忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

「人間の証明」 読書感想

 

タイトル 「人間の証明」(文庫版)
著者 森村誠一
文庫 509ページ
出版社 KADOKAWA
発売日 2015年2月25日(改版)

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この作者の作品で既に読んだもの
・今回の「人間の証明」だけ


<< ここ最近の思うこと >>

色々な人と出会うことで、今まで知らなかった作品に出合うことってあるわなぁ。
記憶が10分しか持たないメッセージ刺青男の復讐映画「メメント」。
エロとグロと狂気の坩堝な世界観の短編集、吉村萬一の「クチュクチュバーン」。
そして今回はコチラ。
映画の「戦国自衛隊」、映画の「野生の証明」、その流れからオススメされた「人間の証明」。
むかし物凄く流行った小説みたいで、おじさんも名前だけは知っていたけど古いお堅そうなイメージがあってなかなか読もうと思わなかった作品。
でもYouTubeで予告動画を観てみたら何故かどんどん気になってきた。
それじゃあさっそく読んでみよう。


<< かるーい話のながれ >>

高級レストランのスカイラウンジで、エレベーターに乗った黒人青年が死んだ。
調べによると彼は胸をナイフで刺された状態で、エレベーターに乗って来たらしい。
事件を担当する棟居刑事は、過去の出来事から他人を信用出来なくなり、母親という存在に対しても憎しみに似た感情を持っている。
個人的な恨みを晴らすつもりで捜査に熱中するが、手掛かりのほとんどない捜査は遅々として進まない。

有名TVタレントの母親と国会議員の父親を持つ郡恭平は、両親の愛情を貰えずに育ったせいでグレまくりのちゃらんぽらん生活を満喫している。(一人暮らしで金はいくらでも貰える)
いつものようにクスリを使用した乱痴気パーティーで知り合った、路子という少女とドライブをしている時、話のはずみで興奮した恭平はスピードを上げ過ぎて物陰から出てきた人間を轢き殺してしまう。
慌てふためく恭平と路子は、つい魔がさして被害者の遺体を山奥に遺棄してしまう。
しかし轢き逃げした現場には、恭平の私物が残されていた・・・。

自宅にて持病の療養をしている小山田武夫は、夫の為に水商売を始めた妻の文枝(美人)がある日突然、自宅に帰ってこないで音信不通になってしまったことに慌てふためく。
美人で性格も良い文枝が水商売を始めたら、いつかこうなるのではないかと心配していた武夫。
妻への愛情と執念から独自に捜索を始めた武夫は、やがて文枝の浮気相手を突き止めるのだが、相手の会社に乗り込んで文枝の居場所を聞き出そうとすると、おかしな返事が返って来た。
浮気相手も文枝と連絡が取れなくなってしまって心配していたとのこと。
こうして奇妙な関係の男2人は、お互いに愛した女を協力して探し出そうとするのだが・・・。

ニューヨーク市警察25分署の刑事であるケン・シュフタンは、日本で死んだジョニー・ヘイワードという青年の捜査を上司から命令される。
自らも貧困街出身の白人であるケンは、日本に対する義理から一応の捜査はしてみるがこれといった情報は掴めなかった。
貧困街の黒人青年が死ぬことなど日常茶飯事なので、捜査を終了しようとしたが何か引っかかるものを感じたケンは、上司に捜査の続行を頼む。
貧困街で暮らすのがやっとのジョニー・ヘイワードが、どうして日本へ行くことが出来たのか?
大金を使ってまで日本へ行った目的とは?

4つの視点のストーリーが入れ替わりながら物語は進んで行って、ゆっくりと一つに結びついていく。
「人間とは・・・」ということを問われるような物語。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///食事に対する作者の考え方に共感した食いしん坊オジサン///
9Pより。
―――食事が豪華であればあるほど、食事本来の目的から逸脱してくる。だが、人々はその矛盾にほとんど気がつかない。―――
薄汚れた黒人青年が胸をナイフで刺されたままエレベーターに搭乗して、スカイラウンジのディナー会場に着いた時、既に死亡した状態で発見される衝撃の序章で書かれていた文章。
豪華な食事を食べる為に、どうして着飾ったり無駄なマナーを覚える必要があるのか!?
最低限のマナーというか、思いやりを持っていれば十分だろうに( `ー´)ノ

///棟居刑事の人生論に共感してしまう寂しいオジサン///
331Pより。
―――人生なんて、一人一人が単座の飛行機に乗って飛んでいるようなもんじゃないでしょうか、どんなに機体が傷んでも他人の飛行機と換えることもできないし、操縦を代わってもらうこともできない」―――
人間は誰もが例外なく、他人と心から理解し合うことは出来ない・・・・・おじさんもそう思う。
でもこれって悲しいことじゃなくて、当たり前のことなんだよね。
ニュータイプならいざ知らず)
過去の人生経験から棟居刑事が尖った信念を持つのは仕方ないと思うけど、そーゆー危なっかしい性格も魅力の一つになっているキャラクター。


<< 気になった・予想外だった・悪かったところ >>

///派手さは無いよ、エンタメ成分も少ないよ///
なのにスルスル読めちゃう不思議。
連載作品だったから話が細かく分けてあるんだけど、そのおかげで飽きずに読めるのかも。
それに昔の小説だからそれなりに読み辛いかもって思っていたけど、予想外に読みやすかった。
分かりやすくてしっくりくる文章・・・・・これは匠の技ですわ(`・ω・´)

///めずらしく事件の真相は予想が当たっちゃった。でも・・・///
あ~この感じは犯人はあの人で、真相はこうだろうなぁ~って終盤で予想したら見事的中した。
だけどそれがどうした!
その後からが「人間の証明」のクライマックス。
まさしく人々の繋がりだよ・・・事件の真相よりも物語の結末に衝撃を受けたわ。


<< 読み終えてどうだった? >>

む~~~んむむ、さすが名作小説!
読み始めからおじさんの好奇心をくすぐる言葉がいくつもあるのよ。
―――「日本のキスミーへ行くんだ」―――
―――「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね」―――
―――「ストウハ」―――
エンタメ成分が少ないと書いたけど、好奇心をくすぐって読者を引き込む単語や文章が上手い。

推理・・・というかミステリー・・・いやサスペンス?・・・・・とにかくこーゆー殺人事件系のストーリーで、最後に犯人を捕まえる決め手が「人間の証明」に賭けてみるってのが斬新だったなぁ。
あんなに人間という存在を蔑んでいた棟居刑事が、最後は自身も気づかぬ願望に賭けてしまうってのが、またなんとも胸を打つ展開でおじさんは好きだよ。

人間が敵だと考える棟居、幸せな母との思い出だけを頼りに来日したジョニー、アメリカのスラムから日本に手がかりを伝える刑事のケン。
主要な登場人物達が様々な傷や過去を背負いながらも一生懸命に生きている様子がとても眩しく見えた。
だからこそ、この物語の結末がおじさんの心をやるせない気持ちにさせてくる。
良い小説って、後味がいつまでも残り続けるんだよねぇ・・・ってことで満読感90点!


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

人間の証明」は第3回角川小説賞受賞作品。

1977年に実写映画化されていて、松田優作が棟居刑事役になっている。
主題歌もかなりヒット曲になったみたいだね。
いつか鑑賞してみたいわ。(映画版は結末が原作と違っているっぽいだと!?)

37Pより。
―――父と二人で囲む夕食の寂しさ、灯りの暗さ、部屋の中の冷たさが、骨に刻まれたようにいまでも記憶に残っている。食物の寂しさを、母のいない寂しさが糊塗していた。―――
「こと」
あいまいに取り取り繕うこと。一時しのぎでごまかすこと、らしい。

51Pより。
―――運転手にドアを開けられて、白大島を粋に着こなした上品な婦人が降りてきた。―――
「しろおおしま」
大島紬(おおしまつむぎ)とは、鹿児島県南方にある奄美群島(主に奄美大島の伝統工芸品としてつくられる織物で、通称・略称は「大島」というらしい。
手で紡いだ絹糸を泥染めしたものを手織りした平織の絹布、またはその絹布で縫製した和服とのこと。

63Pより。
―――子供は、成長とともに変身していきます。自分の血を分けた子でありながら、襁褓の子供とは別人になっていきます。―――
「むつき」
おしめ、おむつ、という意味らしい。

124Pより。
―――彼はもともと蒲柳の質である。療養中の身に加えて、ここ数日、妻の捜索に疲れてげっそりと窶れている。―――
「ほりゅう」
体質が弱い人っていう意味みたい。
もしくは「カワヤナギ」の別名って意味も。

207Pより。
―――戦後出まわった粗末なセンカ紙であるうえに、年月が経っているので、よほど慎重に取り扱わないと、とじつけがくずれてしまう。―――
「せんかかみ?」
漉き上がったばかりの2枚の和紙を1枚に合わせて作る紙。
通常の和紙より強靭な物が作れるらしい。

404Pより。
―――「まるで、私、〝盲導女‶みたいね」と路子は苦笑したが、言い得て妙であった。―――
「もうどうじょ?」
検索しても「盲導犬」ばかり出てきて、「盲導女」という言葉はまったく見つからなかったよ・・・。

480Pより。
―――以前は三十七度で湯槽の中に将棋盤を浮かべて、湯治客がのんびり湯に浸かりながら将棋をさしていたそうである。―――
実在する霧積温泉の金湯館。
今もまだ営業しているのかはわからないけど、湯船用将棋盤もまだ残っているみたい。
(水車も健在っぽい!)
詩集紙で包んだおにぎり弁当もまだやっているっぽいけど・・・・・一度はゆっくり一泊してみたい。


<< 登場したモノを描いてみたコーナー >>

こんかい描いてみたのはコチラ。
182Pより。
―――GT6MK2は、抑えつけられていた機能を限度いっぱいに絞り出そうとしていた。すべての制限を解かれて鋼鉄のハイエナのように走り始めた。―――

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トライアンフ・GT6という名前の車なのね。
現在「トライアンフ」の商標はBMWが所有しているらしい。
実物はもっとバランスの整った格好良いスタイルなのに、絵で描くとどうにも歪んでしまう(笑)

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  • メディア: DVD