忘れないでね 読んだこと。

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「残穢」 読書感想

残穢」(文庫版)
著者 小野不由美
文庫 359ページ
出版社 新潮社
発売日 2015年7月29日


<< かるーい話のながれ >>

ホラー関係の作家をしている「私」(おそらく小野不由美自身)のもとに久保さんという読者から恐怖体験の手紙が届く。
その恐怖体験を「私」はどこかで読んだことがある気がして過去の手紙を漁ってみると、やはり同じような内容の手紙が見つかった。
送り主は「八嶋」という人物で、久保さんと同じマンションに住んでいるようだ。
「私」と久保さんは気になって八嶋さんの部屋を調査しようとするのだが・・・。

怪奇現象があった場所に住んでいた住人を調べていく内に、現象の内容が人によって違っていることが判明してきて「私」は部屋ではなくその土地に原因があるのではと思い、土地の歴史をどんどん遡って調べていく。
その過程で怪奇現象の原因らしき事件・事故などは判明するのだが、根本の原因には今一つ届かない。
そして調査を進めていく「私」の身の回りにも、原因不明の現象が起こり始めてしまう・・・。

住人が次々に出て行ってしまうマンションの部屋と、同じく住人が定着しない団地の建売住宅には何の因果があったのか?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

ホラー小説なんだから、やっぱ怖~いシーンでしょ!
まずは57Pにて。
久保さんの前に204号室に住んでいた梶川と言う人物。
すでに彼は違うアパートに引っ越していて、そこで自殺してしまったと判明する。
自殺する前夜にアパートの大家の家へ梶川らしいモノが来訪して来た場面。

静かな深夜、窓越しに伊藤おばあさんに話しかけてくる梶川の声。
「すみません」と「申し訳ありません」ばかり繰り返し、次の瞬間には玄関へ瞬間移動た梶川の声はさらに謝罪を続けて、やがて気配は消えた。
ガラス越しにシルエットは見えるんだけど、なにやら異様な雰囲気がある存在がぽつぽつと謝罪し続ける場面は恐怖じゃないんだけど不気味だ。(いや、どうかんがえても恐怖だわこりゃ)
虫の知らせ系な話はありきたりなんだけど、この小説だとなーんか背中がゾクゾクするんだよねぇ。
これが読ませる文章力なのだろうか?

もうひとつ、219Pにて。
マンションから始まって穢れた土地をどんどん遡り調べていく「私」と久保さん。
しかし久保さんは部屋を引っ越したにも関わらず、以前に聞こえていた畳を擦る音がまた聞こえ始めた。
同じく「私」の新居にも電気センサーが勝手に反応したり、飼い猫達が不意に明後日の方向を凝視するなど奇妙なことが起こり始める。
穢れを持った話は、それに関わるほどその穢れを呼び寄せてしまうということらしいが。
でも奇妙な現象に対して「私」は「なんだろうね?」と飼い猫に問いかけるだけで済ませちゃう。
さすがホラー作家だ(笑)
恐怖心というか警戒心がちょっと足りないのかOFFにしてるのか(^^;)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

とにかく登場人物が多いのよ!
歴史を遡るにつれて土地の所有者がどんどん変わっていくもんだから、読んでいてこの人が一体何に関係している人なのかってことが頭の中で整理出来ないまま読み進めることも多々ありまして。
(人名を覚えるのが苦手なおじさんだからなのかもしれないけど)
遡る時代も今世紀から明治大正期までじっくり掘り下げていくから、一気読みしたほうが話の流れを理解しやすいかも。


あと主人公がホラー作家で恐怖に物怖じしない女性(おまけに超常現象とかをあまり認めないタイプ)だから、語られる文章もとにかく淡々としているんだよね。
そんでもって分かりやすい山場とかが無い展開だったから、エンタメ好きなおじさんにはちょっと物足りない感じで終わったかな~。
でもなぜか今まで読んできたホラー小説の中で群を抜いてゾクっとさせられた場面が多かったよ。


<< 読み終えてどうだった? >>

いやはやなんとも、今回は初めて読むタイプのホラー小説だったね。
分かりやすい展開とか山場とか、グワッとくる怖さじゃないんだよ。霊が出てきて人間を襲う訳でもないし、原因とか対処法とかもある訳でもない。
基本的に起こった怪奇現象の原点を探っていくだけな内容ですわ。

でもエンタメ性を削った分、現実味がグッと増して怪奇現象がすぐ隣で起こりそうな気分にさせられる。
現実味を増している理由は他にもあって、登場する人物達が実在する人が多かったこともあると思う。
あと実際に起きた事件や怪奇現象も取り上げられていたし。
(中にはお話を聞いただけで穢れを貰ってしまうような危険な怪談も・・・それは後ほど)

そんなわけで、淡々と進んで行く物語は熱気が無くとにかく冷たい感じで、その冷気が読者であるおじさんの背中や肩をヒヤっとさせてくる。
霊が現れた部分や不可解な現象が起こった場面を読んでいる時なんて、自分の上下左右に目を向けることさえちょっと怖かったくらいだ。
(一人で読んでいたせいもあるかな?でも消音でTVも付けて部屋も明かりばっちりだったのにねぇ)

―――「書物の中の恐怖が現実を侵蝕し、読者の日常を脅かす」―――
この小説の紹介文に書かれていた言葉だけど、なるほど確かにこの小説はおじさんの日常を十分に脅かす穢れを持っていたわ。
(夜の犬の散歩が怖くなってしまったわわわ・・・)

読了感としては、一見ハッピーエンドみたいな感じでエピローグが語られていたんだけど、最後の一文でしっかりおじさんの心に残穢を刻んでいったね(;´Д`)
なのでこの小説は読み終わってから読者の心に、いや~なしこりを残してしてくれる作品ってことで。
(ホラー小説として良い後味だしてるって意味でのいや~な感じね)


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

56Pにて。
―――店子の中には建て替え前からいる住人も多い。―――
家を借りている人とか、借家人って意味みたい。

172Pにて。
―――綺羅星のような執筆陣も嬉しい。―――
きらきらと光り輝く無数の星。地位の高い人や明るいものが多く並ぶようすのたとえ。らしい。

213Pにて。
―――鶴瓶落としに陽は沈んでいく。―――
釣瓶を井戸の中へ落とすときのように、まっすぐにはやく落ちること。
季節が秋だと夕暮れから日没までがほんとうに早いよね。

327Pにて。
―――外連味の無い箱型の建物が立ち枯れた雑草の間に埋もれていた。―――
はったりを利かせたり、ごまかしたりするようなこと。らしい。

207Pにて。
書くと障りがあるから書けないので、一部を封印してやっと書ける最恐のお話が「現代百物語 新耳袋八甲田山」らしい。
マジですが?怖くて調べたくありませんが、物凄く気になる!でも怖いから調べたくありましぇん!!

266Pにて。
―――「私宅監置、って知ってますか」―――
明治期から終戦直後まで制度として存在していた私宅監置。精神病患者を自宅に監置するいわゆる座敷牢とのこと。
まあそういうのがあっても全然不思議じゃないわね。ドラマとか映画とかでもこういう監禁ネタは色々使われているし。
きっと裕福な家庭だけがそういうこと出来たんだろうなぁ。

310Pにて。
障りのある土地を調べていくにつれて、「私」を含めて色々な人達に何かしら良くないことが起こり始めたことに対して、まあこーゆーことが全くないってことでもないし、ただの偶然でしょって感じで「私」自身を納得させた場面にて。
―――だからこそユングは「共時性」などという概念を発明する必要に迫られた―――
ユングが提唱した概念で「意味のある偶然の一致」日本では「共時性」とも呼ばれるみたい。
虫の知らせみたいなもんで関係の無い二つの事柄が似ているんじゃないか?関連があるんじゃないか?と考えてしまうこと、みたいな?

2016年に竹内結子主演で『残穢 -住んではいけない部屋-』という実写映画にもなっているね。
うーむ、一人で観るのはちょっと怖いな(;一_一)


<< 挿絵で見たい場面や物など >>

終盤の335Pにて。
門に囲まれた広い庭のある平屋作りの真辺邸(廃墟)にて。
神頼みでも払えなかった穢れを消すために最終手段で骨董屋から曰く付きの品々を集めていた真辺氏。
しかし結果は・・・。
あちこちに神棚や仏壇、丸盆にコップと盛り塩が置かれて、庭には社や地蔵が並べられ、雨戸の裏側には沢山の角大師の札が張られまくった廃家を探索する一同。
原因不明の病のせいで首にコルセットを付けた「私」、好奇心で付いてきた久保さん、そしてホラー作家の平山氏と福澤氏。