忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

「神鳥」 読書感想

タイトル 「神鳥」(文庫版)
著者 篠田 節子
文庫 272ページ
出版社 集英社
発売日 1996年10月18日

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この作者の作品で既に読んだもの
・今回の「神鳥」だけ

<< ここ最近の思うこと >>

むかし友人に勧められて阿部和重の「ニッポニアニッポン」ていう小説を読んだなぁ。
悩める青年が朱鷺を解放しに行こうとするお話だったはず。
(サバイバルナイフでグサーって展開が記憶の片隅に残ってる)
もうほとんどおぼえてないけど、たしかハッピーエンドじゃなかったことは覚えてる。
あとはなんとな~く文学的な文章?というか内容だったような気がした(;´Д`)
とにかく朱鷺にしろ鰻にしろ、人間の欲で種族を絶滅に追いやるなんていつか罰が当たる気がするぞい!

ではではそろそろ行ってみまっしょい。
今回はヒッチコック映画の「鳥」を彷彿させるような小説だよ。
でも襲われる場面は映画のようにマイルドな表現じゃないぜよぉ・・・。


<< かるーい話のながれ >>

金髪碧眼美形キャラを描き続けてそれなりに稼いでいるイラストレーターの谷口葉子。
バイオレンス系小説家としてそれなりに名の知れた美鈴慶一郎。
この二人はある仕事がきっかけで知り合うことになる。

河野珠枝という画家の生涯を描いた小説を書くことになった美鈴は、カバー絵を「朱鷺飛来図」にしてくれと出版社に依頼してきたのだが、そっくりそまま載せるわけにはいかないので葉子が改めて描いたイラストを使うということになったのだ。
若くして自殺した珠枝が、最後に描いた異色の作品「朱鷺飛来図」を元にイラストを描こうとする葉子は、この絵になにかしらの違和感(魅力)に惹かれる。
かつて河野珠枝の人生を映画にした女監督も、作品完成後に朱鷺飛来図と珠江の足跡を追って最終的に自殺したらしい。
ビジネスノートに「私は間違えた。珠枝は恐ろしい絵描きです」という言葉を残して。


美鈴と葉子は実物を実際に見てみたいという好奇心に駆られて、現存する絵を捜しに行く。
「朱鷺飛来図」の現物を肉眼で見た時、二人は絵に隠されたモノに気づいた。
なぜ珠枝はこのようなモノを描いたのか?

クリエイター魂を刺激された二人は、僅かな手がかりや情報を辿って奥多摩の山奥まで行くことに。
そこで不思議な濃霧に包まれながらたどり着いた先には、地獄のような恐ろしい世界があった。
果たして葉子と美鈴は無事にそこから脱出できるのか?
葉子は朱鷺飛来図のような作品を作ることが出来るのか?
相性最悪な2人なのにラブな展開は発生するのだろうか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///ダメな男ほど、化けるんだよね~///
エログロバイオレンス作家の美鈴慶一郎。
おデブで薄毛気味でスケベで空気読めない気遣い出来ない・・・・・とにかく酷い男(笑)
なのにどこか憎めないのは、性根が屑ではないから?
葉子相手に一体どれだけ失礼な発言やセクハラをしたのか数えきれないくらいの人間が、いざって言うときに男をみせる場面がグッとくるね。

///葉子と美鈴のほんわかシーン紹介///
山奥の山道で不思議な霧に包まれて不安になる二人は、気を紛らわす為に雑談する。
美鈴がなぜバイオレンス作家になったのかというと、自分をいじめていた奴らを妄想の中で酷い目に遭わせるのが気晴らしだったからと打ち明ける。
それを知った葉子が言った。
162Pより。
―――葉子は、ちょっとため息をついた。「私、あんたを二回殴ったわ」
「そりゃもう、谷口葉子と実名で登場させて、下だけ剥いて後ろからヤルんだよ」
「本当に書いたら殺すよ」―――
もうホラーな雰囲気はどこへやら(笑)
だけど、この後とんでもない事態が二人を待ち受けていたんだよね・・・(; ・`д・´)

///葉子さん、カッコ良すぎです///
恐ろしいモノに襲撃されて傷ついた美鈴は逃げることをあきらめて、葉子だけでも逃げてくれと言う。
一人で逃げる気など皆無の葉子だが、倒れている巨漢の美鈴を背負うことなど出来ない。
美鈴自身の足で立ってもらって、一緒に逃げる以外に道など無い。
そこで葉子が激を飛ばす。
187Pより。
―――「起きろって言ったら起きるのよ。この三文小説書きが。何のためにここまで来たの」美鈴は、びくりとして頭を起こす。「さっさと立ち上がるんだよ。ここで死んだって、何もなりゃしない。あんたの今まで書いたものなんか、一カ月も経てば店頭から消えるんだから。あんたは何も残してないんだよ。まだ」―――
女性にこんなこと言われたら、立ち上がるっきゃないでしょ!男なら(`・ω・´)
(ふと思い浮かぶのはマンガ「ベルセルク」のキャスカだなぁ~。対ワイアルド戦ね)


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///またもや新手のスタンド攻撃か!?///
幽体だから攻撃は受けない、だけどアチラからの物理攻撃は受けるよってのがずっこいぞ。
もしくはアレか?
強力な催眠状態になっていて、攻撃されたと脳が判断したら肉体に傷が出来てしまうとか・・・。
いやでもそれじゃあザックが切り裂かれる説明になっていないか。
(まあ「墓地を見下ろす家」みたいな光線攻撃もあったから何でもアリっちゃアリか)

///松明なら対空迎撃にうってつけ、かも?///
上空から襲い掛かって来るモノに対して銃や鉈で応戦するよりも、両手に松明を持っていた方が有効?
木と火種なら家の中にもあると思うし、実際に炎の攻撃には奴らも・・・。
とは言えそこは多勢に無勢、やっぱりすぐにやられちゃうか。

///ほんとうにくだらない疑問なんだけど・・・///
よくある心霊現象や超自然現象が起こる場所。
ああいうところに護衛やらTVの生中継やら霊能力者やらの大人数で押しかけていったらどうなるのか?
ちゃんと不思議な現象が起こるのか?
それともさすがに分が悪いとみて、息をひそめるのか?
前者ならアクションパニック物になっちゃうし、後者ならそもそも話にならない。
やっぱりホラー小説なら小規模で話を作るのが一番良いってことかな(;^ω^)


<< 読み終えてどうだった? >>

おじさんも河野珠枝が作った「朱鷺飛来図」を見てみた~~~い!!
いやはや、予想外に色々なモノが詰め込まれた内容だったわ。
悪霊?モンスター?恋愛?ギャグ?創作魂!?
↑こんなに材料を詰め込んでいるのに、それぞれの味がおろそかになっていないのが凄い。
(この部分軽いなぁ~って思う所がなかったってこと・・・みたいな?)

直接的なグロ表現は少ないのに、読者に恐ろしい状況を想像させる文章が上手いと思ったね。
まず獲物の視力を奪って、それから多数でツンツン(グサグサ)ちょっとずつ啄んでいく様子がおじさんの頭の中でくっきりはっきり想像されたわ(/ω\)
(あれ?おかしい・・・なぜか一瞬「おでんツンツン男」が頭をよぎった(笑))

地獄から抜け出した二人がクリエイターにとって必要な何かを掴んだ希望と、そこから一緒に持ってきてしまった安眠できない絶望・・・・・。
愛があればどんな困難でもって思いたい、思いたいけど・・・う~ん、これはお払い直行がよろしアルヨ(=゚ω゚)ノ

さてさてまとめで。
思っていた以上にエンタメ感モリモリなホラー小説だったからおじさんは満足だよ。
あの豪雪に閉ざされた絶望の餌場風景は、しばらく忘れられないだろうってことで満読感85点!


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

21Pより。
―――やがて浜野とともに東京に出てくるが、彼女が名を残したのはその絵によってではない。当時、東京にはある財閥のサロンがあったのだが、そこに出入りしていた文化人たち、作家や芸術家達との数々のロマンスによってであり、一時は、日本のルー・サロメとさえ呼ばれていた。―――
ルー・サロメ
1861年2月12日 - 1937年2月5日)
サンクトペテルブルク生まれのドイツの著述家、エッセイスト。
知識と魅力を備えたデキる女性ってことかな?ロマンスも多かったみたい。

99Pより。
―――「朱鷺の羽の色が変わるってこと、ご存じないの」葉子は、目をしばたたかせた。「繁殖期になると、汚くなっちゃうのよ。首の後ろから、真っ黒い脂を出すの。それをくちばしでたんねんに体に塗り付けるから」―――
1月下旬から3月中旬の間に粉末状の分泌物を体に塗り付けて黒色の「繁殖羽」にするらしい。
8月に入る頃には塗り付け行動を止めて、それからは色は元に戻るみたい。
まったく知らんかったわぁ、動物奇想天外だわ。

102Pより。
―――豚汁をすすっていると、菱山は尋ねた。「おたく、闇夜汁って、聞いたことありますか」葉子は首を振った。「朱鷺汁のことです。朱鷺汁」―――
赤い汁の鍋かぁ。
現代ではトマト鍋とかボルシチとかいろいろあるから別に何とも思わなそうだけど、当時の人々にとっては赤い料理ってのを見たこと無かったから、生理的に受け付けなかったのかな?

110Pより。
―――「イコノロジー的興味?絵を見るなら、まずは構図から入っていくべきだ。そこで描かれた鳥とか花が、具体的にどこにあったものだとか、画家をめぐる人間関係とかいうのは、文学的テーマなんだよ」―――
「イコノロジー
図像を記述・解釈する技術。
とくに20世紀の美術史学において、図像を生み出した社会や文化全体と関連づけて解釈するために発展した研究手法ってことみたい。

199Pより。
―――「冬に花をつける牡丹、とくにお正月の牡丹が持てはやされた時期があったの。松、竹の不老長寿と牡丹の富貴っていうのが、合い物だったそうよ。江戸時代から明治初期にかけて、改良が進んでたくさんの品種が作りだされた。―――
「ふうき」
金持ちで地位や身分が高いこと、そういうふうに見える様子、かと。

245Pより。
―――祖母は今でも東京大空襲の夢を見ると言う。祖父は九十で死ぬまで、湯の花トンネルの列車銃撃事件の悪夢に悩まされた。―――
「湯の華トンネルの列車銃撃事件」
第二次世界大戦末期の1945年8月5日。
東京都南多摩郡浅川町(八王子市裏高尾町)内の日本国有鉄道中央本線の湯の花トンネルで、アメリカ軍のP-51戦闘機複数機が満員状態の列車に対して執拗な機銃掃射を加えて、多数の死傷者が発生した事件。
↑コレは恐ろしいわ、今までまったく知らなかったことも恐ろしいよ・・・。


<< 登場したモノを描いてみたコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた。
ヌラヌラした液体を描くのって難しい・・・つーか描くこと全般が難しい(;´Д`)
もっと姿が見えなくなるくらい群がらせたかったけど、技術力の問題により諦めましたわわわ。

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188Pより。
―――不意に、もう息が無いと思っていた男の手が、ピンクの固まりの中から、助けを求めるように突き出された。マネキンのような肌理のない皮膚だ。筋くれだった指が、閉じたり開いたりした。―――

 

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