忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

「レフトハンド」 読書感想

「レフトハンド」(文庫版)
著者 中井 拓志
文庫 486ページ
出版社 角川書店
発売日 1998年12月1日

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<<ここ最近の思うこと>>

20代前半の時、スノボをやっていて人生二度目の左腕骨折!
そのせいでしばらくギブスを付けていたのだ。
カチカチのギブスに包まれた左腕が日にちが経つにつれて痒くなってくるのよ。
でもギブスの上からいくら掻いても叩いても痒みは解消されないから、細長い針金を手首の隙間から差し込んで左腕を掻いていた。
ようやく痒い所を刺激できた時は思わず「ああぁ」と艶っぽい声が(*´▽`*)
この小説を読んでいる時に、そんな記憶が呼び起こされたわ。
蛹の中身が痒くなっても掻くに掻けないないもどかしさ・・・。
想像しただけで左腕が痒くなるぜよ(; ・`д・´)


<<かるーい話の流れ>>

製薬会社テルンジャパンの埼玉研究所三号棟にてLHVウイルス漏えい事故が発生。
70名以上が建物内で被爆して死んだ。
漏えい事故の後で研究主任を務めていた影山という人物が、研究の継続と協力をしないとウィルスを建物外へ放つと言って三号棟に立て籠もった。
影山と数人の研究者達は、ウイルスの発症を何とかギリギリ抑える効果があるカクテルという薬を服用しているが、それも焼け石に水な状態。

ある日、影山の要求によって一般人二名が自衛隊によって封鎖・隔離された三号棟に入れられる。
試薬バイトの名目で募集した)
影山がクリーンな検体の細胞や血液を求めた結果、テルンジャパンが用意した一般人だった。
しかしそのことが事態を大きく変化させる。

何の情報も与えられない検体二人がストレスから脱走しようとして、運悪く少女の検体がLHVに感染してしまう。
さらに男の検体も感染してしまい、研究員達もカクテルの効果虚しく発症する者が出たり、厚生省の研究員は責任放棄して情報を外に漏らしたり、ある者はカンブリアの妄想に取りつかれたり・・・・・・。
さらにさらに、影山をテロリストに仕立て上げた三号棟奪還作戦が決行されて、特殊装備の自衛隊達がLHVと「左腕」が蠢く三号棟に突入していくのだが、さあどうなる!?

果たして、埼玉はLHVがばら撒かれて死体と「左腕」だらけになってしまうのか!?
LHVとは一体どこからやって来たのか!?
感銘を受けたLHVウイルスの研究所所長になりたい津川の進退やいかに!!?


<<印象に残った部分・良かったセリフ・シーン>>

とにかくLHVウイルスによって脱皮した「左腕」が凄いインパクト大大大!!
感染すると数日で左腕がうろこ状に裂けて変な汁が滲み出てくる。
その汁が固まってデカい鍾乳洞のようになってからさらに数日後・・・。
鍾乳洞の蛹の中から猛烈な痒みが発生して、やがて蛹を割って出て来たのは異形になった意思を持つ左腕型生物。
ひとしきり暴れたら感染者の心臓ごと引っこ抜いて、独立した生き物になって勝手に動き回る。
もちろん感染者は死亡。
(脱皮した左腕は、付け根に心臓を包んだ袋をぶら下げて、脇の部分から触手を生やし、その奥にある食孔と棘で獲物を食べる)
「左腕」さんの詳しい生体が気になった人は今すぐ「レフトハンド」を読んでちょーだいな!
個人的には映画「エイリアン」の誕生シーンよりもインパクトある描写だったよコレ( ゚Д゚)

この作品の主人公(おそらく)厚生省の学術調査員である津川清太郎の愉快なキャラクターっぷりを紹介。
157Pより。
―――「ここはカンブリアの海だ。わかるか?カンブリアなんだよ」「・・・・・カンブリ?」財前はしかめっ面した。「でもここ、埼玉ですよ?」―――
LHVにより脱皮した左腕の死体を観察してきて興奮しきっている津川と、LHVの出所を特定して出世することしか興味の無い財前のやりとりがまったく噛み合っていなくて笑える。
これまで長々と津川視点によるLHVの描写と考察が真面目に描かれていたのに、この場面のオチがこんな会話で終わるのがギャップ強くて面白かった(笑)

213Pより。
―――津川はしばし呆然とした。なぜ居ない?連中いったい何考えてやがる。待ち合わせにすっぽかされたことなど初恋以来だった。―――
検体二人に脅されて脱走に協力させられた津川。
しかし三号棟内部には脱皮した左腕達が沢山蠢いており、さらに検体達は絶対にセーフティーには戻らないと言って聞かない、酸素ボンベの残量も少ない。
津川が単体でセーフティーに戻って予備の酸素ボンベを抱えて二人の立てこもる場所に戻ってみると、居ないじゃん!って場面。
めちゃめちゃ緊迫した場面でいきなり変なこと書かれているから、ちょっとテンポ開けてから笑いが込み上げてきたわ。
(初恋ですっぽかされるって、なかなかに酷い仕打ちだなぁ)

369Pより。
―――すべてはうまく運んでいる。津川は恍惚とした。LHVとともに栄光の道を進んでゆく自分の姿を見ることができた。ところで、彼がコーヒーを求めた自販機は故障していた。彼は一口すすって、あまりの苦さに栄光の白日夢から叩き起こされた。―――
獲らぬ狸の皮なんちゃら的にほくそ笑みながら飲んだんだろうなぁ(;^ω^)
ちなみに津川さんは砂糖とミルクをしっかり入れる派の人ね。
ブラックがダメな人だから、不意打ちな苦みで探偵物語並みに噴出したのかな(笑)

387Pより。
―――こうして、応接テーブルに三つのロゴマークが並んだ。二枚の写真に見られるロゴマークは、ちょうどメモ用紙のそれを左手で書き直したようなものだった。―――
この表現方法には素直に驚かされた!
小説を読み慣れた人ならすぐに気づくだろうけど、おじさんはまったく見当違いな形を想像していたからさ・・・・・思わず確認し直したよ。
(まあ知ってしまえば大したことないけどね。ガンダムUCのラプラスの箱みたいなもんかな?)


<<気になった・予想外だった・悪かったところ>>

影山は健康な人間の細胞とか血液を実験用に要求していたけど、わざわざ三号棟の中に一般人を入れずとも外から随時届けてもらっとけば良かったのでは?
なんて考えたんだけど少し読み直してみたところ、狡い人達による思惑があったことを理解したわ。
まーったく、なんて酷い奴らなんだけしからん(`・ω・´)

LHV感染者の左腕が蛹になる前に切り取ってしまったらどうなるんだろ?
蛹化は起こらないけど、内臓類は溶けたり変態してやっぱり感染者は死んじゃうのかな?

これはおじさんの想像力が足りないのが問題なんだけど・・・・・三号棟の簡単な地図が欲しかったな。
地上二階、地下四階建ての三号棟内部でほとんどストーリーは進んで行くんだけど、なかなか内部の説明が分かりにくくてさ(;´・ω・)
推理モノとかもそうなんだけど、簡単な見取り図のページが欲しいわぁ。


<< 読み終えてどうだった? >>

いや~~~めっちゃ面白かったよコレ!!
バイオハザード的な、モンスターパニック的な、がっつりホラー系な内容なのに、所々で笑わせてくれるのが素晴らしい!
過去に同じ作者の作品「アリス」を読んで、途中リタイアしたおじさん。
でも「レフトハンド」は読みやすくて飽きない展開がドキドキさせてくれるから、あっという間に読んじゃったわ。

こういう色々な責任転換の事件について、中年連中に共感したり仕方ないよねぇなんて思っちゃうのは歳のせいかな(;´・ω・)
逆に検体として送られてきた若者二人の考え方や行動が全然共感できずに、なーんで大人しく言うこと聞いておかないのかなぁ~って呆れたりしてしまった。
会社や省が一番悪いのに、まあそうなるのも世の中だねぇなんて思っちゃう自分がちょっと惨めになったよ(ノД`)・゜・。

なんにせよ今後から左腕に何か違和感がある度に、心臓をくっつけた動き回る「左腕」のことを思い出しちゃうのは間違いないだろうね(笑)
読了感は・・・・・・どこにも救いはない終わり方なのに、なんでかそれほど後味悪くないのさ。
ホラー小説でグロテスクな内容だからさぞかし酷いオチになるんだろうなぁ~って思っていたけど、これは予想外なエンディングだったからなのか?
おじさんも今年の夏は海へ行って癒されたいなぁ~なんて思っちゃった。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

78Pより。
―――あのバカはわからないのか?三号棟で起こっていることは、カンブリアの逆襲なのだ。―――
「カンブリア」
カンブリア紀古生代前期における区分の一つで、約5億4200万年前から約4億8830万年前までらしい。
この時代の岩石が出土し研究された最初の地であるウェールズラテン語名「カンブリア」から、アダム・セジウィックによって命名されたらしい。

337Pより。
―――今から遡ること四十数億年、太古の海がまだ無機質のスープだった頃、天から落ちる稲妻からRNAが合成された。―――
「RNA」
リボ核酸は、リボヌクレオチドがホスホジエステル結合でつながった核酸
RNAは生体内でタンパク質合成を行う際に必要なリボソームの活性中心部位を構成している。
体内での行動や造りから様々な分類がされているとか。

同上ページより。
―――またある時は、いともたやすく他者の海のシステムを破壊し、他者の体内環境を錯綜させる。―――
「さくそう」
物事が複雑に入り組んでいること、入りまじっていることって意味かと。

427Pより。
―――半世紀構想のサブタイトルは、「ゲノム・ショット」。テルンジャパンではこの長期プロジェクトを「ムーン・ショット」になぞらえて考えていたのである。―――
・ ムーンショットとは、困難だが実現によって大きなインパクトになる、壮大な目標や挑戦のこと。
近年、シリコンバレーから広まったビジネス用語として注目されているとか。
・ ムーンショットという言葉は、アメリカの第35代大統領ジョン・F・ケネディが次のように述べたことに由来するらしい。
「我が国は目標の達成に全力を傾ける。1960年代が終わる前に、月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させるという目標である」

448Pより。
―――彼らはウーキーの向こうの本部と喧嘩したり、機材を右から左へ運んだり、焼き払った『左腕』の死体を片付けたりしながら、『女王』の周囲を右へ左へ行き交じった。―――
スターウォーズのチューバッカがウーキー族と呼ばれる種族なのはわかったけど、この小説に出てくる「ウーキー」はぜったい違うものだよね?
調べてもなんなのかまったく分からない(;一_一)

458Pより。
―――ここで彼女に正直に告げたところで、何になる?俺はインフォームド・コンセントの思想に反しているだろうか?―――
インフォームド・コンセントとは、「十分な情報を得た(伝えられた)上での合意」を意味する概念。
特に、医療行為や治験などの対象者が、治療や臨床試験・治験の内容についてよく説明を受け十分理解した上で、対象者が自らの自由意志に基づいて医療従事者と方針において合意すること、らしい。


<< 登場したモノを描いてみたコーナー >>

393Pより。
―――最前列に並んだ四体のゴム装備は、肩に火種のくすぶる火炎放射器をかついでいた。―――

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今回は自衛隊が装備している「火炎放射器」の絵を描いてみた。
自衛隊演習で発射される火炎放射器は威力あり過ぎだから、室内では使えないでしょ(・・;)
って思ったけど、射出量を調整出来たりするのかな?
もしくはこの小説で使用されているのはインドア戦用の火炎放射器とか?