忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

回遊人 読書感想

タイトル 「回游人」(文庫版)
著者 吉村萬壱
文庫 222ページ
出版社 徳間書店
発売日 2017年9月26日

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<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「回游人」だけ
(ブログを始める前に『ボラード病』やら『バースト・ゾーン―爆裂地区』やら『独居45』やら色々読んでいる)


<< ここ最近の思うこと >>

タイムリープものといえば『時をかける少女』とか『バタフライエフェクト』とか『テネット』・・・・・は逆行だから違うか。

10月18日、急に冷え込み人恋しくなる
こんな時はしっぽり大人の恋愛モノを読んで心ほっこりしようじゃない。
数年前に読んだ『臣女』が予想外にしっとりしたラストだったから、久しぶりにあの感覚を味わいたくて選んだこの作品。

本格的な冬を迎える前に、心をほっこりさせようじゃないの!
タイムリープ系の有名作品をあまり鑑賞していないと語る鬼才の作者。
彼が描く大人の偏愛を味わっちゃおうぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

小説家の江川浩一(四十四歳)は妻(淑子)と一人息子(浩)の三人暮らしで、平凡ながらも平和な暮らしを送っている。

しかし最近はスランプになってめっきり書けなくなった江川浩一は、収入がまったくなくなってしまいついに貯金を切り崩して家計をやりくりしている状況に。
やっとの思いで書き上げた短篇は没になる、醤油のミニボトルさえ自由に買わせてもらえない、一人息子は懐かない、妻の女友達は情熱的なナイス・ボディ!
現状を打破する為に(現実逃避)出奔して、やって来たのはかつてアイデアが生まれた肉体労働者の街。

そこで偶然にも見つけた白い錠剤を飲むことによって、何かが変化するかも知れないという好奇心に流されて、宿で錠剤を飲み眠りについた。
意識が戻ると、江川浩一は十年前の自分自身にタイムリープしていることに気づく。

ブラッド・キング、熟女の品格、脇田診療所、尿瓶、プチ家出、数粒の白い錠剤、別の人生、マッスルゴールド、淑子と結婚した日、お化けアパート、醤油の入ったミニボトル、ネット預言者、やり直しだ、アレがないよ、未来を生きたい、もう一回だけ!・・・・・。

人生をやり直すチャンスを得た江川浩一は、真っ先に淑子の女友達である亜美子(ナイス・バディ!)を手に入れようと動き出す。
彼を待ち受ける二度目の十年は、果たしてどのような未来に進んで行くのか?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///すき間時間だからこそ創作できる?///
勤めていた会社を辞めて物書き一本の生活をし出したら、だんだんと書けなくなっていった主人公。
23Pより。
―――会社を辞めたら幾らでも各時間がある筈だったが、僅かな時間の中で書けていたものが、有り余る時間の中で見えなくなっていった。―――
この出来なくなる現象には共感するわ。
おじさんも出勤前の短い時間に感想とか絵とか作業してるけど、いざ休日になると全然出来ない(笑)
ほんと不思議~( ̄▽ ̄)

///一万円が五千円に、その結果・・・///
小説のネタやインスピレーションになるのなら多少の危険やリスクは顧みない主人公。
売春地域のさらに奥にある激安地帯にて、さらに半額に値引いた嬢を選んでみたら・・・。
61Pより。
―――突然眼前に迫ってきたエアーズロック張りの尻の割れ目にふと目にした女の肛門が、崩れ掛けた木組みの古井戸のような複雑な構造を持っているのを知るに及んで、私は自分がこの世の地獄にいるのだと観念した。―――
この世の地獄て(爆笑)
激安嬢に一体どんな期待をしていたのか?
どう考えても損しかしないだろうて。
しかしこの後も彼は危険な好奇心に抗えず「ちょんの間通り」や「マッスルゴールド」にて強烈な体験と後悔を味わうことに(;^ω^)

///鬼才の文学作家が語る大人の表現が染み込んでくる///
164Pより。
―――私は夫婦間の依存関係のようなものを求めていたのかも知れない。亜美子との営みの最中にも、「ちょんの間通り」での痩せて髪の長い女との交接を思い出す事が度々あった。二人が弱ければ弱いほど一緒になる事で強くなる結び付きのようなものに、私は飢えていたのだと思う。―――
弱ければ弱いほど一緒になる事で強くなる結び付きかぁ。
単語で済ませるんじゃなくて文章でしっとりさせてくるのが文学だよね。(文学・・・で合ってるかな?)

あとこの描写も好きだわ↓
181Pより。
―――その時淑子は、真っ直ぐ夜の海を見て、前歯で下唇の半分を噛み、残り半分を膨らませていた。感情が上手く言葉にならず、しかし何か重大な決断を下す時の、それは淑子の癖だった。―――
キュンキュンするようなものではなく、じんわりと染み込むような表現なのよ。
エロ、グロ、ゲイみたいな刺激物だらけのお話の中に、こーゆー吸い物みたいに出汁の利いた文章がぽつぽつ入ってるから吉村萬壱は好きなのよねぇ~。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///白い錠剤とはなんなのか?///
首縄飯店の床に落ちていた白い錠剤。
これを飲むことによって江川浩一は10年前にタイムリープできるんだけど、とにかくその辺の理由は一切説明されていない。
読む前から大体そうなんだろうなぁ~って思っていたから、さほどガッカリはしていないけどね。
(今度よく行く中華料理店の床に白い錠剤が落ちていないか調べてみようかな・・・・・飲む気はないけど)

///タイムリープの影響とは///
タイムリープは主人公だけではなく周りにも影響を与えているようで。
その巻き添えみたいになった人物もいるんだけど、どうしてそうなるのかわからないまま終わる。
まあ、吉村センセイの小説だし・・・・・それに10年前にタイムリープした男の生き様を愉しむお話だから、細かいことなんてどーでもいいんだよ(ほんとは細かい設定を知りたい派なんですけどね)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
物語は江川浩一の視点で終始語られている。
なので主人公のダメダメだなぁって内面をこれでもかってくらい味わえる内容になっていた。
人間のどうしもうもない部分をこれでもかってくらい描く吉村萬壱節は健在で、この独特な読み心地が気に入っているのです。

そして主人公が中年男性ということもあって、おじさんとしては共感しやすく馴染みやすい内容だった。
(あえて危険な所に飛び込むような蛮勇?とか行動力には共感できないけれど、読者としては嬉しい展開よね)

///話のオチはどうだった?///
こーゆー終わり方かぁ・・・・・う~ん・・・・・『臣女』のようなイイカンジ系ではなかったわ。
まぁ主人公がこんなキャラだからこの終わり方にも納得するしかないわね。
なんと惨めなって思ってしまうけど、実際に錠剤の作用で10年前に戻れたら、おじさんも江川浩一のようにグダグダとした10年を過ごしてしまいそうな気がする。
(まずやり直したい事っていうのもこれと言ってない・・・・・いやないこともないか)

///まとめとして///
小説を書けるようになるため、文学的背徳感を求め続けた哀れな男の物語。
ほんとうにどうしようもない主人公だったけど、なぜか憎めないのが吉村萬壱の作り出すキャラクター。
(主人公のどうしようもなさが『闇金ウシジマくん』の○○君たちを連想させる)

江川浩一の惨めで、卑しくて、醜い内面を文学的文章でコミカルに仕上げられたこの小説。
萬壱ファンとしては楽しめたけど、相変わらず万人受けしないだろうなぁ~って内容だったわ。
読んでいて思わずぐぬぅっと顔をしかめちゃうような描写と、相反するくらい読みやすくて染み込む文章のナイスマッチングを今回も堪能させて頂きましたってことで満読感7点!(10点満点中)
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

12Pより。
―――淑子の料理はおしなべて薄味で、毎夕出てくる野菜の具が山になった味噌汁を浩は特に嫌がった。―――
「おしなべて」
全体にわたって、一様に、概して、っていう意味みたい。

17Pより。
―――九十分一万三千円プラスホテル代は、もう何カ月も前から本棚の『碧巌録』の箱の中に隠してあった。―――
『碧巌録』(へきがんろく)は中国の仏教書であり禅宗の語録。
別名で仏果圜悟禅師碧巌録、碧巌集とも呼ばれるようで全10巻の書物のようで。


85Pより。
―――紙魚は本を食べる害虫であり、私はよく「寄るな。あっちへ行け紙魚女」などと呟いたものだ。―――
シミとは昆虫鋼シミ目の昆虫の総称で、世界では約550種が知られている。
体を魚のようにくねらせながら移動し、紙を食べることから日本では、紙魚(シミ)という漢字が当てられている。
世界中に広がっているセイヨウシミは、カーペット、服、コーヒー、砂糖、パンやクッキーのくず、髪の毛、昆虫の死骸、絹、接着剤、人工繊維など、非常に幅広く様々なものを食べるみたいだね。

104より。
―――この文学賞は、『三つ編み腋毛』やその後の『業罰隠者』によって半ば伝説化する事になる坂下宙ぅ吉など、ごく一部のコアな読者にしか支持されない文学的アウトローの為の賞である。―――
「さかしたちゅうきち」
吉村萬一の『独居45』にてがっつり語られる架空の作家。
むかし読んだけどもう全然覚えていない・・・・・記録は大切だわわわ。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
って↑では書いてあるけれど、なんだか亜美子と淑子の二人を書いてみたい衝動に駆られてしまったので、今回は特別におじさんのイメージ画像を描いてみることにしました。(下の人は江川浩一のつもりです)

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男に撫でまわされるためにこの世に生まれてきたような奇跡の肉体の亜美子と、手書きの文字で「LOVE」と書いた淑子・・・・・どちらがいい?と聞かれたら。
う~むむ、亜美子・・・淑子・・・亜美子・・・ぎょぎょっ・・・・・御意~~~!!!