忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

トーキョー下町ゴールドクラッシュ! 読書感想

 

タイトル 「トーキョー下町ゴールドクラッシュ!」(文庫版)
著者 角埜杞真
文庫 326ページ
出版社 KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
発売日 2016年2月25日

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「トーキョー下町ゴールドクラッシュ!」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

以前、元上司からオススメされた『女神の見えざる手』という映画を観た。
これがなかなかに面白かったんだ。
巨大な敵、卑劣な手段に対して負けない挫けない女性ってカッコイイよね~(*´▽`*)
今回の小説は↑に近いモノを感じるかも。
全くと言っていいほど知る機会のなかった株取引がメインのお話なのかな?
理解できるかわからないけど、迷っていてもしょうがない。
大金が飛び交うトレーダーの世界に飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

凄腕女性トレーダーの橘立花は身に覚えのないナニカをやらかして、唐突に会社を解雇されてしまう。
原因調査の前に腹ごしらえをしようと人形町を歩いていると、ふとしたキッカケで一樹という青年と出会い、彼に誘われるまま紫苑亭という小さな洋食屋に案内される。
そこで出会う下町の人々は、トレーダーの世界とは真逆の考え方を持っていた。

後に遭遇した不穏な出来事がきっかけで紫苑亭に居候することになった立花は、用心棒役の一樹と共に解雇の原因と犯人の捜査を開始するが、元顧客の佐久間社長から伝えられた宣言が立花を窮地に追い込む。

仕掛けは完了、退職勧告、紫苑亭、もうひとつの依頼、十年に及ぶ粉飾決算、居候第二号、信用と名誉に対する賠償、仕組まれた値下がり、殺し屋だよ、隅田川で死体、黒幕、メディリーク、転職者、TOB、正式な株券じゃない、私の勝ちだ、独りじゃない・・・。

定められた期限内に犯人を見つけるのが先か、命を奪われるのが先か、それとも億単位の借金か・・・。
下町人情溢れる人形町と金が全ての証券社会、二つの間で橘立花の復讐劇が始まった。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///崖っぷちに追い詰められる最悪の状況///
自分を貶めた犯人を捜そうとした矢先、元顧客である佐久間社長から電話がかかってくる。
告げられた内容は立花を慌てさせるのに十分過ぎるものだった。
127Pより。
―――『それができなかったら・・・・・言わなくても、キミならわかるよね?』
もちろん、わかる。佐久間社長がどうするつもりでいるのか。立花には、聞かずともわかった。―――
破滅までのタイムリミットが刻まれる、尻に火がついた熱い展開! 一気に面白くなってきた場面だね!
(個人的に佐久間社長の声は声優の安原義人が似合うと思った)

///株式理解力ゼロな読者でも安心///
トレーダーが主人公で株取引がポイントになる物語だから、当然その辺の事が作中で語られる。
けれどご安心を。
まったく知識のないおじさんでも理解して楽しめるように描かれているから。
敵対的買収ポイズンピル民間放送局の買収工作、ホワイトナイト、などなど株取引ならではの単語が出てくるたびにリアリティ感を高めてくれるから面白い。
むしろ株関係に興味が沸いてくるかもね、少し前の現実でも大戸屋買収騒動とかあったわけだし。
(そういや、けっこう昔に映画『ハゲタカ』ってのもあった気がする)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///そうは言っても、当然リスクがあるんでしょう?///
紫苑亭にて、投資に対して良いイメージを持っていない常連の老人達に対し、立花が如何に投資というモノが良いことなのか説明する場面。
65Pより。
―――「違う!投資っていうのはリスクヘッジのためにするものだから、お金がないひとほど賢く投資するべき」
「だからよぉ、その『賢く』ってのが曲者なんだってよぉ。素人には、なにが賢くてなにが賢くないのかなんて、わかんないじゃないか」
「そんなに難しいものじゃない。いい?投資っていうのは未来予測だし、未来は数字で読める。自分の読み次第でいくらだって稼げるんだから、こんなにたのしいことはないじゃない」―――
金がないほど賢く投資するべきか・・・・・でもそれが誰にでも出来るのなら苦労はしないよねぇ。
失敗したらお金が減る訳なんだし、でもちょっとだけ試してみたい気持ちも無い訳ではないわけで(笑)

///この主人公、どういう神経をしてるんだ?///
自分を嵌めた犯人を捜し始めてから、幾度も襲撃されて命の危険を体感しているのに折れない立花。
むしろさらに闘志を燃やして挑む姿勢を崩さない。
154P~155Pより。
―――「やってくれるじゃないの。この私を狙うなんて、百年早いわ!」命のかかった勝負、上等だ。受けて立とうじゃないか。
さあ、面白くなってきたよ!―――
歩いてきた人の隙がなさすぎる姿に反応するとか、目の前で刺されそうになっても面白いと思っちゃう精神面とか、どう考えても普通じゃないでしょ(笑)
橘立花・・・この女、一体どんな人生を送ってきたんだ?

///実はけっこう性格悪い系?///
元同僚である間宮が冤罪に巻き込まれて、無実を証明するために仕方なく立花を呼ぶ場面。
187より。
―――どうしてだろう、反射的にカメラのシャッターを切っていた。映っているのは、間宮の後ろ姿だ。肩を組んでラブホテルに入っていくところ。―――
同僚の珍しい場面を見つけてしまったからって、わざわざ写真に撮るかね?
無自覚の悪人系なのか、それとも危険予知のカンで撮ったのか、相変わらず底の知れない主人公。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
「三人称視点」の俯瞰(神の視点)で語られる内容。
久しぶりにこの視点の小説を読んだせいか、最初の内はちょっと違和感があった。
いつも読む小説と違って、ホラー・エロ・グロとは全く対極に位置する内容だったけど、視点がコロコロ変わるおかげか全然退屈しないで読めてしまった。(株ビジネス&下町人情というミスマッチな組み合わせもイイね)

ライトノベルでは初めて読むタイプの物語だったけど、普段から電撃文庫を愛読している読者達には受けるのだろうか・・・・・う~むむ(;^ω^)

///話のオチはどうだった?///
突然無職になり下町の人々と知り合う状況の変化によって、立花自身も少しずつ変化していった。
だからこそ299Pの言葉に納得だよ。
一冊でキレイにまとまっていて、後味もスッキリで良かったわ。
(個人的には金融の黒い部分をもっと出しているほうが好きかも、でもライトノベルならこれで十分じゃないかと)

とは言え一樹の人生とか、立花のキャラクラ―設定とか、立花の旦那さんのこととか、いろいろと気になる部分が残ってしまったのがちょっとモヤっとしてしまう。

///まとめとして///
老若男女、全ての読者が気軽に楽しんで読める小説だと思う。
こーゆー小説こそまさしく『ライトノベル』ってモノじゃないかな。
たまにはキレイな勧善懲悪物語を読んで、心をリフレッシュさせようじゃないの。
謎多き女の橘立花、彼女の新しい日常の物語をちょっと読んでみたいかも。
ってな訳で満読感7点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

トーキョー下町ゴールドクラッシュ!」は第22回電撃小説大賞受賞作!

44Pより。
―――サンダルの上に乗っていたDVDを拾い上げてタイトルを一瞥すると、『Like Crazy』。ベタベタの恋愛映画らしいことが窺える。―――
『今日、キミに会えたら』(Like Crazy)は、ドレイク・ドレマス監督の2011年のアメリカ合衆国の恋愛ドラマ映画で、2011年にサンダンス映画祭で審査員大賞を受賞した。
日本では劇場未公開だけどDVDが2013年5月10日に発売されたみたい。


72Pより。
―――「残念ながら、詳細はまだお話しできないんですがね。シンチレーターの樹脂部分に大きな改良を行っているところだ、とでも言っておきましょうか。―――
シンチレータはX線やガンマ線などの放射線が当たると、そのエネルギーを吸収して目に見える光を発する物質とのこと。
主にX線CTなどの医療機器、分析機器、放射線を用いた非破壊検査装置、放射線漏洩検査装置などに用いられているようで。

115Pより。
―――程よく引き締まった細身の体躯に、スーツの襟元から覗くデコルテにもシミひとつなく。肌の張りといい髪の艶といい、二十代の後半だと言っても通用しそうだ。―――
デコルテとは襟ぐりの大きく開いたドレスのこと。もしくは、そのようなドレスを着用した際に肌が露出する部分のこと。

248Pより。
―――たしか、偽造や改ざん防止のためにチェックライターとかいう専用の機械が使われていたはずだ。―――
企業において小切ってや領収書、手形を作成するときに金額を記載するために使用する機械のことをチェックライターと呼ぶ。
金額が刻み込まれたように紙に印字される為、印刷後の金額の変更ができず、改ざんの防止にもなるらしい。

269Pより。
―――そうして、レンタルオフィスでは電話などの什器もセットになって貸し出されていることが多いから、撤収しようと思ったら短期間で退去できる。―――
什器(じゅうき)とは、仏教の什物(じゅうもつ)に由来し、寺で宗徒が使う器具、日用品、生活用品を指すみたいで、1つや2つなどではなく10を単位として数えなければならないほどたくさんで雑多であることから、中国の宋代に禅宗寺院内で使われはじめた語が一般化していったとのこと。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
152Pより。
―――咄嗟に立花は身を引き、と同時に、一樹の襟首を引っ掴んで投げ飛ばした。遅れてきた一樹が立花に肩を並べるのと、すれ違いざまに男の手元でキラリとなにかが光ったのは、ほとんど同じタイミングだったと思う。間一髪。―――

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立花のおかげで命拾いした一樹だったが、彼のシャツはお腹の辺りでスッパリと切れて、うっすらと血が滲んでいた・・・・・・ってシャツですか!?
しまった・・・まままあ、パーカーの下にシャツを着ていたってことにしちゃおう(;^ω^)

 

 

メドゥサ、鏡をごらん 読書感想

タイトル 「メドゥサ、鏡をごらん」(文庫版)
著者 井上夢人
文庫 496ページ
出版社 講談社
発売日 2002年8月9日

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>
・今回の「メドゥサ、鏡をごらん」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

いきなりだけど、ホラー映画の『キャビン』という作品が好きなんです。
ただのホラー映画じゃなくて、なんていうかギャグとか管理とかモニターとか、とにかく普通のホラー映画じゃない(笑)
その楽しめた経験に流されて、次に映画『ロッジ』というのも観た。
この映画にもハラハラドキドキさせられたなぁ~・・・・・ほんと、驚かされたよ(・・;)
一体なにがおこっとるの!?最後はどうなるんやー!?って感じで。
今回の小説を読んで久しぶりにその『ロッジ』を思い出したわ。
ではでは、はじめての井上夢人作品を読んでみまっしょい(=゚ω゚)ノ



<< かるーい話のながれ >>

作家の藤井陽造が全身をコンクリートの中に埋め込むという奇妙な自殺をした。
コンクリートの中からは小さな瓶が見つかっており、中には「メドゥサを見た」と書かれたメモが入れられていた。

陽造の娘である菜名子と、その彼氏である主人公は陽造が最後に書いていたであろう小説を探すために韮崎の自宅を訪れるが、小説は見つからない。
陽造のノートを読み解いて、自殺する前に訪れた場所へ行ってみることにした主人公だったが、その頃から彼の周辺でおかしな事が起こり始める。

奇妙な自殺、最後の原稿、あずさ、タブー、無理心中、最後の一人、信じられないような非常識な小包、根源にある故意、こんなに恐ろしい文章、みんな死んでしまえ、プライベートディスク、煙草、杉浦から電話、白髪、このファイルを消去してもよろしいですか?、菜名子・・・。

理解不能な現象と増えていく死者の数、そして明かされる悲惨な過去と恨み。
藤井陽造の残した最後の小説とは?
彼は何を求めて方々へ出向いていたのか?
自殺者達が最後に目撃したモノとは、一体何なのか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///一語一句まったく同じでなければ意味がない///
小説家の作品について、データが消えてしまったのならもう一度同じものを書き直せばいいと思っていた菜名子だったが、父親にそれは出来ないと言われる場面。
47Pより。
―――あたしたちは、消えても、一度書いたんだから、また同じように書き直せばいいんじゃないかって簡単に考えてしまうけど、父に言わせるとそんなもんじゃないらしいの。一度書いたものは、二度と書けないって。同じ文章を、消えた後でもう一度書くことなんてできないんだって―――
文章の勢いだとか流れとかリズム感、それらが少しでも違っていたら別物になっちゃうんだろうね。
前回読んだ『回游人』でも同じようなこと言っていたわ。
小説なんて書いたこともないけれど、なんとな~く分かる気がする、あくまでも気がするだけ(^^;)

///またもや新手のスタンド攻撃系か!?///
陽造の行動を探り始めた主人公、しかしその頃から奇妙な現象が起こりはじめた。
一体なにが起こったんだ・・・・・なぜ会話がかみ合わない?なぜ鍵が掛かっている!?
気分はまるで第三部のポルナレフ(笑)
103Pより。
―――「そんなバカな」誰が鍵を掛けたのだ?私は、周りを見回した。赤松の林には、誰の人影もなかった。―――
訳のわからない予想外な展開にドキドキしちゃうぜ。
(なんとなくホラーっていう描写ではないから、やっぱりジョジョの雰囲気に近いかも)

///彼女の感じていた違和感になるほど///
藤井陽造の行動から何を調べていたのか解明しようとする主人公。
しかし菜名子は主人公の熱意に反してどうにも乗り気でない様子。
もちろん読者であるおじさんも主人公と同じ部分が知りたいから、菜名子に少しイライラしていたけどこの言葉を聞かされてからハッとしましたわ。
251Pより。
―――「あたしにわからないのは、あなたがやっていることなのよ。あなたは、なんのために父のしていたことを調べているの?父の最後の作品がどんなものだったのかを知るため?」
「そのつもり・・・・・なんだけど」
「前にも言ったけど、作品は原稿なのよ。取材していたものは、父の作品じゃないの。素材は、素材でしかない。そうじゃない?」―――
なるほど!
たしかに菜名子の言う通りじゃわ。
いつの間にかおじさんも目的がすり替わっちゃっていたことに驚かされたよΣ( ̄□ ̄|||


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///なぜ常に晒し続けたのか?///
不慮の事故で首から上に酷い火傷を負った女子小学生がいたんだけど、病院から退院してきた彼女を待ち受けていたのはクラスメイトからの拒絶だったっていう部分。
329Pより。
―――「残酷なもので、娘には友達がいなくなりました。おぴらにいじめられることはなかったにせよ、以前のように親しく遊んでくれる友達はいなくなりました。誰も、娘の顔を見ようとしなくなりました。眼を見て話をすることができないので、話しかけること自体、しなくなってしまったのです―――
いやいや、せめて帽子とかカツラとかマスクくらい付けさせてあげるでしょ?なんで常に火傷顔を晒してるんだ。
昔の小学校だからそれさえ許してもらえなかったのか?
(まあ、たとえマスク&帽子付けてても拒絶されたとは思うけど)
フィクションだから過激な内容にしたいってのはわかるけど、やり過ぎるとそりゃないでしょ~って感じちゃうことあるよね。

///えぇ~放置して行っちゃうんですか///
陽造の小説を見つけた主人公は菜名子が読み終わるまで待機しようとするが、途中から菜名子の様子がおかしくなってくる。
しかし主人公は彼女を残して一人で石海に出かけて行ってしまった。
(ありえない内容の電話があったから、確かめたくなったようで)
412より。
―――菜名子の言葉が気掛かりではあったものの、さらに声をかけることもはばかられて、私はその家を出て韮崎駅へ向かった。―――
明らかに彼女なんかオカシイこと言ってるよ?それでも行っちゃうのかよ(笑)って心の中でツッコミを入れたわ。
まぁ、通常の精神状態ならありえない選択だろうけど、この時はもう謎のアレに心が飲み込まれちゃっていたと思うから、こんな行動をしても仕方ないってことかな?


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
主人公の視点で語られる内容なんだけど、中盤以降にガラッとアレが変わる展開に驚かされた。
もうそこからは怒涛のナンダコレ現象の連続で、おじさんは最後まで振り回されたよ。
ただそこに到達するまでの内容に盛り上がりが少なかった気もするね。
全体のページ数もなかなかに多かったし。

///話のオチはどうだった?///
終盤付近では、もうアカン!完全に理解できなくなってきたしこのままではアレと同じ結果になってしまうじゃんか!
あぁ~~~もう、結末はどうなるのよぉぉ・・・・・・って終わっちゃった!?
あららコレで終わっちゃったよ(゚Д゚;)
全然わからない感想だけど、ホントにこんな感じなんですわわわ。

ネットで他の読者の考察とかを調べてみたけど、やはり誰もコレだ!っていう結論には至っていない感じかな。おじさんは読み終えた瞬間から自分で考察することを諦めました(;´Д`)

///まとめとして///
終盤からの想像を超えた怒涛の展開は凄く楽しめたし興奮させられちゃった。
それだけにこの締め方は、個人的に残念でならなかったよ。
(今思い返すと登場人物達の人間味もなんだか薄味に感じたような・・・)

とはいえ、楽しみ方はひとそれぞれってことで。
読了後のモヤモヤとか、なんとも言えない後味を愉しみたい方には是非ともオススメな小説だと思う!
井上夢人にブンブン振り回されてぶん投げられる感覚を愉しめ!ってな訳で満読感5点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

207Pより。
―――「ああ。ウカイはそのまま、鳥の鵜に飼う。ヤスヒロは泰然自若の奏に博士」―――
「たいぜんじじゃく」
何事にも動じず落ち着いた様子のことらしい。
「泰然」は落ち着いた状態を指す言葉で、その人の態度や姿勢に対して使われる。
「自若」は慌てない様子を指していて、何かトラブルが起こっても慌てない姿に対して使われる。

308Pより。
―――JR金町駅で京成線に乗り換え、柴又で降りる。帝釈天がすぐ近くにあるからなのだろう。お祭りでもないのに、駅前の広場には、ずらりと屋台が並んでいた。―――
「たいしゃくてん」
柴又帝釈天または帝釈天 題経寺は、東京都葛飾区柴又七丁目にある日蓮宗の寺院の通称。
帝釈天」とは本来の意味では仏教の守護神である天部の一つを指すけど、地元では題経寺の略称として用られることも多いらしい。

363Pより。
―――菜名子の声が途切れた。話の接ぎ穂を失って、私は受話器を持ち替えた。―――
「つぎほ」
接ぎ木のとき、台木に接ぐ枝など。
または、いったんとぎれた話を続けようとするときのきっかけ。

井上夢人
徳山諄一とコンビを組み、「岡嶋二人」のペンネームで1975年から7年間で4回応募し、1982年に『焦茶色のパステル』で第28回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。
その後、2人で創作活動を続けるものの1989年刊行の『クラインの壺』を境にコンビは解消され、井上は「井上夢人」のペンネームで創作活動を続けているとのこと。
あの岡島二人の内の一人だったのね~。
『焦茶色のパステル』という作品は乱歩賞も受賞している作品らしい。
いつか読んでみようかな。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
483Pより。
―――鏡の中には、やはり少女がいた。彼女は、その膜のかかった眼で私を見つめ続けていた。私は、彼女のほうに空の瓶を持ち上げて振ってみせた。笑いかけたが、少女の表情は変わらなかった。―――

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火傷とかケロイドとかどんなんだろうと思って画像検索してみようとするも、実写画像を見るのが怖すぎて結局こんなんだろうかって想像で描いてしまった。(鏡の反射光でイイカンジに隠せ隠せ!)

 

 



回遊人 読書感想

タイトル 「回游人」(文庫版)
著者 吉村萬壱
文庫 222ページ
出版社 徳間書店
発売日 2017年9月26日

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「回游人」だけ
(ブログを始める前に『ボラード病』やら『バースト・ゾーン―爆裂地区』やら『独居45』やら色々読んでいる)


<< ここ最近の思うこと >>

タイムリープものといえば『時をかける少女』とか『バタフライエフェクト』とか『テネット』・・・・・は逆行だから違うか。

10月18日、急に冷え込み人恋しくなる
こんな時はしっぽり大人の恋愛モノを読んで心ほっこりしようじゃない。
数年前に読んだ『臣女』が予想外にしっとりしたラストだったから、久しぶりにあの感覚を味わいたくて選んだこの作品。

本格的な冬を迎える前に、心をほっこりさせようじゃないの!
タイムリープ系の有名作品をあまり鑑賞していないと語る鬼才の作者。
彼が描く大人の偏愛を味わっちゃおうぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

小説家の江川浩一(四十四歳)は妻(淑子)と一人息子(浩)の三人暮らしで、平凡ながらも平和な暮らしを送っている。

しかし最近はスランプになってめっきり書けなくなった江川浩一は、収入がまったくなくなってしまいついに貯金を切り崩して家計をやりくりしている状況に。
やっとの思いで書き上げた短篇は没になる、醤油のミニボトルさえ自由に買わせてもらえない、一人息子は懐かない、妻の女友達は情熱的なナイス・ボディ!
現状を打破する為に(現実逃避)出奔して、やって来たのはかつてアイデアが生まれた肉体労働者の街。

そこで偶然にも見つけた白い錠剤を飲むことによって、何かが変化するかも知れないという好奇心に流されて、宿で錠剤を飲み眠りについた。
意識が戻ると、江川浩一は十年前の自分自身にタイムリープしていることに気づく。

ブラッド・キング、熟女の品格、脇田診療所、尿瓶、プチ家出、数粒の白い錠剤、別の人生、マッスルゴールド、淑子と結婚した日、お化けアパート、醤油の入ったミニボトル、ネット預言者、やり直しだ、アレがないよ、未来を生きたい、もう一回だけ!・・・・・。

人生をやり直すチャンスを得た江川浩一は、真っ先に淑子の女友達である亜美子(ナイス・バディ!)を手に入れようと動き出す。
彼を待ち受ける二度目の十年は、果たしてどのような未来に進んで行くのか?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///すき間時間だからこそ創作できる?///
勤めていた会社を辞めて物書き一本の生活をし出したら、だんだんと書けなくなっていった主人公。
23Pより。
―――会社を辞めたら幾らでも各時間がある筈だったが、僅かな時間の中で書けていたものが、有り余る時間の中で見えなくなっていった。―――
この出来なくなる現象には共感するわ。
おじさんも出勤前の短い時間に感想とか絵とか作業してるけど、いざ休日になると全然出来ない(笑)
ほんと不思議~( ̄▽ ̄)

///一万円が五千円に、その結果・・・///
小説のネタやインスピレーションになるのなら多少の危険やリスクは顧みない主人公。
売春地域のさらに奥にある激安地帯にて、さらに半額に値引いた嬢を選んでみたら・・・。
61Pより。
―――突然眼前に迫ってきたエアーズロック張りの尻の割れ目にふと目にした女の肛門が、崩れ掛けた木組みの古井戸のような複雑な構造を持っているのを知るに及んで、私は自分がこの世の地獄にいるのだと観念した。―――
この世の地獄て(爆笑)
激安嬢に一体どんな期待をしていたのか?
どう考えても損しかしないだろうて。
しかしこの後も彼は危険な好奇心に抗えず「ちょんの間通り」や「マッスルゴールド」にて強烈な体験と後悔を味わうことに(;^ω^)

///鬼才の文学作家が語る大人の表現が染み込んでくる///
164Pより。
―――私は夫婦間の依存関係のようなものを求めていたのかも知れない。亜美子との営みの最中にも、「ちょんの間通り」での痩せて髪の長い女との交接を思い出す事が度々あった。二人が弱ければ弱いほど一緒になる事で強くなる結び付きのようなものに、私は飢えていたのだと思う。―――
弱ければ弱いほど一緒になる事で強くなる結び付きかぁ。
単語で済ませるんじゃなくて文章でしっとりさせてくるのが文学だよね。(文学・・・で合ってるかな?)

あとこの描写も好きだわ↓
181Pより。
―――その時淑子は、真っ直ぐ夜の海を見て、前歯で下唇の半分を噛み、残り半分を膨らませていた。感情が上手く言葉にならず、しかし何か重大な決断を下す時の、それは淑子の癖だった。―――
キュンキュンするようなものではなく、じんわりと染み込むような表現なのよ。
エロ、グロ、ゲイみたいな刺激物だらけのお話の中に、こーゆー吸い物みたいに出汁の利いた文章がぽつぽつ入ってるから吉村萬壱は好きなのよねぇ~。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///白い錠剤とはなんなのか?///
首縄飯店の床に落ちていた白い錠剤。
これを飲むことによって江川浩一は10年前にタイムリープできるんだけど、とにかくその辺の理由は一切説明されていない。
読む前から大体そうなんだろうなぁ~って思っていたから、さほどガッカリはしていないけどね。
(今度よく行く中華料理店の床に白い錠剤が落ちていないか調べてみようかな・・・・・飲む気はないけど)

///タイムリープの影響とは///
タイムリープは主人公だけではなく周りにも影響を与えているようで。
その巻き添えみたいになった人物もいるんだけど、どうしてそうなるのかわからないまま終わる。
まあ、吉村センセイの小説だし・・・・・それに10年前にタイムリープした男の生き様を愉しむお話だから、細かいことなんてどーでもいいんだよ(ほんとは細かい設定を知りたい派なんですけどね)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
物語は江川浩一の視点で終始語られている。
なので主人公のダメダメだなぁって内面をこれでもかってくらい味わえる内容になっていた。
人間のどうしもうもない部分をこれでもかってくらい描く吉村萬壱節は健在で、この独特な読み心地が気に入っているのです。

そして主人公が中年男性ということもあって、おじさんとしては共感しやすく馴染みやすい内容だった。
(あえて危険な所に飛び込むような蛮勇?とか行動力には共感できないけれど、読者としては嬉しい展開よね)

///話のオチはどうだった?///
こーゆー終わり方かぁ・・・・・う~ん・・・・・『臣女』のようなイイカンジ系ではなかったわ。
まぁ主人公がこんなキャラだからこの終わり方にも納得するしかないわね。
なんと惨めなって思ってしまうけど、実際に錠剤の作用で10年前に戻れたら、おじさんも江川浩一のようにグダグダとした10年を過ごしてしまいそうな気がする。
(まずやり直したい事っていうのもこれと言ってない・・・・・いやないこともないか)

///まとめとして///
小説を書けるようになるため、文学的背徳感を求め続けた哀れな男の物語。
ほんとうにどうしようもない主人公だったけど、なぜか憎めないのが吉村萬壱の作り出すキャラクター。
(主人公のどうしようもなさが『闇金ウシジマくん』の○○君たちを連想させる)

江川浩一の惨めで、卑しくて、醜い内面を文学的文章でコミカルに仕上げられたこの小説。
萬壱ファンとしては楽しめたけど、相変わらず万人受けしないだろうなぁ~って内容だったわ。
読んでいて思わずぐぬぅっと顔をしかめちゃうような描写と、相反するくらい読みやすくて染み込む文章のナイスマッチングを今回も堪能させて頂きましたってことで満読感7点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

12Pより。
―――淑子の料理はおしなべて薄味で、毎夕出てくる野菜の具が山になった味噌汁を浩は特に嫌がった。―――
「おしなべて」
全体にわたって、一様に、概して、っていう意味みたい。

17Pより。
―――九十分一万三千円プラスホテル代は、もう何カ月も前から本棚の『碧巌録』の箱の中に隠してあった。―――
『碧巌録』(へきがんろく)は中国の仏教書であり禅宗の語録。
別名で仏果圜悟禅師碧巌録、碧巌集とも呼ばれるようで全10巻の書物のようで。


85Pより。
―――紙魚は本を食べる害虫であり、私はよく「寄るな。あっちへ行け紙魚女」などと呟いたものだ。―――
シミとは昆虫鋼シミ目の昆虫の総称で、世界では約550種が知られている。
体を魚のようにくねらせながら移動し、紙を食べることから日本では、紙魚(シミ)という漢字が当てられている。
世界中に広がっているセイヨウシミは、カーペット、服、コーヒー、砂糖、パンやクッキーのくず、髪の毛、昆虫の死骸、絹、接着剤、人工繊維など、非常に幅広く様々なものを食べるみたいだね。

104より。
―――この文学賞は、『三つ編み腋毛』やその後の『業罰隠者』によって半ば伝説化する事になる坂下宙ぅ吉など、ごく一部のコアな読者にしか支持されない文学的アウトローの為の賞である。―――
「さかしたちゅうきち」
吉村萬一の『独居45』にてがっつり語られる架空の作家。
むかし読んだけどもう全然覚えていない・・・・・記録は大切だわわわ。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
って↑では書いてあるけれど、なんだか亜美子と淑子の二人を書いてみたい衝動に駆られてしまったので、今回は特別におじさんのイメージ画像を描いてみることにしました。(下の人は江川浩一のつもりです)

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男に撫でまわされるためにこの世に生まれてきたような奇跡の肉体の亜美子と、手書きの文字で「LOVE」と書いた淑子・・・・・どちらがいい?と聞かれたら。
う~むむ、亜美子・・・淑子・・・亜美子・・・ぎょぎょっ・・・・・御意~~~!!!