忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

不死症 読書感想

タイトル 「不死症」(文庫版)
著者 周木律
文庫 384ページ
出版社 実業之日本社
発売日 2016年6月3日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「不死症」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

2022年の9月にふと思った。
最近、記憶に残るゾンビ映画が少ない気がする。
「ドーンオブザデッド」は素晴らしい仕上がりで「28日後」シリーズも面白い。「バイオハザード」は・・・まあⅡまでならありかなぁ。
でもってゾンビもしくは感染者って獲物を食べているんでしょ?それなのに食害描写や被害が全然ないのはどうかと思う。最近では流血描写さえほとんどない作品も。
まあいろんな人に配慮とか規制とか興行収入の儲けとか、理由はあるんだろうけど合理的になりすぎるのはどうだろうか。
蒟蒻レバ刺しでは満足できない時だって人間あるでしょうに。

そんなこんなで今回はコチラ。
たしかTwitterで紹介されていて、気になったから購入してみた。
ゾンビ系の小説は以前に会社の上司から貸し出された「ワールドウォーZ」しか読んでいなかったと思う。あれはあれで歴史を味わっていくような、初めての内容だったなぁ。世界大戦感はよく伝わってきた物語だった。
なので日本人作家のゾンビ小説は今回のが初めてだね。
ではでは、周木律の作り出したバイオホラー&ミステリーの世界へ飛び込むぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

長野と岐阜の県境にある山村の奥神谷。そこに建つ平成製薬奥神谷研究所で突如、謎の大爆発が起こる。
爆発したのは敷地内にある被験者棟で、その瓦礫の中で泉夏樹は目を覚ます。
自分の仕事や研究に関する記憶を無くしていた彼女は、瓦礫の中から這い出して同じように生き残った生存者たちと状況の確認をする。
その時、新たに現れた一人の生存者が夏樹たちに向かって歩いてきた。
様子のおかしい生存者を不審に思う夏樹たちだが、近づくにつれて進むスピードを速める生存者はついに全力疾走で飛びかかってくる。

人肉食、大爆発、SR班、6人目の生存者、BSL4、人間と似て非なる何か、ぱきん、ウェンディゴ、生き延びるぞ、不老不死、陸上自衛隊、新たな逃避行、テロ、研究棟、ファージ、生還、提案、最初の兆候、被験者棟、新種、首謀者、静かな防衛線、三十五年、泉夏樹、一枚の写真、さようなら・・・。

夜になり、どこからともなく出現してきた者達は夏樹たちに襲い掛かってきた。
訳も分からぬまま戦い逃げ惑う彼らはやがて施設ゲートに辿り着くのだが、そこには想像もしていなかった絶望が待ち構えていた。
被験者棟で夏樹は一体何をしていたのか?
なぜ奴等は襲い掛かってきて、一心に貪るのか?
施設を完璧に包囲している者達の目的は何なのか?
一人、また一人と仲間が倒れていく中で、夏樹は生きて地獄の研究施設から脱出できるのか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///人類と菌の終わらない戦い///
襲撃者を撃退し、出入口ゲートを目指す一行。陽の暮れた暗い道を歩きながら信は記憶の欠落した夏樹に奥神谷や平成製薬、当研究施設の業務内容などの情報を教える。
48Pより。
―――菌と抗菌剤とのいたちごっこ———————言いえて妙だと夏樹は心の中で頷いた。―――
いたちごっこになるほどと共感しましたわ。
常に人類側が一歩先を進んでいないと大変なことになるもんね。まさしくコロナがそうだった訳だし。
すぐ成果が出る訳じゃないけど、けして疎かにしてはいけない研究なんだよ。
何でもかんでも予算削ればイイってもんじゃないわな。
それにしても、菌って一体どんなタイミングで様々な耐性を持つようになるんだろうか。

///ゾンビものならやっぱこうでないと///
道中に建つ倉庫の窓に人影を見たと言う棟管理人の蝉塚。
何か事情を知っている人間がいるのでは?と期待して、念の為に身を潜めつつ窓から覗き込む夏樹たち。
生存者の一人である小室井も、夏樹たちと少し離れた別の窓から覗き込むが・・・。
62Pより。
―――踵を上げると———————怪訝そうに窓の向こうを覗き込んだ。
その瞬間。
「うわああっ!」
小室井が絶叫した。―――
先の展開が分かっていてもこーゆー場面はドキドキさせてくれるから興奮したわ。
そして見るに堪えない悲惨な状況・・・これこそ食人ゾンビものだよ。
もし同じ状況だとしても、おじさんなら絶対に見に行かないな。
(つーか、中にいた奴らはなんで走っていたんだろ?)

///一体なんの前触れなのか///
施設内の安全を確認するために視察する自衛隊の松尾。
滅茶苦茶になった施設を復興するために動き回る人々を見て、ふとした違和感を感じていた。
261Pより。
―――問う夏樹に、松尾三佐は僅かに首を傾げた。
「どうも奇妙に思えるのだ。皆、やけに快活に見えることが」―――
あららもう終わっちゃったの?って思っていたら、なんだか妙なことになり始めて・・・。
ここから今までのジャンルとは違うベクトルへ展開していったね。
突拍子もない展開の連続で驚いたけど、こーゆーもんだと受け入れてみれば充分楽しめる後半戦だよ。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///普段から鍛えていたんですかね?///
襲い掛かってくる集団を廃材で殴り倒し、なんとか生き残った夏樹たち。
しかし第一陣よりも多い第二陣がすぐ近くまで迫って来ていた。
絶望する夏樹たちに向かって、信は持ちこたえてくれと言う。
123Pより。
―――より激しく、よりシビアで、より凄惨な戦闘が再開された。―――
他の読了者も気になっていたみたいだけど、この人たちの体力と戦闘センスはどうなっているんだろうか。
研究者と初老の管理人が何人もの敵を鈍器で殴り(脳を破壊する威力)続けて、さらにもっと多数の敵を相手にするとは。しかも血しぶき一つ自身の粘膜に付着させず戦い続けるなんて。
まぁ、人間死ぬ気になれば予想外の力が出せるってことなのかなぁ(;^ω^)

///ネタバレ注意の疑問///
かなりネタバレな部分の疑問点なので、読みたい人は反転してみてね。
322Pより。
―――分泌するψテロメラーゼこそ不安定だったが、不老不死原虫そのものは強靭で、高い繁殖性を持つ上に、酸の中でむしろ活性化する性質を持っていた。―――
これだけ強い原虫がなぜ今までずっと繁殖もせず、まったく発見されなかったのか?
偶然発見されたのはまだいいとしても、強すぎる原虫がずっと見つからなかった理由は知りたかった。
奥神谷がド田舎過ぎるから発見されなかったとか?
あとマウスで行った実験の結果、老化現象が起こらなかった理由の説明がなかったような気がする。
動物には悪さしないのかな?でも一切の老化はなかったみたいだし・・・なんでやろか。

///いつも気になるところ///
全体を通してなんだけど、感染者たちはどうやって襲う対象を判別しているんだろうか?
視力は弱く音には敏感って、それだけじゃ自分以外の者を手当たり次第に攻撃しまくるだけじゃないの。
作品によっては「重症化する病原菌の有無」だったり「感染者から出る匂い?フェロモン?」から判別していたりと、理由を考えているものもある。
(中にはメイクと挙動だけで仲間と判断される映画作品もあったりね)
ゾンビ映画好きとしてはやっぱり気になっちゃうのよ。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
主人公である泉夏樹を中心とした三人称視点で物語は語られていく。
帯にも書いてあるように、この小説は「ホラーミステリー」というジャンルになっている。だから終始ゾンビと戦うっていう内容ではない。
大まかに分けて、前半はホラースプラッタ系で後半はミステリーってな構成かな。
未読の人はそのへんを注意しておいた方がいいかもね。

あくまでも個人的な感想だけど、『不死症』という小説は読書経験の浅いもしくは小説初心者にはオススメな作品だと思った。
(あとゾンビ映画を観慣れていない人にもオススメかな)
様々な小説を読んでいる読書歴長めな人には、物足りたいと感じてしまう部分が多々あるかもしれない。
もう一度書くけど、あくまでも超個人的な感想でね(^^;)

///話のオチはどうだった?///
一般的なゾンビ映画のように、結末がはっきりしない終わり方になるんじゃないかと思ったけど、綺麗にスパッと終わらせてくれたらから良かったわ。オチとしては幸せなもんではないけれど、おじさんはけっこう好きな締め方だよ。後味も悪くないし。
美しい、可愛い女性がカッコよくビシっと決める姿ってたまらないのよね(*´ω`*)

まーね、う~ん?と思っちゃう部分もいくつかあったけど、細かいことを深く考えたり、読み終えて何かを学んだりするような話じゃないと思う訳よ。
良作のホラー映画やゾンビ映画もそんなもんじゃん。
一時でもワクワクドキドキ出来て、最後にイイ感じの雰囲気を味わえればそれで良しってことにしよう。

///まとめとして///
改行の多い文章、簡素なセリフや描写、帯の過激な煽り文句や今風のイラスト表紙。
おじさんが想像するに、『不死症』は新規の読書人を増やす為、普段から全く小説を読まない人達に向けて作られた一冊なんじゃないかと思った。
その結果は・・・・・どうだったんだろか?
思い返せば携帯小説ブーム、山田悠介ブーム、毎年騒がれる村上春樹ノーベル文学賞ブーム?と時代を経てきた訳だけど次に来る波はどんなモノになるんだろうねぇ(´-ω-`)

相変わらず新規の増えないどころか、年々減り続けている(気がする)小説の読書人口。
でも諦めずに続けることで、いつかきっと目指すところに辿り着くんじゃないかな。
作中の夏樹ちゃんみたいに。
周木律は『不死症』の他にも『土葬症』と『幻屍症』っていうシリーズを出している。
コツコツと積み重ねていくことが大切!
勝手にそんなこと考えながら、小説文化が永遠に続くことを願ってしまう満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

9Pより。
―――語彙や知識はきちんとあった。先刻からきちんと日本語で思考しているし、加法定理だって諳んじられる。ただ、彼女自身に関する記憶のみがなかった。―――
加法定理、加法法則、加法公式とは、ある関数や対応・写像について、2 つ以上の変数の和として記される変数における値を、それぞれの変数における値によって書き表したものであり、様々な加法定理が世の中に存在している。
いやぁ~ぜんぜんわからん(笑)

44Pより。
―――「日本列島改造論に湧く当時の世相じゃ、抗いようがなかったんだろうね。―――
日本列島改造論は、田中角栄自由民主党総裁選挙を翌月に控えた1972年6月11日に発表した政策綱領、およびそれを著した同名の著書。
日本列島を高速道路・新幹線・本州四国連絡橋などの高速交通網で結び、地方の工業化を促進し過疎と過密の問題と公害の問題を同時に解決するといった内容でイタリアやアメリカを例にしたものらしい。
北部を工業地帯に、南部を農業地帯にすべきであるという主張や、電力事業における火力発電から原子力発電への転換についても語られていたとか。
グリーンピア施設か、懐かしい名前だ。

―――元々地元を潤わせるっていう下心が見え見えで、そもそも本当に役立つのかっていう疑問も提起されていたからね。侃侃諤諤の後で、結局、ダム建設は中止されたというわけ」―――
「かんかんがくがく」とは遠慮なく直言すること。大いに議論すること。

103P~104Pより。
―――ある種のビタミンが欠乏すると、表情が失われるのだ。あるいは狂犬病の亜種ならば、彼らが音に敏感だという特徴が説明できる。狂犬病患者は、水や音のような刺激をことさらに嫌うのだ。―――
ビタミン不足によって無表情になるってのはネットで軽く調べてみたけどわからなかった。
鬱病の人とかも表情があんまりない気がする・・・あくまでも気がするだけ。
狂犬病に罹った者が音や水の刺激を嫌うのかもわからなかった。
症状に神経過敏があるから、とりあえず刺激全般が怖くなっちゃうのかな?
恐ろしい病気だわ(>_<)

240Pより。
―――だからかは知らないが————————安堵しつつも、夏樹はいつまでも、戦きを隠せずにいた。―――
「おののき」とは恐ろしさ・寒さ・興奮などのために、からだや手足が震えるってことみたい。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

365Pの夏樹ちゃんの場面を描きたい!って思ったけど、それはあまりにも終盤過ぎるので止めとこ。
108Pの横一列になって走ってくる奴等の場面も印象深いね。まるで映画『28週後』みたいでゾクゾクしてくる。だけど今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ

309Pより。
―――「・・・・・あ、あああ」長い呻き声を漏らした。
夏樹の頭の中で、今、世界がぐるぐる回っていた。
何が起こったのか、何が原因なのか、今のこの事態は何の結果なのか、そもそも自分はどう関わっていたのか。すべてが、ここには書かれていたからだ。―――

 

闇に香る嘘 読書感想

タイトル 「闇に香る嘘」(文庫版)
著者 下村敦史
文庫 448ページ
出版社 講談社
発売日 2016年8月11日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・今回の「闇に香る嘘」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

2022年の八月末。
今年も24時間TVの季節がやってきたね。若いうちは出演者へのギャラの方が高いチャリティー番組なんて辞めちまえって思っていたけど、最近ではそれでもやらないよりはマシかって考えるようになってきている。一切見ていないけど(^^;)
そんでもってこの感想を書いている時にBS日曜アニメ劇場では『おおかみこどもの雨と雪』がやっているじゃないか。これも初めて見た時は微妙だったけど、年月を経た今見てみると妙にしっとり胸に染み込んでくるのが不思議。

そんなトピックスから導き出される今回の小説はコチラ。
乱歩賞受賞作に名前が載っていて気になっていたけどハードカバーしか売っていなくて購入していなかった作品。だけどついに文庫版が出たから購入しちゃった。
あらすじやタイトルから想像するに少しお堅そうな物語かな?でもでもそこは乱歩賞作品。
おもしろさは間違いなく保証されているに違いない、違いないと信じている・・・・大丈夫だよね?
じゃあ行くか、光の消えた闇の世界。
初めての盲目主人公が奮闘する未体験ゾーンへ、いざ飛び込まん(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

悪天候の中で入港した大和田海運コンテナ船。
その積み荷に詰め込まれていたのは死屍累々の密航者達だった。
異常な状況で慌ただしくなる現場から、二名の密航者が運良く逃げだし夜の闇へ消えて行った・・・。

41歳の時に視力を失った元カメラマンの村上和久は、病院で検査の結果を待っていた。
娘である由香里に頼まれて腎臓の透析患者である孫の夏帆に移植をする為、適合出来るかどうかの検査を受けに来ていたのだった。
別れた妻や由香里に迷惑をかけてきた和久は、償いの為にも腎臓移植に賛成していたのだが、結果は落胆するものだった。自身の不甲斐なさに落ち込む和久が家に帰ると、岩手の実家で母親と暮らしている兄の竜彦から電話がかかって来て、久しぶりに帰って来いと誘われる。
その時、和久は思いついた。
兄である竜彦の腎臓なら、まだ望みはあるかもしれない。

全滅だ、生存者、無償の提供、六親等以内の血族なら、不可解な俳句、まるで別人のように、残留孤児の未来を取り戻す会、棄民、剝き出しの増悪、『今』を生きるしかない、ヒ素の小瓶、煙草の残り香、火傷の痕、忠告はしたぞ、東京入国管理局、墓、無言の恩人、卑怯な嘘、もうどうでもいいことだよ、告発、事件性なし、偽装認知、誘拐、墨の匂い、私に力を貸してくれ、動画、真実、心の目、二人目、頼みがあるんだ、本当の家族・・・。

由香里と供に岩手へやってきた和久はさっそく竜彦に腎臓の提供者になってほしいと説明するが、その願いは断られてしまう。結果に関わらず適合検査だけでも受けてくれれば謝礼もすると和久が食い下がってみるのだが、それでも竜彦はきっぱりと拒否した。
岩手で一緒に過ごす間に、和久はある疑心を抱くようになる。
老いた母と暮らしている竜彦は、本物の実兄なのだろうかと。
満州国からの引き上げ時に離れ離れになってしまい、四十年間も中国残留孤児として生きてきて、1983年の訪日調査で帰国してきた村上竜彦。だが実際は別人が成りすましていおり、だから適合検査も拒否するのではないのか?
疑念は強まるばかりで、和久はついに自分で真実を暴こうとするのだが・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///バカでも出来る育成方法///
「残留孤児の未来を取り戻す会」の会長である磯村鉄平に話を聞きに来た和久。
磯村は中国での悲惨な体験と残留孤児らに対して日本政府が行った非道を語る。
95Pより。
―――養父母は厳しかった。棍棒老子——————棍棒の下にこそ賢い子が生まれるという意味の言葉だ。それを信じ、骨が折れるほど私を殴った」―――。―――
嫌だねぇ~、こーゆー躾け方はどこの国でも同じようにあるもんなのか?
最近では体罰や虐待がすぐに周知されて即対応されるようになってきたから、情報化社会になってよかったことの一つだよ。
(もちろん見つかっていない事案も山のようにあるんだろうけどさ)
いつも寝起きが悪く時間にルーズな友人がいるんだけど、そいつを矯正するために「根性精神注入棒」を購入しようか皆で悩んでいたあの頃が懐かしい(笑)
今となっては遠い日の思い出・・・・・イカン、思わず気持ちが脱線してしまった(;´Д`)

///地獄の未来か絶望の死か///
夏帆が透析を終えるまでの間、暇つぶしとして和久は満州での出来事を語り始めた。
若い男が徴兵されて、ソ連兵が迫っていると噂が広がり、和久一家も逃避行へと旅立つのだが道のりは険しくソ連軍の攻撃機に見つかれば機銃掃射を浴びせられる。
それでも歩き続けてきた開拓団員たちだったが、終わりの時はやってきてしまう。
116Pより。
―――武器は団長が所持している拳銃と手榴弾だけだった。
「・・・・・大和魂を見せるときが来た」老いた団長が団員を見回した。―――
生き延びても地獄しかない状況で行われる集団自決の描写が強く印象に残った。
もしも自分だったらどうするのかっていつも考えちゃうけど、バブル期直前に生まれたおじさんだったら自決するなんて怖くてできないなぁ。でも時代と教育によって決断する内容は変わるんだろうけど。
思い浮かぶのは映画『ミスト』だね。もう少し、あと少し早ければ・・・。

///和久に訪れる数々の試練///
岩手の実家で葬式を終えた和久。
先に東京へ帰宅した由香里から連絡が入り、夏帆が小学校から戻ってきていないと告げられる。
その直後、正体不明の人物に襲撃されてしまう。
317Pより。
―――何者かに羽交い絞めにされたのだと分かった。
「な、何をする!」
右腕で肘内を食らわせようとした瞬間、巻きついた腕に反らされた喉元に冷たいものが押し当てられた。―――
吹雪の北海道でもそうだけど、和久にとっては常に死と隣り合わせな毎日が当たり前だもんね。
それなのに健常者でもあぶない事件に巻き込まれていくなんて、どーなるの?どーなっちゃうの!?って、おじさんもう続きが気になってしょうがなかったわ。
この物語でまさか荒事なんて起こらないでしょって舐めてかかっていました、嬉しい誤算てやつだよ。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///わかっちゃいるけど止められないのか///
残留孤児支援団体のボランティア女性から、同じ開拓団だった人物を紹介してもらった和久。
兄の話を聞く為に待ち合わせの約束を取り付けてもらった。
そしていつものように、就寝前に酒と薬を併用する。
149Pより。
―――焼酎で二錠の錠剤を飲み下し、ラジオをつけた。―――
つい最近の記憶の欠落も自覚している和久。
大切な目的がある現状で、しっかりしないといけないから酒&薬のカクテルは飲んじゃダメでしょうに。
それとも不安要素が増えたせいで、ストレスも増加してるから飲まずにはいられないってヤツなのか?
まぁ、気持ちはわかるよ。おじさんも残業したり少しでも嫌なことがあると、すぐに肴も無しで晩酌に逃避するし。

///早期治療に賭けていれば・・・///
結婚し、子供も生まれてマイホームも持った和久はカメラマンの仕事で全国へ飛び回る毎日を送っていた。目が霞むようになり、仕事に支障をきたすようになってきてから眼科を訪ねたのだが、診断結果は深刻なものだった。
175Pより。
―――説明を聞いて怖くなり、拒否した。月日をあけ、再び眼科を訪ねたときには手遅れだった。―――
いやなんで拒否なんだよ?
病気放置で失明が決定しているのなら、回復の可能性がある方を選ぶのが当たり前でしょうに。
この状況ならおじさんでも手術受けるわ。だってほぼノーリスクハイリターンの賭けじゃないの。
でも実際その立場になると・・・・・いやぁ~やっぱり手術するでしょ。
個人的には意識のない時にやっちゃってもらいたいから、局所麻酔だと恐怖感半端ないのは共感。

///行政サービスは活用しないと///
犯罪者が潜んでいる可能性が強い場所へ乗り込もうとする和久と由香里。
援軍の必要を感じて、和久は一度断られた入国警備官へ再度助けを求めるのだが。
353Pより。
―――「可能性はある」私は携帯を取り出した。「待っていろ。もう一度、入管に電話してみる」―――
明らかにヤバすぎる状況なんだし、多少ウソついてもいいから警察に通報しても良かったのでは?
まぁ、平常心で安全な立場の読者と切羽詰まった登場人物では冷静さが段違いだからね。
その場で適切な判断が出来ないのはムリもないか。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
ほぼすべてが和久の視点?主観から語られる作り。
盲目の年老いた主人公が語る世界って、大丈夫かなぁ退屈しないかなぁと不安だったけど、すぐに杞憂だったと思い知りましたわ。
見えないもどかしさがおじさんをドキドキハラハラさせて、時に悶々と焦らしつつ好奇心を煽ってくる。

『闇に香る』は初っ端から衝撃的な場面から始まる。
その予想外で壮絶な展開が一気におじさんの心を掴んできた。まさしく掴みはオッケーってヤツかと。
それに真昼間の街中を歩くだけで命懸けの和久が、どんどん危険な状況に陥っていくスリルな展開も面白い。お堅めで静かなミステリーだと予測している未読者の方々、是非とも強烈な先制パンチを味わってみてくだされ。

///話のオチはどうだった?///
今回も作中で一番のビックリネタはコレかもって想像して読んでいたら、なんと当たってしまった。
でも理屈も推理も一切なしで、物語の構成的に勘で思いついた答えだから、何の自慢にもなりゃしない。
こーゆー読み方はアカンなぁ。
知らないままネタ明かしを迎えたほうがもっと楽しめたのに、もっと衝撃を感じられたのに、勿体ないことをしてしまった。

乱歩賞作品だからと言って、最後の最後に度肝を抜かれる仕掛けがある訳じゃない。
『闇に香る噓』は穏やかな終わり方だったけどそれで良いと思う。
超重量級に仕上がった骨のあるストーリー(どんな感想だよ)と、家族というものの尊さを一時でも感じることができただけで十分なのよ。
おじさんの年齢でこれだけ楽しめたり共感できたりしたんだから、和久と同じくらいの歳でこの小説を読んでしまったらどうなるのか?
きっと滂沱の涙を流してしまうに違いない(ノД`)・゜・。

///まとめとして///
盲目の主人公と、文字だけの読書ってなんか似ているような気がする。
文章だけでいろんな場面を想像していく感じとか。架空の場面を想像する作業とか。
もしも、いつか視覚障害で本が読めなくなってしまったら?
おじさんの数少ない生きる理由がまた一つ減ってしまうじゃんよぉ。
今のうちに点字を軽くかじっておくか、もしくはアマゾンのオーディブルに手を出してみるか。
なんにせよ、テクノロジーの進化は真っ先に障害や病気で困っている人々を助ける為に発展してほしい。

読了してから少ない脳力をギリギリと振り絞って考えてみた。
自身の周りで当たり前にあることはすぐに見えなくなってしまう。
おじさんは沢山の当たり前に囲まれているから、色んなものが見えなくなっているんだろうなぁ。
改めて己の周りをよく見直して、大切なモノをずっと大切にしていこうっていう満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『闇に香る噓』は第60回江戸川乱歩賞受賞作品なのです!

『闇に香る噓』は応募時・受賞時のタイトルは『無縁の常闇に嘘は香る』だったらしい。
だけど「タイトルが意味不明」(石田衣良)、「作品のコンセプトを語り過ぎている」(桐野夏生)、「とにかくタイトルを何とかしてほしい」(今野敏)と総じて不評だったようで、改題に至ったっていう小ネタがあるらしい。
うーむ、タイトルって大切だよね~。

7Pより。
―――横揺れを半分以上減衰させるビルジキールも効果がない。―――
ビルジキールは、船体の動揺を少なくするために、船首から船尾まで船底湾曲部に沿って取り付ける板。
船底に付いている小ぶりな突起部分にそんな意味があったとは知らなかった。
ちなみに砕氷船はビルジキールを付けられないみたいで、氷に当たって壊れちゃうからってことらしい。

59Pより。
―――医師の話によると、片方の腎臓が摘出された場合、一時的に機能が低下するものの、時間が経過すれば残ったもう一方の腎臓が代償して八割程度まで回復するという。―――
一つだけになった提供者の腎臓は血流が増えてゆっくり肥大し、最終的には提供前の腎機能と同じくらいになるらしいけど、もちろん一つしかないから病気などになれば透析療法など必要になる。
腎臓が一個でも二個でも、常に健康的な生活を心がけないとアカンのよね。

66Pより。
―――『スンガリーにはソ連の軍艦が待ち構えちょるらしいぞ。子の泣き声は銅鑼も同然だ。口を封じる』―――
松花江満州語でスンガリー)は中国、黒竜江の支流で東北地区の中心部を流れる大河。

94Pより。
―――私たちは難民収容所に押し込められたが、そこではコーリャンの粥一杯が唯一の食事だった。―――
モロコシはイネ科の一年草のC4植物・穀物。外来語呼称にはコーリャンソルガム、ソルゴーがある。
コーリャンの粥か、お米の粥と見た目は同じっぽいけど、味は米よりあっさりしている感じかな?

110Pより。
―――母に聞いたところ、無患子の実を使った羽根は、文字どおり子の無病息災を願う願掛けに使われるという。―――
ムクロジムクロジムクロジ属の落葉高木。
ムクロジの種子の堅牢さは種子の中でもトップクラスの優れもので、水に浸すと泡立つ果皮は薬用や石鹸として役立ってきたらしい。
ムクロジの実を使ってやる羽子板遊び・・・おじさんの覚えている限りでは経験したことないなぁ。

184Pより。
―――私はアルバムを胸に抱き寄せると、滂沱の涙を流した。―――
「ぼうだ」
涙がとめどなく流れ落ちる様子、または雨が降りしきる様子。

190Pより。
―――点字は習得が難しく、読める視覚障碍者は一割程度らしいが、余生を少しでも快適に生きるために挑戦した。―――
視覚に障害のある人のうち60歳以上が全体の約三分の二を占めていて、高齢になって中途失明する人が増加している。なので点字が読める人の比率は年々下がっているのが実状である。
なるほど、確かに若いうちなら新しいことも覚えやすいけど、高齢になってから新しい言語点字を覚えるのは難しい&気力もないから、読めない視覚障碍者が増えるのは当然なのかぁ。

247Pより。
―――「感熱紙じゃあるまいし、写真は消えないぞ」―――
感熱紙(かんねつし)は、熱を感知することで色が変化する紙。
FAXやレシートで使われているのがそうらしい。
長期保存には向いていなくて印字後に湿気や油分、光などによって変色したり字が消えてしまったりするとのこと。

303Pより。
―――昭和九年三月には、農地を奪われた中国人農民が暴徒と化し、三千人が武装蜂起した。土龍山内事件だ。―――
土竜山事件は1934年3月、満州国三江省依蘭県土竜山にて発生した農民武装蜂起事件である。依蘭事件、または謝文東事件とも呼ばれる。
初期は総数6,700名の民衆軍が蜂起に参加したが、関東軍による包囲戦によって孤立化した民衆軍は800名ばかりに減ってしまう。その後、関東軍の襲撃を受けた民衆軍は大きな損害を受け、総司令の謝は依蘭県吉興河の深山密林地帯に逃げ込んだ。

377Pより。
―――満州には広大な畑が余っている、五族協和のため、日本人が頑張るんだ―――
五族協和とは、満洲国の民族政策の標語で「和(日)・韓・満・蒙・漢(支)」の五民族が協調して暮らせる国を目指すってことらしい。
清朝の後期から中華民国の初期にかけて使われた民族政策のスローガン「五族共和」に倣ったものだったようで。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
満州国ではトウモロコシを良く育てていたって書いてあったけど、書くのが難しそうだったから葉物野菜の畑にしてしまった。
果たして当時の満州国でキャベツや白菜は育てていたのだろうか?
そして書いていてふと思い出した。
この畑って、映画『がっこうくらし』でネット民を驚かせたあの剥き出し野菜畑に似てるんじゃね(;´Д`)


109Pより。
―――熱が引いていた私は、戸を開けて外を覗き見た。青白い月光の下、母は一人、羽子板で羽根を突いていた。地味な色合いのモンペ姿で、黒髪は纏めて手ぬぐいで覆っている。―――

 

 

オービタル・クラウド 下 読書感想

タイトル 「オービタル・クラウド 下」(文庫版)
著者 藤井太洋
文庫 334ページ
出版社 早川書房
発売日 2016年5月10日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「オービタル・クラウド 上」


<< ここ最近の思うこと >>

2022年8月のお盆。
熱、吐き気、寒気、喉の激痛も完全になくなった自宅療養八日目。
体調は回復してもまだ外に出かけるわけにはいきません。
10日間の自室待機はすることが少なくて、たまに部屋の換気をしてはエアコン効いた空間をゴロゴロ。
PCのBFVも一勝負で飽きるしストレスが溜まるし(でもまたすぐにやっちゃうし)映画・・・はなんだかあんまり見る気にならないなぁ・・・なんでだろうか?
そりゃもちろん決まってるでしょ、アレの続きを早く読みたいからだ。
というわけで、『オービタル・クラウド 上』の続きを読んじゃうよ。

物語がイイ感じに煮詰まってきた上巻から、下巻ではどれほど沸き立つ展開になるのか楽しみだ。
でもでも過度な期待は厳禁ってことも分かっているのよ。分かっているけど、期待せずにはいられない。
よーしそれでは、数万もの「雲」が漂う衛星軌道に向かっていざ大跳躍じゃい(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

CIAの手引きでシアトルのホテルを対策本部にした和海たちは、「雲」の詳細を解明しつつ一連の騒動を巻き起こした者達を見つける為、町中に罠を仕掛けて回る。
その間もロニー父娘が滞在する軌道ホテルとつかず離れずの距離を保つサフィール3。
チーム・シアトルはその正体を知っているのだが、アメリカ合衆国では未だにスペース・テザーの存在に確証が持てず、神の杖を破壊する「ホウセンカ」作戦が実施されようとしていた。

一方JAXAの黒崎と関口は、ジャムシェドと和海らの通信を確立するためにインターネットが遮断されたテヘラン工科大学へ向かうが、構内は集会を行う学生達と鎮圧用軍隊、さらにテロリストも集まる不穏な状況になっていた。

その顔だ、ウォードライビング、大跳躍、正式に発令だ、オービタル・クラウド、あなたの席はない、民間人殺傷の可能性、自由インターネットだ、低軌道虐殺、悪い予感、JPEGよ、Dファイ、雲、悪魔じみている、余命二週間、中国の、くだらないですね、残されたる者、ダンス、よろしくお願いします、本当に楽しかった、プレゼント、じゃあ一言だけ、グレート・リープ、白石のプラン・・・。

様々な思惑が渦巻く地球の遥か上空で「軌道上の雲」はいつまでも漂い続けていた。
イランの青年が生み出した発想と日本の技術者が実現した、夢と科学の結晶。
それがもたらす未来は、破壊と犠牲か、人類の大跳躍か。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///一触即発のピンチからまさかの///
テヘラン工科大学にてインターネットの自由化を求める演説をする直前に、武装した男達から演説内容の変更を強要されるアレフ
周辺には大勢の民衆と演説を監視する正規軍部隊が待ち構えてる状態。
今回の集会を利用されたと落胆するアレフの前に、妙な二人組が現れた。
79Pより。
―――アレフの背中に押し付けられた銃口が揺れ、男はアラビア語で続けた。
「ماهيزاマーヒザ(なんだ?)」
銃を空に向けた部隊と群衆の間に、二人の男が立っていた。―――
なんでこんなことになってしまうのか、宗教紛争は本当に悲しいことだわって言ってる場合じゃない!
もう絶体絶命的な状況じゃん、どーするのってドキドキしてたら・・・まさかの展開に(; ・`д・´)
序盤から緊張と緩和の山場が始まっておじさんは自身を叱責しました。
下巻はヤバイ、速いぞ。このスピードに乗り遅れるな!ってね。

///アニメ描写のようにはいきません///
軌道ホテル内にて行った宇宙実験を報告するジュディ。
無重力空間にて何の推力もない状態で空間に停止した場合、どうすれば移動できるのかを説明する。
130Pより。
―――今日は宇宙実験の日。ロニーに、部屋の中央に持ち上げてもらって支えの腕を、そっと放してもらう。一切の支えなしに浮かぶ。どうなると思う?
いくら宙を掻いても、前に進むことはない。宙を蹴っても、伸びをしても、おなかのあたりを中心にぐるぐるその場で回転するだけ。―――
はえ~、知らなかった。でも理屈で考えればそーなるよなぁ。
空中で犬かきしながら少しずつ進むってのがよくあるアニメ表現だけど、現実は違うんだね(笑)
無重力空間で停止してしまった場合は身近なモノを推進剤にする、ということを学びました。

///一分千ドルの講義料は伊達じゃない///
和海らはスペース・テザーを軌道上から排除する方法を検討するが、良い案がまったく思いつかない。
その時、恐らく最初で最後になるかもしれないロニー父娘からビデオ会議の要請が入った。
264Pより。
―――「理論上可能、っていうようなことを実現しようとすると、絶対に大きな壁にぶつかる。民間宇宙旅行なんてことをやった俺が一番よく知っている。一つ、助言させてくれ」―――
もーね、ここは読んでいて胸熱になってしまう場面だったわ。
他にも219Pの心変わりする場面とか、242Pの和海が帰って来てくださいと説得する場面とか、グッとくる箇所は色々あったけど、やっぱり一番心震えたのはここだね。
迷う若者を後押しする年配者のシチュエーションって、どうしてこんなにエモくさせるんだろうか。
(「エモい」の使い方が合っているかどうかは判らずに使っております)


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///彼女の行動力の源は?///
吹雪の中、白石を見つけた明利は単身で武器も持たずに近づいていく。
白石と一緒にいる者が銃器らしきものを構えて、レーザーサイトが自身の体の上を這うように移動しても進むのを辞めない。
190Pより。
―――「蝶羽おじさん!」
明利?屈めていた腰を伸ばそうとするが、チャンスに頭を押さえられた。
「レーザースコープが威嚇にならないわ。日本人ね、誰?」―――
明利はどうしてこんなにも必死に白石を追いかけたのか?
だってレーザーサイトで狙われてるのにまったく動じない程の覚悟って相当でしょ。
(まぁ平和な日本人だからソレがなんなのか知らなかっただけかもしれないけど)
具体的な明確な目的もなく、身の危険を冒してまでアクティブになるのが不思議だった。
キャラの性格かな?それともおじさんの理解力が足りないだけか(>_<)

///用法容量は正しくお使いください///
テヘラン工科大学から引き揚げた黒崎と傷を負った関口。
軽傷ではない出血をしながらも、なお動き続けようとする関口に対して黒崎は安静にしているように指示する。やがて関口は意識が朦朧とし始めた。
285Pより。
―――「眠っててもらうよ。目覚めたときはアメリカだ」
「黒崎さん・・・・・それ」
「ああ、借りたよ。これ、相当効くんだな」
「なんてことを・・・・・。黒崎さん。それじゃ、動け・・・・・なく」―――
よくわからないモノをそんな簡単に使用して大丈夫なのかなって思っちゃった。
実は本当にごく少量しか使っちゃいけないモノだったり、アレルギー反応があったりとか考えてしまう。
ままま、そんな細かいコト言うのは無粋でしょ。
それに自分も身をもって体験してる訳だし、危険なモノじゃないって分かっていたんだと思う(^^;)

///省略された部分がわたし気になります///
新会社のプロジェクト披露レセプションにて、関係者たちを前にスピーチをするロニー。
側にいるのはマタニティドレスに身を包んだジュディ。
和海はステージ脇から似合わないタキシード姿のロニーを眺めている。
317Pより。
―――ジュディとも交際を始め、メンバーからは〝ロニーの三本目の腕〟と呼ばれるまでに動き回っている。―――
ジュディ、ワレいつの間に孕んどったんやΣ(・□・;)
そして相手はお前だったのか!
一体どうしてそうなったんだよ、その馴れ初め部分をしっかり読んでみたかったわ。
う~ん気になるぅ~(*´Д`)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
上巻と同じように次々と視点と場面が変わる作り。だけど下巻を読むころにはキャラクターも立ち位置もバッチリ理解しているから、スルスルと読めて上巻よりもストレスなく読み進めちゃった。

既に書いたけど、下巻はもう最初からクライマックスと言っていいくらいヤマ場モリモリの展開よ。
上巻の物足りなさを経てきた読者にだけ、この旨いもんだらけ定食が味わえる。
未読の読書家はこの興奮の為にチャレンジしてみることをオススメするわさ(゚∀゚)

ちなみに今回は「用語解説」は付いてなかった。まぁ、上巻についていた分だけでほぼ解説しきっているからね。その代わりに大森望の解説が載っていたよ。

///話のオチはどうだった?///
今回のオチというか、何万ものテザーを処理する結果については予想が当たってた。
きっとこんなふうに処理出来たらドラマチックな描写になるだろうな~って予測していたのよ。
とはいえ想像できたのは結果だけで、どうやってそれを実現するのっていう重要な部分は全く予測もつかなったけどね。
和海は凄いセンスを持っているなぁ~。

上巻を読んだ時点では、あれれコレって思ってた以上にお堅い物語?なんて不安になったけど、下巻を読んだ今なら判る。
『オービタル・クラウド』は面白さパンパンに詰まったエンターテイメント小説だったよ。
地球規模で繰り広げられるテロ事件、それに相応しいくらい壮大なエンディングと希望あるれる未来へ向かうエピローグ!
こりゃ色んな賞を取るのも納得ってやつだわ。
最終的に消息不明になってしまったあの人にも、皆と同じ喜びを感じて欲しかったなぁ。

///まとめとして///
小説だからこそ最高に楽しめる作品ってのがあると思う。『オービタル・クラウド』がまさしくソレなんじゃないかな。
あんまり映像映えする派手な内容じゃあない。
その代わり、文章から想像するキャラクター達の熱意がおじさんの胸を熱くさせてくれるんよ。
実写作品を一方的に悪くいうつもりはないけど、『オービタル・クラウド』の作中に漂う雰囲気を映像で作るのは難しいんじゃないかな~って思う。
その雰囲気ってのがなんなのか?
解説で大森望が「仕事小説」って語っていて、あぁ~なるほどなって感じたよ。
ってことは「プロジェクトX」みたいな感じで作ればイイ感じの実写化ができるのか?
うぅ~ん、どうだろねぇ(笑)

技術や知識や研究をボーダーレス化すればどれだけ人類は豊かになれるんだろう。
でもそんなことしたら世界が混乱する?だからこそみんなで未知の宇宙へ繰り出すのさ!
総人類70億人?が共通の目的を持てば、少しずつ未来に希望が生まれてくるはず。
荒唐無稽で楽観主義な願望だけど、素晴らしいSF小説を読んだ時くらいこんなふうに考えたってイイじゃないの~(´▽`)
夜空を眺めながらスタバ1号店のカフェラテを飲みたくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

『オービタル・クラウド』は第35回日本SF大賞と第47回星雲賞日本長編部門を受賞しております!

28Pより。
―――「ついでに、カフェラテを買っておいてくれないかな。せっかくシアトルに来たんだ」
振り返ると、見覚えのある白い人魚のマークが目に飛び込んできた。茶色と白のスターバックスは初めてだ。ここが本店だろうか。―――
シアトルに本社のある世界企業スターバックスの1号店は、シアトルの観光地パイク・プレース・マーケットにある。
1971年の創業当時に使われていたロゴを掲げた小さな店舗は、座る場所はなくドリンクやお土産を買うだけの所で、夏は特に観光客の長い行列ができているみたい。


86Pより。
―――分子調理法の勝利ね。一度作っておいた料理を冷凍して運んでいるわけじゃなくて、電子レンジを通すことで完成した料理になるよう調整されているのよ。―――
分子ガストロノミーは1992年にイタリアで誕生した。
ハンガリーの物理学者、ニコラス・クルティら数名の科学者と料理人が集まり、これまで経験や伝統に習って継承されていた料理を、科学的に分析するために研究会を創設したことがきっかけ。
分子ガストロノミーは調理の探究手法であることから、科学を理解する料理人の料理や調理方法を指す用語と間違われることも多く、日本語では分子料理法と誤訳されることも少なくない・・・とのこと。
エスプーマとか液体窒素とか遠心分離機とか、まさしく未来の調理って感じだなぁ。

87Pより。
―――私たちが食べているフィレ・オ・フィッシュの原材料が、ビクトリア湖で環境を汚染しながら養殖されていることを嫌でも思い出すわ。―――
フィレオフィッシュの原料となっているのはナイルパーチと呼ばれるスズキの仲間で、食料増産のためにアフリカ大陸中央部にある、ビクトリア湖に移入された。
しかしナイルパーチは食欲の旺盛なお魚で、ビクトリア湖の生態系を破壊し200種もの魚類が絶滅してしまったとのこと。
ナイルパーチだけが絶滅の原因ではないようだけど、草食性の在来種が少なくなるにつれて藻が繁殖して湖が酸欠状態になってしまいさらに多種の絶滅が増えたりもしているようで。
マク●ナルドやコ●ダ珈琲の揚げ魚バーガーはおじさんも大好きです。骨がないのが素晴らしいです。
でも、その手軽さと美味しさは他国の自然や生物の犠牲から成り立っている訳で・・・。
それでも俺は食べきれなかったハンバーガーをごみ箱に捨てる日常を守りたいんだ!
なんてことを言ってのける覚悟はありませんの(>_<)

159Pより。
―――ブルースは足首のホルスターからワルサーPPSを抜き出し、スライド上部の給弾インジケーターを確認してベルトの後ろに差し込んだ。―――
ワルサーPPSはドイツの銃器メーカーであるカール・ワルサー社が2007年のIWAに発表した最新型のサブコンパクト自動拳銃。
使用弾丸は9ミリもしくは40口径となっているけど、それでは紙鉄砲扱いになってしまうのかぁ。
さすがアメリカのCIAマターってことか。(ところでマターってどんな意味・・・あ、なーるほどね)

169Pより。
―――首を捻じって後方を確認すると、腹を進行方向に向けたまま飛ぶF22がチラリと見えた。あの女、実戦で、この高度で〝コブラ〟をやりやがった。―――
コブラは航空機のマニューバの1つであり、空戦機動の1つである。
進行方向に対して航空機の腹が正面になるよう機首を上げて、また通常の状態へ戻るってことみたい。
これによって急ブレーキをかけて敵の背後を取ったり、味方を守ってフレアを散布したり、とにかくアレよ。『トップガン・マーベリック』は最高だったってことさ(*´ω`*)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
シアトルの沿岸警備隊員の装備がわからない。ネットで検索しても分からない。
M4ライフルに付いているレーザーサイトやスコープもどんなのか分からない。
なので全部おじさんの想像で描いちゃいました。
作中で一番気になったのはチャンス専用のSIGだね。
恐らくグリップ力を高める為に樹脂パーツで覆われたレーザーサイト付の拳銃。
どんな形をしているんだろう。こーゆー凝った小物は男心をくすぐりますな。


203PPより。
―――「切り抜けてね、殺したくはないのよ」
チャンスはトリガーから人差し指を浮かせ、雪の中に膝をねじ込んで銃口を安定させた。
ナッシュに覆い被さるチャンスの背中に、叩き付けられた雪が積み上がっていく。―――