんとなーく意味は分かるから良しってことで。
高校生の主観でこんな小難しい言葉ばかり使って考えはしないだろ!とツッコミそうになったけど、考えてみたら過ごした日数だけなら久太郎はもう30歳くらいになってるんだから、アリっちゃアリか。

ラストのネタ明かしで数字が沢山出てくるとちょっと理解できずに読み進めてしまう部分があったかな。
(じっくり落ち着いて読めばわかるけど、結末を早く知りたい派のおじさんは急いて読み進めてしまう性分なので・・・)
この事件は間違いなく誰かが同じ能力を持っていて、ソイツが全てを操っていると予測した!
でも真相はまったく違っておりましたわわわ(;´Д`)


<< 読み終えてどうだった? >>

なーんか堅苦しい雰囲気の推理小説かな~って思っていたんだけど、読んでみたらキャラクターがどいつもこいつも個性的で、常に楽しく読めちゃったよ!
(久太郎の母親が口悪すぎて実際にフフっと噴き出した)
話の展開は同じ一日を合計八回繰り返しているだけなんだけど、主人公が違う行動をとる度にキャラクター達がどんどん予想外な一面を出してくるから飽きずに読み進めていける。
あの人があーなったり、あの2人があんなことになっていたり、新事実が明らかになっていくのがイイ。
(リメンバー・エンドレスエイト


この話を読んでいてすぐに思い浮かんだのは映画の「バタフライ・エフェクト」だ。
主人公の行動で色々変わるけど結局良い結果にはならずに毎回悩んでしまうところは同じで、最終的なオチとしてはあの映画とはほとんど関係なく、ちゃんとしたミステリー推理小説になっていたからご安心。

読了感は何故か良いラブストーリーを読んだあとみたいにほっこり気分。
(久太郎君が羨ましいわぁ・・・)
それと、おじさんもお酒はほどほどを心がけるようにしようか・・・なんてね(;^ω^)


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

64Pにて。
―――厭味ったらしい流眄をくれる。―――
「りゅうべん」
流し目、または流し目で見ることって意味らしい。

73Pにて。
―――絶対的ヘゲモニーを握る立場に陶酔でもしているのだろうか。―――
「へげもにー」
指導的な立場とか、主導権って意味かと。

あとがきにて。
作者が本作を書こうと思ったきっかけになったのが「恋はデジャヴ」という映画らしい。
我らがビルマーレイ主演の1993年制作映画だ。
この映画は恋愛成就がきっかけで反復現象から抜け出したみたいなんだけど、そのせいで「七回死んだ男」もちょっとラヴなテイストがあるのかな?(そう感じたのはおじさんだけ?)
だから友理さんがあんなに魅力的に描かれていたのかと。
最後のディナー・デートのシーンも良いよねぇ(*´▽`*)
なんにせよ、この映画はちょっと観てみたいなぁ。

文庫版あとがきにて。
この作品は安槻という架空の街が舞台になっているんだけど、匠千暁という学生探偵が主人公のシリーズ作品と繋がっていて、その小説でも同じ安槻が登場するようだ。
さらにさらに「七回死んだ男」と同じ登場人物もいるらしい。
実は作品の舞台を全て同じ安槻にしようという計画があったようだが、早くも崩れたとか(笑)


<< 挿絵で見たい場面や物など >>

上でも書いたけど、240Pの渕上家大乱闘シーンから。
(手あたり次第の物)投げ合戦を少し離れて眺める久太郎と、吹き飛ばされて倒れた彼を抱きかかえる友理さんの場面だね。
友里さんが久太郎を抱きしめているのは、ムズムズと好奇心を掻き立てられて乱闘に参加しようとした彼を引き止める為でもあるのだ。