忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

「七回死んだ男」 読書感想

「七回死んだ男」(文庫版)
著者 西澤保彦
文庫 360ページ
出版社 講談社
発売日 1998年10月7日


<< かるーい話のながれ >>

かつては自堕落な生活をして家庭をないがしろにしていた渕上零治郎。
妻が先立ってしまったことによりますます腑抜けになってしまい、残された三姉妹は早々に零治郎の元を去ろうと考える。
そして長女と三女は素早く結婚して、絶縁同然に零治郎と二女を捨てて家を去った。
それから数年後、零治郎はギャンブルや株で大儲けして大金を手に入れて現在では全国規模の飲食チェーン店の会長になっていた。

金持ちになった頃から始まった年始恒例の渕上家お泊り会。
(長女一家と三女一家が数日間泊まりに来て飲めや食えやの宴会三昧)
零治郎と暮らし続けている次女が独身者で子供もいないので、会社グループを継ぐ者は決まっていない。
そこへ長女一家と三女一家がそれぞれの子供達を連れて零治郎の家にやって来る。
どちらも今回は何故か夫が来ていない。
もうお分かりだと思うが、どちらの家庭も自分の子供を次女の養子にして会社の跡取りにしようと計画しているのだが、零治郎は長女と三女に対して勝手に出て行った恨みがあるので、秘書や運転士まで含めた跡取り争奪戦を計画する。
そんな中、初日宴会の次の日に零治郎は撲殺された死体となって発見されたのだが・・・。

主人公は長女家族の末っ子である久太郎という高校生だ。
彼はある能力を生まれながらに持っていて、それは自分の意思とは関係なしで特定の一日を七回繰り返してしまうのだ。
零治郎が死んだ日が丁度その繰り返し日になってしまった久太郎は、何とかして祖父を死なせない様に努力するのだが・・・。

一応SFミステリーなジャンルになっているらしい。
突飛な設定があるんだけどちゃんとした推理モノなんですわ。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

まずはこの小説のヒロインと言ってもいい次女の秘書である友理さんがすごくタイプでっす(#^^#)
77Pの場面にて。
久太郎の母親が血縁者以外を養子候補に入れるなんてとんでもない!と零次郎に意見するんだけど、またその言葉が本当に笑えるくらい酷いんだわ。そしてこれでもかと馬鹿にされた友理さんはいつものニュートラルな表情が崩れ、怒りを露わにしたレーザーみたいな眼光を見せる!
あまりの迫力に皆が固まってしまうんだけど、ここが読んでいて思わずニヤついてしまった。
そのあとで最初は辞退したいと言っていた養子候補に、心変わりしたから立候補すると宣言する友理さんらしい仕返しもチャーミング(笑)

もうひとつはコチラ。
240Pの大乱闘座布団&クッション投げ合戦のシーン。
第六週目に久太郎は全員を集めて長女家族と三女家族の男女を結婚させて子供を作り、その子供で零次郎を釣って子供達を養子にしようという案を皆に提案する。
これなら両家とも幸せになれる案であった。
だけどまたしょーもないことがきっかけで口喧嘩が始まりだして、運悪く今回は全員が居合わせた為に雪だるま的な連鎖で大乱闘が始まってしまう。
みんながみんな相当に口が悪く感情が高ぶっているせいか下衆なことを言うわ言うわ(笑)
そこから豪邸の中で柔らかめの物を使用しての投げ合い合戦(たぶん柔らかい物は軽くてみんな投げやすいから?)
仲裁しようとしてぶっ飛ばされた久太郎でさえ、眺めていたら楽しそうだから自分も参加してみようかなって思っちゃうくらいの様子は、読んでいるこちらも参加してみたいって思えてくるのだ(*‘∀‘)
しかしみんな濃い性格というか、面白おかしい人ばかりな一族だわ渕上家の人々は。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

全体的に小難しくて聞きなれない表現言葉が多かったから結構飛ばし読みしちゃいました。
でもなんとなーく意味は分かるから良しってことで。
高校生の主観でこんな小難しい言葉ばかり使って考えはしないだろ!とツッコミそうになったけど、考えてみたら過ごした日数だけなら久太郎はもう30歳くらいになってるんだから、アリっちゃアリか。

ラストのネタ明かしで数字が沢山出てくるとちょっと理解できずに読み進めてしまう部分があったかな。
(じっくり落ち着いて読めばわかるけど、結末を早く知りたい派のおじさんは急いて読み進めてしまう性分なので・・・)
この事件は間違いなく誰かが同じ能力を持っていて、ソイツが全てを操っていると予測した!
でも真相はまったく違っておりましたわわわ(;´Д`)


<< 読み終えてどうだった? >>

なーんか堅苦しい雰囲気の推理小説かな~って思っていたんだけど、読んでみたらキャラクターがどいつもこいつも個性的で、常に楽しく読めちゃったよ!
(久太郎の母親が口悪すぎて実際にフフっと噴き出した)
話の展開は同じ一日を合計八回繰り返しているだけなんだけど、主人公が違う行動をとる度にキャラクター達がどんどん予想外な一面を出してくるから飽きずに読み進めていける。
あの人があーなったり、あの2人があんなことになっていたり、新事実が明らかになっていくのがイイ。
(リメンバー・エンドレスエイト


この話を読んでいてすぐに思い浮かんだのは映画の「バタフライ・エフェクト」だ。
主人公の行動で色々変わるけど結局良い結果にはならずに毎回悩んでしまうところは同じで、最終的なオチとしてはあの映画とはほとんど関係なく、ちゃんとしたミステリー推理小説になっていたからご安心。

読了感は何故か良いラブストーリーを読んだあとみたいにほっこり気分。
(久太郎君が羨ましいわぁ・・・)
それと、おじさんもお酒はほどほどを心がけるようにしようか・・・なんてね(;^ω^)


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

64Pにて。
―――厭味ったらしい流眄をくれる。―――
「りゅうべん」
流し目、または流し目で見ることって意味らしい。

73Pにて。
―――絶対的ヘゲモニーを握る立場に陶酔でもしているのだろうか。―――
「へげもにー」
指導的な立場とか、主導権って意味かと。

あとがきにて。
作者が本作を書こうと思ったきっかけになったのが「恋はデジャヴ」という映画らしい。
我らがビルマーレイ主演の1993年制作映画だ。
この映画は恋愛成就がきっかけで反復現象から抜け出したみたいなんだけど、そのせいで「七回死んだ男」もちょっとラヴなテイストがあるのかな?(そう感じたのはおじさんだけ?)
だから友理さんがあんなに魅力的に描かれていたのかと。
最後のディナー・デートのシーンも良いよねぇ(*´▽`*)
なんにせよ、この映画はちょっと観てみたいなぁ。

文庫版あとがきにて。
この作品は安槻という架空の街が舞台になっているんだけど、匠千暁という学生探偵が主人公のシリーズ作品と繋がっていて、その小説でも同じ安槻が登場するようだ。
さらにさらに「七回死んだ男」と同じ登場人物もいるらしい。
実は作品の舞台を全て同じ安槻にしようという計画があったようだが、早くも崩れたとか(笑)


<< 挿絵で見たい場面や物など >>

上でも書いたけど、240Pの渕上家大乱闘シーンから。
(手あたり次第の物)投げ合戦を少し離れて眺める久太郎と、吹き飛ばされて倒れた彼を抱きかかえる友理さんの場面だね。
友里さんが久太郎を抱きしめているのは、ムズムズと好奇心を掻き立てられて乱闘に参加しようとした彼を引き止める為でもあるのだ。